表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端のLegitima   作者: 瑞希
〔告げる雷鳴〕
51/100

〔御兄様〕

エミヤ達は、幼稚園組との合同討伐と称してクロの世話をした。

終わるはずもない討伐。

何故なら、最後の一体はクロだったからだ。


だが、それもすべて時間の問題だった。

すべて単なる時間稼ぎ。

その短い間にエミヤ達は、ミナトは選ばなければならない。

クロをどうするのか。




それも、もう全てが遅かった


「ぅ…っ

 ウァァァァァアアアアア!!!!!!!」

ミナトは…クロは気が狂ったように叫んだ。


ミナトのリミッターであるネックレスが外れた拍子に、クロがミナトの中に消えたのだ。


「やはり、悪魔は…!!!」

真っ先にセツナが悔しそうに言った。


「今そんなこと言ってる場合じゃない!

 エミヤ…!」

タイガの声に、エミヤはさっと髪飾りを外した。

髪飾りは、細く延び、エミヤの耳に収まった。


「…っ」

が、エミヤはそれっきり動けなくなってしまった。

クロを思うと、ミナトを思うと、口が開けなくなってしまった。

けれど、このままで居れば本当にどちらのためにもならない…!


「っ…!」

エミヤ以外の誰一人としてミナトに手を出すことはできない。

物理攻撃ではクロを倒すと同時にミナトも傷付けてしまうからだ。

ミナトの事を無傷で救えるのは唯一エミヤだけ…


「―………闇よ―」

ユウヤの手から現れた球体が、ミナトへ向かっていった。


「ユウヤ!」

「黙ってなよ!」

止めようとしたタイガに、ユウヤが珍しく声を荒げた。


ユウヤの手から放たれた球体の闇は、ゆっくりとミナトの元へ行きゆっくりと飲み込んでいった。


「なに…?!」

ユウヤのすることを誰も止めこそしなかったが、戸惑った。

ミナトを完全に取り込んだと同時に、ユウヤもミナトも全く動かなくなってしまった。


「…ただの時間稼ぎだ!

 どうするかは、俺たちで決めねぇと!!」

そう怒鳴るように言ったのはタイガだった。

やはり、エミヤ以外にはこの事態を解決できるものは居ないのだ。


「…ごめんなさい。

 ちゃんと歌います」

ギュッと手を握り締めたエミヤに、タイガが声をかけた。


「殺すことを考えなくて良い。

 追い出せれば、…弱らせれば十分だ。

 初めから、お前にはそんくらいの力しかない」

ギュッと手を握るエミヤの手を一つずつ広げながら、こんな状況とは思えぬほど穏やかに、茶化すように言った。


エミヤは一瞬目を見開いてから、ニカッと笑ってみせた。

「失礼な」


そして一呼吸置いてから、エミヤはスッと目を閉じた。


「―歌え我らが仲間のために―」


エミヤの歌に、ユキカはほうっ…と思わず息をついた。

以前の攻撃的な歌とは全く違う、どこまでも広がるような優しい歌

エミヤの感情ひとつで、こうも違うものなのかと、恐ろしくもあった。

それでもエミヤの歌はただ、純粋に美しく響き渡る。

以前も、今回も。


「「―水よ、刃となりて彼のものを裂け!―」」

クロとミナトが分裂した隙にナツカユキカが放った刃が黒い球体ごと一人と一匹を切り離した。


「―風よ!―」

そして再びひとつになる前に2つを風で離し、ミナトをタイガの方へ流した。


ミナトをキャッチしたタイガが、ユウヤに向かって口を開いた。

「ユウヤ!」

その言葉に反応したユウヤが動き出すと同時に球体も消え去った。

そしてタイガは間髪を入れずにミナトにリミッターを着けた。


「う…、タイガさん…?」

「ああ。」

目を覚ましたミナトに、全員がホッと息をついた。

しかしそれは一瞬のものですぐに気を引き締めクロの方を見た。


「ピ…ピ………」

呆然。という感じだった。

クロにも何が起こったのか分かっていないのか…正気に戻ったのか…


「…ピピッ!」

クロがエミヤの方を見て、何かを訴えるように鳴いた。

それを理解できたのかどうかは定かではないが、エミヤはそれを無視した。


エミヤは黙ってクロに肩に乗るように促した。

「ピピ…?」

クロは首をかしげながらも素直にしたがった。


「志野さんとは、いつ話せますか?」

クロを肩に乗せながら、エミヤはユキカを見つめた。


「…時間的に、今から……かな」

「行きましょう。」

鋭い瞳で言うエミヤに、ユキカはまた尻込みした。

またあのときのようなエミヤなのか…と

それでもユキカは構わないのだが。


「この子をどうするにすれ

 私を…御兄様をどうするにすれ」

何より驚いたのは、エミヤがユウヤのことを御兄様と呼んだことだった。

それを真っ先に否定したのはタイガだった。

「お兄様って…!!」


ユキカは少し間を開けて落ち着いた様子で口を開いた。

「………わかったよ

 ミナトは……」

「私と一緒に行きましょう。」

戸惑うミナトの代わりにセツナがしっかりと言った。

ミナトも力強く頷いた。

ミナトには、クロの行く末を見る権利がある。


「行こうか」

ナツカはそう言ってユウヤに微笑んだ。

微笑まれたユウヤは少し硬い顔で頷いてタイガとエミヤをチラリと見つめた。

タイガはユウヤを軽く睨み

エミヤはユウヤの視線にすら気づかず進み出した。




「…来ましたね」

凜と響く声でそういった年齢不詳の女性。

ここは、能力者レジティーマたちがお金を出しあって作った場所。

月に一回の小さな集会

そして、年に2度行われる大きな集会でここは使われている。

森に囲まれていて知らないければ入ろうとも思わない場所だ。


「…仇篠の忌み子が…二人も……」

溜め息混じりに言ったひいらぎ 志野しのの言葉にエミヤ以外の全員は軽く殺意を覚えた。

が、志野はそんなものもろともせず再び口を開いた。


「そんなものは、敷地に入れませんよ」

一瞬志野は、エミヤを見ていっているのかと思われたが、クロを見ているのだった。


ユウヤは納得してうなずいた

「結界だね。

 僕らには何の意味もないけど」

クロは入ることのない結界でも、ユウヤやエミヤには意味のないものらしい。

現にユウヤは中には入れている。


「忌々しいこと」

そう言った志野に、ユウヤはまた殺意を覚えて睨んだが、志野はその前に奥へ行ってしまった。


「…僕はクロと居る。」

確固たる瞳に、セツナは何かを言い掛けてやめた。

こんな状況で離れるのは、その方が不安だろう。


タイガはミナトとクロを見て、結界の中へ入る前に止まった。

「俺がついてるよ

 あんま口は上手くねぇからな…」


頭を掻きながらそういうタイガに、セツナは微笑んだ。

「わかりました。

 ミナトさんの分も、私が」

「うん…!」

悪魔のことを…クロのことを最後まで忌み嫌っていたセツナだったが。

やはり情に深い。

自分も気づかぬ間にクロにも情を持ってしまったらしい。


そんな三人を見て、エミヤはタイガと微笑み合った。




「失敗しましたね

 無理矢理にでも、あれを中に入れれば良かった」

何の感情も含めずに軽薄に言う志野に、ユウヤは少し間を開け冷静に、静かに怒りを込めた。


「…つまり、そういうことだね」

「ええ。当然でしょう。

 悪魔を飼うなんてあり得ません」

鼻で笑わんばかりに言いきった志野。


「ブーメランだと思いますけど?」


ユキカの言う意味が単純に分からず、志野は眉をひそめた。

「ブーメラン?」


双子の兄であるナツカが静かに口を開いた。

「返ってくるってことです」


ナツカの言葉に志野はわずかに頷いて口開いた。

「私は仇篠の忌み子を飼った覚えなどありませんが?」


それに反論したのはエミヤだった。

「けれど殺さないでしょう

 私が赤ん坊の間に殺しておけば良かったはずです」

志野と同じくらい軽薄で何の感情も含まれないような言葉に、ユキカ達は言葉を無くし、志野も眉をひそめた。


「何故、私を生かして居るのですか」

「死にたいのですか?」

間髪いれずに言われ、エミヤは少したじろいだ。


「そ…う、言う訳では…」

長い睫毛を伏せてエミヤは否定した。


「ならば良いではありませんか

 強いて言うのなら、利用価値があると考えたに過ぎません

 生かされた意味など考えぬ事です」

あたかもエミヤに対して何の興味も無いように、志野は言った。


「しかし、クロは殺すのですか」


セツナの言葉に、志野は一段と眉をひそめた。

「悪魔に名など与えたのですか…!」

怒鳴っている訳ではないのに、威圧感のある言葉にセツナは一瞬縮こまった。


だがすぐに立て直した。

「ええ!

 それほどまでに思っているのです!

 クロにはキチンとした知能が有り、善悪を理解する力がある。

 エミヤさんやユウヤさんに手を出さないのなら

 クロにも同じ、平等な対応をしなさい!」

セツナは鋭い目で、最後にバシッと床を叩いて見せた。


セツナの渾身の言葉は、志野には一瞬目を見開いただけで、あまり効果を持たなかった。

「弱さは罪……

 私の言う事は絶対。

 そこまで平等を望むのなら、

 今、この場で、仇篠の忌み子を殺して構いませんよ」

冷たくそう言った志野にセツナはサッと顔を蒼くした。


「そんなこと、僕が許さないよ」

ユウヤは腰を少し上げて志野を睨みつけた。


「ならば貴方の手で、その悪魔を殺しなさい

 そうすれば私は貴方達に手を出しませんよ?」

志野の提案にユウヤは嫌悪感や殺意を顔で現した。


「どっちが悪魔だか解らないね」


ユウヤの言葉に志野は微笑んだ。

「どうしますか?

 私の言葉一つで、この国ではどうとでもなるのですよ」

あまりに大袈裟そうな言葉だが、ユキカやナツカの反応を見るとそうではないのが分かった。


「………悪魔め」

怒りを込めて睨んだユウヤに、志野はただ微笑んだ。


「おに…」

「君の兄なんて語れないね」

微笑むユウヤはエミヤの手を逃れ陽炎のようにかすれて闇に消えた。


「ぁあ…」

「っ…」

愕然とするエミヤを見て、ユキカは外へ走り出した。

来る時以上に、長く感じる木製の廊下を抜け、裸足のまま玄関から飛び出した


そこに居たのは


地面に倒れるタイガと、泣き崩れるミナト


そして、闇をまとったユウヤが居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ