〔傷つけさせない〕
「今日、高校生組と顔合わせする事になってるわ。
ついでに悪魔も居たらって感じで。」
「顔合わせですか。」
セツナがいつもよりも低い声で言った。
あまり気が進まないらしい。
タイガも微妙な顔をしている。
「幼いうちから会わせておこう、という…」
「どうしてですか?」
碓氷の言葉にエミヤが首を傾げた。
「何か有ったとき、初対面じゃ不味いでしょ?」
志保が碓氷の代わりに応えた。
確かに、初対面で一緒に戦うのは難しいとエミヤは納得した。
「何より、能力者の種を絶えさせないためだね」
「ナツカさん…!」
ガラッと扉が開き、入ってきたナツカが更に付け加えた。
だが、その隣にはいつも要るはずのユキカがいない。
「ずっと休んでて、すみません。
ユキカはまだ体調が治らないので」
ナツカは志保に向かって、優しいのに有無を言わさぬ微笑みを向けて言った。
「…そう。確かに充分よ。」
志保が堅い表情でそういうと、碓氷が気を取り直すように全員に言った。
「じゃあ、早速行ってもらう。」
場所は高校生組の学校、その隣にある神社だ。
敷地がとても大きく森ばかりなので、人が居ない所はいくらでもある。
「…ユキカは」
エミヤたちが高校生組と落ち合うと、ハヤテがいち速くそう言った。
「体調不良。」
「…そうか。」
ハヤテとナツカが短く会話すると、マキリがちらりとカレンにアイコンタクトを送った。
すると、カレンは首を振った。
「直接聞きたかったの。
あなた、菫に何をしたの」
カレンが腕を組みながら、エミヤに敵意むき出しに言った。
「…分かりません。
ごっそり力を抜かれて」
エミヤは少し間をおいてからそう言った。
力を抜かれた、というのはタイガやセツナにとっても初耳だったが、分からないというのは真実だ。
「力を抜かれた?
菫に?そんなこと出来るはずがないわ!」
カレンが鼻で笑い言った。
「何故?」
「な…、ナゼって。
あたりまえじゃない…。」
エミヤの短い言葉に、カレンは戸惑いながら答えた。
エミヤがこんな風な態度を取るのは、タイガも始めてみたので驚き、戸惑った。
「当たり前、ですか。
…靄が菫さんの中に居たんです。」
「モヤ?」
エミヤは独り言のように呟いてから、カレンに説明した。
「父と同じものです」
「…アンタがやったってこと?」
セツナがそう補足すると、すぐにカレンがエミヤを睨んだ。
冷静に考えてみれば、その可能性は限りなく少ないはずだが。
「な訳ねぇだろ、バカじゃねぇの」
タイガがすぐに突っ掛かった。
「それこそナゼよ。
充分有り得るでしょう。」
確かに不可能ではないが、まず有り得ないだろう。
エミヤが自分のことをハーフだと知ったときには、菫はもう入院していたのだから。
その事実すらも疑ってしまえば、いくらでも疑ってしまえるのだが。
「…疑うなら疑えばいいさ。
どうせ僕らは君らとは違うんだ。」
タイガの次はユウヤが我慢できなくなった。
「おい、ユウヤ…」
「事実だろ!
エミヤが何をした訳でもないのに、何なんだこの仕打ちは?!」
ハヤテが気持ちはわかるが、と止めに入ったが、止められるどころかヒートアップしてしまった。
今まで温厚な姿しか見せなかったため、エミヤたちは驚いていた。
「バッカじゃないの?!
何だろうが、私の前じゃ全部他人よ!
自分だけが特別だとでも思った?!」
「そならそれでもっと問題だ!
キミは誰かれ構わずこんなことをするのか?!」
カレンは前回の反省を踏まえ、ナツカやサキアの前だからと言葉を濁した。
自分にとっては悪魔も人も関係ないと言いたいのだろう。
だが、ユウヤの怒りは治まることはなかった。
確かに、ユウヤの言うことも、もっともだ。
「そうよ!
意志の無いものとは戦えない!」
カレンは鋭くユウヤを睨み言った。
「意志?
試していたのか?」
「ええ、そうよ」
言い方が静かになったユウヤに、カレンも静かに答えた。
「…傲慢な。
それでお眼鏡にあったら、合格。とでも言うのか?」
「………」
ピシャリと言い当てたユウヤに、カレンは睨み付けた。
しばし沈黙が流れ、
「ま、まぁまぁ…。
仲間割れは避けましょう…ね?」
サキアが少し蒼い顔でカレンとユウヤの仲裁に入った。
「誰が仲間だって?」
「そうね、仲間じゃないわ。」
二人はそこに関してだけ頷き合い、サキアをチラリとも見ずに互いを睨みあっていた。
「もう、顔合わせどころじゃないね、帰ろう。
ね、エミヤちゃん。」
ナツカは全員とエミヤに向け笑顔のままで言った。
「…はい。
すいませんでした。」
エミヤは顔を伏せ、全員にお辞儀をしてナツカと共に帰っていった。
ユウヤも帰るのを見て、タイガもハヤテたちに頭を下げて慌てて追いかけた。
「…どうするんですか。」
「これで終わりなら、それまででしょう。」
ハヤテは冷たい視線を送って避難したがカレンはその視線をもろともせず、冷たくそう言った。
「そりゃ、そうですけど……。」
ハヤテは以前のカレンなら、ここまで冷たくはなかったと悲しい気持ちになったが、すぐにそうでもなかったなと遠い目をした。
(だが、確かにカレン先輩は変わった…)
「ハヤテ、エミヤちゃんのこと、いつまで隠してるつもりなの?」
「…お前は知ってるんだろ。」
サキアの言葉に、俺はチラリとサキアを見てから、答えた。
高校生組も学校に戻らず、そのまま解散となった。
一応、顧問である清水 優さんに連絡はしたので問題はない。
…たぶん、ナツカとユキカの父である優を思い出して、サキアは言ったんだろう。
「一応、異端だからね。
そうでなくても…。」
「能力で知りたくなくても分かるか。」
「……ええ。」
サキアの能力は千里眼。
近くのものが見えない代わりに、意識していなければ勝手に遠くのものが見える。
見えるだけでわかる原理は分からないが、そのものの性質とかも見るんだろう。
そうじゃなきゃ、悪魔も見つけられないだろうし。
俺の場合、悪魔かどうか分かるだけだ。
悪魔以外のことはさっぱり。
「ナツカとユキカは…次期、水の王と水の女王だ。」
属性王。
火、水、木、雷、風、土。
この五つの属性能力を持つ、能力者の中でもっとも強い力もを持つ者は属性王と呼ばれ、異端と同等の力と権力を持つ。
王と女王、他にも騎士、近衛がある。
おそらく、ナツカが王になって、ユキカが女王になるだろう。
大学生組のアリアさんも、リクホ先輩も、マキリ先輩も、セツナも次期、王。
ケイも、幼稚園組のミナトも次期、騎士。
当然だが、こんなに王やら騎士が揃うことはない。
一人でも王が居れば珍しい。
能力者が居るのはここだけではない。
本来バラバラに居るはずだが、いつの間にか、この町に集まっている。
「属性王が万が一敵に回ったらって?」
「…まあ、志野さんが考えてることは大抵分からん。」
それ以外に隠している理由が解らないが…、どちらにしても柊家当主の志野さんに逆らえるのは枷家当主だけだ。
「そうね、今回ばかりは分からないわ。
…単に、怖いだけなのかも。」
サキアはため息混じりにそう言った。
「怖い?あの人が何に怯えるって言うんだ?」
むしろ俺が怯える。
母さんは全然怖がらないけど、俺はどうしても苦手だ。
志野さんの目の前に居るだけで冷や汗が出る。
「誰かの悲しみとか、死、とか。」
「死って…。」
誰かが死ぬなんて、有り得ない。
そんなことに怯える志野さんでもないだろう。
あんな、血も涙もないような人。
「そういうことも、あるでしょう。」
「ない。」
俺は少し苛立って答えた。
誰かが死ぬとか、そんなこと冗談でも言うべきじゃない。
サキアが冗談でそんなことを言わないのは分かってるが。
「どうして、そんなの分かるの…」
「誰も死なせない。
その為の、特殊能力部だろう…?!」
こんなに属性王や異端が揃っているんだ。
誰も死なせたりなんかさせるか。
何のために、こんな面倒な集団を作ったのか…、誰一人として死なせないためだ。
「そうね。そうだけど…。」
「なんだよ。」
突然立ち止まったサキアに、俺は振り返って聞いた。
「中級悪魔が出たことあったでしょう。」
エミヤが初めて能力を使ったときの悪魔だ。
本来、人の前に姿を表すことのない中級悪魔。
「…ああ。
だが、その時だって」
「あれは、中の下。
上級が出た場合、太刀打ちできる?」
…上級の強さなんて想像もできない。
あれで、中の下だったというのだ。
あの時はあっちがバカだったから良かった。
だが、警戒されていれば、どうなってたか分からない。
「数で攻めれば…」
「あっちも同じなら?
私たちに戦力があるなら、あっちにもあるはずよ!」
「そんなの、わかんないだろう…」
俺はサキアから目を背けて歩きだした。
そんなの、有り得ない。
そう思うしかない。
俺は、サキアに、自分にそう言い聞かせた。
母さんたちを全滅に追いやったという上級悪魔の話を口に出さずに。
どうしたら…どうしたら、
あの残酷な未来を、変えられる…?
…瞳よ、ミセナさイ。
力、ハ…求メないわ。
誰も…誰も、傷つけさせない!




