《レジティーマ》
「まず、超能力とかそういう“力”はあると思う?」
副部長のサキアが部長のハヤテに変わって、2人に穏やかな声音で質問した。
「え、は、はい…?」
唐突な質問に戸惑ったエミヤは思わず聞き返してしまった。
「俺はそういうの好きっすよ…?」
タイガは戸惑うエミヤを見て疑問を抱きながらも答えた。
「わ、私も、ファンタジーとかは好きです」
タイガを見て、続いてエミヤも戸惑いつつ答えた。
(オカルト部の試験…みたいな感じかな……?)
「そう。良かった。
それでね、2人にもそういう“力”があるの」
サキアの言葉にエミヤは一瞬硬直してしまったが、すぐに考え直し
「えっと、それって、絶対音感とかのことですか?」
(絶対音感とか、そういう才能を研究する部活だったのかな…?)
「うーん。確かにそれも“力”だけど、…それとは違ってね」
エミヤの笑顔に困った顔が混じり、今にも頭上にハテナマークが見えそうだ。
「“二人にも”ってことは、先輩方は超能力者かなんかっすか?」
タイガが言うとサキアは「そうだよ」と微笑んだ。
「昔親がそんなこと話してたし、
俺の周りで自然発火がたまに起こってたんすけど」
訝しげな顔をしながらタイガがまさか…と続けると、サキアはそれを肯定するように頷いた。
タイガはため息混じりにも納得しているようだったが、エミヤは困惑しきっていた。
確かに、タイガの周りでは自然発火が時々起こっていた。
タイガが超能力者というのはむしろ合点が行くのだが…
「…待ってください。それなら“2人“じゃなくて、タイガだけのはずです」
確かに、タイガの周りでは不思議なことがたまに起こっていたが、
エミヤ一人のとき、そんなことが起こったことは一度もない。
「え?音澤さんもよ?」
不思議そうな顔をしながら、サキアは解りきった事。という風に答えた。
「え、え?そんな自然発火とか起こったことありませんよ…?」
「音澤さんには音の“力”があるのよ」
エミヤはますます訳がわからなかったが、タイガは納得したように手を打った。
「だって、エミヤちゃん歌手でしょう?すぐに納得すると思ったんだけど…」
エミヤは自分のことを同じ学年の人だけでなく、先輩までもが知っていることにかなり驚いたが、
それ以上に部長のハヤテが驚いていた
「え!こいつ歌手なの!?」
さっきまで説明が終わるのをぼーっと待っていたハヤテが
パイプ椅子から立ち上がり、エミヤを指差して驚いた。
「ハヤテ、知らないの…?」
サキアが呆れたような顔をしながら、エミヤを指差すハヤテの指を叩いた。
しかし、それとは反対にエミヤが声をあげた。
「いや、なんで知ってるんですか!?」
「そりゃ有名人だし…ねぇ?」
自覚のないエミヤ本人にサキアは溜め息をこぼしながら、話を戻すよう促した。
「で、とにかく音澤さんも火碎くんも能力者なの」
ちなみに私の先祖は妖怪らしいのよとサキアは付け加えた。
「実際に見たほうが早いよねー!」
さっきまでつまらなさそうにしていたユキカが出番とばかりにニカッと笑い立ち上がった。
「―水よ。―」
ユキカが決め顔でそう唱えると、何もなかったところから突然ボールのようなの水が現れた。
「これで信じてくれた?」
ナツカがパイプ椅子に座りながらいうと、タイガとエミヤはユキカの出した水を見ながら頷いた。
「ここからが本題。この部の活動は能力を使って
敵である悪魔を一般人にバレない様に浄化すること。」
(あ、悪魔…?そんなの本当にいるのかな…。でも、能力?も見ちゃったしなぁ…)
特殊能力部は悪魔と悪魔に対抗するための能力、
“レジティーマ”の秘密を守ると同時に、
悪魔から一般人を、悪魔や一般人から能力者たちを守る為にできた。
とサキアが教えてくれた。
「まあ、命に関わる様なやつはそうそうでない。
害虫駆除のボランティアだとでも思ってくれていい。」
ハヤテがエミヤたちを安心させるようにそう言った。
その言葉を聞き少し安心したエミヤ無意識に強ばっていた肩を落とした。
一通り説明が終わるとガラッと扉が開く音がし、
全員の視線が一気にそちらに向かった。
そこに居たのは見知らぬ女性とエミヤたちの担任の碓氷だった。
見知らぬ女性がエミヤとタイガに気づくと
「あら、あなた達が…タイガくんと。エミヤちゃん…?」
女性は戸惑いながらも嬉しそうな笑みを見せて言った。
「は、はい。そうです…」
エミヤは見知らぬ女性の大袈裟な態度に不思議そうに首をかしげた。
「あ、ごめんね、私は柊 志保この部の顧問よ。
有名人だったから驚いちゃったのよ~。」
志保はニコッとエミヤとタイガに微笑みかけた
「一応、碓氷 海翔。ここの副顧問だ」
そう、冷静な声でいった碓氷にエミヤもう一度御辞儀をした。
「あ、あの、先生方も、
その、レジ…何とかなんですか…?」
エミヤが覚えたばかりの単語を使って質問すると「そうよ」と志保が微笑んだ
「碓氷はね、ばりばり現役なんだよね~」
ユキカがそう言うと志保が碓氷の脇腹を肘ごつき、促した。
「……―氷よ槍となれ―」
碓氷が志保に不満そうな顔をしながらそう唱えると
槍状の氷が何も無かった所から出てきた。
と思ったら座っていたユキカの方に向かって放たれた。
エミヤとタイガは突然槍が出てきたことに驚き、
ユキカは槍が自分達のほうに向かって来たことに驚いた。
「―水よ彼のものを粉砕せよ!―」
槍がユキカの目の前まで来たところで、
合図も出さず双子が同時に水をだし、
二つの水が重なり出来た刃が氷の槍と衝突し、を粉々になった。
「ちょっ、危ないじゃんっ!
か弱い乙女が怪我したらどうすんの?!」
ユキカが碓氷に対し腕を上げて抗議した。
「先生を付けろ。あと敬語を使え。
それにか弱い乙女とやらは実際大丈夫だったろ」
「ぐぬぅ」
冷静な返しにユキカは不満そうな顔をしながらも大人しく座った。
「危ないもんは危ないわよ!
それに、二人が怖がっちゃったらどうするの?」
志保が碓氷にデコピンをして軽く叱った。
「はは~、碓氷ざまぁ」
「ユキカも!」
「は、は~い」
調子に乗ったユキカは志保にも叱られた。さすがに懲りたようで大人しく反省している。
「さて、っと気を取り直して。説明は終わったのよね?」
「はい。大体は。」
普通に言ったのだろうが、エミヤにはハヤテが何かを含む言い回しで言ったのが解った。
(内容までは解らないけど。まだ、何かあるんだ…
これ以上驚くこともないと思うけど。)
「解ったわ。じゃあ、早速だけど
出たみたいだから、中学生組の浄化はじめましょうか」
やんわりと手を打ち志保がにこやかに言った。
「解りました。細かい説明もしておきます」
サキアが言うと、志保とハヤテが顔を見合わせ頷いた。