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異端のLegitima   作者: 瑞希
〔告げる雷鳴〕
50/100

〔君は特別だ〕

「エミヤ、話があるんだ」

ユウヤに呼び出され、エミヤは家を抜け出した。

タイガに黙って行ったから、悪いかなとエミヤはチラリと思った。だが。

タイガも家を抜け出してた気がするし。と自分のなかで誤魔化した。


指定された場所につき、ユウヤの姿を見つけたエミヤは声を掛けたようとした。

「ユ―」

言い掛けて、エミヤは身を強ばらせた。

ユウヤの他に、見知らぬ姿が目に入ったからだ。


そんなエミヤには、ユウヤは驚かなくて良いと穏やかに微笑んだ。

「アーテル、と…」

「何とでも」

「じゃあ、ランだ」

とって付けたような名前に、エミヤは自然と苦笑いをしていた。

ユウヤの知り合いならば警戒する必要はない。


「アーテルは僕の“相棒”なんだ」

ユウヤの言葉に、アーテルと呼ばれた人が軽く眉を潜めた気がした。

が、ユウヤは全く気にしていない様子だ。

相棒かどうかはさておいて、気の置けない仲であることは間違いないだろう。


「こっちの今ランって名付けた彼は」

(あ、やっぱり思い付き…)


「君の相棒になるかもしれない人」


え…


一瞬、息の仕方を忘れた


ユウヤの言葉、表情にエミヤは感覚的にすべてを理解した。

「今すぐ、ですか」


ユウヤは微笑んで、首を振った。

「かも、だよ。

 ただ悪いものの影が迫っている。」


危機的状況なのだろう。とエミヤは漠然と思った。

それを明確に理解することは出来ないし、これからもユウヤはさせるつもりはないのだろう。

「ごめんよ」


ただ、寂しげに微笑んで謝るユウヤ。


「民のためでもあるんだ。」

「民…?」


ユウヤはゆっくりと頷いた。

「君だけには話すよ。

 魔界と悪魔のこと」


ランという人に、椅子に座るよう丁寧に促された。

長い話になるのだろう。

ランは甲斐甲斐しくもお茶を淹れようとしてくれたが、流石に断った。

かなり従順な人らしい。

エミヤに主になどなった覚えはないが、彼のなかではもうエミヤは主らしいのだ。


「さあ…どこから話そうか

 まずエミヤ、君には僕たちや悪魔はどんな風に見えている?」

エミヤ本人も、ずっと気になっていたことだった。

ユウヤは他の人と変わらないように見える。

悪魔は限りなく黒に近い、濁った色をしているのに…。

透明、とは言えないが、それは他の人たちも同じだ。


アーテルは真っ黒、

ランは青…藍色だった。


本当にみんなと変わらない。

アーテルは確かに黒いが、濁っているわけではない。

純粋…?純潔…?の黒だ。嫌な感じはない。


ランの藍色に至っては、ほとんどユキカやナツカと変わらない。


エミヤの知っている悪魔とは到底かけ離れている。


「…全然違います。

 悪魔は濁ってるけど、皆さんは…」

「うん。そうなんだ。

 悪魔と僕らは違う。」

ユウヤの言葉に、エミヤは眉を潜めた。

ユウヤの話は、コロコロ変わりすぎる。

魔王だったり英雄だったり死神だったり…

今度は悪魔ですらなくなってしまった。


「正確には僕らだけの話じゃないよ

 魔界にいる人たちはみんな悪魔じゃない」

「…はっ?!」

悪魔の故郷である魔界に居る人達は悪魔じゃない?

物凄く変な話だ。


「悪魔と、魔界に居る“人”は違う。」

だったら、悪魔は何だというのか。

自分が悪魔だと言われてきたことは、何だったのか。

訳がわからない


「悪魔は魔界の人が堕天した姿だ。」

「だ、打点?」


ユウヤの真面目な顔は苦笑いに変わった。

「この世界の人たちも同じ何だけどね

 よくない方法で過剰な力を求めると、化け物になっちゃうんだよ」

…そんなお茶目な言い方をしたところで、言っていることが物騒なことに変わりはない。


「え、待ってください。

 この世界の人たちも同じ?」


エミヤの問いに、ユウヤは当たり前のように頷いた。

「正確には人だけじゃない。

 悪魔と反対にして昇天する天使って呼ばれているよ」

ユウヤの言葉に、エミヤは愕然とした。

今まで、悪者なのだとばかり思われていた魔界と

良い者だと思っていた人界は変わりなかったのだ。


「じゃあ、悪魔は悪くないと?!」

エミヤの必死な様子にも、ユウヤは平静のまま口を開いた。

「いや?

 悪魔は悪い。天使も悪い。

 どちらも倒すべき…浄化するべき。」


エミヤは眉のシワを深くした。

「でも私たちは違うと?」

エミヤには、ユウヤの言うことが何となく理解できてきた。

けれどそれは、責任逃れなのではないかとか

本当にそれが合っているのかと思う。

もしかしたら、本当に間違っているのは、私達なのではないのかと。


「ま、この世界の人にしてみれば変わらないけどね」

「どうしてですか…?」

どちらにしても、悪魔と魔界の人達が違うことは事実なのだ。

変わらないなんてことはないはずだ。


「だって、魔界がなくなれば悪魔が消えるのも事実だし。」


ユウヤの呆気からんとした言い方にエミヤは愕然とした。

「そんな…」


そんなエミヤに、ユウヤは少しの哀しみを含んで笑った。

「悲観することはない。

 逆もしかり、だ。

 そう考えてる人は、魔界にも多く居る。」

「え…」

魔界も…この世界も互いを、互いにいがみ合っているのか。


そんなことじゃ…!

「近いうちに、魔界と、この世界…磁界との間で戦争が起こるかもしれない」

「せ…んそう…?」

小学校から中学校の間に何度も聞いた単語だ。

かつて、大昔、この世界を破滅へ導いた、人と人との戦争。

どちらが悪かったかなんて、どちらが正しかったかなんて言えたことではないけれど

ただ、事実なのはそれにより、多くの陸が失われ、資源が失われ、人が失われたと言うことだ。

あの戦争によって得て良かったものなんて、何もなかった。

そう、エミヤ達は習った。その大人も、またその大人も。


「…大勢の人や獣や生き物が死ぬだろうね」

ユウヤはどこか他人事のようにそう言った。

全く実感がわかないように。


「そんな…!」

遺された戦争の記憶を何度も知ってきたエミヤには少なからず、その痛みがわかっていた。

それでなくとも、エミヤは争いを嫌っていた。


「それを止められるのは、君だけだ」


「…………え?」

自分の耳を疑った。


「君がいれば、君の力があれば、君が力を貸してくれれば

 戦争は止められる。

 もしかしたら、未来永劫。」


急な話にエミヤはかなり混乱した。

「…ちょ、ちょっと待ってください!

 私は…私達は死神の娘なんでしょう?!」


ユウヤはゆっくり力を込めて頷いた。

「…そうだ。」

「それが、どうして止められるんですか…?!」

そこで英雄を殺した娘であるエミヤが出てきたら、火に油を注ぐようなものだ。

関係のない争いまで起きてしまう。


「英雄の孫で、その英雄を倒した死神の娘である君には

 とても強い力が秘められてる」

「………それは、音ですか…、闇?」

自分の今の能力レジは音だが、それは父の能力。

自分の本来の能力はユウヤと同じく闇なのかと考えた。


けれど音でも闇でもなかったらしく、ユウヤは首を振った。

「ううん。

 何と言ったら良いかな…」


悩むユウヤに、横に立つランさんが口を開いた。

「器、力量。」

「ああ、うん。そんな感じだ。

 君は力の器がすごく大きい。もちろん僕もね。」

「器…?」

器と言われても、ピンとこない。

それは見えるものではないし…。


「要するにめっちゃ強いってことさ」

「そ…そうですか……」

突然のぶっちゃけた言葉にエミヤは苦笑いをした。


「魔界はね

 こことは違って太陽も星もない。あるのは月だけ。

 周りの星は遠すぎて殆ど光も届かないし、その重さも届かない。」

「え…?」

魔界の状況がよくわからなかった。

エミヤにとって、太陽も月もないというのは想像もつかない。

単に暗いだけかとも思ったが、そうしたら光合成が出来ないから植物は育たないし酸素も生まれない。

そうしたら…、長い間は生きていけないはずだ。


「王様が太陽になるんだ

 本当に、文字通りね」

「た、太陽…?」

大それた話にエミヤは戸惑った。

一瞬、自分が丸い太陽になるのを想像して、絶対違う。と首を振った。


「自分の国を照らす。器によってね

 それだけじゃない。国すべての動力源は王様なんだ」

全部とは、本当に大それた話だ。

その国の大きさや必要なエネルギーの多さはわからないが、国一つともなればとんでもなく大きいはずだ。


「そんなの…」

普通に考えて、出来るはずがない。

自分の世話を出来るかも、エネルギーなしでは難しそうなのに。


けれど、ユウヤはあっさりと首を振った。

「出来るんだ。

 強い力を持つものなら、何でも」

「何でも…?」

「うん。別に人じゃなくても、動物でも植物でも。

 炎でも、鉱物でも、何でも良い」

それは実際に、この世界でのことだ。

この世界は太陽光や風力などに頼っている。


「じゃあ―」

「けれど、それに見合う力量で

 尚且つ王になってくれるものが居ない」

…それは、そうだ。

この世界と魔界では必要なエネルギーの量が全く違う。

けれど…、それを自分一人でだなんて、もっと無謀だ…。

ユウヤは自分を買い被っているのではないか、とも思う。


(…私、は………もっと…普通な………。)


「殆どは器が足りないし

 強いやつは強いやつで、むしろ滅ぼそうとする」

……………………、そうだろう。

それが通常、正常、一般論。

強いものの考えだ。


「人を助けるのは、やはり人だよ」

人は同族だからこそ助ける。

自分だったらと考えるから、考えられるから。

自分と同じ種族と考えるから、多少の犠牲を持っても助けられるのだ。

…そうでないのは、それに対して何の感心もない、絶対的力の持ち主だ。


「そして、助けられるのは君だけだ」

私は普通。

そう、思いたければ思いたいほど、暗に、違う。と言われる。

否定される。

それはエミヤにとっては絶望のような。

自分だけが世界から、神から、見放されたような。

元々、皆が言うような普通な存在などではなかった。

それでも今までは普通に笑って生きてきた。

それらもすべて道化師の真似事に過ぎなかったのか、と。

仄暗い絶望は少しずつエミヤの心を凍らせていった。

苦しまないように、悩まないように、痛くないように。

見上げればすぐ目の前に在る結論に、押し潰されぬように。


そんなエミヤを知ってか知らずか…、恐らく知らずにユウヤは話を続けた。

「魔界には、主に七つの国がある

 称号で言うね?

 傲慢、強欲、嫉妬、色欲、怠惰、憤怒」

「全部悪そう…」

エミヤの表情にはいつの間にか微笑みが浮かんでいた。


それにつられ、ユウヤも微笑んだ。

「なぜこんな称号なのか分からないけど

 何かの戒めなのかもね

 君には、この中の嫉妬の王になって欲しいんだ。」

「嫉妬、ですか」

皮肉にも、今の自分にはピッタリな気がした。

愚かにも普通を妬み嫉み羨む自分に。

これが本当の普通であれば、自分が特別と言われることを喜ぶのかもしれない。

それも解らないが。


「王が不在でね

 僕が掛け持ちしてるけど、ギリギリなんだ」

「ユウヤさんは、なにを?」

嫉妬以外の、残りの六つの国のどれかの王なのだろうか。

だとすれば兄妹揃っての王様で、何かと大変そうだ。


「僕はもうひとつ違うところ

 大魔導帝國っていう…まあ、この七つの国の連合王国さ」

「連合なんですね…」

それならば、まず敵対する事はなさそうだ。

王なのだから、どうなるかは解らないが。


「うん。

 君が皇帝で、僕が嫉妬の王でも良いよ?」

「え、遠慮します…」

それは中々に荷が重そうだ。


「そう?

 嫉妬の王が復活すれば国中に力が行き渡り

 よくない方法で過剰な力を求める者も居なくなる」

「どうしてですか…?」

「必要がないからさ

 みんな、生きるためにそうしてるんだ」

「生きるため…」

考えてみれば当たり前のことだった。

元々はみんな、生きるためにそうしているのだ。


「そう。そして…気付いたら悪魔に堕ちて磁界へ消えてしまう」

生きるためにしたことで悪魔となって殺されるというのは、なんとも皮肉な話だ。

どちらが楽なのかは、それも解らないが。


「どうして…、磁界に」

「さあ…、せめて家族を殺すまいとしてるのかな」

家族も居るのだと気付いて、もしかしたら、生きるためと言うのは家族を生かすためというのも入っていたのかもしれない。

自分が家族の立場なら置いていかないでとも思うが、そんなことも言ってられないほどの状況なんだろう。


「天使もね、そうなんだ。

 磁界の人が昇天し天使となり魔界へ来る。」

「天使…」

その名前こそ綺麗だが、全く天の使いなどではないことがエミヤにも良くわかる。

同じなら、両方もっと別の名前にすればいいのにとも思った。


「ま、今迷惑かけてるのは圧倒的にこっちだね

 もう少ししたら、悪魔が爆発的に増えるかも」

「っ……」

エミヤはまたしても息が止まるかと思った。

もし、悪魔が爆発的に増えたら…みんなが怪我をしてしまうかもしれない。

痛い思いを何度もするかもしれない。

もしかしたら、もしかしたら、死んでしまうかもしれない。


「けど、君が王になってくれれば万事解決

 大団円だね」

「やっぱり…、魔界に………?」


ユウヤは顔を固くさせ頷いた。

「限りなく、そうなるであろう、“かも”だ。」


「………」


顔を伏せて黙ってしまったエミヤに、ユウヤは微笑んで首から懐中時計を取って、エミヤの手に握らせた。

「これは、真綾の形見だ。

 君が持っていて」

「お母さんの…?」

今だ見たこともない。

母の形見と言う懐中時計。

とても凝っていて綺麗だ。


「満月の夜

 いつか決心がついたなら―」


懐中時計を見つめ、エミヤは頷いた。

「……はい。御兄様」

喜怒哀楽を感じさせないエミヤの表情に、ユウヤはふと笑みを見せた。


「タイガは是が非でもついてこようとするだろうね」


エミヤは表情を変えることなく否定した。

「いいえ…私一人で行きます」


「一人では…」

ランの、一人ではない。と言う言葉にも、エミヤは表情を変えることはなかった。

弟47部の冒頭と繋がっております

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