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王都、そしてアスカ

熱々のカレールーを左手に浴びてしまい、火傷のせいで執筆が進みませんでした。お恥ずかしい・・・。

 青志が2つのユニーク魔法が使えるというジュノの言葉に、全員の視線が青志に向けられる。

 当の本人は、ハトが豆鉄砲を食らった状態だ。きょとんとしたまま、ジュノを見ている。

「オレが・・・ユニーク魔法を、2つ・・・使える?」

「なんだ。気づいてなかったのか。アオシの魔ヶ珠は5つあって、そのうちの2つは十分に大きくなっている。2つ目のユニーク魔法が使えるようになっているはずだ」


「まるで、そんな自覚はなかった・・・」

「まあ、偶然に発動しない限りは、確かめ様がないしな。自分がどんなユニーク魔法を使えるか、いや、ユニーク魔法を使えることさえ知らないまま、一生を終える者も少なくないぐらいだ」

 世界中に放った子蟲たちを通じて、ジュノはそんな者たちを観察し続けていたのだろう。

「それで、オレの2つ目のユニーク魔法は、一体どんな・・・?」

「申し訳ないが、そこまでは分からない。私に分かるのは、アオシの魔ヶ珠の成長具合だけだ」


「そ、そうか・・・。じゃあ、偶然に判明しない限り、サムバニル市に戻るのを待つしかないか」

 キョウに見てもらったら、2つ目のユニーク魔法の中身も分かるはずだ。

 しかし、それは何ヶ月も先のことになってしまう。

「王都やアスカにも、どんな魔法が使えるかを見ることのできる人はいますよ、確か」

「え、そうなの?」

 そこにもたらされるシューマンからの朗報。


「ただ、私としては、ユニーク魔法の中身を調べるのは、王都ではなくアスカで行って欲しいのですが・・・」

「ん? ・・・あ、王都でそれを調べると、王に情報が筒抜けになっちゃう?」

「はい。その可能性は高いと思われます。まあ、王に知られたからと言って、必ずしもマズいことになるとは思いませんが、知られない方が賢明だと・・・」

「そうだね。ゴーレム魔法の扱われ方も不安だもんね。

 でも、アスカだと大丈夫なのかな?」

「アスカは特別です。王都のすぐ近くにありながら、唯一、王が何も手出しできない存在でもありますから」


「そうだね。確かに、アスカは特別な街だ。住人の半分以上がユニーク魔法を使えるのだからね。どんなユニーク魔法が使えるか見てくれる者も、1人や2人ではないはずだ」

「そうか。じゃあ、アスカで見てもらうことにするよ」

 ジュノの言葉もあり、青志はアスカでユニーク魔法について見てもらうことを決定した。

 自分に、新しくどんな能力が目覚めたのか、期待は大きく膨らむばかりである。


「それはそうと、ミウとシオンに加えて、ジュノまで増えちゃったけど、船には乗せてもらえるのかなぁ?」

「それは、任せて下さい! 私から船長には上手く言っておきます!」

 そう言って、自分の胸を叩くシューマンの目が、いつになくキラキラしている。誰がどう見ても、ジュノにノボせているようだ。ジュノの元々の姿がクモ型と知りながら好意を寄せるとは、シューマンの神経も普通ではない。


「オレたちは船で王都に向かっているところなんだけど、ジュノもそれに付き合うってことでいい?」

 ジュノが同行を望んでいるのは分かっているが、一応確認だけはしておく青志。

「ああ、構わない。色々な場所を見れることは、むしろありがたいよ」

 ジュノも鷹揚に答える。この先の寿命がどれだけあるのか分からないが、長命者らしくのんびりしたものである。

 必要そうな物を運び出すと宇宙船を封印し直し、一行はアルガ号へと戻った。





 急に乗船人数が3人も増えたことに、カウラウゴ艦長は渋い表情を見せたが、シューマンの熱心な説得により、なんとか許可を得ることができた。

 船室の数はそのままだが、ウィンダがいなくなったこともあり、不自由するほどではない。実質、増えたのはミウとシオンの子供2人だけなのである。

 やがて船の修理も終わり、青志たちはまた、王都に向けて出発した。


 そして、2ヶ月後には、あっさりとシャクシに到着。

 序盤の波乱が嘘に思えるような、順調な航海であった。

 シャクシからは、陸路3日で王都に着くそうだ。その間の街道は整備されており、宿泊用の街があるのはもちろん、衛兵までが巡回を行っていて、危険は全くないという。

 港町としてのシャクシはアコーに倍する規模だし、それだけ王都の羽振りがいいということだろう。

 素直に、感心する青志である。


 カウラウゴ艦長たちも王都に行かねばならないとのことで、青志たちも同道。

 ブルードラゴンとの遭遇。ドラゴンの逆鱗の入手。半魔人の誕生。艦長は、それらを王に報告する必要があるらしい。もちろん、姿の変わってしまったガオンも付いて来ている。

 オロチの正体を隠すためにゴブリン・マスクを着けたままの青志たちにとっては、カウラウゴに同道できるのは渡りに船だ。

 ゴーレムたちは、街道から外れた所をこっそりと追随させた。


 王都に着くと、青志たちはカウラウゴ艦長たちとは別れ、モウゴスタ家の本家を訪問。ウィンダが失われた経緯を説明した。と言っても、ウィンダが魔人化してしまったことは、青志たちだけの秘密だ。ウィンダの評判を貶めるだけだし、船員は残らず失神していて、青志たち以外に目撃者はいなかったからである。

 モウゴスタ本家の当主は穏やかそうな老人で、青志たちのマスク姿も咎めずにいてくれた。ウィンダがブルードラゴンの襲撃に巻き込まれて失踪したことについては、とても無念そうな様子を見せた。子供のころのウィンダをよく知っていたらしい。


 ウィンダの警護についてはシューマンが責任者であったために、叱責を受けるのを覚悟していたようだが、(ねぎら)われただけだった。だが、サムバニル市に戻ってから、ルベウスから罰を受けることは、免れないことであろう。

 青志たちは、老人からウィンダの人となりについて話すように求められ、この日はモウゴスタ邸に泊まることになる。

 夕食を摂った後に、ワインを飲みながらウィンダの話を聞く老人の目には、うっすらと涙が光っていたように、青志には見えた。





 翌日、モウゴスタ邸を辞した青志たちは、王都での買い物に乗り出した。

 アルガ号がサムバニル市に向けて出発できるまでに1ヶ月近くかかるようなので、時間に余裕があったのだ。

 5~6日かけて王都観光と買い物をした後、日本人が作ったというアスカに移動する予定である。


 裕福な商人向けという宿に部屋を確保すると、一行は連れ立って買い物に向かった。

 と言っても、ほとんどの商品は、アスカで売られている方が質が良いらしい。

 おかげで、巡った店は服屋ばかりになってしまう。元々、ジュノやミウたちの服が必要だったのであるが、アイアン・メイデンの3人に加えナナンまでが大いに盛り上がり、青志、オロチ、シューマンにとっては、苦行の時間が展開された。


 結局、値段が高いばかりの服を何着も買い込み、女性陣が満足したところで、青志たちは王都から逃げ出した。

 サムバニル市より広く、城壁も高く立派な所に来たというのに、まるで楽しめなかった青志である。女性陣に振り回されたおかげで、道具屋で魔ヶ珠を物色することも忘れてしまったのも、痛いところだ。

 王都では、全員で連れ立って動いていたせいでそうなってしまったが、アスカではそれぞれに好きなことをして、楽しみたいと思う青志であった。





 そして、念願のアスカ到着。

 王都から更に内陸に進んだ緩やかな山間部に、アスカはある。

 サムバニル市の4分の1ほどの面積のアスカは、周囲を真っ白に塗られた土塀と堀に囲まれた美しい街だった。

 山間部ながら水は豊富なようで、堀には清浄な水が満たされ、街の外には黄金色の稲穂が揺れる田が広がっている。米を栽培しているのだ。

 江戸や明治時代の風景と言われたら、素直に信じてしまいそうな雰囲気である。


 アスカと王都を繋ぐ街道は、やはり砂利を敷いて整備されており、たくさんの竜車や徒歩の商人、それに冒険者たちが行き交っている。

 王都で聞いた話では、本来はオーク等の力の強いケモノが棲息する土地らしいが、集まっている冒険者たちも質・量ともに申し分ないので、商人たちが被害に遭うこともないということだった。

 そして、それだけの冒険者が集まるのは、アスカで作られている武器の性能が、他の場所とは段違いなせいだ。


 そもそも、現在の場所にアスカが作られたのは、そこに上質な鉱脈が存在したかららしい。

 実際、外から見てみると、街の北側には鉱山があり、鍛冶場などの施設もそちらに集中しているようである。

 住人が住むのは、街の中央部。そして、南側に商業区があるようだ。

 ちなみに王都から素直に街道を進むと、街の南門に着くようになっている。


「へえ。ここは、なんだか他の街と違うね」

 アスカの持つ佇まいには、オロチにも感ずるものがあったらしい。オロチの作る街がアスカに似たものになるなら、青志としても楽しみである。

「日本人が作ったというだけあって、日本らしい街だよ」

 青志は、街の外観を見るだけで、うっとりとしていた。若いリュウカたちにはピンと来ないだろうが、仕事に疲れて田舎暮らしに憧れるオッサンには、理想郷に見えてしまっていたのである。


 もんぺ姿の男女が刈り取りを行っている情景を眺めながら、青志たちは街の門にたどり着く。

 門の内外には衛兵が何人もいるが、基本的に門の出入りは自由なようだ。誰も誰何される様子はない。青志たちは、例によってゴブリン・マスクを着けて怪しさ満点なので、これはありがたい。ゴーレムは、さすがに街の手前で待機させてある。

 衛兵たちはハーフコート状の制服を着て、腰に剣を吊ってあるだけである。そして、その顔立ちは明らかに日本人のものだ。


 そんな衛兵の1人が、青志たちに注意を向けた。日本人顔だが茶髪で、着ている制服の意匠が少し凝っている。隊長格なのかも知れない。

 その茶髪の衛兵が近づいて来るのを見て、やはりゴブリン・マスクはダメだったかと不安になる青志。

「やあ、こんにちは」

「こんにちはー!」

 青志の気持ちも知らずに、明るく返事をするユカとトワ。でも、不安感が態度に出そうになる青志には、それがありがたい。


「見ない顔ぶれだけど、日本人かい?」

「そうだよー。ここが日本人の作った街だって聞いて、見物に来たのー!」

「おお、やっぱりか。俺はリョウっていうんだ。良かったら、街のお偉いさんに会ってってくれないか?」

 ユカとトワの返事に、衛兵――――リョウが相好を崩す。そこで青志は、ユカとトワがいつも以上に無邪気そうに振る舞っているのに気が付いた。


「いいのか? オレたちみたいな正体の分からない人間を、偉い人に会わせて」

 ユカとトワにばかり頑張らせる訳にいかないので、そこで青志は前に出た。

「構わないさ。ここは、日本人のために作られた街なんだからさ。それに、うちのお偉いさんはトロールにもタイマン張れる人間だから、誰と会わせても心配ないしな」

「それは、オレたちごときで心配してもらおうとしても、無理な話だわなぁ」

「そういうことだ。さあ、こっちだ。付いて来てくれ」

 先に歩き始めるリョウを、青志たちは慌てて追いかける。


 街の中は、完全に日本の風景だった。

 建物は、全て木造2階建て。屋根には黒い瓦が敷かれ、格子戸、それに大きな格子窓が、ずらりと並んでいる。

 サムバニル市や王都の建物が、全て要塞としての機能を兼ねていたことを思うと、あまりに繊細な作りに見えてしまう。


「さあ、ここだ」

 そう言ってリョウが入って行ったのは、入り口に「酒」と書かれた暖簾がかかっている建物だ。

 リョウに続いて建物に入った青志の目に写ったのは、時代劇に出てくるような居酒屋の風景である。段々と、時代劇のセットの中にいるような気分になってくる青志だ。

 

 その店の一画で大きなテーブルを占領して、昼間から飲んでいる4人組がいた。

 50才ぐらいの体格のいい、ひょうきんそうな男。やはり50才ぐらいの、身体、顔、眉、目、全てが丸い男。なぜか花魁ぽく艶やかな着物を着た少女。はっきりと明るい雰囲気をまとっている年齢不詳の女性。

 迷うことなく、リョウはそこに近づいて行く。


「こんにちは、ご一同。ご機嫌そうですねぇ」

「お。リョウくんか。一緒にやるか?」

「これでも職務中なんで、遠慮させてもらいますよ。それより、新しい日本人の客人を案内してきましたよ」

 リョウの言葉に、4人の注目が青志たちに集まる。物理的な圧力を感じるほどに、強い視線だ。

 特に、丸い男の目が放つ光が、けた外れに強い。視線だけで青志を殺せそうである。


「ほお。ずいぶん風変わりな一行だな。人間じゃない者まで混じってるじゃねぇか」

 いきなり核心を突いてくる丸目男。

 青志の背に緊張が走る。

 が、続けて、丸目男は愉快そうに笑い出す。

「面白ぇ! さあ、こっちに来て、一緒に飲めよ! そんなマスクも外しちまって構わねぇぞ。ここにゃ、ゴブリンてだけで敵意を持つ馬鹿はいねぇ!」


 丸目男の言葉を聞いて、恐る恐るゴブリン・マスクを外してみせるオロチ。マスクの下から、マスクと同じゴブリンの顔が現れる。

「うわっ、男前じゃなーい!」

 花魁少女がオロチの手を取ると、自分たちのテーブルに引っ張って行く。オロチは驚きながらも、少し嬉しそうだ。

「遠慮しねぇで、お前たちも座れよ!」

 丸目男の迫力に負けて、青志たちもテーブルに着いた。


 適当に注文の追加を済ませると、丸目男が自己紹介を始める。

「俺はウラベ・ケント。ウラケンと呼んでくれ。一応、この街の評定(ひょうじょう)衆の1人だ」

 評定衆とは、アスカの政治的な決定を行う者のことらしい。議員みたいなものだ。ただし、議長だの市長だの、明確なトップはいないという。


「俺はズダ・トモキ。やはり、評定衆をやってる。よろしくな!」

 ひょうきんそうに見えたズダは、やはり見たままのフレンドリーさで、青志たちに酒を勧めてくる。

「あたしはアラマキ・ナミコ。アラナミと呼ばれてる」

 煙管を片手に、花魁少女が色気を振りまく。煙草を吸っていい年齢なのかは、微妙な感じだ。異世界にいながらも、そこが気になる小心な青志。


「そして、私はカシマ・マリエ。この店のオーナーよ。歓迎しちゃう」

 見た目は30代なのに、マリエの笑顔は子供のままだ。おかげで、年齢の見当がまるで付かない。

 しかしそれより、青志は何かが気になった。。

「あれ? カシマ・マリエって、どこかで聞いたことがあるような・・・」

 その名が記憶のどこかに引っかかり、青志は首をひねる。


「よくある名前でしょ? それより、マナちゃんだっけ? もしかして、竜人か何か? 私の古い知り合いにそっくりだわ~!」

「あたしに似てる人を知ってるの?」

「うん。その人は、ずっと大人だけどねー。この真っ赤な髪やウロコがそっく・・・」

「あああ!!」

 マリエのその言葉に、青志は思わず立ち上がっていた。


「な、なんだなんだ、どうした!?」

 ウラケンたちが驚いたように青志を見る。

 もちろん、当のマリエも、驚いて青志を見ている。

「その古い知り合いって・・・、シンユーさんだろっ!?」

「え? シンユーを知ってるの!?」

「知ってるも何も、そのマナは――――」


「――――(わらわ)の子供じゃ」

 シンユーさん、登場。

 

 


 



 

 

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