『居』
俺、火砕 泰芽は今世紀最大級に後悔している。
なんで告白しちまったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!
そうなのだ。
俺としたことがうっかり、その場の空気に流されて幼馴染みの音澤 愛雅に告白してしまったのだ。
その場の空気に流されて、といっても当然だが好きでもないのに告白してしまったわけではない。
ただ、ただ!今じゃねぇだろ…つぅ。
だからといって、逆にいつなら良いんだと聞かれても答えられないのだが…。
でも、今じゃねぇだろ…。
今じゃ…。
せめて、大人になる…いや、高校生になるまでは我慢するべきだろうよ…。
どうすんだよ!
これからの生活!
普通なら良いんだ!
普通なら!
俺ら同居してんだぜ?!?!!
どうすんの?!
え、どうすんの?!
撤回?!撤回しちゃう?!
いやでもなぁ。
また、高校生とかになったときどうするよ…。
てか、俺に口からエミヤが好きじゃないとか言える?
言えねぇよ…。
…これしかねぇな。
絶対に、これだけはしたくなかったが、俺の幸不幸なんかより、エミヤの幸せの方が何百何千倍も大事に決まってる。
「…タイガ」
「ああ。…おはよう」
もう見なくても誰かなんてわかってるけど、俺は反射的に振り返った。
見るとやはり、エミヤだった。
いつもは恥ずかしいおはようも吹っ切れたのか普通に言えた。
「…」
無言のまま俯いていて表情がよく伺えない。
「昨日言ったことだけど」
「へっ、う、うん…。」
声から動揺しているようだった。
ちょっと嬉しくなっている自分がいる。
俺のことで動揺することなんて、なかったからな。
「撤回しないから。
…でも、お前が嫌がるなら二度と言わないし
それでも嫌だっつぅなら、父さんと母さんとこ行くよ。」
「え…?」
そんな風に思う自分に憤りを覚えて、俺はそう提案した。
離れるのが一番の得策だろう。
「今はともかく、大人になった時
自分に好意向けてる奴が側にいるのはヤバイだろ?」
「そん、な、こと…」
「ある。」
エミヤがなくったって、俺の理性がいつなんどき飛ぶのか分かったもんじゃない。
それに、世間体だって悪い。
エミヤに好きな人ができたとき…考えたくないが、エミヤを思うのなら離れるのが良い。
「…」
「いや、悪い。
あくまでお前が嫌がるならって話だ。」
無言でうつむくエミヤに、俺は慌てていった。
脅迫したかったわけじゃない。
ただただ、本当にそれが得策だと思ったから…。
「………」
「そんな顔するなって…
別に今すぐって話じゃねぇよ…。」
覗いた顔が本当に泣きそうな顔だったもんだから、俺はまた嬉しくなってしまった。
そして、また憤りを感じた。
エミヤが俺のことを家族として大切に思っていることなんて分かっていた。
でも、俺が居なくなることでそこまで悲しんでくれることが嬉しくてたまらない自分がいた。
「…いつかは、ってこと………………?」
「っ……。
お前が、このままが良いなら、俺はそうするよ。」
エミヤにこんな顔をさせた自分に憤りを感じた。
本当に、本当にこんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。
エミヤには笑顔で居てほしい。
だからこそ、俺は今の今まで………。
いや、告白した時点でそんな綺麗事は通用しないか。
「………」
「………………俺にとっては、お前の笑顔の方が何千倍も大事だ。」
俺はエミヤの頬に手を伸ばして言った。
それが俺にとっての全てだ。
お前が望むなら何でもしてやりたい。
お前が笑顔になれるなら、それだけで良い。
お前が幸せになるなら、それで良い。
「…そんなのっ……」
「どうしたら、良いのかな…。」
エミヤは自分達の班の分の野菜を切る手を止め言った。
「付き合っちゃえば良いのに。」
ヒナは珍しく不機嫌な様子でボソッと言った。
「ヒナって意外と…」
「え?」
アミは唖然とヒナを見つめ言うと、ヒナはキョトンと首をかしげた。
「な、なんでもない。」
アミは戦慄を浮かべ、慌てて野菜に手を伸ばした。
「どうして、悩んでいるの?」
「…好き、とかよくわからないし…それに……。」
セイラの言葉に、エミヤは途切れ途切れに話た。
「それに?」
「…………私なんかより、もっと別の人が…」
悪魔の血を引く、私なんかより。そうエミヤは頭のなかで付け足した。
エミヤには恋愛としての好きというものが分からなかった。
だが、それ以前に自分が恋愛などして良いのかと。
タイガを思えばこそ、余計に。
「エミヤ…。」
「なにそれ。」
ヒナは再び不機嫌に声を出した。
「ヒナ?」
「“なんか”ってなに?!」
ヒナは突然、バンっ!!とまな板を叩いた。
「で…でも……。」
「タイガくんが好きなエミヤちゃんは“なんか”じゃない!
私たちが大好きなエミヤちゃんは“なんか”じゃないよ!!!」
ヒナはエミヤを睨むような勢いで、泣きそうな顔で言った。
「…あはっ、そうだね!
なんでそう思うかな?!
エミヤは“なんか”じゃないよ。」
「…ええ。」
アミもセイラもそれぞれ笑い微笑みエミヤとヒナに言った。
「……そうかな?」
「そうだよ!」
アミはニカッと笑ってエミヤに言った。
「じゃあ、私が悪魔でも?」
「へ…?」
「あ、悪魔ぁ?」
「…」
エミヤは顔を伏せていった。
ハヤテたちに伝えられた能力者の間での真実。
そして、ユウヤに聞かされた、おそらく事実。
どちらに転んでも、エミヤは悪魔。
タイガ、アミ、ヒナ、セイラ達とは違うのだ。
それはまるで自分だけが世界から拒絶されたような…。
エミヤは今まで倒してきた悪魔たちの最期を思い浮かべていた。
「なんで…」
「もー。
悪魔だろうが、天使だろうが、エミヤはエミヤでしょ~?」
「…アミちゃん、タイガみたい。」
タイガと似たようなことを言ったアミに、エミヤは驚いて顔をあげた。
タイガにとってだけじゃなかったんだ…、とエミヤは胸に広がる暖かいものを感じた。
「えええ?!
なんでタイガ?!」
「…さぁ、早く切りましょう。」
セイラは三人を催促して、野菜を切る手を早めた。
見ると、同じ班のタイガたちは火をつけられたようだ。
…家族への好きも、友達としての好きも知っている。
でも、恋愛の好きとはどういうものなの?
そう考えていると、タイガへの感情がどんどん解らなくなってしまって行った。




