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異端のLegitima   作者: 瑞希
《満月の夕闇》
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《青と緋の従者》

「ッハ」

気がつくと、俺はエミヤの部屋で倒れていた。

今日は金曜だったはず…、なのにアラームすらも聴こえていなかった。

エミヤの部屋に居たせいか。


エミヤの居ないベッドを見つめると、なまりのような物が全身にのし掛かった。

「エミヤ………」

エミヤが…俺の元から、去っていった…。

誰に奪われたわけでもなく…

エミヤは、自分の意思で…………俺から…………

俺の内側から溢れ、そして俺を包んでいく。暗い暗い、そして重い絶望。


ただただ窓の下へ見える地面を見つめていたら、思わず落ちそうになって俺は少しだけ冷静になった。

とにかく。と俺は部長…もといハヤテ先輩に連絡を入れた。

このとき何で、今の中学生組の部長であるナツカ先輩とユキカじゃなくて、ハヤテ先輩を選んだのかは、わからない。

…けど、たぶん俺は、やっぱりハヤテ先輩をエミヤの兄だと思ってるんだと思う。



「ハヤテ…せんぱ……」

震える声を押さえようともせず、俺は電話を掛けた。


「どうしたんだ…?」

若干眠そうな声だったが、当然ながらそんなのを気遣う余裕はなく。

俺は呆然と言葉を紡いだ。

ただ、学校なのに携帯を持っていて本当によかった。


「え…エミヤ……が………」

「エミヤ…

 エミヤがどうしたって?!」

エミヤという単語に、ハヤテ先輩の目は覚めたらしい。

周囲のクラスメートであろう人物が騒ぎ出すものわかったが、それにも構っていられなかった。


一方の俺は呆然から覚めることはできず、上手く回らない頭で言った。

「自分から…ユウヤんところに…

 お、俺…ホント…どうしたら良いか…」


俺の僅かな言葉にもハヤテ先輩は状況を察してくれた。

「今すぐそっち行くから!待ってろ!」

「は…い………。」

俺のか細い返事と共に携帯は切られた。


再び窓の向こうの地面を見つめてみたが、太陽が昇っているせいなのか地面はちゃんと見える。

いや、違う。例え太陽が昇っていても地面は見えなかった。

あれは、ユウヤの魔法ルーンだ。

間違いない。

…だが、それがわかったところで、俺の力で出来ることなんて…。

いや、力なんて加えていいのか…?

エミヤは自らユウヤの元へ行ったんだ…

誰が否定しても、俺は、エミヤの意思を尊重するべきなんじゃないのか…?

………それが、俺の…役目、だったはずだ…


………………………それなら、それならせめて、せめて、付いて行きたかった…

それぐらいの覚悟ならあった…

が、エミヤは、それを良しとはしなかったんだろう…。


…………俺は棄てられたのか。


そうか…。






「サキア!」

「えっ?

 ハヤテ?!」

今日に限って近くに居なかったと思ったら、裏庭で知らん男と一緒に居たし…。

誰なのかと問いただしたいが、今は非常事態だ。

今も十分非常事態なのだが…!


「非常事態だ!」

自然と怒鳴るような形になってしまったが、まあしょうがない。

俺はサキアの手を引いて走り出した。


俺は知らん男から離れてすぐ走りしながら小声で言った。

「エミヤが消えたんだ…!」

とにかく一刻を争う。

速くタイガの家に行って、事情を聴かんと…。

タイガの家には数えるほどしか行ってないが、迷うことはない。

ナツカとユキカに連絡して……


「待って、どこに行こうとしてるの?!

 カレン先輩やハンナ、先生には伝えるの?」

サキアの言葉に、俺は足を止めた。

今、この校舎にはナツカとユキカが居る。

更には、道路を挟んだ向こうにはカレン先輩、マキリ先輩、リクホ先輩とアリアさんが…。

それ以前に高校生組顧問の、清水さんが居る。

ナツカとユキカにはもちろん伝えるが、それ以外の人には、あまり知らせたくはない。

出来ることなら大事にしたくないのだ…。


「…私がナツカに連絡してる間に決めてちょうだい。」

サキアの言葉に俺は頷いた。

事は急を要する。

だが、緊急事態。危険な状況なのだ。

俺の判断で誰かが傷つく。

全員呼べば、それはもちろん危険度は減る。

だが、その後のエミヤの立場が危うくなる危険は高まる。

ただでさえ危うい立場なのだ。

それを考えると、諸々を隠して行動してくれるだろうナツカやユキカにしか知らせられない。

カレン先輩も、ハンナも信用できないわけじゃない。

だが、彼女達には立場というものがある。

全てを隠して柊家に対抗することなどできはしない。

俺もそうさせるのは本望じゃない。

状況次第。と言いたい所だが、その状況もタイガと話さない限りは細かくはわからない。

タイガにだって分かる保証はない。

だからといってタイガの家に云ってから報告してはタイムロス―


ピピピッ!


考えて早々に俺の携帯が鳴った。

珍しく集中して考えていたから、少し反応が遅れた。

それはナツカでもユキカでも、もちろんサキアでもなくひいらぎ 志野しのさんだった。

考えが読まれたのかと、軽く血の気が引いた。

…いや、まさか。

そんな能力レジじゃなかっただろ…?


サキアをチラリと見ると、軽く頷いた。

俺の顔か雰囲気ふんいきからそれなりに察してくれたらしい。

「はい。

 操辻あやつじですが…」

『ハンナは何処ですか!!!!!』

志野さんの怒鳴り声が響いた。

頭がキーンてする…。


「…は?ハンナ?」

俺は目を見開いた。

エミヤではなく、ハンナ?

全く意味がわからん。


『植物の子と、消えたのです!

 今すぐ探しなさい!!!!!』

こんなに必死な志野さんも見ないな…いや聴かないな…。

いや、違う。

違うぞ。

とんでもない緊急事態だぞ?!?!!!!!

エミヤも消えて、ハンナとケイも消えた?!

ど、ど、ど、どういうことだ?!


「ちょ、ちょ、え?なんで?」

「良いから探しなさい!!!!!

 千里の子が近くに居るでしょう!!!!」

サキアが出ないから俺にかけてきたのか…。

そりゃそうだわな。

サキアも電話してるんだから…………。

だが、これは、不味いな。


一呼吸置いて、俺は口を開いた。

「理由を、教えてください。」

俺は駆け引きをすることにした。

どうせ遅かれ早かれバレるかもしれないんだ。

こうなったらもう…。


「…私の言うことが聞けないのですか…?」

怒鳴り声ではない、深く威圧のある声に冷や汗が流れた。

だが、それで引くほど、生ぬるい覚悟で駆け引きなんてしない。


「ハンナやケイの意思がありますからね。

 それなりの理由があっての行動でしょう?」

曲がりなりにも音澤の血が流れてる。

能力レジは使えなくとも、喉の使い方なら本能的に分かる。

表情筋の使い方は分からんが…。


「…私が二人の交際に反対したからです」

思わず、は?って言ってしまいそうになったが、何とか圧し殺した。

まあ、考えてみればそれが普通か。

つまりはハンナとケイの家出だ。こっちは。


「志野さん、実はこっちも問題が。」

こっちの弱味を見せるのは相手が見せた後だ。

つまりは、ハンナとケイは言い方によっては志野さんのせいで家出した。

もし二人に何かあったら全面的に志野さんの責任になるだろう。

そうなったらハンナは志野さんを庇うだろうが…、そんなので収まるわけがない。


そこで、だ。

「エミヤも消えたんです。

 詳しい事情は俺もさっき聞いたばかりで分かりませんが」

口が裂けても言いはしないが、そこは志野さんに察してもらいたい。

つまりは、力道りきどう家次期当主のハンナの汚点と、柊家当主の汚点も、エミヤの出来事もうやむやにしろってことだ。

物凄く汚い手なのは解っているが…。


「はぁ………」

なんか無駄に長い溜め息が…………。

やっぱり駄目だったか……??


「そんなことしている暇があるのなら

 さっさと探しなさい…!!!」

ごもっとも!!!

サキアの電話も終わっていた。

リミッターを外して能力レジを使っているところだ。

たぶん、もうじきユキカとナツカが来る。

もしくは、タイガの家に向かってるはずだ。


「無論、仇篠の忌み子も

 面倒を起こされては厄介です」

ああ。やっぱり仇篠の忌み子って呼んでるのこの人だった。

けど今はそれも腹が立たないくらいには感謝だ!!

不幸中の幸いとはこの事だ。

これで何かあっても惜しげもなく皆の力を借りられる。


さぁ、ちょっとタイムロスしちまった。

すぐにタイガの所へ向かわねぇと。






「はやく!助けにいくよ!」

ユキカは着いて早々に力なく玄関で座り込んでるタイガを引っ張った。


「で…、でも」

躊躇うタイガに、ユキカは珍しく声を荒らげず、穏やかに聴いた。

「………でも?」


タイガゆっくりと、泣きそうな声で言葉を発した。

「っ…!

 エミヤは…自分から行ったんだ…!

 それを俺が、どうこうする権利なんて…」


顔を覆ってしまったタイガに、ユキカは優しく、肩に手をおいた。

「ねぇ、タイガ」

「……はい…?」

タイガは顔から手をどけて、僅かにユキカを見た。


「いつかの誓い。

 忘れた訳じゃないよね」

「…はい。もちろんです。

 でもそれは…」

一瞬、目に光が点ったがそれもすぐ消えてしまった。

二人以外の人間にその誓いの意味は分からなかったが、何も言わなかった。言えなかった。


「違うよ。

 タイガはエミヤが好きなんでしょ?

 それなら、その気持ちのままに行動しなよ。

 少なくとも僕は、エミヤが居なくなるなんて嫌だ。

 ナツカもでしょ?」


ユキカから同意を求められ、ナツカは少し目を開いてから微笑んだ。

「ああ。

 あと、ユウヤも…ね。」


ナツカの言葉にユキカは頷いて、再びタイガを見つめた。

「だから、取り返しにいこう。

 それでエミヤとユウヤに聞こうよ。

 全部さ。」

立ち上がってユキカに手を差し伸べられたタイガの目に光が戻った。


「…………はい…」

タイガはユキカの手を取って立ち上がった。

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