『夢の続き…』
「疲れた………」
撮影は簡単なものだったのだが、
ユキカが何もないところで転けたり、
タイガが突然クシャミしたりして
五回ぐらい同じシーンを繰り返したのだ。
「タイガがあれならいい方かな」
「うん、ユキカがあれならいい方。」
エミヤとナツカがそれぞれ
タイガとユキカを冷たい視線を送っていると、
主演の一条がやって来た。エミヤは一条に挨拶をし
佳代も挨拶をすると一条がふらついた。
「一条くん大丈夫かい!?」
一番近くに居た佳代が一条を支えた。
驚いたエミヤは慌てて一条と佳代に駆け寄った。
すると、突然靄がかかったように
前が見えなくなりエミヤまでふらついたが
後ろに居たタイガが支えた。
「あ、ごめん…」
「2人がこれじゃ撮影は出来んな
まだ余裕はあるし、今日は此処までにしよう」
監督がそう言うと撮影は終了になり、
一条とエミヤたちは近場で休むことになった。
佳代が手際よく監督に頭を下げ
エミヤたちを休めるところに連れて行ってからどこかに行った。
「エミヤ、大丈夫か?」
「うん、もう平気。迷惑掛けてごめんね」
「いや、それはいい…」
エミヤとしてはもう何ともなかったが、
朝のこともあったせいか、タイガは落ち着かない様子だった。
「病院行ったほうがいいかもな…」
「病院に行っても無駄だろう。
おそらく…悪魔が近くに居ることへの拒否反応。」
タイガはそう提案したが、向かいに座るハヤテが首を振った。
エミヤはタイガの眉間にしわが寄るのを感じて少し驚いた。
「は…なんで解るんですか
刻印だって見えなかったでしょう」
「見て解らなかったか?」
タイガは途端に険しい顔になりハヤテを睨んだ。
しかし、ハヤテは相変わらずの無表情…。
「え…?タイガ?」
「ハヤテ…?」
エミヤはタイガが睨んだのに驚いた。
そんな顔、見たことがなかったからだ。
サキアもエミヤと同じように驚いている様子だ。
ハヤテとナツカ以外のみんなも驚いている。
「どういう意味っすか」
「能力者の中には見るだけで
悪魔を判別できる奴もいる。それだけの話だ。」
二人は驚くエミヤたちを無視し、睨み合い話を続けた。
普通に見たらタイガが一方的に突っかかってるだけだが、
タイガはそんな奴ではないし、
サキアの反応を見る限り何かあるようだ。
「そういうことにしときます。」
タイガは怒りを吐き出すようにふうっとため息をついた。
それを見て、エミヤたちはとりあえず安心した。
「…で、私も悪魔って解んなかったんだけど」
「あのマネージャーだろう」
ユキカの言葉にハヤテは解っているという風に頷いた。
「…え!佳代さんは違いますよ!
三年以上も一緒に居るんですよ!?」
「…お前も違和感を感じなかったか?」
認めたくはないがハヤテの言う通り、
今日一日中エミヤは佳代に違和感を感じていた。
まるで、人が変わったようだったからだ。
「…だったら、今すぐ確認して取り戻します!」
エミヤは居てもたっても居られず、
確かめるために佳代を探しに行こうとした。
「待て。普通にやっても
マネージャーは悪魔と一緒に死ぬ。」
エミヤは”死”というあまりに重い言葉に愕然とした。
するとハヤテはすぐにだが、と話を続けた。
「ん?エミヤ、もう大丈夫なの?」
佳代がエミヤを見て不思議そうに言った。
やはり、その雰囲気はとても優しげだ。
違う。この人は私の大好きな佳代さんじゃない。
エミヤはそう確信した。
「さっきはごめんね…お詫びに。」
佳代のことを考えていると胸一杯に広がる霧を感じた。
不思議と心地いい。すると、たちまち蝶の髪飾りが変形した。
その形は、まるでヘッドフォンだ。
「―歌え、我らが仲間のために―」
エミヤが美しいメロディーを歌うと、
周囲の雰囲気が変わった。
空気が響き、聴いていた佳代の体も震えだした。
“お前のその能力で悪魔を体から追い出す。
メロディーはリミッターが教えてくれるはずだ。
歌詞は…もたぶんリミッターが。”
だいぶ雑な説明だったが、ハヤテの言った通り、
メロディーは蝶の髪飾りが教えてくれ、
歌詞も不思議と解った。
とても心地いい。懐かしい響きだ。
「ぐっ…」
聞いたことのない…いや、聞き覚えのある男の声が聞こえ
エミヤは思わず目を開き思わず歌うのをやめてしまった。
すると、心臓あたりから黒い靄が溢れ人の形を作った。
「これが退魔の声…。」
エミヤはその姿と声を見て、聞いて、絶句した。
苦しげに息するその姿に見覚えがあったからだ。
「エミヤ!」
後ろで隠れていたタイガは
エミヤが固まったのを見て、耐えきれず飛び出てきた。
「覚えててくれたんだね」
男の姿に変わり優しげに笑った。
サキアとナツカとユキカは、
倒れている佳代を安全な場所に運びに行った。
「それよりお前は何者だ」
「何者?名前はアーチーだけど?」
「アーチー…?」
エミヤが力なく呟くように繰り返すと
アーチーは嬉しそうに微笑んだ。
「うん、そう。」
アーチーはエミヤに一歩ずつゆっくりと近づいた。
タイガが警戒しエミヤを守るため構えると
エミヤの前まで来て跪いた。
「一緒に行こう」
ドクンと、エミヤの心臓が大きく鳴った。
思い出した。昨日の夢でも言われた言葉だ。
「…どういう意味だ?」
タイガが意味が分からないという風に
エミヤの前に守るように立ちながら言った。
「そのままの意味さ。
僕は君を迎えに来たんだ」
ガンッ!
ハヤテがアーチーに椅子で殴りかかった。
「野蛮だなぁ」
アーチーは椅子を避けたことで地面に大きな傷が付いた。
「おやおや、怖い顔をしますねぇ」
ハヤテは傷の事など気にも留めず、
恐ろしい顔でアーチーを睨んでいた。
「―炎よ魔を燃やせ―」
後ろからタイガが、両手を構え
コールに向かって大きな炎を放った。
「っ…!
…ちょっとみくびってたみたいだ。」
アーチーはハヤテに手を伸ばし襟を掴んだ。
「僕を攻撃したら、お仲間も傷つくよ
さあ、その子を渡して。」
力が使えないであろうハヤテを人質にして、
タイガを、脅迫した。が、タイガはもろともしない。
「みくびるな」
そういうとハヤテの手からキラリと光る糸が出て、
アーチーにゆっくりと巻き付いた。
「なっ…」
アーチーは驚いて糸から逃れようとしたが、
その糸は細いのにも関わらずびくともしない。
「―風よ刃となれ―」
コールがそう唱えると周りの風が刃を形成し、
糸に向かって放たれたが、糸はそれでもびくともしない。
「あの世で己の愚かさを嘆け」
冷たい声でハヤテがそう言うと
糸はアーチー締め付け、やがてアーチーの体は消えた。
しかし、エミヤは小さな靄が飛んで行くのを、見た気がした。




