〔どっち?〕
「あ、エミヤちゃん!
ごめんね?待った?」
「いえ。今来たところです。」
GWの中頃、時間ぴったりに来たモモナに、エミヤは反射的にそう返した。
実際は10分前に着いていたが、エミヤには待ったのうちには入らなかった。
待たされたのではなく、待っていたからだ。
「じゃあ、行こっか?」
「はい。」
二人が向かうのは、一駅乗ったところにあるショッピングモール『ハッピーカラー』と一緒になっている映画館だ。
バスでも行けるのだが、エミヤは仕事帰りだったため電車に乗ることにしていた。
「観る映画は決まってるんですか?」
ハッピーカラーに入りながらエミヤ聞いた。
映画館を観るとは話したが、何を観るのかは決まっていないはすだ。
「うん。ほら、チケット貰ってたから。」
モモナはそう言いながら財布から取り出した映画のチケットをエミヤに見せた。
「あ、この映画なら知ってますよ」
以前、共演した一条が出演していることで、エミヤは題名だけは知っていた。
エミヤの記憶の限りでは、親友と好きな人が同じになってしまい、好きな人を取るか親友取るか、というような内容だったはずだ。
「そうなんだ!
良かった~。興味なかったらどうしようかと思った。」
モモナはそう言いながら無邪気に笑って見せた。
モモナ自身楽しみなのか、以前より、はしゃいでいるように見える。
と言っても、エミヤは会ったのはこれで2回目なのだが。
「微妙に時間があるけど、どうする?
ポップコーンとか買う?」
エミヤは即座に頷いた。
映画のダイゴミはポップコーンを食べることにあると何となく思っているからだ。
少し値は張るが、エミヤにとってはちょっとした自棄だった。
(タイガが楽しんでこいって言ったんだから!)
「うわー…、結構並んでるね。
時間ちょうど良くなりそう。」
モモナにまで並ばせてしまうことに、エミヤは申し訳なさを感じたが、モモナ本人は全く気にしていないようだった。
確かに、モモナの言う通り、ポップコーンや飲み物を手に入れると時間ちょうどになった。
「あ、エミヤちゃんブランケット要る?
映画館の中って冷えない?」
モモナが無料で貸し出されているブランケットを見つけ、一枚エミヤに差し出しながら言った。
「え、あ、ありがとうございます。
そう、ですね…、一枚貰えますか?」
エミヤはモモナの気遣いに戸惑いながら答えた。
とても素直な物言いに驚いて、すぐに初めの印象で全てを決めつけていた自分を恥じた。
そもそも、モモナがエミヤの存在を知ってるかどうかも分からないのだから。
「うん!私も使おっと。
じゃあ、行こっか!」
エミヤは頷いてモモナの横を歩いて、映画館を観に行った。
「良い話でしたね…!」
エミヤは興奮の収まりきらぬままにモモナに話した。
二人はお店に入り、お茶を飲みながら話すことにしていた。
「…そうね。とても良い話だったわ。」
モモナはエミヤにニッコリと微笑みかけていった。
映画の内容は。
主人公は好きな人をどうしても諦められなかったが、親友の事を考え諦めようとした。
すると、親友が二人の中を邪魔するようになり、主人公は戸惑いながらも、それを乗り越えて結ばれる。
親友は二人が結ばれるのを見届けると『どこにいても、あなたの幸せを願ってるよ』そう言い残して姿を消してしまった。
親友は二人を結ぶために、わざと邪魔をしていたのだった。
「モモナさんだったら、どうします?!」
「え…、私だったら?」
モモナは驚いた顔をしてから、静かに考え出した。
エミヤも自分が、主人公と同じ立場に立ったらどうしようと、考えた。
「もし、カレンなら私は正々堂々と戦いたいなぁ…。」
「そうなんですか?」
楽しそうに笑いながら言うモモナに、エミヤは不思議そうな顔をして言った。
「うん。一緒に居たいもん」
「モモナさんは…本当にカレン先輩のこと大好きなんですね」
ぶつかることになっても離れたくはないという強い思いに、エミヤは本当にモモナはカレンが好きなのだと理解した。
「…2番目にね!」
モモナは目を見開いてから、また笑みを浮かべて言った。
「2番目?」
「エミヤちゃんは?」
モモナはエミヤの疑問には答えずに、話を戻した。
「あ、はい。
私なら…ですか。」
エミヤは戸惑いながら、また考え出した。
そもそも、エミヤには好きな人が思い浮かばない。
親友、家族、大切な人、ならいくらでも思い浮かぶのだが…。
「好きな人とか親友じゃなくても良いと思うよ。」
エミヤはモモナの言葉を聞いて、考えを改めた。
エミヤが思う、一番大切存在は…家族、タイガ。
でも、本当の家族だって言うユウヤさんも現れた。
「私、なら…どっちも選びたいです」
エミヤはしばらく考え込んで、自信無さげに言った。
「それができないときは?」
「……………」
エミヤは顔を伏せて言葉を継ぐんだ。
「難しいわよね。
そのうち答えが出れば良いわ。」
モモナはそんなエミヤに追求することなく、すぐに聞くのをやめた。
「…はい。」
そんなモモナにエミヤは感謝しながら、なおも考えた。
「そうだ!
次会うときまでの宿題ね!」
「宿題?」
未だ悩んでいる様子のエミヤに、モモナを明るく提案した。
「うん。次、いつ会えるかは分からないから!」
「分かりました。
考えておきます。」
モモナの明るい笑顔にエミヤは一旦考えるのをやめて微笑んだ。
「ただいま~」
「おかえり。
どうだった?楽しかったか?」
エミヤの声を聞き、タイガはソファーに座った姿勢のままで言った。
「…うん。楽しかったよ。」
「ん?どうした?何かあったか?」
エミヤの微妙な間にタイガは振り向いた。
「あ、ううん!違うよ!
映画観てきたんだけど」
「つまんなかったのか?」
今にも立ち上がって来そうなタイガに、エミヤは慌てて言った。
すると、タイガは食い気味に聞いた。
「だから違うって。」
「じゃあ、どうしたんだ」
エミヤのタメ息混じりの声に、タイガは平静を保ったふりをしてソファーに座り直した。
「…タイガだったら、好きな人と親友、どっちを選ぶ?」
「好きな人。」
しばらく間が空いたあと、やった口に出した言葉にタイガは聞き返すことなく即座に答えた。
「即答…。
親友はイリヤくんとタカくんでしょ?」
「あ…、ああ。まあな。」
学校では高確率で三人でいるので、エミヤは親友と言えばその二人しか思い付かなかった。
「…?」
「何でもねぇよ。」
しかし、イマイチ歯切れの悪い返事が帰ってきたので、エミヤは首をかしげた。
「タイガって…好きな人とか居たの?」
「居るよ。」
追求するのは止め、エミヤは違う質問をすると、また即座に答えられた。
「そう…なんだ。」
「エミヤは?」
荷物を置き、晩御飯の用意をしようと台所へ向かうエミヤに、タイガは振り返らずに聞いた。
「私は…そういうのよく解んない。」
エミヤは手を止めて考えてから、首を振って冷蔵庫を開けた。
「そうか。
仕事してても、まだまだお子様だな!」
「な…にそれ?!」
タイガの突然の言葉に、エミヤはパッと振り替えって文句を言った。
「だってそうだろ~?」
タイガも振り替えってニヤニヤした顔でそう言った。
「そんなことないわよ!
私だって…!」
「なんだ?」
言葉を詰まらせたエミヤに、タイガは不安そうな心配そうな顔で聞いた。
「い、色々考えてるの!
立派な大人よ」
エミヤはそんなタイガの顔を見たくなくて、再び冷蔵庫に視線を移し、材料を取り出した。
「俺にとっては今も昔も変わらずエミヤだよ。」
「…………なにそれ、お爺ちゃんみたい…。」
エミヤはタイガの顔は見ずに、微笑みながらそう言った。
「せめてお父さんにしてくれ!」
タイガの声を聞いて笑い声をあげながら、エミヤは晩御飯を作り始めた。
正直言って、物凄く驚いた。
僕が人界、もとい磁界に来て驚いたのは、磁界の『人』という種族が、魔界の『人』と何も変わらなかったからだ。
違いと言えば些細なもので、魔法と科学という違い。
そして、文化をあまり大切にしない代わりに『歴史』という概念があることだ。
文化を大切にしなかった理由は、その文化が『人』の進化への邪魔になるから。
そして、『歴史』を大切にする理由は同じ過ちを繰り返さないことだという。
だが、僕は本当にそれで良いのかと疑問に思う。
その『歴史』は、果たして本当に正しいのか?
自分で見てもいないのに、本当に真に受けて良いのか?
例え、事実だったとしてもだ。
自分が体験してもいないことに、恨み感じては争いの繰り返しだろう。
本当に過ちを繰り返したくないというのなら、それらを全て隠してルールだけを残せば良いだろう。
文化を蔑ろにするかと思えば、『歴史』という概念を大切にする。
よく解らない価値観だ。
しかし、それは相手とて同じことなのだろう。
ああ、そうだった。
本題を忘れるところだった。
今は、目の前にある『世界の裂け目』を閉じなければ。
「第零が術式 大魔導帝国が紋章を持つ、ユウヤの名において命ずる。
―――闇よ、空間に染み込め―――」
僕が出した闇は、便利にも『世界の裂け目』を勝手に閉じた。
大零の術式というものは、他の魔法よりも使い道が多い。
能力で言うところの、異端と言った所だろうか?
…まあ、闇から越えることはできない。
極端な話だが、時を操るとか。
………………いや、出来るな。
…ん?無理か?
…………そんなことは良いか。
「ユウヤ様、手掛かりは御座いましたか?」
いつから居たのか、突然後ろから声をかけてきた。
僕にこんな風に話しかけることが出来るのは限られる。
「黒か。
いつも通りだ、手掛かりはない。」
ない。
等ということは有り得ない。
それなのに僕が全く何も感知できないということは、誰かが意図して手掛かり消したということ。
ということは、『世界の裂け目』を態と開いたもの。
もしくは、磁界と魔界を、何度も行き来しているものが居るということだ。
その所為でせいで魔界も磁界もめちゃくちゃ。
ただでさえ、魔界が不安定で大変な時期だというのに…。
「全く困ったものですね。
しかし、これほどの力を持ったものなど…。」
もちろん『世界の裂け目』を生むだなんて超高度なこと、早々出来るものなどいない。
出来るのは、王かアーテルのような者くらいだろう。
しかし、そう言うものなら、こんな自分にまで迷惑かけられそうな事しないはずだ。
余程の馬鹿か、もしくは…。
「手掛かりがないんじゃ、どうしようもありませんね。」
「閉じることに専念してろ。
下手すりゃ、魔界の奴がこっちに迷いこむぞ。」
僕はおどけて見せるアーテルに一抹の怒りを覚えて睨んだ。
下手をすれば簡単に人が死ぬのだ。
それなのに、このアーテルと来たら…まるで楽しんでいるように見える。
「今ので最後ですよ。
相手も、今のところ遊んでいるだけのようです。」
アーテルは僕が怒っているのが解ったのか、落ち着いた声に戻り微笑んだ。
「遊びだと?
『世界の裂け目』を生むことがか?」
そんなことを遊び半分で出来て溜まるものか。
ていうか、僕に微笑むな。
落ち着けようとしているが、それが余計に僕を苛々させているのが解らないのか?
…解ってるんだろうな。
「かぐや様と同等か、それ以上の力でしょう。」
「なっ…!
かぐやだと?!」
その名を聞くだけでも色んな感情が溢れて掻き乱される。
それなのに、世界最強の魔導士英雄と謳われる、かぐやと同等か、それ以上?
僕にとっては色んな感情を抱く聞きたくない存在だが、魔界にとっては英雄なのだ。
その英雄よりも強い存在などいては…!
「…怖い顔ですね。」
微笑みを浮かべながら言うアーテルの声に、僕はハッと我に帰った。
「一刻も速くも見つけ出すぞ。」
「ムリだと思いますけどね」
平静を装って出した声に、アーテルは声も潜めずに言った。
「ムリでも何でもだ!!!」
「ムリな物はムリです!
駄々こねないでください!」
頭に血が登り思わず怒鳴った僕に、怯みもせずに返した。
「っ…」
普段誰にも言われない正論に、俺は何も言えなくなった。
ムリな物はムリ。当然のことだ。
かぐやの足元にも及ばない僕が、根性とか精神論でどうにかできる問題ではない。
「あっちから出てくるのを待ちましょう。」
「それではエミヤが!」
そんな悠長なことをしていては、エミヤに危害の及ぶ可能性がある。
そうなっては、本人がどれどけ望んでも磁界に置いておく事など到底できない。
「今は、あなたの事をお考えください!」
「僕の事等どうだって良いだろう?!」
今は、僕の話をしているんじゃない。
エミヤの話をしているんだ。
エミヤは魔界にとって居た方が良いに決まっている存在だが、連れ戻すのは出来る限りしたくない。
僕は万が一死んだって構わないが、エミヤが死んだら…。
「良い訳ないでしょう!」
「…っ」
久しぶりに見たアーテルの恐ろしい顔に僕は尻込みした。
「………あなたは、ヤノ一族です。
王として一生を遂げる義務があります。」
「…解っている。」
何か言いたげに口をパクパクとさせて、やっと音に出して言ったアーテルの言葉に僕は平静を取り戻した。
アーテルの言う通りだ。
王として生きるのは、かぐやの血を受け継ぐ、闇ノ一族の天命。
僕たちは、夜ノ一族の分まで天命を全うしなければならない。
夜空に輝く愛する星のため。
「解らないでくださいよ」
「…解ってるよ。」
お前が本当はヤノ一族なんでどうでも良いことくらい。
ただただ、誰も傷ついて欲しくないだけ、僕に死んで欲しくないだけ。
素直じゃないにも程がある。
…人のことは、言えないな。




