〔ユウヤ〕
「タイガぁぁぁぁぁあ!
起きなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
エミヤが躊躇なく大声でタイガを叩き起こすと、
条件反射のように布団から飛び起きた。
「…目は覚めたかしら?」
にこりと微笑みながらやさしぃ~声で言うと、
タイガは見る見るうちに青ざめていった。
「は、はいぃ…」
「そう。じゃあ
早く終わらせてね」
青ざめるタイガに満足げな笑みを浮かべ
部屋のバタンッと音を立てて閉めた。
(そんなに怒ってないんだけどね
いつもの事だし。)
解りやすいくらいタイガの慌てた声や音が聞こえ、
ちょっと申し訳なくなったエミヤは苦笑を浮かべた。
「朝ご飯出来たよ~」
少しだけ申し訳ない気持ちがあったエミヤは
気合を入れて朝食を作った。
それに、そうでなくとも、
今日はエミヤにとってとても嬉しい日だ。
今日はタイガとの久しぶりの大買い物なのだ。
何故、大がつくのかと言うと、
冬休みが終わるに中っての衣替えのためだ。
私は2、3着買いかえれば良いだけなのだが
タイガの場合、まだまだ成長期なので
1年も経てば1着も着れなくなってしまう。
なので夏休み、冬休み、春休みになると大きな買い物をするのだ。
「モグモグ。…それで、今日はどこ行くんだ?」
タイガはご飯を食べながら言った。
実は大買い物に行く事はタイガに伝えていない。
絶対に嫌がると思ったからだ。
いつもならそこまでして連れて行こうとは思はないのだが
珍しく、タイガから出掛けようと誘ってきたのだ。
タイガの意図は解らないが、
これは好都合と、エミヤはタイガを荷物持ちにすることにした。
「ちょっとした買い物~。
じゃあ、行こっか」
タイガが食べ終わったのを見て
詳細を聞かれる前にさっさと食器を台所の水につけて
タイガを促した。
「あ、ああ」
タイガはちょっとだけ嫌な予感がしたのか
微妙な顔をしている。
エミヤは目に入らぬふりをして、上機嫌に家を出た。
「な、なぁ…。買い物ってまさか…」
「ふふん。毎休み恒例の大買い物よ!」
電車に乗った時点で
エミヤはもう帰れないだろうと踏んで言った。
そしてタイガはああ…やっぱりなという顔をしている。
それが君の運命だよ。うん。…ドンマイ。
「じゃあ、タイガの服からね。
少なくとも1週間分は無いと」
電車から降り、目的の店に着くとエミヤはそう言った。
この店では衣替えキャンペーンというのをよく行っており
エミヤの行きつけで特別安いのだ。
「去年のじゃダメなのか…」
タイガは心底面倒くさそうに遠くを見つめている。
もちろんダメに決まっている。
サイズが全く合っていない。
「ダーメ。さっ、選んで」
エミヤに言われ、タイガはとりあえず選んだが
その殆どはエミヤに却下され、結局エミヤが選んでいた。
タイガは着せ替え人形状態になっていた。
やっとこさ、タイガの服は選び終わり、
次はエミヤの服の番になった。
最初はタイガもそれとなく意見していたが
1時間ほど経って飽きたのか
「そこの公園で待ってるから、終わったら来て」
といった。タイガに着き合わせるのも悪いし、
仕方がないので別行動にした。
それからしばらく経って服選びが終わり、
タイガに連絡すると、少し離れた公園で待っていると返信が来た。
いつもの大買い物に比べたら随分軽いが、
思いのほか多めに買ってしまった。
「タイガに来てって言えばよかったかなぁ…。」
そこまで遠い訳でも重い訳でもないのだが
何となく少し休憩しようと荷物を肩からおろした。
「どうしたの?」
「え…。あ、いえ。荷物が重かったので」
突然知らない人に驚いたエミヤだったが、
戸惑いながらもそう答えた。
「それは確かに重そうだ、
僕がもってあげるよ。何処へ行くの?」
その男の子はにっこりと笑ってそう言うと荷物を持った。
「え、いや、そんな悪いですよ」
「大丈夫。僕こう見えて力持ちだから」
男の子は人懐っこそうに笑って歩き出した。
自分より年上のようなのに、その笑顔からはそう思えない。
「いや、そういう問題じゃなくて………」
「それで、どこにいくの?」
エミヤの小さな声は耳に入らなかったのか
男の子はさらに笑みを浮かべ無邪気にそう言った。
「………公園…です。」
その男の子には強く言う事が出来ず、
1人では運ぶのも骨がおれるので、結局手伝ってもらうことにした。
「僕はユウヤ。君は?」
歩いていると、私の少し先を行く男の子は振り返って言った。
(なんか…懐かしいような名前。)
エミヤは何故かそう思えしまって緊張が一気に緩んだ。
「私はエミヤです」
そう言うと男の子。否ユウヤは目を見開いて驚いた顔をした。
(しまった…!)
歌手の“エミヤ”とバレたのかと目を見開いた。
いつもなら、こんな失態は犯さないのだが
このときのエミヤには警戒心というものがなかった。
逃げようにも荷物を持たれているから逃げられない。
何時間もかけて選んだ服が、
なるで人質に取られているような気分だ。
「あ…いや、ごめんね?
僕の妹と同じ名前だったから…」
「え、妹?」
思っていた答えとは違っていた為、
エミヤは思わず声が上ずった。
「うん、僕の妹。
でも、小さい頃、離れ離れになって、
今も探してるんだ…」
思いがけない家庭事情に、またも驚いていると
「あのさ…本当に申し訳ないけど
苗字も教えてくれない?」
苗字まで教えるのは、さすがに気が引けたが、
捨てられた子犬のような目で見つめられ、
エミヤはつい言ってしまった。
「オトサワ…です」
そういうとユウヤはまたも目を見開き
ついでに口まで開いていた。
「エミヤ!」
その聞き慣れた声に、
ユウヤの向こうから走ってくる人影を見た。
「あ、タイガ!」
ユウヤを通り過ぎて、タイガのもとに駆け寄ろうとすると
エミヤは腕を捕まれ、ユウヤに抱き締められた。
「なっ!」
タイガはその光景に驚きの声を上げ、
全力で、こっちに走ってきた。
(あれは絶対飛び蹴りする。
お願いだから私を巻き込まないで~
って、そんなこと言ってる場合じゃない!)
「なんですか!?」
エミヤは我に返り、顔をあげユウヤの顔を見た。
すると、ふと懐かしい記憶がよみがえりかけたが、
靄に隠され一瞬でかき消えてしまった。
「やっと、見つけた…。」
ユウヤは嬉しそうにそういうと、エミヤの額にキスをした。
「!?」
声も出ず驚いている私の視界に移ったのは、
まさに飛び蹴りをしようとしている、タイガの姿だった。




