『大切な兄弟』
夕日も沈んだ暗い部屋は静寂に包まれていた。
特殊能力部から帰宅したエミヤは、
自分の部屋の壁をそっと撫で、ベッドに腰をかけた。
「…”私のせいでみんなが傷つき消える”」
夢に出てきたアーチーという
悪魔の言っていた言葉を繰り返す。
エミヤは悪魔と人の間に生まれた子。
アーチーのように自分が居るせいで
周囲に危害が及ぶかもしれない。
もし本当にそうなったら…。
そう思うとエミヤは怖くて怖くて堪らない。
(それならいっそ……)
「エミヤ?」
ドアを開く音と同時に聞こえてきた、
聞き慣れた声に脳裏に浮かんだ考えが消えた。
「………」
タイガがベッドの横まで来て
ベッドに背を預け床に座り、
エミヤが自分から話すのをじっと待った。
「…夢でね、あの悪魔…アーチーが出てきたの」
しばらくして、エミヤは沈んだ顔でぽつりぽつりと話し始めた。
「全部私のせいなんだって…
嘘だと思いたい…。思いたかったけど!
実際、佳代さんが!」
エミヤを迎えに来たというアーチーによって
一時的ではあったものの、姿を奪われたしまった
マネージャーの芝崎 佳代。
「これからも、有るかも知れない
有ってからじゃ遅いのに…!」
(もしも、私が…)
エミヤは唇を血が出るほど噛み締めた。
タイガは何も言わず、エミヤが眠るまでただ優しく撫で続けた。
「……………!…今何時!?」
まくら元にあった時計を見ると五時を指していた。
窓の外を見ると雨が降っていて薄暗かった
「なんだ、まだ五時か…………」
ベッドに倒れ込み、ぼーっと天井を見ていると
階段の下からドタドタッと階段を駆け上がる音がした。
「お、エミヤ目覚めたか」
見ると制服姿のタイガが
ビニール袋と体温計を持って入ってきていた。
「あれ、制服?なんで…………まさか!」
「そのまさか、今学校終わったとこ」
エミヤに答えながら机のにビニール袋を置き
起き上ったエミヤを寝かせて布団をかぶせた。
「何で起きられなかったんだろ…」
エミヤは自分の頭に手を当て、ため息をついた。
「お前、あの後高熱出して倒れたんだよ。」
体温計をエミヤに渡し計っとけよとだけ言うと
慌ただしく一階に降りていった。
「風邪かぁ…………」
エミヤはそう呟いてタイガの言われた通り、
体温計を脇にさして音が鳴るのを待っていると、
すぐにタイガがコップに水を入れて帰って来た。
ピーッ
体温計から音が鳴り、
脇から体温計を取って見てみると39.8°と出ていた。
「何度だ?」
「そこそこ。」
エミヤは結構高いなと思いながら、
あんまり心配をかけたくないと、タイガには誤魔化していった。
「…何度だ。」
「39.8°です」
いつもと逆の立場にエミヤは可笑しく思い、
怒られないよう心の中で笑いながらタイガに言った。
「はぁ…これ飲め。」
タイガはそう言いながら
風邪薬とスポーツドリンクを渡しエミヤに飲ませた。
「病院行くか?」
「平気平気。」
「いやでも、結構高いぞ?」
「平気だって」
「でもなぁ」
病院行くか行かないかについて二人が話していると、
ピーンポーン
家のインターホンが鳴った。
「俺が出るから…」
反射的に起き上ろうとしたエミヤを
タイガが呆れ顔でたしなめ、下に降りて行った。
「誰だろ…」
エミヤの呟きの答えはすぐに解った。
内容は解らないが、下から話し声が聞こえてきたからだ。
エミヤは思わず笑顔になった。
「エミヤ~。部長とサキア先輩が来たぞ~」
そう言いながら入ってくるタイガに続いて、
ハヤテとサキアが入って来た。
「どうしたんですか?わざわざ…」
「たまたま近くで用事があった。」
「たまたまね~」
ハヤテが無表情で言うと、
サキアもその言葉を笑いながら繰り返した。
「エミヤちゃん、お腹すいてない?
良かったら作ろうか?」
「お願いできますか…?」
エミヤは願ってもない提案に歓喜した。
ちょうどタイガの夜ご飯はどうしようと悩んでいたからだ。
タイガもその気になれば自炊できるだろうが、
料理においてはあまり信用できない。
面倒くさいからと、カップラーメンで済ましたり
無しにす事さえあるからだ。
「もちろん!何が良い?」
「で、できればコンソメスープを…」
エミヤは玉ねぎの賞味期限が近い事を思い出し、
悪いと思いながらも頼むと
サキアは快く引き受け、タイガと共に下へ降りた。
「来てくれてありがとうございます…
とても嬉しいです…。」
「…そうか。体は大事にな」
「はい」
二人は静かに微笑み合った。
しばしの沈黙が続いた後、エミヤは口を開いた。
「部長さんのお母さんはどんな人ですか…?」
ハヤテは少し目を見張ってから、
あさっての方向を向いて話し出した
「母さんは…おてんば…というか鈍臭いな。
家事は俺の方が上手い、が料理は旨い。」
ハヤテの話方は完結ではあったが
とても優しさに満ちていた。
目を閉じて聞いていると、ハヤテの母であり、
自分の母の義理の姉である女性の姿が見えるようだった。
ハヤテの話から、まずハヤテの母は今も生きていて、
幼稚園の先生をしている事が解った。
おっちょこちょいで、面白くて、少し怖い。
でも、それ以上にとても優しいハヤテの母。
「お前の母は何もかも完璧で
頼ってくれたことも一度しかない!とよく愚痴をこぼしている。
でも、母さんはそんな自分の妹が今も昔も大好きらしい。
もちろん、お前の事もな。」
ハヤテは最後にそう言って話をくくった。
エミヤはとても驚いた例え義理の妹でも、
自分の夫を奪われたのだ。
恨んでいたっておかしくない。むしろそれが普通だ。
そうでなくとも、魔王のことをを未だに
自分の妹と認識している事にも驚きだ。
しかも、その子である自分のことも憎まずに、
それどころか愛してくれているだなんて…。
驚くなという方が無理な話だ。
自分が魔王と知って無意識に世界のすべてから
拒絶されたような気がしていたエミヤは
余計に嬉しくて涙が出そうになった。
「俺はお前が生まれてきてくれたことに感謝している。
あと、タイガも同じ気持ちだろうな」
「タイガが…ですか?」
「ああ。」
エミヤは驚きながらも酷く安心したように微笑んだ。




