《絶対友達?》
「…お・き・な・さーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
鬼のような形相で怒鳴り、容赦なく布団をはがす彼女は
音澤 愛雅。
中学一年生だ。
その一方で怒鳴られた上に突然布団が消え、驚きのあまりベッドの上で正座している彼は
火砕 泰芽。
同じく中学一年生で、この家の一人息子だ。
「ん!?今何時!?
やばっ!すぐ着替える!」
目を覚ました様子のタイガは、時計を見てすぐに制服に手を伸ばした。
それを見たエミヤは満足げに部屋を後にし、一階のダイニングへ向かった。
「食べる時間かあるかな!?」
素早く、制服に着替え終わったタイガが、バタバタと階段を降りながらエミヤに問いかけた。
「時間はあるけど、忘れ物ない?
昨日のうちにちゃんと用意した?」
現時点で準備が万端ならばむしろ余裕なくらいだが、今から探し物となると急がなければならない。
「ん~と、なんか特別いるものあったか?」
タイガは首をかしげながら朝ごはんに手を出し始めた。
その様子だと、教科書などは平気なのだろう。
「特にはないよ。
あ、体育館シューズは?この前持ち帰ってなかった?」
今日は体育があり男子は体育館でバスケだったはずだ。
エミヤは以前、タイガが友達と遊ぶに当たって、持ち帰ると言っていたことを覚えていた。
「あー………!
確か、手提げに入ってた!」
「はいはい、入れとくわ」
タイガが朝ごはんを食べている間に、勝手に準備しておくことにした。
(まあ、タイガはそこまでバカじゃないけど…。最近様子がおかしいし。)
エミヤは念のために、と教科書の類いも間違えていないか確認しておいた。
「エミヤ~。食べ終わったぞ~。」
タイガはそういいながら、食べ終わった食器を流し台におき、水につけた。
「じゃあ、行こっか」
タイガにカバンを渡し、エミヤ自身も自分のカバン持ち玄関を出た。
「あ、エミヤちゃん!おはよう~!
…とタイガくんもおはよう。」
エミヤに気づいた女の子がニコッと笑いかけ挨拶をした
「ヒナちゃんおはよう!」
エミヤはその女の子をヒナと呼び、元気よく挨拶を返した。
一樹 妃南。
同じく中学一年生でエミヤの友達だ。
「と、って俺はオマケかよ…」
タイガは溜め息をつきながら、自分の友達の男子たちの方に行き自分の席に座った。
エミヤも、クラスの女子と挨拶を交わしながら自分の机についた。
「今日もお熱いね~」
エミヤの友達の
榎本 亜美。
にやにやと笑いながらエミヤをからかった。
「毎日一緒に登校してるもんね!」
ヒナもニコニコしながらエミヤに言った。
「ほら、朝から騒がないの。
二人は幼馴染みなんだから、当たり前でしょ?」
「も~!セイラは冷めてるんだから!」
同じく友人である
橘 聖羅。
冷静にそう言った。
そんなセイラに向かってアミはつまらないと言う風に、口を尖らせた。
「あは…。でも、実際そうだよ。」
エミヤは苦笑いを浮かべながら会話をし、朝の準備を終わらせた。
『オトザワさん嫌な感じ自慢かなぁ?』
『ねぇ?芸能人だからって威張ってさぁ』
(え………)
唐突に聞こえてきた声の主は、教室のドアの近くに立っている他のクラスの女子三人だ。
「は!?……ちょっと!今のどーゆー意味!」
アミは近くにあった机を、バンッと叩いてそう言った。
ヒナとセイラも目をつり上げ、陰口を言った女子三人を睨んでいる
『なによ!本当のことでしょっ!』
『あんた達だって!本心ではそう思ってるんじゃないのっ?』
女子たちも負けじと声を荒げている
「はぁっ?!んなわけないでしょ!」
アミが合図を出すように声を荒げると、周りに居た女子たちも、陰口を言った三人を睨んだ。
その勢いに、陰口を言っていた女子たちも一瞬たじろいだ。
このままだと、本気でいい争ってしまう。
そう考えたエミヤはアミたちを止めるため、口開こうとした。
そのとき、後ろから陰口を言った女子たちに向かって、鋭く熱い何かを感じた。
周りに居たエミヤを援護している女子たちも、ビクっとし、陰口を言った女子たちに至っては、見る見るうちに青ざめ、逃げるように帰って行った。
驚きながらさっと後ろを振り返ると、タイガや他の男子が話をしているだけだった。
(な、何だったんだろ…?)
「エミヤ、あんなの気にしなくて良いからね!」
アミは陰口を言った女子たちを見送ると、エミヤにガッツポーズをしてみせた。
「ありがとう………。
でも、おかしいな…、仲悪くはなかったはずだけど…」
「うん。私、あの中の一人の子と同じ塾なんだけど…。
あんな子だったかな………」
これが一度や二度なら、エミヤもそこまで気にしないのだが。
最近、他クラスの女子がやたらと攻撃的になっている。
歌手として、有名になり始めたというのもあるかもしれないが…、エミヤはどうしても腑に落ちなかった。
「まっ。私たちは絶対エミヤの味方!
絶対友達だからね!」
アミがエミヤの手を握り、ニカッと笑って見せた。
(そうだよね。どちらにしても、私にはみんながいるから全然平気!)
「……にしもタイガくんは」
話を切り替えるように、ヒナがニヤニヤしながらタイガを見て何かを言いかけた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音でかき消され、みんな慌てて自分の席についていった。
それとほぼ同時に先生がドアを開けて入った。
(三人はいつも優しいな…)
一抹の不安を掻き消すように、自分の耳に手を添え、小さく微笑むと朝の会が始まった。
「おはようございます!」