『ハンナ』
エミヤは慣れた風にすぐ準備を終わらせ、
何回かあった反省点を踏まえ、帽子を深く被った。
タイガの様子を見ると、もうすぐで終わりそうだったので、
外に出て待っていることにした。
「わっ」
「っと…大丈夫?」
エミヤがバスの時間をもう一度確認していると、
横から、小学生くらいの女の子がぶつかってきた。
エミヤは女の子が怪我しないように受け止めた。
「あ、ごめんね。大丈夫?」
「い、いえっ。すいませんっ!
あれっ、エミヤちゃんですか!?」
どうやら、ぶつかられた拍子に
帽子が落ちて、歌集のエミヤだとバレてしまったようだ。
「あー…うん、もしかして迷子?」
「いえ、ちょっと…
私、ハンナって言います!」
反省点を全く生かせなかった…と、密かに落ち込んでいると
ハンナという女の子は、まるでアイドルのような可愛い笑顔を見せた。
相手が小学生と言えど、男ならイミコロだろう。
「ハンナー!」
ハンナが走ってきた方角から、
綺麗な男の子と清楚な感じの女の子が走ってきた。
「あ、彼氏?」
「違います!!!」
エミヤは何の気なしに来たのだが、ハンナは全力で否定した。
(哀れ男の子…)
エミヤが苦笑いをしているとタイガが家から出てきた。
「ん?誰だその子」
「ハンナです
彼氏さんですか?」
ハンナは仕返しと言わんばかりに、
意地悪な笑みを見せて言った。
「ち が う!」
「エミヤさんこれから何処に?」
エミヤは顔をひくつかせて力を込めて否定したが、
ハンナはすでに聞いておらず、さらっと流した。
「ショッピングモールに…」
「私もなんです!
一緒に行きませんか?」
ハンナはにっこりと満面の笑みで言った。
エミヤは能力者のことは秘密だから、
マズいのではと断ろうとしたが、
「ダメ…ですかぁ…?」
ハンナは目をうるうるっと潤ませて懇願した。
その瞬間その場に居たほぼ全員が胸を射抜かれた。
少なくともエミヤはしっかり射抜かれ、
一緒に行くことになった。
「ケイです」
「私はセツナといいます。」
「俺はタイガ」
ハンナと一緒に居た女の子はセツナで男の子はケイと言うらしい。
互いの自己紹介を終えバスの中で雑談していると、
ショッピングモールに着いた。
「あ!サキアお姉ちゃーん!」
サキアを見た瞬間、
ハンナは満面の笑みでサキアに抱きついて行った。
「え、知り合い…なんですか?」
エミヤが驚いて、コソッとハヤテに聞いた。
「知り合いも何もあの三人が小学生組だ。」
「えっ、そうだったんすか…!」
横から聞いていたタイガも驚きながら三人を順に見た。
「どうぞよろしく!
音澤 愛雅さん!」
「改めまして
私は力道 帆凪です。能力は力業!」
「僕は彩瀬 繋、植物。」
「私は秋風 屑娜です。能力は風です。」
「音澤 愛雅です。えっと、音です」
「火砕 泰芽。火。」
ユキカとナツカがいつも通り、少し遅れて到着し
フードコートで飲み物を飲みながら改めて自己紹介をした。
「それにしても“エミヤちゃん“が…」
誰にも聞こえないような小さな声で
ハンナはぼそっと呟いた。
その口ぶりからハンナはエミヤの事を知っているようだ。
(やっぱり、良くは思われてない……よね)
エミヤは満面の笑みで笑いかけてくれたハンナをお思い出し、
少し複雑な気持ちになり心の中でため息をつくと
黒い靄が広がる感覚に襲われた。
「…出たみたいだ」
驚くほどタイミングがあったために、思わず驚いた。
ハヤテを見てみると、いつの間にかリミッターを外して、
能力を使っていた。
「どこですか…」
「…屋上のようだ」
セツナはハヤテの言葉に頷いて、
ハンナとケイに目で合図を送ると立ち上がった。
中学生組もユキカを除いて立ち上がった。
「あっ…」
全員の視線を感じて、
ユキカも慌ててジュースを一気飲みして立ち上がった。
「中級ですか?
解らなければ私も使いますが。」
ユキカが立ったのを確認して、
セツナは屋上へと移動しながら、ハヤテに冷静な声で言った。
(ユキカさんが言ってた通りだ。)
エミヤは素直に感心した。
年上相手に、ここまで冷静にかつ迅速に行動していたからだ。
慣れ、と言うのもあるのだろうが、それでも凄い。
「いや、おそらく低級だ。
それが…四匹。」
いつも相手している最低レベルの悪魔だ。
とは言え、それが四匹となると合同で来て正解だっただろう。
「四匹ですか。」
「人も多い。エミヤの能力を使おう。」
エミヤは驚いて思わず声が出そうになったが
寸前のところで踏みとどまった。
今までの悪魔退治では能力を使わず、
人の注意を引き付ける事しかしていなかった。
実際に能力を使ったのはアーチーの時だけだ。
(が、がんばらなきゃ…)
あまり自信はないが、一度は使えたし、感覚は掴んだ。
エミヤはそう自分に言い聞かせ頷いた。
「では、一体を私とケイさん。
もう一体をハンナさん。」
「うちは一体をユキカとナツカ。
一体を俺とタイガが。サキアはエミヤの援護。」
全員、それぞれのリーダーの言葉に頷いた。
他の七人が悪魔を押さえているうちに、
エミヤが他の人から不自然に思われないよう
歌で悪魔を倒す、ということだ。
「で…どれ!?」
屋上に着くとそこには、
カラスや、猫、大勢の人が居た。
ユキカが言うのも仕方ない。
ちょうど、カラスも猫も四匹ずつ居たからだ。
「猫の方みたいよ。」
「じゃあ、僕らは一番左。」
いつの間にか能力を使っていた、
サキアの言葉を聞くとナツカは、
「その猫、僕らのなんです」と言いながら
他の人に可愛がられていた猫にユキカと走って行った。
(ああ、そういうことか)
双子の行動を見て、エミヤは納得した。
人数に対して、最低二人は居るんだから、
自分の能力を使うまでもないのでは、と思ったが。
人の視線が集まる場所で、いきなり猫を襲ったら
動物愛護法とかで、警察沙汰になってしまうだろう。
「私たちは一番右を押さえます。」
「じゃー、私は真ん中の右。」
それを理解していたのか、セツナとケイ。
ハンナもそれぞれ猫を押さえに行った。
「タイガ、行くぞ。
エミヤはあそこの舞台に。」
「は、はい」
ハヤテが指をさした先には、
アクションショーなどを行うための舞台があった。
「気ぃつけろよ!
ダメでも平気だからな」
「うん。ありがとう」
エミヤはタイガの心遣いに微笑み、
ハヤテとタイガは猫の姿をした悪魔の方へ、
エミヤはサキアと頷き合い舞台へと走った。
「―眼よ―」
サキアは短く唱えると再び能力を発動させた。
おそらく、全員の様子を見てタイミングを計っているのだろう。
「エミヤちゃん、大丈夫よ。いつでも良いわ。」
しばらくしてサキアはそう言うと、
エミヤを勇気づけるように笑いかけ、
もしもの時のために、舞台の下で待機した。
(ちょっと緊張する…)
エミヤは頷き、舞台に上ると、帽子を取った。
エミヤは能力を発動させるため、
アーチーの時のように目を閉じて、
今度はハンナの笑顔を思い浮かべた。
すると、リミッターはあの時のようにヘッドフォンの形になった。
エミヤは目を閉じたまま、深呼吸をして息を吐くように声を出した。
「―歌え、我らが世界と共に―」
さっきまで誰もエミヤを見ようともして居なかったのに、
エミヤが歌いだした瞬間、空気が震えエミヤに視線が集中した。
透き通るように美しい。心の一番奥に入ってくるような歌声。
そんな歌声に誰もが魅了され、
エミヤの歌声を聞いている後ろで、
悪魔たちは苦しげに悶え、人知れず浄化された。




