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異端のLegitima   作者: 瑞希
《悲劇の双子座》
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《祈り》

「…………」

俺は今、ユキカさんの病室に居る。

今回の事件は、思った以上に、悲惨なものだった。

市民にこそ被害は出なかったものの、いくつかの建物はボロボロになってしまった。

建物ではないが公園然り、だ。


それ以上に悲惨だったのが、能力者レジティーマの被害だ。

同時刻に消えていたハンナやケイは別件の“家出”だったらしい。

駆け落ちと言った方が良いのかも知れない。

二人の恋愛に、志野さんが口出ししたもんだから強攻手段。と家出をしたらしいのだ。

数日、下手をすれば、その日のうちに帰ってくるつもりだった。

志野さんに家出をするぐらい本気なのだと、伝えたかっただけなのだから。


…けれどそれが、赤い月と重なってしまった。

凶暴化した悪魔達はハンナとケイにも襲い掛かってきた。

電話も何処かでなくしてしまい。

セツナ達が必死に探した。

それでも中々見つけることはできず、瀕死に追い込まれた二人を救ったのが…ナツカさんの光の雨だったのだ。

皮肉な話だが、ナツカさんがあの時に死んだことでハンナやケイ、他の多くの能力者レジティーマが死なずに済んだ。


本当に、皮肉な話だ。


けれども死なずに済んだというだけで、何人かの能力者レジティーマは意識不明だ。

ハンナもケイも、ユキカもサキアも、カレンもマキリもリクホも。

何人かは数日のうちに目覚めてくれた。

ハンナとカレンは次の日に

マキリは1週間後に

サキアは2週間後に

ケイやリクホ、ユキカはそれが過ぎても…


そして、ナツカさんは死んでしまった。


ユキカさんの手を握っては見るけれど、目を覚ましてくれることを心から望んでは居るけれど、

いざ、ユキカさんが目を覚ましたら…、会わせる顔がない。

あの時、誓っておいて、俺の、真綾様から頂いた、タイガという名を。

父さんと母さんからもらった泰芽という名を、裏切ってしまったのだ。


「…だが…、せめて」

俺はそっと、ユキカの手をベッドの中に入れた。


せめてエミヤだけは取り戻す。


そうだ。

まだ手遅れじゃない。

まだ間に合う。

だってエミヤは魔界へ行っていない…!

カレン達が“赤い月”を破壊してくれたおかげで、エミヤ達は魔界へ行けなくなったのだ。

少なくとも、次の満月までは。

その時。

その時こそ、エミヤを取り戻して見せる。

絶対に…!


「誓いは、破ってしまいましたけど

 エミヤだけは、連れ戻して見せます。」

命に代えようとも。









「今、何て言った…………?」

ハヤテはきっと酷く驚いた顔をしてると思う。


私が、あの公園の前で見たのは、いつもと比べ物にならないくらい朧気で断片的なものだった。


「あのとき、見えたの

 ハンナちゃんとケイくんが、死ぬ未来を。」

どれだけ朧気であっても、あれは疑いようもなく、有ったかも知れない未来。

…ううん“違う世界の未来”なのかも知れない。


ケイが悪魔からの攻撃にハンナを庇って死んでしまった。

それにハンナが絶望して、悪魔を全て倒し最後には

悪魔そのものの様になった自分も…。


その少しあとにナツカが消え、雨を降ったが二人は生き返らずに死体の傷だけが治る。というあまりに酷い未来だった。

ハンナの叫び声や、二人の血の色や、最後に見た死体の傷だけが治る光景は…、思い出したくもない。

あまりに残酷で…。


「どうして未来が変わったのかは解らないけれど…」

もしかしたら、あのとき私が、ダメ。と止めたからなのかもしれない。

…そうだとしてもナツカの死は変えられなかった。


「それじゃない。

 お前の目のことだ…!」

……………私の目はもう、今を映すことはできない。

きっと明確な未来を見てしまったから…、未来を変えてしまったから、違う世界を見てしまったから。


目が見えない、といっても、能力を使えば客観的に見ることはできる。

…けど、それは私が自分の目で見るのと、全く違う。

性質そのままを写し出す…モノクロではないのだけど、カラーでもないような…。

言うのなら、人や物や性質…それらすべてを線と僅かな色だけで現しているよう。


例えば、今、ハヤテがどんな気持ちでいるのかは色を見ればわかる。

だけど、どんな表情をして居るのかは解らない。

今は想像で何となく解るけど…。


「うん、見えないよ。」

視えるけど、見えないのだ。

生活に支障はでないと思うけど…、恐ろしく寂しい。

性質を唐突なまでに映す、私の視る世界は…軽薄で不躾。

だから正直、私はこの能力が好きじゃなかった。

副作用のせいでハヤテの手を借りなきゃ、階段すら降りれないことも…。


「嘘だろ…」

私はそっと、能力を解除した。

こんな時にまで不躾な世界は視せないでほしい。


ハヤテはきっと苦しそうな顔をしてると思うの。

ねぇ…


私はハヤテが居ると思う方角に、手を伸ばした。

ハヤテは、私の手を摑んで頬へ誘導してくれた。

「…泣いてたの………?」

瞳の下の皮膚が何だか湿っていて、泣きじゃくった後のようだ。


「…ねぇよ…!」

嘘つき。

私はついつい笑っちゃった。

どうしてハヤテはこんなにも嘘が下手なんだろう。


「ふふっ、ハヤテが私の事でこんなに動揺するのも珍しいわね」

エミヤちゃんやユウヤくんの事なら面白いくらい、怒ったり照れたりするハヤテ。

私のことでこんなに動揺するのは、今まで見たことない。


「お前…、笑い事じゃないだろう…」


私は微笑んで見せた。

笑い事なのよ。

「大丈夫よ。なんとかなるから」


「なんとかって…お前なぁ」

ハヤテははぁぁと深いため息をついた。

良かった。

さっきみたいに苦しそうな顔ではなくなったみたい。

私のことなんて、本当に些細なことなのよ?


…ねぇ、ハヤテ。

お願い。

これ以上、誰も、何も亡くさせないで。

私や、私の大切な人から何も奪わせないで。

もうすべてを操ったって構わないから。

だから―あの、残酷な未来を、打ち壊して。


天に召します我らが神よ

どうか我らを、御導きください。

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