〔早く〕
―操辻 颯天―
3月1日10時00分。
最後のチャイムがいつもと変わらず鳴り響いた。
担任の柊 志保先生はボロ泣きして、最初は笑っていたクラスメートも貰い泣きしている。
こんなときにあれだが、志保さんは人の感情を操るのが得意だなと思う。
まあ、卒業式なんだから、泣いて当たり前ではあるんだが…。
にしても泣きすぎじゃないか?
うちは、エスカレーター式なんだから、大半の奴は結果同じだぞ?
絶対雰囲気で泣いてるだろ、お前ら。
それとも、志保さんとの別れを惜しんでのか?
律儀だな。
「ハヤテさぁ、うっ……よく泣かねぇよなぁ…っ」
太樹、お前はマジで泣きすぎじゃないか?
鼻水垂れてるぞ…拭けよ、ティッシュやるから…。
「おぉ、ありが…ズズッ」
…礼言い終わってからにしろよ…。
まあ、良いけど。
「あんたが泣きすぎなのよぉぉおお」
…お前もな、紗良。
結構泣き虫だよな、その割りに何故か強がる。
ハンナを彷彿とさせる…。
お前もお前で鼻水出てるぞ…拭け。
「っ…泣いてない!!!」
「みんな泣いてるよぉ…!」
凛が泣きながら紗良に抱きついた。
…なんだこれは、明日世界が終わるのか。
帰って良いか…?
3月とはいえ、まだまだ寒いんだよ…。
…サキアはどこ行った?
「なぁー、ハヤテー。
かぐや見てねーか?」
「いや。俺も、サキア探してるんだが。」
結と書いてヒトシと読む、結が俺の頭にアゴを乗せていった。
めっちゃ、重い。
めっちゃ、重い。
小学6年間やめろと言い続けたのに、やめる気配がなかったので流石に気力が持たなかった。
俺にしては物凄く頑張った方だったんだがな。
結とは小1から仲が良かったのだが、こいつが、ハンナの親戚のヒトシと知ったのは最近のことだった。
名前が同じなんだから、もう少し早く気づいても良かったんだが、ハンナの話すヒトシと俺の知ってる結がかなり違ったもんだから、6年間も気づかなかった。
気づけたのは、小学校の卒業式だったなぁ。
「カグヤって生徒会長だよな?
お前ら、仲悪くなかったっけ?」
「昨日の敵は今日の友って言うだろ?」
ま、マジか。
あんなにキレてる結なんて見たことなかったから、友とか言ってるのが驚きだ。
まあ、結は優しいしなぁ。
そもそも、何であそこまで怒ったのか結構なぞだ。
1年はクラスが違ったから、詳細は知らないけど、2年の最初の時にも喧嘩したとか。
「はは~。」
結が珍しく苦笑いをしている。
うん。触れないでおいてやろう。
喧嘩したことは思い出したくない、黒歴史なんだろう。
「ああ、居た。」
屋上の方への階段を上がろうとすると、サキアの姿が目に入った。
更に上がると、生徒会長のカグヤも居た。
あの二人って、仲良かったのか?
「…かぐや!」
結がカグヤの名を呼ぶと、カグヤはビクッと体を震わせて、顔を覗かせた。
俺の顔を見るとサキアの顔を見た。
サキアは自分の知り合い、というように素っ気なく頷いた。
サキアがあんな態度とるなんて、珍しいな…。
結の件と言い、カグヤってよっぽど性格悪いのか?
「ごめん!
ラ…、結!」
…今、名前間違えなかったか?
未だに仲悪いんじゃないのか?
結…あわれな奴。
「操辻 颯天くん、ですよね。
卒業おめでとうございます。」
「え、あ、おめでとうございます。」
俺は驚きながら、反射的にお辞儀を返した。
めっちゃ、性格悪いと思ってもんだから驚いた。
セツナとハンナを足して2で割ったような感じだ。
それだけではないが。
「以後、お見知りおきください。
千里さんを借りて申し訳ありませんでした。」
かぐやは何か、不適に笑って結と共に帰っていった。
悪い笑みじゃなくて、策士の笑みだ。
志保さんとか、ハンナがよくする顔だ。
俺は反射的に苦笑いをしてしまう。
以後ってことは、こいつもこのまま、高校へ上がるのだろう。
あと、千里って呼んでるってことは友達じゃないっぽい。
まあ、策士ではあるけど悪い奴じゃなさそうだし。
つか、俺には関係ないし。
「…サキア?」
いつまでも、降りてこないサキアに、俺は不安になって声をかけた。
大丈夫だろうか…、怒りすぎて貧血になったのか?
ハッとして俺は慌てて階段を駆け上がった。
「うわっ、なに?」
「うわって…。
どうした?何があった?」
うわっと言われたことに、ちょっと傷つきながら、俺はサキアの顔を見た。
若干だが、顔が青い。
やっぱり、怒りすぎて貧血に…!
「………何でもない。」
「何でもないこと無いだろう…」
サキアは俺から目を反らして、顔を伏せた。
サキアはたまーに、こういう態度をとる。
その度に、俺はサキアに何もしてやれない、他人なんだと思い知らされる。
早く、大人になりたい。
18才に…!!!
いや、そうじゃないんだ。
違うんだ…!
違わないけども。
「ハヤテ?」
「あ…。
いや、帰ろうか。」
俺はサキアに手を差し出した。
これは小さい頃からの癖だ。
サキアはしっかりしてるように見えて、意外とドジだ。
正確には、ドジな訳ではなくて意識を集中しないと近くのものが見えない。
というのも、能力の副作用により、代々千里家の者はそうなのだ。
能力者、特に異端には副作用があることが多い。
「…ええ。」
サキアは俺の手を取って、階段を降りた。
降り終わったら、サキアは手を離すんだろうな。
いつからだろうな、繋いだ手をサキアが意識して離してしまうようになったのは。
俺は、離したくないんだけどな。
ずっとさ。
…俺じゃ、頼りにならないか。
せっかく、力を手に要れても、俺たちは所詮は他人なんだよな。
あーあーー。
早く大人になりてーなーーーーー。
―千里 咲空―
私の日記には私の事が事細かく乗っている。
私の性格、年齢、クラスでの位置、交友関係、私が持っているはずの情報、記憶、感情。
これを始めたのは、千里の能力が出たあたりの小学生。
交友関係とか、情報とかは事実だから書くのは簡単だったけど、感情を書くのには苦労した。
今では慣れたものだけど…一部を除いて。
私がこんなことをしているのは、自分を認識するため。
私には、昔から予知能力のようなものがあった。
最初はデジャブみたいなものだと思っていたけど、千里の能力が使えるようになってから、予知と認めざるを得なくなるほどになった。
便利かなとも思ったのだけど、問題が生じた。
私が持ちえるはずの無い情報が得られてしまうのだ。
それと、現在の私が未来の私に干渉されてしまったのだ。
混乱した。
自分が何なのか分からなくなって。
怖かった。
怖かった。
誰かに言える訳もない。
言った所で、何の解決にもならず心配をかけるだけだから。
私は考えた末に、日記に自分の事を書くことにした。
毎朝それを読むことで、私は自分を認識し、毎晩それに私を記録した。
中学校卒業の日。
私は恐ろしい夢を見た。
その夢は、全く言う事を聞かない私の痛む体。
やっと開けた瞳に映ったのは、倒れるハヤテたちと男の子。
涙を流して嵐のなか歌うエミヤちゃん。
そして、エミヤちゃんの前に立ちはだかる、見知らぬ少女。
少女が艶やかな舞を披露すると、エミヤちゃんは倒れた。
そこで、目が覚めた。
みんな、ボロボロだった…。
それにナツカとユキカの姿も見当たらなかったし、ハヤテたちと一緒に倒れてたのは…ユウヤくん?
あの、少女は一体何者?
…なんか見覚えがある気がするんだけど…。
……全然思い出せない。
あの少女、たった一人が私たち全員を倒すってこと…?
ありえない…、と言いたいけど上級悪魔なら、最上の熾悪魔なら。
…とにかく学校に行こう。
今日は卒業式何だから、遅刻する訳にいかない。
卒業式を終えた私は、愕然としていた。
あの少女だった。
あの少女が居たのだ、この学校に。
どうりで見覚えがあるはずだ。
あの少女は私たちの通う学校の生徒会長。
弥扇 神夜だった。
突き止めなければ、正体を。
悪魔だと暴かなければ。
あの、最悪な未来を変えるために。




