《エミヤ》
青い綺麗なステージ衣装を身に纏い。
大きなステージの上。
たくさんの観客の前で楽しげ歌う少女。
少女が歌い終わると観客が声を合わせ叫び始めた。
『アンコール!アンコール!アンコール!』
しばらくすると、衣装を変えた少女が再び現れた。
ひまわり柄の夏らしいワンピースだ。
『♪夏の日ひまわりのような君の笑顔に救われた♪』
アンコール曲も終わり、ついにライヴは終わりを迎えた。
『エミヤ良かったね~!』『ね~!何か癒されるっていうかぁ~!』『だよねだよね!』『また来よ~!』『うん!絶対来ようね!』
収まりきらない熱を冷ますように、感想を友人等と言い合いながら、人々は雪崩のように帰っていった。
「はぁ、疲れたぁ…………」
少女が机に突っ伏し息を整えてていると、後ろから凛とした大人の声がした。
「エミヤ。
今日はこれで終わりよ。お疲れ様。」
彼女はマネージャーである芝崎 佳代。
黒縁メガネと、その眼鏡越しにも分かる切れ長の瞳が特徴。
敏腕で冗談のひとつも言わない真面目な人のため、よく怒って居るように見られるが、エミヤは佳代が優しい女性だと知っていた。
「はい!お疲れ様でした」
エミヤは佳代にニッコリと笑いかけ挨拶をし、ファンに見つからないように気を付けながら家に帰宅した。
エミヤが帰宅した家の表札には火砕と書かれている。
「ただいま~……。」
人が居るかどうか解らない家に向かってエミヤはそっと声をかけた。
すると、リビングの方からエミヤのいる玄関に向かって、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「エミヤちゃん!おかえり~!」
「メグちゃん!ヒロくん!帰ってたの?」
満面の笑みでエミヤに抱き付いたこの女性は
火砕 芽実。
その後ろから二人をニコニコみているのは
火砕 泰人。
「そうよ!タイガには言っといたはずだけど…。
でも、明日にはまた出ちゃうのよ~。ごめんね?」
タイガと呼ぶ、自分の息子がいるであろう、
リビングの方を見て、恨めしそうな顔をしてから、
エミヤに手を合わせてウィンクして見せた。
芽実と泰人は仕事の関係上、殆ど家に居ないのだ。
偶にふらっと帰ってきてはまた、すぐに仕事へ行く。
「ううん。お仕事頑張って!
ご飯はもう食べた?」
「大丈夫よ!エミヤちゃんこそ疲れたでしょう?
もう、おやすみなさい」
二人が食べたと言うことは、リビングにいるはずの
火砕 泰芽も同じく食べたはずと考え、エミヤは芽実の言葉に甘えることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて…。」
芽実と泰人にお辞儀をし、エミヤはリビングには向かわず直接上に上がった。
部屋に戻るとガバッとベッドに寝転んだ。
最近、仕事も波に乗り、忙しくなってきて疲れているようだ。
だが、休んでいる暇はないとガバッと起き上がり、教科書やら宿題やらを整頓し、手早く宿題を終わらせた。
「次は歌の練習…はもう暗いし聴くだけにしよう。」
近所迷惑になっても申し訳ないので、CDプレイヤーにCDを入れて今日歌った新曲を聴き始めた。
「エミヤ~、入っていいか?」
曲のサビが終わったところで、ドアの外から声が聞こえてきた。
「ん~?いいよー」
エミヤがそう返すと、タイガが部屋に入ってきた。
「なに?」
一応聞いては見たものの
大方ゲームか漫画のことだろうと思いながら
エミヤはCDをとめてタイガを見つめた。
「………いや、さ。明日、部活決め…だろ?」
「え?うん。そうだけど。」
明日は中学生での部活動の用紙を書く日だ。
エミヤは仕事が忙しいので部活に入る気はなかったのだが。
「……俺とおんなじとこ入んねぇ?」
顔を伏せているせいで、エミヤにはそう言うタイガの表情は見えなかった。
「……ええっ!?
何で急に!?どうしたの!?」
タイガから誘ってくることが、エミヤにとってはあまりに意外で大袈裟に驚いてみせた。
「そ…、そんなに驚くことないだろ!?」
するとタイガはガバッと顔を上げて抗議した。
「驚くよ!
………で、どこ?」
「いや、その………特殊能力部ってところ」
特殊能力部…?
そんな部活あっただろうか。
何んだろう、そのヘンテコな部活名は…。
運動部か文化部なのかすら解らない。とエミヤは怪訝な顔をした。
しかし、エミヤの通う中学は私立のため、そういう部活はちょくちょくある。
「エミヤって、そういうの嫌いだったけ……?」
エミヤがしばらく怪訝な顔をしていると、それを見かねたタイガに探るような不安そうな声で聞かれた。
「ああ。ううん、むしろ好きだけど
なにその部?活動内容は?」
エミヤは魔法や超能力など、そういうものは好きだが、部活の活動内容が皆目検討もつかない部に、安易に入ることはできない。
「えっ………さ、さぁ…?」
あきらかに目が泳いでいる。
(タイガが私に隠し事とはいい度胸ね…。)
ここは、根掘り葉掘り聞き出してやろうかとも思ったが、タイガがエミヤに隠し事をするということは、それなりの事情があるのだろう…とエミヤは考えた。
(ここは、大人しく騙されてあげようかな)
「はぁ………。解ったよ。」
「えっ…ほ、本当に良いのか!?
断ってもいいんだぞ!!」
タイガはエミヤが受け入れたのが余程信じられなかったのか、目を見開いて慌て出した。
「何よ。タイガが誘ったんじゃない」
エミヤは思いっきり怪訝な顔をして目を細めてタイガを見た。
「いや、そ、そうなんだけどな………
う、うーん………。」
「もう!行くって決めたら行くの!
はい、出てって出てって!」
業を煮やしたエミヤはタイガを部屋の外に追い出した。
やはりタイガは何かを隠しているようだ。
それが何であれエミヤは行くと決めたので今更変える気はない。
(この音澤 愛雅、
特殊能力部とやらに入ってやるわ。)