《強く》
案の定、従者は一人ではなく複数居た。
瞳の色からして、雷、風、土と基本的な陣形だ。
一番最初に出てきた奴は風だが。
リーダーは十中八九、雷の奴だ。
「―………火よ―」
俺がそう唱えると、リミッターは細い剣へと変わり、剣は炎を纏った。
俺は剣を構え、相手が動くのを待った。
俺達は初心者と言っても過言じゃない。
まあ…それは相手も似たようなもんみたいだ。
「はぁっ!」
始めに相手側の風のやつが風の大剣と共に出てきた。
俺は片手でその剣で流し、そのまま剣を踏んづけ相手の手から離した。
重い剣ほど、流すときには楽なものだ。
手から離れると、その大剣は形を失い、ただの風となって流れた。
俺はそれを見送って、そのまま剣を相手へ向けようとした。
だが、また一瞬で現れた風の大剣に怯んで、俺は一旦離れた。
殺す気がなきゃ、終わる気がしない…。
相手の血を恐れてちゃ、勝てるわけがない…。
「「―水よ、鋭き刃となれ―」」
二人の同時の言葉に、複数の水の刃が放たれた。
だが、3人の誰にも当たることはなかった。が、二人の狙いはそこではなかった。
「ッ!」
二人はそれぞれ、雷と土に向かって刃を向けていた。
雷と土はそれをまともに受けることはなく防いでいたが、土の方は頬から血が流れていた。
「え…?!」
土の相手をしていた血が出たことにユキカは驚いて、思わず退いた。
やはり、二人は解っていなかったのだ…。
これが、討伐ではないことが。
「う…そ……」
これは、これはもはや戦争だ。人殺しだ。
相手を斬れば血が出る。肉の固さや、骨が斬れないことを知る。
だが、そうだとしても俺は退かない。退けないんだ。
「ぁぁあああ!!!」
不意に相手の刃が飛んできた。
剣で受けようとしたが、まともに受けたせいで大剣の重さに片手では耐えられず、肩が斬られた。
痛い…!
傷は、深くはないはずだ。
すぐに剣は流した。
けれど、痛い。
痛くて、痛くて、堪らない。
こんな痛みは生まれて初めてだ…!
「ッ…!」
俺は剣を相手へ突き付けた。
俺も、相手も、負けられないんだ…!
「これは……、一体………?」
ハヤテ先輩の声にも、俺は顔をあげられなかった。
俺は敵か自分の血かで穢れていた。
殺してはいない。
腹と腕に一発ずつ食らわせた事で相手は退いた。
殺すべきだったか…?
だが、そんな覚悟なんて出来てない。
「何があったんだ?!
何処を怪我したんだ?!!
見せてみろ!!」
必死な形相でハヤテ先輩は俺たちの心配をしてくれたけど、それも痛かった。
力なく口を開けようとして、俺は我に返った。
「―火よ―」
俺は火の弾丸をハヤテ先輩…ではなくその後ろに迫っていた悪魔へ放った。
傷を受けたから退いたんじゃないのか…?
立ち上がり、周囲に集まってきた犬型の悪魔を睨んだ。
「お…い、タイガ。
今昼だよな……?」
「っ…は?
だと思いますよ!」
ハヤテ先輩の訳の分からない問いに答えながら、俺は悪魔の紋章を探した。
あった!
首元に真っ赤な紋章が見えた。
「じゃあ…、あれ、なんだ…?」
眉を潜めながら、チラリとハヤテ先輩が見つめる空を見上げると
そこには真っ昼間の中でも赤く輝く、満月があった。
「タイガ!」
ユキカ先輩の言葉に、ハッとして、俺は火の銃を構えた。
今はとにかく、目の前の悪魔に集中しなければ…!
飛び出してきた順に、首元にある紋章を狙って倒していったが、キリがない。
「おい、どういうことだ?
色々説明して欲しいんだが…!」
俺たちの動きから見て、大した傷がないことに安心したのか、ハヤテ先輩は冷静さを取り戻していた。
「俺だって知りませんよ…!」
銃を撃ちながら何とか返した。
悪魔には本能しかないから、パターンが掴めてきた。
数だけで連携もしないのだ。
それほど驚異ではない。
とはいえ、こっちにだって体力と言うものはあるが…
「ねぇ、もうキリ無いよ!」
ユキカ先輩の言う通りだ。
「…原因を探してください!
俺は先に進みます!」
そう言って俺は、従者達が去っていった方、サキア先輩が言っていた方へ向かった。
「お前一人でどうこうできる訳ないじゃん!」
そう言ってユキカさんは着いてこようとしたけど。
「アンタに何が出来るんですか!
人殺しになりたいんですか?!?!!」
あれをどれだけ悪魔だと言おうが、血の臭いや肉の感触なんて忘れられるもんじゃない。
それこそ、まだ子供の奴にどうこうできるもんじゃない…!
「お…い!
人殺しって、何の話だ?!」
悪魔を倒しながら、ハヤテ先輩が俺に聞いた。
「相手は悪魔じゃない。
魔界の人間です。」
悪魔を討伐していくことで道が開けたのを見て、俺は歩き出した。
人殺しになるなら俺だけで良い。
エミヤは俺一人で取り返して見せる。
俺が死んだって、エミヤも誰も死なないんだから。
そんな俺の決意とは裏腹に、後ろで鼻で笑われたかと思うと、ハヤテ先輩に肩をポンっと叩かれた。
「殺されるより、ずっとマシだ。」
ハヤテ先輩の言葉に、みんな着いてきてしまった。
そんなみんなにどこか安心している自分が居ることに気付いて、俺は慌てて首を振った。
けれど、拒否することも、出来なかった。
「サキア、月とか見て何か解らんか」
「そんな雑な…!
……もう!」
サキア先輩も、なんか自棄になってしまったらしい。
だからと言って考え無しな二人でもない。
増援も少なからずあるはずだ。
従者の奴等はともかく、悪魔ならどうにか出来るかもしれない。
「―眼よ!―」
サキア先輩の瞳が再び赤く光った。
いつも思うが、サキア先輩の能力というものは、また異種だと思う。
瞳の色が一瞬にして何度も変わるなんて聞いたことも見たこともない。
魔界なら、それは言わば一瞬のうちに何度も運命が変わる。ということに等しいのだ。
「…原因にはカレン達が…
けど、エミヤちゃんは………」
サキア先輩の示したのは、ユウヤが居るであろう方角だ。
「ねぇ、みんなが来るまで待ちましょう?
ここから離れることはないんでしょう…?」
サキア先輩の言うことは解らないこともない。
みんなで向かった方が安全に決まっているし、確実だ。
けど
「時間はないんです。
完全に満月になったとき、エミヤ達は魔界へ行ってしまう」
これは仮定。だが、それ以外に今のユウヤに魔界とこの世界を行き来する方法などないはずだ。
満月になったとき。
つまり、月の引力が、重さが、最も大きくなったとき、力を加えることで一時的に二つの世界の壁を壊す。
「待ってる暇なんて、ないんです」
そう言って俺は、銃を細剣へと変え、前へ進んだ。
殺すのが嫌なら、傷つけるのが嫌なら、失うのが嫌なら…!
もっと、もっともっともっと、強く…!




