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海のケモノたち、襲来す

突然、左腕が上げられなくなりました。肩より高く上げようとすると、強烈な痛みに見舞われます。

これが、○十肩ってヤツなんですかね?


だからと言う訳じゃありませんが、『冒険者デビュー・・・』を書く合間に少しずつ書いていた別作品、2万字を超えていたんですが、気に入らなくなって削除しちゃいました。

また、のんびり書くとします。

 軍艦アルガでの船旅は、予想に反し、青志にとって心地良いものになっていた。

 午前中は、空手の稽古。

 ここのところは、アイアン・メイデンの3人に加え、ウィンダとマナ、それにシューマンとナナンまでが参加するようになっている。また、船員たちの中にも、見学だけでなく稽古をする者が現れていた。

 黒帯にも届いていない自分が、この世界に空手を広めてもいいのだろうかと、不安になる青志だが、同時に楽しんでいるのも事実である。


 午後からは、青志は船員たちの簡単な手伝いをするようになっていた。

 マストの上で見張りや、用具の手入れ、甲板の清掃などである。

 船員たちに混じって上半身裸になって働いているおかげで、ずいぶん健康的に焼けてきたのだが、ゴブリン・マスクのおかげで口から上が真っ白なままという悲劇に見舞われてしまった。

 同じゴブリン・マスクを着けているアイアン・メイデンの3人は、おかげで口元もスカーフで隠すようになってしまう。青志みたいな焼け方になったら、死ぬしかないそうだ。


 夕食の後は、船員たちの酒盛りに顔を出す。

 ただし、船員たちと同じ調子で飲んでいたら、青志は簡単に潰れてしまうので、ほんの顔見せ程度だ。

 それでも同じ酒を飲むということで、船員たちは仲間意識を感じてくれているらしい。

 ただ、オロチがけっこう飲める口なので、徐々に船員からの人気が高まりつつあるようだ。


 宴席から離れると、青志は甲板で風に当たりながら、酔いを醒ますことにしている。

 そこに姿を現すのは、ウィンダである。

 特に約束をかわしている訳ではないのに、いつもウィンダがやって来てくれるのだ。

 最初は、他人行儀に距離を取っていた2人だが、数日も過ぎると、二の腕を触れ合わせながら夜空を眺めるようになっていた。

 一度は関係があったことを思えば、肩を抱き寄せてキスぐらいしても許されそうな気がしながらも、青志は大胆になれずにいる。





 そんな、ある日。

 アコーを出てすでに30日近くが過ぎ、ムローツという小さな街に寄港した直後。

 青志は、なんとなくマナが落ち着きを失っているのに気が付いた。

 ユカとトワと遊んでいながらも、頻繁に沖側に視線を向けるのだ。何かが気になって、しょうがない様子である。

「マナ、どうした? 何かあるのか?」

「パパ・・・、よく分からないんだけど、誰かに見られてるような気がして・・・」

 心なしか、マナが怯えているように、青志には見えた。


 すぐさま、青志は甲冑鷹ゴーレムを沖側に飛ばす。

 元々甲冑鷹を含めた鷹ゴーレム3体で、周囲の偵察をさせていたのだが、今回は沖側を重点的に調べることにしたのだ。

 海中からは、イルカゴーレムに偵察を行わせる。

 オロチも、同じようにゴーレムを沖側に派遣してくれていた。マナの母親を直接知っているだけに、マナの様子は軽視すべきではないと感じてくれているらしい。


「そう言えば、オロチにあげた魔ヶ珠って、いいのがあったんだろうか?」

 失神したリュウカを屋敷に運び込んだ直後に、オロチに魔ヶ珠を渡した青志だったが、リュウカの手当てや旅の準備のために、どんなゴーレムが作れたのか確かめていなかったのだ。

 そのうち、訊いてみようと思う。

 が、甲冑鷹が発見したものの前に、そんなことは、どうでもよくなってしまった。


「こ、これは、やばい・・・!」

 甲冑鷹の目に映ったのは、海面を埋める無数の海棲ケモノの姿だ。

 体長1メートルぐらいの魚、体長5メートルぐらいの魚竜、そして体長20メートル弱の首長竜。それらの大群が、水平線から迫って来ていたのである。

「アオシ、まずいぞ!」

 オロチも、ゴーレムを通して同じ光景を見たのであろう。切迫した声を上げる。


 マスト上の見張りたちは、まだ異変に気づいた様子はなかった。

 それもそのはず。甲冑鷹ゴーレムは、1キロ以上も沖合いで、マストよりはるかに高い位置にいるのだ。船からの見張りがケモノの群れを発見するのは、数十分先になるだろう。

 青志とオロチは、カウラウゴ艦長に危険を知らせるため、操舵室に飛び込んだ。

 最初は面食らっていた艦長だが、青志が自分の固有魔法で察知したのだと告げると、速やかに艦全体に警戒態勢を取らせてくれた。


「警戒態勢だ!野郎ども、急げ!!」

 カウラウゴ艦長が伝声管に向かってがなり立てると、一気に艦内が騒がしくなる。

 舷側からニョキニョキと突き出される大砲と()。甲板上でも、あちこちで防水布が外されたと思ったら、特大の弩が姿を現した。

 弩とは、大雑把に言うと、据え置き型の巨大なクロスボウだ。弓弦を引くには、大きなハンドルを回す必要があるが、その威力は絶大である。

 しかも、甲板上に据えられた弩は、なんと台座が360度回るようになっていた。更に、空中と海中の敵も狙えるように、上下に大きく射線を動かすことができる。なかなかの技術力だ。


「3時の方向! ケモノ無数!!」

「魚竜、首長、大量に来ます!!」

 やがて、マスト上の見張りもケモノの群れを視認し、警告を発し始める。

 もし、魚竜たちの泳ぐ速度がマグロ並みだとしたら、数分でこの船に到達するはずだ。そして、そんな巨大なケモノたちに集団で襲われたら、鉄張りの軍艦だろうと、大ダメージは免れない。


 青志たちもまた、全員そろってケモノの襲来に対抗する気である。

 シューマンは青志たちに、船室に避難していてくれと懇願してきたが、誰もその言葉に従わなかった。

 甲板の上で、ケモノたちの接近を、じっと待ち構えている。

「マナ、気になっていたのは、これか?」

「ううん、多分違う」

「あらら・・・。でも、今はこれを乗り切ることに集中するしかないな」

「うん。そうだね」

 

「大砲、発射!!」

 舷側の大砲が、空気がびりびりするような轟音とともに、一斉に火を噴く。

「きゃっ!」

 悲鳴を上げるユカとトワ。

 青志も、思わず身体を竦ませる。


 風切り音を引いて飛んで行った鉛弾が、次々と海面に着弾。水柱を上げて、何体もの魚竜を引き裂いた。

「よしっ! 大砲はそのまま撃ち続けろ!!

 次は弩だ! 発射準備!!」

 1基の弩に、数人の男が取り付く。

 巨大な矢を装填する者、ハンドルを回して弓を引く者、狙いを付ける者、そして発射トリガーを弾く者。非効率的に見える人数が、弩を動かしていく。


「あれは、魔人化を防ぐためです」

 青志の疑問を感じ取ったのか、シューマンが説明を始める。

「あ。そうか。あんなデカブツを1人で倒してしまったら・・・」

「そうです。海のケモノは大きいですからね、一気に魔人になってしまいます」

「じゃあ、大砲の方も?」

「大砲は、6人がかりです。しかも、トリガーを弾く位置は、必ず1発毎に交代させられます」

 それだと、ずいぶん大量の人員が必要となる。

「道理で、普段遊んでる船員が多い訳だ」


「発射~っ!!」

 命令とともに、弩が放たれる。

 その矢は、通常の槍より太く長い。シューマンによると、「オークの槍」と呼ばれているらしい。下品な意味もかかっていそうだが、破壊力は期待できそうだ。

 オークの槍が海面を割って水中に飛び込むと、それに身体を貫かれた魚竜が、何体も波の上に躍り上がった。

 イルカそっくりだが凶悪な牙を持つ魚竜の身体が、血を流し、朱に染まっている。

 同時に、弩を撃った何人かの船員が、胸を押さえてうずくまった。今の掃射で、海の底に沈んだ魚竜がいるのだろう。


「撃て、撃て~っ!!」

 射手を交代しながら、大砲と弩が次々と発射され、海面が真っ赤な色に染まっていく。

 それでも、海のケモノの群れは、真っ直ぐに突き進んでくる。まるで、何かに追われているかのようだ。

 群れの後方から迫ってくる首長竜たちが、その原因なのだろうか。

「爆雷、準備~っ!!」

 次に、船員たちが持ち出したのは、いくつもの樽だ。シャガルが酒を入れていた小樽の2倍程の大きさである。大体、みかん箱ほどのサイズだ。


 樽の中から伸びた導火線に火を点けると、樽の蓋を閉め、数人がかりで海に放り込む。

 数秒を置いて、爆発。

 轟音。黒煙。激しい水飛沫。そして、漂う刺激臭。

 それは、ケモノたちを仕留める目的のものではなかった。ケモノたちの鼻先で爆発させて、進路を変更させようというものだった。

 爆発と同時に漂ってきた刺激臭は、例のケモノ除けのツタの抽出液だ。その抽出液は可燃性で、波の上に炎の絨毯を広げていく。


 爆発を避けようと、押し寄せた魚竜たちが、一斉に左右に分かれた。

 しかし、避け切れない個体が、船の横っ腹に激突する。

 ドーンという鈍い音とともに、激しく揺れる船体。

「うわっ!」

 よろけて、甲板に手を着く青志。その横で、オロチも必死にバランスを取っている。シューマンとナナンも同様。

 ここに来て、初めて青志の心に恐怖が芽生える。船から放り出されたら、それで一巻の終わりだと気が付いたのだ。

 

 ウィンダたちはと見てみれば、風魔法でその身を浮かせていた。甲板に足を着けていなければ、転ぶ心配はない。マナまで抱えてくれていてるのは、とてもありがたかった。

 もちろん、アイアン・メイデンの3人も、ウィンダを真似て宙に浮かんでいる。

 女性陣を心配する前に、青志自身が我が身を心配するべきであるようだ。


 魚竜が船体にぶつかる衝撃が続く。

 また、船の上を飛び乗ってくる魚竜もいる。これは、恐ろしい。体長5メートルほどの巨体が、身をくねらせて暴れるのだ。弾き飛ばされた船員が、海に落ちるのが見え、青志たちは肝を冷やした。

 落ちた船員はミゴーゴーレムが確保し、船の上に戻したが、それはそれで、異常な出来事として船員たちの関心を引くことになってしまう。


 甲板で暴れていた魚竜には、船員たちが群がった。

 遠間から土魔法の飛礫(つぶて)を撃ち込んでから、銛を持って接近。全員で串刺しにする。

 正規の軍人たちではないはずだが、さすが軍艦に乗っているだけあって、水際立った動きだ。

 船の揺れに翻弄されて、青志とオロチは全く役に立てないというのに。


 しかし、魚竜の群れが通り過ぎると、その揺れも治まり――――。

 青志が、緊張に強張った筋肉を弛めようとした瞬間。

 今までに数倍する衝撃が、船体を揺さぶった。

 たまらず、甲板を転がる青志とオロチ。

 船体が、激しく軋む。頑丈な軍艦が、バラバラに砕けてしまいそうなイヤな音を立てる。

 揺れに慣れているはずの船員たちまでもが、なす術もなく転がっていく。

 

 その時、大混乱に見舞われる船のすぐ脇に、何本もの柱が立ち上がった。

 首長竜だ。

 何頭もの首長竜が、一斉に頭をもたげたのである。

 その身は細かなウロコに覆われ、深い緑色にきらめいている。

 白眼がほとんどなく、無表情な瞳。ワニのような大顎と牙。生臭い匂い。

「――――!!」

 青志は、息が止まりそうになった。


「撃てぇ! 攻撃しろ!!」

 再び大砲が火を噴く。

 が。

 近い。

 距離が近すぎて、逆にうまく狙えない。

 砲弾は、数発が首長竜をかすめただけで、そのまま沖へと飛び去った。


 続いて弩が放たれる。

 首長竜の文字通り長い首に、何本ものオークの槍が突き立った。

 声にならない絶叫を上げ、首長竜が首をくねらせる。その動きは、まるで蛇のように柔軟だ。

 そう、首長竜は、恐竜ではない。爬虫類である。青志が蛇を連想したのも、無理はない。ただ、その大きさが桁外れだ。オロチの大蛇ゴーレムより、はるかに巨大である。

 頭上から襲いかかる(あぎと)の恐怖に堪えながら、青志も遅まきながら反撃を開始した。


 上空からは甲冑鷹、舷側からはスライムが土飛礫を放ち、水中からはミゴーの爪、イルカの牙が、首長竜の身体に傷を穿つ。もちろんオロチの大蛇も、首長竜のヒレや腹に食らいついている。

 青志とオロチ自身も、水の鞭を振う。

 衝撃波による遠隔攻撃を鞭の形にするのは、シムのやり方だったが、打ち合わせをした訳でもないのに、2人ともシムの方法に倣っていた。結局、鞭の形が一番使い易かったのだ。


 が、水の鞭で首長竜の頭部を捉えるのは、とても難しい。

 頭がもたげられている時は、水の鞭の攻撃は射程圏外となり、届かない。逆に水の鞭が届くときは、首長竜の牙が船に迫っているときなのである。悠長に狙いを付けている余裕はない。ましてや、それが立っているのも難しい船の上でのことなのだ。

 青志とオロチの水の鞭は、首長竜の首に何度かダメージを与えているが、致命傷には程遠かった。


「くそっ! 想像以上に戦いにくいもんだな、船の上って!!」

 舌を噛みそうになりながら、オロチが悪態を吐く。

「それでも、なんとか奴らの頭に衝撃波を入れないと!」

 甲板に四つん這いになりながら、青志が答える。

 悲しいかな、宙に浮かんでいるアイアン・メイデンたちの方が、戦力として役立っているようだ。リュウカたちの放つ石の矢が、首長竜の鼻先に何本も突き立っている。


 しかし、それより首長竜を手こずらせているのはマナだ。

 ウィンダに抱きかかえられたまま熱線を放ち、首長竜に何度も苦鳴を上げさせている。

 首をかすめれば肉が抉れ、炭化した傷口を残す真っ赤な光条。顔面を捉えることができれば、巨大な首長竜といえど逃げ出すしかないであろう。


「マナちゃん、大丈夫ですか!?」

「ごめん、連発できなくて・・・!」

 首長竜からの攻撃は、ウィンダが風魔法を使ってかわし、好機と見るや、マナが熱線を放つ。さすがに熱線の連射はできないようだが、十分に首長竜に対抗できている。

 これが、首長竜1頭が相手ならば、おそらくマナたちが勝っていただろう。が、徐々にウィンダの動きが悪くなり、首長竜の攻撃をかわすのが危うくなり始めていた。同様に、マナの熱線を放つ間隔も、少しずつ長くなっている。

 このままでは、遠からず2人は首長竜の餌食になってしまうだろう。青志は、腹を決めた。


「オロチ! あれをやる! 後は任せるぞ!!」

「お、おい、あれって!?」

 決断を固めた青志の声に、オロチが戸惑いを見せる。

「氷だ! もう、それしかない!!」

「で、でも、通じるのか!?」

「だから、通じないときは任せた! オレには、もう手札がないからな!!」


 目の前でウィンダとマナが首長竜の牙にかかる瞬間など、青志は見たくはなかった。だったら、やることは1つである。

 氷の魔法がどこまで通じるかは分からないが、使えば、また気を失うことになるだろう。この状況で気を失うのは、ほとんど生命を失うことに等しい。

 それでも、青志はやるしかなかった。

 それだからこそ、やるしかなかった。


 宙空に水の球を生み出す。

 直径1メートル弱。それが10個。数が増えているのは、樹海のときより青志の魔力が格段に増えている証拠だ。

 生み出した水の球を、船に沿ってずらりと並べる。

「いいぞ!」

 青志の合図とともに、水魔法を使えるゴーレムたちが、ありったけの量の水を噴き出した。海水が簡単に凍ってくれるなら、必要のない水だ。その水流が首長竜たちに命中し、激しい水飛沫が――――。


 キンッ――――!!


 その全てが、一瞬にして凍りついた。

 

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