『犠牲無き世界』
「話がある。
深夜3時。ここで。」
偵察を終え、俺はエミヤに聞かれないよう。
ユウヤの肩を掴み耳元でそう呟いた。
「タイガ…?」
瞳こそ青色でエミヤとは違うが。
限りなく金に近い栗色の髪を持つユウヤは、やはり少しだけエミヤと似ている。
特に、驚いたときの素の顔は。
「分かったか」
今は、それすらも腹立たしく、バカバカしい。
愚かな…愚鈍な俺。
「…」
ユウヤは無言の頷きを見せた。
それを確認し、俺はエミヤと共に家へ帰宅した。
エミヤには何も悟られないよう、いつものように過ごし、夜になるのを待った。
そして、午前2時頃。
音を立てないよう、家から抜け出し、公園へ向かった。
バスならすぐだが自転車だと少しある。
だが、それは、いつも孝彦や入也と遊んでいたときのこと。
そう…、いつも、だ。
「それで、話って?」
悪魔を退治した、森の手前に着くとまるでユウヤが闇から涌き出たように現れた。
実際そうなのかもな。
そんなこと、今はどうでもいいが。
「お前、“インペラートル”か」
インペラートル。
魔界で公用語として使われる言葉で、皇帝という意味だ。
それは、魔界連合…大魔導帝国、皇帝の苗字でもある。
「そう、だよ……
覚えて―
いや、思い出した…?」
ユウヤの表情は暗くてよく伺えない。
「ああ。お前のお陰でな」
「―!
まさか、魔法で…」
ユウヤは言ってから、額に手を当てた。
そういう態度が更に俺を苛つかせた。
こいつは…
こいつは!
俺のことすら、
守るつもりでいたのだ!
最高に苛つく。
俺が守るつもりが、
ずっと…ずっと、守られていた!
真実という暗く苦しいものから…!
この14年間…。
いや、140年もの間…!
唇が切れ、血が出てきた。
それにも苛立ちを覚えて、乱暴に袖でぬぐった。
微かに痛みを覚える。
この程度の痛みでは……!!!
だが、そんなことをしたところで、何の罪滅ぼしにもならない!
ただの自己満足だ!
俺は…俺はどこまで愚鈍で…!
役立たずなんだ…!!!
「……はぁっ」
俺を息を強く吐いた。
「全部…、全部、思い出した
俺が―――だってこと、エミヤが…。」
いいかけて、躊躇った。
すべて、ユウヤには言わなくたって分かっていることなんだ。
「…僕は、エミヤに王になってほしい
そして、君も」
言葉はそこまで多くなくとも、今の俺にはユウヤの考えがすべてわかった。
俺の心は決まっている。
だが、一応、義務として聞いておく。
「跡取りが居ないのか」
「居ない事はないが
エミヤの方がふさわしい」
調子を取り戻し、飄々(ひょうひょう)というユウヤ。
俺はあくまで強気に返した。
「エミヤを巻き込むな。
王本家はお前らだろう」
そう。
エミヤは本家じゃない。
家で言うのなら、ユウヤで充分…エミヤは、関係ない。
それは、ユウヤにだって…、わかっている。
それでも連れていこうとするのは…。
それ相応の理由があるのだろうが。
「輝夜の血さえあれば
分家だろうが何だろうが民衆は大喜びさ。」
そんなことはわかっている。
かの有名な“輝夜”は魔界の英雄王として、おとぎ話にも出る存在だ。
そのおとぎ話の英雄の血を引く子は、民の殆どから愛される。
だが、それと同時に疎まれる。
政治的に、あまりに強力な存在は邪魔なのだ。
「エミヤは確かに輝夜の血をひいている。
だが、エミヤの気持ちはどうなる。
ここにはエミヤの家族や友人が大勢いる。」
危険。
そんなことは磁界にいようが魔界に居ようが同じことだ。
俺がエミヤを魔界へ行かせたくない理由。
それは、エミヤがここに居ることを望むからだ。
あのとき病室で言った言葉。
あれは何にも縛られない。
エミヤの純粋な望みだったはずだ。
「千年も経てば忘れるさ。」
ユウヤの言葉に、俺は軽く殺意がわいた。
あのときの言葉を知らない。
だが…、わかるはずだろう。
…………いや、分からないのかもな。
だとしても、俺はユウヤに同情する気なんてない。
「千年も一人で居ろと?」
どっちにしたって、エミヤを魔界に独りにするなんてことは…絶対にさせないのだから。
「僕が居る。」
自信満々に言うが…。
お前にだってわかってるはずだ。
「お前にエミヤほどの力があるか?
それに、お前はすでに百年は生きているだろう」
ユウヤには他の奴等に比べれば、ものすごい量の力量はある。
だが、それ以上にエミヤの力量の方が多い。
力量と寿命は比例する。
そのうえ、ユウヤは既にその力量を消費しているのだ。
そういう意味での俺の言葉に、ユウヤは自嘲気味に笑った。
「ふっ。まぁね。
でもそのための君じゃないか。」
俺こそ何の役に立つ。
俺は確かに、エミヤが死ぬまで生きることはできる。
だが、その心の穴を埋めることなど…。
俺一人では到底叶わない。
血の繋がる家族ですら不十分なのに…。
「俺だけじゃ不十分だ。
エミヤは幸せになれない。」
俺の幸せ、という単語にユウヤはあからさまに不機嫌になった。
さすがに顔を見なくったってわかる。
「またそれかい?
全く…君達ときたら、幸せ幸せって」
ユウヤは、俺が人の幸せのために行動しようとするのを酷く嫌がるのだ。
「お前にだって――――居るだろう」
そう。
ユウヤにだって俺のような存在は居るはずだ。
なのに…なぜ?
なぜ…なぜ、こうなったんだ?
「戯言を。エミヤは王の血をひいてるんだ。
民のために一生を捧ぐのが当然だろう。」
「なわけねぇだろ。
エミヤは“インペラートル”じゃねぇ!」
輝夜の血を引くものすべてが、王にならなきゃいけないなんて。
そんな理論通じるはずがない!
通じて良いはずがない!
それじゃあ、ただの呪いじゃないか!
生け贄じゃないか!
エミヤ…エミヤは自由だ!
それは平等にユウヤ…お前だって、そうだった…。
「甘いな。」
冷ややかなその言葉に、俺はカッとなってユウヤの胸ぐらを掴んだ。
「諦めたのはてめぇだろ
血のせいにしてんじゃねぇ!」
全部
全部
お前が諦めた結果だ!
血のせいなんかじゃ…輝夜の血は呪いじゃない!
王は犠牲なんかじゃなかったはずだ!
お前が…諦めなければ………!
「望んだ結果だ。」
……!!!!!!
「だったら笑えよ!
笑ってみろよ!!
空かした顔してんじゃねぇ!
てめぇが幸せにならねぇで
どうやって他人を幸せにできんだよ!!!」
「…出来るよ。
幸せって言うのは誰かの犠牲の上に成り立つんだ。」
「そんな幸せ、まやかしだ。」
「綺麗事だね」
こんな…誰かが幸せになること。
ただ、それだけが、これほどにも難しい世界なら…
そんな世界…………
俺が壊す。
箸休めでした。
結果、ユウタイかタイユウとなりましたね。
シリアス!




