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黒い助っ人

ここのところ、この小説を書くのに超苦戦しております。更新が遅れてばかりで、ごめんなさい。


アスカから帰還した青志は、仲間を助けるためにオークへ挑んで行ったオロチの消息を求め、モウゴスタ市に向かう。そこで、かつての弟子であったシムと再会。否応なく、オークとの戦いに巻き込まれることとなる。

 ぐおおおおぉぉぉおおおっ――――!!


 吠えるオーク・キング。

 その口から放たれる砂のブレス。

 空気が焦げるほどの超高速で飛んだ無数の砂の粒が、青志の撃ち出した衝撃球をあっさり霧散させ、更に青志自身に襲いかかる。

「うわっ!」

 直撃すれば、人体の肉の部分がこそぎ取られて、骨だけにされてしまうだろう砂の奔流。スライム・ゴーレムが全身を広げて盾となり、辛くもそれを防いだ。一瞬でも遅ければ、青志が即死していたところだ。


「スライムくん! 後で好きな魔ヶ珠を混ぜてやろう!!」

 スライムゴーレムが喜ぶかどうか分からない褒美(ほうび)を口にしながら、青志は次々と衝撃球を放った。

 危うく死ぬところだったのだ。やり返さない訳にはいかない。

 ブレスを連発できないのか、オーク・キングは手にした槍で衝撃波のこもった水の球を打ち落とす。

 

 しかし、衝撃球はオーバーペース気味に、様々な軌道で放たれ続ける。オーク・キングの槍が、徐々にその速度に追いつかなくなり、ついに最初の1発が右肩に着弾。毛穴から血煙が上がり、槍がオーク・キングの手から滑り落ちた。

 青志はここぞとばかりに、魔力を振り絞って衝撃球を撃ち続ける。

 間断なく放たれた5個の衝撃球が、回避不能のタイミングでオーク・キングに命中しようとした。

 そのとき――――。


 オーク・キングの背後から走った一条の閃光が、全ての衝撃球を消し飛ばした。

「なっ・・・!?」

「調子に乗るのも、それぐらいにしておきな」

 ハスキーなセクシーボイスとともに、オーク・キングの前に進み出たのは、顔は猪なのに、なぜか妙に色っぽい女風のオーク・クイーン。右手の鞭で、青志の衝撃球を防いだらしい。よく見れば、その鞭は金属質の光沢を持っている。金属を加工したのか、そういう素材が得られるケモノがいるのか。どちらにせよ、そんな鞭で打たれたら、確実に大怪我を負うことになるだろう。


「わー、そんなのでシバかれたくないんだけど」

 軽口を叩くようにそう言った青志だが、実はかなり本気で焦っている。そうやって時間を稼ぎながら、スライムゴーレムを身に纏っていく。

「アンタがあたしのものになるって言うんなら、優しくしてあげるわよぉ?」

「お姉さん、色っぽいから、ちょっと考えちゃうなぁ」

 オーク・クイーンと仲良くなることによって、この死線から逃れられるなら、それでも構わないかなと思ってしまう青志である。元々、シムを助けるのが目的だったのだ。青志自身には、オークたちを倒さねばならない理由はない。


「じゃあ、おとなしく死んでくれるかしらぁ? そうしたら、あたしのオトコにしてあげるわよ」

「えーと、もしかして、死体相手にしかその気にならないタイプ?」

「アンタみたいなヤツ、生きたままだと安心できないと思わない?」

「心外だなー。これでも、浮気とかしないタイプなのに」

「だからそれを、死んで証明してみなさいな!」

 軽口の応酬に飽きたのか、オーク・クイーンが金属鞭を振るう。


 ぱん――――!!


 乾いた音とともに音速を超えた鞭の先端が、青志に襲いかかる。

 それを防いだのは、分厚い水の壁だ。

 衝撃波も錬金魔法も乗せず、青志はただ水を生み出すことだけに魔力を集中させたのである。

 金属鞭は水の壁の一部をこそぎ取っただけで、その勢いを失った。

「ちいっ!」

 舌打ちするオーク・クイーン。

 その横っ面に、まるで関係ない方向から水の鞭が炸裂する。


 必殺の一撃だ。

 青志に気を取られている間に、オーク・クイーンの死角に回り込んだ霊獣ゴーレムが、衝撃波を込めた水の鞭を放ったのである。

 グラリと傾くオーク・クイーンの身体。

 が、次の瞬間、オーク・クイーンの右手から稲妻のように閃いた金属鞭が、青志をぶっ飛ばした。

「がっ――――!!」

 予想外の攻撃に、受け身も取れずに地面に溜まった水に突っ込む青志。前もってスライムゴーレムを防具代わりに身に纏っていなければ、治癒魔法が追いつかないようなダメージを負っていただろう。


「てか、衝撃波を受けて平気なのは・・・」

 追撃を警戒しながら立ち上がった青志が見たのは、衝撃波を受けて飛び出してしまった片目を、手で元の位置に押し戻しているオーク・クイーンの姿だった。

「あんた自身がゾンビだったのか・・・!」

 青志の指摘を肯定するように、オーク・クイーンがニヤリと笑う。

「こちらの身体の方が、修理が簡単で良いんだよ」

 眼窩に戻された目はしばらく勝手な動きをしていたが、やがてその焦点が青志に合った。機能を取り戻したようだ。


「他のゾンビは、そんな回復力は持ってないようだけど・・・?」

「これも、死霊術のうちさ。壊れた死体を治すってね」

「生きているときは自分が怪我をしても治せなかったけど、死んだ今なら、いくらでも修復できるって訳か」

「その通り! 便利だろぉっ!!」

 嵐のように襲いかかってきた金属鞭を、青志は水の壁で受け止める。が、先ほどより、一撃でこそぎ取られる水の量が、はるかに多い。見れば、金属鞭を中心に、竜巻のような風の渦が生じていた。


「風使いか! 厄介な・・・!」

 風使いのゾンビなんて、やっとの思いで倒したゴブリン・キングと同じではないか。腐食球を放っても、強い風で押し返されてしまうだけに厄介である。しかもゴブリン・キング戦の最大の功労者の大蛇ゴーレムたちは、まだオーク・キングと戦っている真っ最中だ。

 片腕が使えなくなり、槍も手放してしまっているはずなのに、まだ4体の大蛇ゴーレムと戦えているなんて、やはりオーク・キングの強さは普通ではない。


 蛇体サハギンはジャイアントオークと力比べの最中だし、マナとミウはオークたちの数を減らすのに追われている。『アンダインの爪』の団員たちが、もっと戦力になれば助かるのだけど、相変わらず組織的な行動を取れていなくて、個々人が勝手に戦っているだけだ。青志から見れば、歯痒いばかりである。

 誰かが助けてくれないかなと周囲を見回す青志だが、やはり1人で何とかしなければならないようだ。


「誰でもいいから、助けてくれよぉ~」

 わざと弱音を吐きながら、精神の余裕を維持しようとする。

 とりあえず、オーク・クイーンの攻撃を水の壁とスライムゴーレムで受け止め、甲冑鷹とミミズゴーレムの土魔法で倒すしかない。ゴーレムたちの攻撃が功を奏するまで、青志はひたすら堪えるしかない訳だ。

 青志は腹を据えて、オーク・クイーンを睨みつける。

 その視界が、いきなり真っ暗になった。


「うおっ!?」

 驚いて飛び退くと、それが真っ黒い誰かの背中だと判明。

 蜂のように胴がキュッとくびれた、肉感的な後ろ姿。背中まで伸びた灰色の髪。首から下を包み込んだ漆黒のボディースーツ。

「ジュ、ジュノ?」

「うむ。呼ばれたので、やって来た」


「呼んだ? オレが?」

「助けてくれと言っただろう? だから、助けに来た」

「は? そうなの? いや、助かったよ。ありがとう」

 青志の頭の上を、宇宙船の近くで遭遇したロケット噴射口を持つ甲虫が飛んで行った。甲虫を通して、ずっとジュノに見られていたらしい。

「気にしないでいい」

 シャキンという金属音とともに、ジュノの両の手のひらから30センチを超える真っ黒な刃が飛び出す。


「何だよ、お前!? 急に現れやがって!!」

 ガラの悪い口調になったオーク・クイーンが、不機嫌さ丸出しに金属鞭をジュノに叩きつける。


 ギィン――――!!


 ジュノはその攻撃を、あろうことか、両腕をバンザイをするように上げたまま、無防備な胴体で受け止めた。

 しかし響いたのは、肉を打つ音ではなく、金属同士がぶつかり合う音。

「なっ――――!?」

 オーク・クイーンの表情が驚きに染まった途端、ジュノの姿がかき消えた。そして、オーク・クイーンの背後に実体化。振り上げたままの両腕を振り下ろすと、オーク・クイーンの両腕が肩から斬り飛ばされる。


「お、お前っ!?」

 両腕を失いながらもジュノへ敵意をぶつけようとするオーク・クイーン。その首が、あっさりと地に落ちた。

 青志の苦戦ぶりが嘘のように思える、圧倒的なジュノの勝ちっぷりだ。

「そうか。ジュノのユニーク魔法は、瞬間移動だったな。でも、ずいぶん自由自在に使いこなせるようになっちゃって・・・」

「アコーで、ヒョウタと一緒に大型の水棲動物を狩りまくったのだ」

 再び青志のそばに現れたジュノが、そう説明をしてくれた。


「もしかして、ここまで瞬間移動してきたのか?」

「そうだ。直前までアコーにいた。ついでに、あちらにヒョウタを置いてきた」

 ジュノが指し示したのは、『アンダインの爪』の団員たちがオークと乱戦を繰り広げていた辺りだ。今は、オークに匹敵する体格のヒグマの獣人が、暴風のように暴れていた。オークの首や腕が、ポンポン飛んで行くのが見える。恐ろしくグロテスクな所行であるはずなのに、まるでマンガのような光景だ。


「あれっ? 一気に形勢逆転?」

 クイーンが倒れ、雑魚たちも一掃されかけてるとなると、残る脅威はジャイアントオークとオーク・キングだけ。ジャイアントオークは蛇体サハギンが、オーク・キングはオロチの大蛇ゴーレムが、一応押さえてくれている。

 まずはオーク・キングから仕留めるべく、青志とジュノが攻撃態勢に入る。衝撃球なら、大蛇ゴーレムにダメージを与えずに、オーク・キングをのみ傷つけられるはずだ。


 右腕が利かず、武器も持たない状態で、宇宙金属製の大蛇ゴーレム4体を相手に、オーク・キングは善戦を続けていた。

 土魔法で作った盾で、大蛇ゴーレムの攻撃をことごとく受け止めては、左腕で殴りつけているのだ。もちろん、そんな程度で宇宙金属を破壊できる訳もないので、時間さえかければ大蛇ゴーレムたちが勝利を得ることだろう。

 そんな状態でオーク・キングは、クイーンが倒されたのに気づいたようだ。

「ちぃっ! ここまでか!」


 吠えると、左腕の一振りで大蛇ゴーレムたちを引き剥がす。

 その姿は満身創痍なのに、表情には露ほども絶望の色がない。

「今回はしてやられたが、次も同じようにいくと思うなよ!」

「この状況で、次があると思っているのか?」

 妙な迫力を出しながら、ジュノが凄む。

 大蛇ゴーレムたちも、四方からオーク・キングに睨みを利かせる。

 ジュノの後方に立ち、衝撃球を撃ち込む隙をうかがいながら、しかし青志はオーク・キングのまとう余裕に違和感を抱いていた。


 いや、待て。まだ、ゾンビオークたちが動きを止めていないということは――――。慌ててオーク・クイーンに目をやろうとする青志。が、ジュノによって斬り離されたオーク・クイーンの首も胴も水没してしまっていて、その動向が確かめられない。

 しかも、オーク・キングがとんでもない魔力を放ち始める。

「この場は退くが、お前たちは逃さん!」

 オーク・キングが何かをしようとした瞬間、オロチの大蛇ゴーレムたちが泡を食って逃げ出した。水面を滑るように、凄まじい速度で、あっという間に姿を消してしまう。


「ゴブリンの王の息子め。同じ手は食わんか。しかし、構わん!」

 オーク・キングを中心に、桁違いの量の魔力が爆発。ほぼ物質化した圧力が、青志の身体をよろけさせる程の勢いで、吹き抜ける。

「な、何を――――?」

 青志の発した疑問の答えは、すぐに出た。

『アンダインの爪』の団員たちと戦うオークたちの肉体が、次々と変貌し始めたのだ。

 肉が泡立ち、骨が変形し、オークたちの巨体が更に膨れ上がっていく。


「まさか、進化を!?」

「そうだ。ここにいる者たちを無制限に進化させてやるっ! 人間以外は全てだ! オークはもちろん、貴様のゴーレムもなぁっ!!」

 そう言って、高笑いするオーク・キング。

 頭部からボコボコと角を生やし始めたジャイアントオークの前で、蛇体サハギンゴーレムが、激しく身体を震わせる。

「ゴーレムまで進化させて、どうしようと・・・あっ!!」

 不意に、青志と蛇体サハギンゴーレムとの間の繋がりが断ち切られた。


「ゴブリンの小僧の操るワイバーンのゴーレムも、強制的に進化させてやっただけで、途端に暴れ出しおったわ!」

 どうやらオーク・キングに無理やり進化させられたせいで、蛇体サハギンゴーレムは暴走状態になってしまったらしい。

「宇宙金属でできたオロチのワイバーンをどうやって倒したのかと思ったけど、こういう方法だったのか」

 それを経験していたせいで、オロチの大蛇ゴーレムは一斉に逃げ出した訳だ。


「まずい! 重装サハギンも、コントロールを外れた!」

「うはは! お前の頼みのゴーレムたちが敵に回るのを、指を咥えて見ているが良いわっ!!」

「くっ・・・!」

 スライムやミミズゴーレムたちが、まるで苦しんでいるように身悶える。同時にコントロールが揺らぎ出す。危険だ。今、ゴーレムを失うのは、青志にとって致命的である。しかしそれ以上に、少なくない時間を共に過ごしてきたゴーレムたちと別れねばならないという喪失感が、青志の胸を鋭く(えぐ)る。


「い、や、だ~っ!!」

 反射的に、青志は特大の衝撃球を撃ち出す。

 魔力を放出し切った直後のオーク・キングには、それをかわす力は残っていない。衝撃球がオーク・キングに命中するかと見えた瞬間、水面を突き破って立ち上がった何者かが、それを受け止めた。

「――――!?」

 オーク・キングをかばったのは、首と両腕を失ったはずのオーク・クイーンだ。元より死体のオーク・クイーンには、衝撃球でダメージを与えられない。その両腕は、なぜか元通りに繋がっており、右手に己の生首を抱えている。


「まだ、動けたのか!」

 ジュノが斬りかかるも、ヒラリと後方に跳び下がるオーク・クイーン。

「あたしらに気を取られてる場合かい?」

 頭を元の位置に戻すと、オーク・クイーンが一方を指し示す。

 そちらからは、制御を失った蛇体サハギンの1体が向かって来ていた。進化により、その全身は一回り膨らみ、両手の指からは長大な爪が伸びている。明らかに、前より凶悪な外見だ。そして、その敵意ははっきりと青志に向けられていた。


 もしかして、ゴーレムになってもまだ、青志に倒された時の恨みが残っているのだろうか? それとも、ゴーレムとして使役されることに恨みを募らせていたのか? だとしたら、制御を失ったゴーレムのほとんどは、青志を狙ってくるのかも知れない。

「おい・・・、やめろ・・・」

 ゴーレムから恨みをぶつけられるという事態に、青志はひどく動揺していた。この世界に落ちてきて以降、ゴーレムたちと楽しく過ごしてきたつもりだったが、全て青志の独りよがりだったというのか?

 

 迫ってくる蛇体サハギンゴーレムを前に、青志の身体が(すく)む。心が萎える。

 そんな青志の心情を知ってか知らずか、何の躊躇(ためら)いも見せず、長大な爪を振り上げる蛇体サハギン。

「やめろ・・・やめてくれ・・・!」

 その途端、地面から突き出した何本もの石の槍が、蛇体サハギンの下半身を貫いた。

 同時に上空から石飛礫が降り注ぎ、蛇体サハギンの腕を破壊する。

 最後は、青志のすぐそばから放たれた石の球が、蛇体サハギンの胸に大穴を開けた。


 胸の魔ヶ珠を失って、ただの土塊(つちくれ)に還る蛇体サハギンゴーレム。

 青志は驚きに目を剥いたまま、とどめの一撃を放ったスライムゴーレムを見やった。

 宇宙金属製の真っ黒なスライムの不定形のボディーから、小さな猿の上半身が浮かび上がり、青志を見返す。青志自身忘れていたが、スライムゴーレムの魔ヶ珠には、鬼猿の魔ヶ珠を合成していたのだ。

 その鬼猿の口が開いて――――。

「さはぎんタチハ、マダ新入リ。ダカラ裏切ッタ。すらいむハ、あおしノ友ダチ。裏切ラナイ」


「・・・? なんか声が聞こえたけど・・・」

 まさか、進化したせいで?

「サッキノ約束。すらいむハ、空ガ飛ビタイ。鳥ノ魔ヶ珠ヲ希望」

「はい。分かりました」

 状況に置いてけぼりにされたまま、青志は素直に頷いた。

 

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