〔結果オーライ〕
「ん…」
「エミヤ!」
エミヤの目がうっすら開いたのを見て
俺は思わず腰を浮かせた。
良かった…。目を覚ましたようだ。
「ここは…?」
「病院だ」
部長の言葉にエミヤは目を見開き、驚いた様子だった。
エミヤは思い出そうと頭を触り、
頭に巻かれた包帯に気が付いた。
「あ…そっか。電柱に…」
「え、電柱?
車にひかれたんじゃ…」
ああ、どうりであんなに急いでた訳だ。
志保先生たちは
エミヤが車に轢かれたと勘違いしていたらしい。
確かに轢かれそうにはなったが、
男の子を抱えていたエミヤは
勢い余って電柱に頭をぶつけたのだ。
そして、気を失いそのまま救急車に。
幸い脳にも異常もなかったし、
ちなみに男の子は無傷。
「そうだったの…。
私の早とちりね☆」
志保先生は胸を撫で下ろしてから
思いっきりおどけた。
「だから人の話は最後まで聞けと言ってるだろう」
突然、聞き慣れない男性の声が聞こえた。
「あ、碓氷さん」
パッと声のする方を見ると
白衣を着た医者らしき人が入って来ていた。
碓氷ってことは、碓氷先生の父親だろうか。
「む、久しぶりだな、海翔。
偶には顔を見せんか」
海翔って確か、碓氷先生の名前だ。
「そういう話は今度にしてくれ…」
「話そうにも、正月しか帰ってこんじゃないか」
親子の話が始まってしまった。
良く解らんが、おっさん嬉しそうだしほっとこう。
「碓氷先生のお父さんですか?」
エミヤがこっそりと部長に聞いた。
「ああ、病院長なんだ」
「えっ、そうなんですか…」
病院長…?まじかよ…。
おっさんなんて言って悪かった。
「おお、君らが新しい子か。
男の子が火で、女の子が、あー、その、なんだ?」
「音だ。」
苦笑いをして言葉を濁している病院長さんに
碓氷先生がぼそっと呟いた。
反射的にチラッとエミヤを見ると
病院長さんと同じく苦笑いを浮かべている。
別に病院長さんが悪い訳ではないが
こういうのには腹が立つ。
どうせ「仇篠の」とか「闇の子」とか
影ではそんな風に呼ばれているのだろう。
「あれ…その子は?」
「…親戚です。大丈夫」
部長は一瞬間をおいてから、そう言った。
その言い方だと、まるで部長の親戚のようだ。
…いや、でも、部長はエミヤの義理兄で
ユウヤもエミヤの兄?なのだから
親戚、というのも強ち嘘でもないか。
「ああ、そうか。
…ごめんな、名前を知らないんだ」
病院長さんは俺たちに穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
名前は知らないけど、俺達の存在は知っているのか。
そんなつもりはないのだろうが、嫌な感じだ。
「火砕 泰芽…です。」
「ユウヤです」
「音澤 愛雅です。
すみません、座ったままで」
エミヤだけは微笑んで言った。
俺はつい病院長さんに、敵意を出してしまっていた。
ユウヤも無愛想だったが、苗字を言わなかったのはナイスだ。
「私は碓氷 和佳だ。
海翔の父で、ここの病院長をやっている。氷だ。」
ハンナたちもそうだったが。
一通り自己紹介を終えたら、
自分の能力を言うのが一般的らしい。
もっとも、俺達の場合は言わなくても知られているが。
「碓氷先生にはいつもお世話になっています
病院も、ありがとうございます」
エミヤは丁寧に言って頭を下げた。
「いやいや、これくらい。
颯天くんや倖架ちゃんに比べたら」
「そこで僕の名前出す!?」
ユキカ先輩は驚いた顔で病院長につっこんだ。
部長の方はあさっての方向を見ている。
「颯天くんは力を使いすぎ。
倖架ちゃんはいたるとこで怪我して…」
「すみません…」
部長が勘弁してくれ…!とばかりに顔を手で覆った。
相当お世話になっているらしい。
そう言えば以前、高校生が居なくて人数不足と言っていた。
そのせいで無理をしているのだろうか。
「こっちも商売あがったりだね!」
病院長さん…?
能力者の大人たちはおちゃめすぎないか…?
いや、これぐらい変わってる奴じゃないと
俺たちに関わりたがらないのか。
「じゃあ、ゆっくり休むんだよ
海翔たまには帰ってこいよ!」
病院長さんは最後にエミヤに笑いかけ
碓氷先生に念を押すと病室を後にした。
「何しに来たんだあの人は…」
「仲良しね~」
志保先生の言葉に碓氷先生は
口には出さず、どこが…?というオーラを前面に出した。
「ユキカ、エミヤちゃんの様子も見れたし
そろそろ帰ろうか」
ナツカ先輩は携帯を見てからユキカ先輩に言った。
「あっ、うん。」
ユキカ先輩はハッとして携帯を確認して頷いた。
門限でもあるのだろうか…。
ユキカ先輩はヤバいという顔をしている。
大方、中級悪魔が出たせいで、
親が神経質になっているのだろう。
「心配をおかけしました」
「ううん!ゆっくり休むんだよ~」
エミヤの言葉にユキカ先輩は顔をあげて笑顔を見せ、
ナツカ先輩も優しく微笑んで二人は帰った。
「ただいま~」
部長が自分たちも帰ろうかと言う前に
菫さんが帰って来た。
「あ、菫さん」
「さっき、ナツカちゃんと
ユキカちゃんにすれ違ったよ~。」
菫さんはにこやかに言いながらベッドに腰をかけた。
「すみませんでした!
体長は?大丈夫ですか?」
サキア先輩は少し大袈裟なくらいに菫さんを心配した。
そう言えば菫さんも病院に居るのだ。
見たところ怪我はしていないようだし、病気なのだろうか。
「もう、サキアちゃんまで~、
カレンみたいな事言わないで」
「す、すみません…」
カレン…聞き覚え、と言うか見覚えがある。
ああ、Karen。SMSのグループに入っていた人だ。
菫さんはそこと友達なのだろうか。
「私は平気よ。それより…、初めましてエミヤちゃん」
「え…どうして」
話し声を聞いていたのだろうか
もしくはテレビの“エミヤちゃん”か。
「私、テレビっ子なのよ
ドラマも見てるわ」
やはり、“エミヤちゃん”の方だった。
この人は白だな。俺はとりあえず安堵した。
油断するとエミヤの周りにはすぐ黒のやつらが集まる。
しかも、エミヤは人を疑わないから、すごく危険。
「そういうことですか…
改めまして、音澤 愛雅です」
「私は言葉 菫。
少しの間だと思うけど、これからよろしくね」




