〔頑張れよ〕
「私は言葉 菫。
少しの間だと思うけど、これからよろしくね」
…不思議な人だ。
そこに居るはずなのに、触れたら消えてしまいそうな、そんな雰囲気がある。
そして懐かしい感じもする。
サキア先輩や、そのカレンと言う人が過剰なまでに心配するのも少しわかる。
「じゃあ、俺らも帰るが、タイガはどうする」
「えっと…」
俺はすぐに返事できなかった。
そろそろ帰っても良いのだが、万が一エミヤが悪魔とかに襲われたら…。
そう考えると中々帰れない。
「安全は保証できる。」
「柊と碓氷のお墨付きよ」
俺の心情を悟ったのか、碓氷先生と志保先生がそう言った。
おそらく、柊家と碓氷家の人が結界でも張っているのだろう。
それなら安心できる。
柊は能力の主将らしいから。
「じゃあ、帰ります。
…お前もな」
俺は二人の言葉に頷いて立ち上がって、ユウヤを睨みながら言った。
もちろん、ユウヤも連れて行く。
エミヤが警戒していない分、こいつは悪魔より危険だ。
「…解ってるよ
エミヤ、また来るね」
「あ、はい…」
ユウヤの言葉にエミヤは戸惑いつつ返した。
そりゃそうだ、エミヤにしてみれば、まだ他人だ。
「ゆっくり休めよ?
どうせ冬休みだ。仕事も休んどけ」
「あ!佳代さんに連絡しないと!」
エミヤは俺が休めと言ったそばから、カバンを漁っている。
おそらく、佳代さん(マネージャー)に連絡しようとしている。
「俺がしとくから…
必要なものも、連絡してくれ」
「あ、う、うん。ごめんね…?」
エミヤは苦笑いをして謝った。
エミヤがケガをしたときは言葉では表せないような恐怖に見舞われたが、エミヤも最近仕事が多かったし、纏まった休みが出来て結果オーライだ。
「では、エミヤちゃん、菫さん。お大事に」
サキア先輩の言葉に俺たちは病室を後にした。
「うぉぉぉぉぉぉ!寝坊した!」
俺はガバッと起き上った。
今何時だ!?
アラームを手に取ると短針は時間は10を指していた。
何をどうしたって間に合わない。
既に1時間目は始まっている。
「ど、どうする…」
このまま、いっそ休んでしまうか。
2度寝はしたくないが、家でグダグダしたい。
ていうか、エミヤは…。
「あ、そうだった」
俺は二つの事を忘れていた。
一つは、今は冬休みだった事。
もう一つは、俺はこの家で一人だった事。
「なんだ。」
…寒いな。俺はそう思いながら、布団に包まり、ミノムシのような姿でケータイを持って階段を下りた。
「食うもの、は何でもいいか」
キッチンの引き出しの奥に一つだけあったソース焼きそばを引っ張り出した。
俺はカップラーメンでも良いし、むしろ結構好きなのだが、エミヤはとことん嫌いなので、家ではあんまり食べない。
「確かにうまかないな。」
俺はソース焼きそばを食べながら呟いた。
そういえばこれ、いつ買ったやつだろう…。
…考えないでおこう。
信じてるぞ、保存食。
いつもはエミヤの目があるから出来ないが、今日は食べながら携帯を見られる。
だからどうという事もないが、なんか新鮮だ。
SMSの画面を見るといくつか来ていた。
とりあえず、クラスのやつは後回し。
サキア先輩と部長からも来ていたからだ。
とりあえず、珍しい方から見よう。
サ『今日、お家にお邪魔しても良い?』
サ『エミヤちゃんから頼まれたの』
え、うちに?エミヤから頼まれた?
タ『良いですけど、
何頼まれたんですか?』
ソース焼きそばを食べ終え、カップを捨てていると、割とすぐに返信が帰って来た。
サ『服とか、必要なものよ』
タ『?俺が持っていきますよ?』
俺に頼めばいいのに、ナゼわざわざサキア先輩に。
サ『ほら、下着とかね?』
…盲点だった。それは触れないわ。
タ『あー、解りました。
お願いします』
サ『うん。昼ぐらいから行くね』
タ『はい』
サキア先輩との会話が終わり、次に部長を確認した。
ハ『明日、特殊能力部へ来』
また途中で力尽きたか…。
いつもそうなんだ。
来い、とでも打とうとしたのだろうが、途中で打つのが面倒くさくなったらしい。
これでも、部長にしてはかなり長文だ。
タ『解りました、けど
指先ぐらい頑張ってください』
ハ『めんど』
また…!くさい、ぐらい頑張れよ!
どんだけ面倒くさいんだよ。
現代に生まれてよかったな!
ハ『高校生、合同、がんば』
暗号か!いや、解るんだけどさ。
俺たちが解っちゃうから部長もこんな感じに…。
それはそうと…。
どうやら、頼みの綱だったエミヤが事故に遭い、冬休み中は活動できなくなったことで高校生組に圧力がかかったようだ。
どちらにしても、エミヤは暇じゃない。
学校はもちろん仕事がある。
俺たち以外、秘密になってくれているようだが、ユウヤが現れた、という事は、例えユウヤ自身が白だとしても、エミヤの存在が魔界に漏れ始めているという事だ。
どこから漏れたかは知らないが、これから敵は増える一方だろう。
高校生組がどれほどの戦力かは知らないが、いないよりは全然マシだ。
タ『頑張りますよ、部長もね』
ハ『(´-ω-)ウム 』
顔文字…。
つっこまん。
つっこまんぞ。
他にも孝彦や入也などの男友達から、遊びの誘いが来ていた。
とりあえず今日と明日は無理だな。
それに、エミヤが病院で怪我をしているのに、一人だけ楽しむことも出来ない。
タ『すまん。今日も明日もムリだ。
また今度な』
そう送ると俺は返事は確認せず、ケータイの画面を閉じた。
俺は立ち上がって、エミヤの服以外の荷物をまとめていた。
といっても、何を入れたら良いのか思いつかず、適当に洗面台の物をあさった。
(エミヤ、意外と好きだよな)
俺は暇つぶしにと、お気に入りのゲームやマンガをかき集め、エミヤの旅行鞄に詰め込んだ。




