『悪魔の核』
「遅れましたー」
俺が入ったことで、その一室は一瞬静まり返った。
俺が来たことに驚いているのだろう。
俺だって来るつもりなんかなかった…。
だが、仲間たちの。友たちの。妹のことが関わっているのなら、出るしかないだろう。
面倒くさいとも思えやしない。
「遅いですよ。
では、あらためて話を始めましょう。」
志野さんの威圧のある声に、みんな我に返えった。
いつもどうなのかは知らないが、碓氷家と枷家が不在のようだった。
メンバーを確認し終え、俺は志野さんに軽く肩を竦ませ謝ってから操辻の位置に座った。
上等であろう畳に人数分置かれた座布団は驚くほどフカフカだ。
ホントに二三枚持って帰りたいくらい。
邪魔になるから良いけど。
「緑地公園で悪魔が出現しました」
最初に口を開いたのは、当事者の父親である
彩瀬 敦史さんだ。
娘息子と同じく柔らかな雰囲気をもっているが、こういう場合は少しピリピリしている。
「そのような情報はなかったはずですね?」
公平公正なセツナの母、秋風 芹那さん。
芹那さんは弁護士で普段忙しそうにしていたが、今日は偶々空いていたらしい。
それともこういう事態だからなのか…。
「ええ。
感知していませんでした。」
柊の婆さん…柊 志野さんは普段と変わらぬ様子で言った。
志野さんが何を考えてるのかは分からない。
だが、それは今、大した問題ではないだろう。
「由々しき事態だ」
誰も口に出せなかったことを、真霧の父の蕾凰 雷真さんがバッサリと言った。
マキリ先輩は柊家に一番味方する、神氷家の一人娘、カレン先輩が好きなはずだが…その親は関係ないのだろう。
いや、マキリ先輩自身も、あくまでカレン先輩にという感じだからな。
悪くは言わないだろうが、文句があれば普通に言うのだろう。
「そうですね…
一つあれば二つ…二つあれば……、という可能性も。」
高校生組の顧問で、ナツカとユキカの父である清水 優が考え込む体勢で言った。
悪意はなく、ただ自分の子供たちや教え子を危険に晒したくないが為の発言なのだろうが…。
志野さんが大好きなハンナは明らさまに不機嫌な顔で頬を膨らせている。
「調査が、必要でしょうなぁ…」
小学校組の顧問で、リクホ先輩の父である大石 心平さんがハンナに向かって苦笑いを浮かべながら言った。
調査という言葉が出たことにより、咲空の母である千里 紗希さんが口を開いた。
「確認しないことには解らないけれど、結界が張られているのかも…。」
「結界…」
マキリ先輩の母で雷真さんの妻である朝霧さんが紗希の言葉を繰り返した。
普段あまり喋らない人だが、口を開くと良いことを言う。
「…………」
「ええ。おそらく公園に核があるはず…」
案の定良いことを言ったようだが、その言葉は朝霧さんの声からではなく、紗希さんから教えられた。
「志野さんには悪いが、一旦 能力をかけ直してもらって
千里さんと秋風さんに探して貰えるか」
ずっと黙り混んでいたカレン先輩の父である神氷 憐真さんがやっと口を開いた。
「能力を掛け直すとなりますと
その間は能力は使うのを控えて貰うことになります」
憐真さんはそれが分かっていたようだが、柊家の能力の掛け直しというのを始めて体験する俺は、若干驚いた。
柊に欠陥があるなんて基本的には有り得ないから強化すると言う話すら出たことがなかった。
「学生組もしばらくお休みですね…
遙華さんには私から話しておきます」
「ああ、はい。」
遙華さん、は俺の母だ。
それで、エミヤの伯母にあたる。
母さんは幼稚園組の顧問、ということになっている。
それは良いんだが、能力が使えないとなると疑問があった。
「調査はどうなるんだ?」
俺の問いに答えたのは志野さんだった。
「控えるだけですから
調査だけでしたら構いません。」
能力を使われると出来ない。というわけではないらしい。
違和感が残るのか、そこだけ後でやらなければならないのか、理由は解らないがそれなら、と俺は思っていたことを言ってみることにした。
「俺も、多少は手伝えると思うんだが…。」
俺の言葉に一斉に視線が集まってくるのを感じた。
………やっぱり柄じゃなかったか…。
「では、任せます。
紗希。」
「あ、はい…!」
やっぱり止めようかと思ったら、志野さんが一気に話を進めてしまった。
ま、まあ…良いか。
セツナが居るから大丈夫だとは思うが…。
本当に結界をはれるような悪魔なら、攻撃系の能力を使えない紗希さんやサキアをそんなところに放り出せるわけがない。
俺の能力も多少は調査に使えるはずだ。
今まで全力を出したことがないから、どれほどの範囲かは分からないが…。
「では、そのように。」
志野さんは俺たちにそう告げると一室から退出した。
早速、能力を掛け直すつもりなのだろうか。
…見てみたい気もするが、恐ろしいので止めておこう。
「ということで部活はナシになった。」
部活がナシになった。
その事をエミヤとタイガのクラスの担任である碓氷にそう告げられたのは学校に来てすぐの朝のことだった。
学年が変わっても担任は変わらないのは偶然ではなく必然のようだが、それでも仲の良い友達と一緒のクラスになれたのは運命だろう。
「じゃあ、遊びに行こ!
私たちも休みだし!」
そうアミに声を掛けられたことで、エミヤ、アミ、ヒナ、セイラのメンバーで、三日後の日曜に遊ぶことが決まった。
日曜に一日中遊べる。
ということで緑地公園で遊ぶことになった。
緑地公園にはプールやアイススケートがあり、色々なイベントがほぼ毎日行われている。
そして謎の日本庭園。
「なんで日本庭園なんだろ~」
今日日どこにも見ることのない日本庭園というものに、アミを含めたヒナとエミヤは疑問を抱いていた。
その疑問に答えたのは、セイラだった。
「…この辺りに、そういう家があるのよ」
「へぇ~!
さすがセイラ!」
物知りでテストでも必ず百点を取るセイラの言葉に、アミたちは何の疑問も抱かずに納得した。
文化というものが失われたこの世界では、日本庭園というものは本当に珍しい。
それでもこんな所に日本庭園があるのは、文化というものを大切にする家がこの付近にあるのだろう。
「あっ!
見てみて!こっちに道がある!」
日本庭園の奥に山に続く道があった。
好奇心旺盛なアミでなければ、見つけられなかったかもしれない。
その発見により、ヒナは一気に元気になった。
「わぁっ…!
すごいね!通ってみよう!」
さっそく入っていこうとする二人を、セイラがとっさにという風に止めた。
「まっ…」
「セイラ?」
首をかしげたエミヤに、セイラは目を泳がせた。
「いえ、何でもないわ。
通っても大丈夫かな…って」
セイラの言葉に、エミヤはハッとなって周りを見渡した。
ここからでは場所が離れているが、ここは少し前に 悪魔を倒したばかりの公園だ。
だが、見ただけでは分かるはずもない。
少なくとも以前感じたような違和感を、エミヤが感じることはなかった。
「大丈夫でしょ、公園なんだし!」
場所の話を言うのであればそうだろう。
けれど、エミヤが気にしているのは別のことだった。
「…そうね
行きましょう。」
心配を口にした当の本人がそれを撤回したことで、エミヤは言うに言えなくなってしまった。
悪魔は以前倒してしまったばかりだし、悪魔だって…攻撃はしてこないだろうとエミヤは考えた。
「うん…!」
エミヤの頷きにより、四人は道へ進んでいった。
「…」
周囲に警戒を促すセイラを後方に置いて。




