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二日酔いと買い物

また、ペースが遅くなっちゃいました。反省。

 翌朝、青志はしっかり二日酔いになっていた。

 寝台の上で、頭を抱えて身悶える。

 酔うという感覚が嫌いな青志は、自分からアルコールを飲み過ぎることはない。おかげで、二日酔いになったことはないと言っていい。が、せっかく街の男たちが友好的に酒をすすめてくれているのに、それを無碍に断ることはできなかった。

 おかげで、この顛末である。


 水魔法で舌の上に小さな水の球を作り出すと、口の渇きを癒やす。

 こんなときは、寝台に横になったまま水が飲める水魔法は、とても便利だ。

「あ。いや、もしかして、水魔法で二日酔いって治せる?」

 自問して、全身に水魔法を巡らせる。

 血液中のアルコールを分解するイメージで・・・。

 いや、酔いの元凶はアセトアルデヒドだったか?

 が、名前だけ分かったからといって、魔法の効果が違ってくる訳ではない。とりあえずは、ひたすら水魔法を使い続けるだけだ。


 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 ぐるぐる・・・。


 寝台につっぷしたまま魔力を循環させていると、少しずつ身体が楽になってきた。

 まさか、血液中のアルコールを、水で薄めてる訳ではないだろうなという考えが浮かんでくる。だとしたら、二日酔いとは別の理由で体調が悪くなりそうだから、大丈夫なのだろうと自分に言い聞かせる。

 体調が悪いと、ロクな考えが浮かんでこない。


 そうしていると、控え目なノックの音とともに部屋の扉が開かれた。

 頭を持ち上げて見ると、訪問者は、水挿しの乗ったお盆を持った、1人の侍女だ。20代後半ぐらいの、日に焼けたグラマラスな美人である。

「あら、起きておいででしたか? もうお昼近くですが、食事はどうされますか?」

 寝台脇のチェストの上に置かれた水挿しを交換しながら、侍女が訊いてくる。

 横になったままの青志からだと、アラブの踊り子みたいな衣装のお尻ばかりが目に入って、急速に頭がはっきりしてきた。正直言って、水魔法より、頭をはっきりさせる効果が高い。


「他のみんなは?」

「もう起きてらっしゃいさますよ。さすがに、少しお辛そうでしたけど」

「分かった、起きるよ。でも、ちょっと燃料補給」

 そう言って、美人さんのお尻に手を伸ばしたら、余裕の微笑みとともに、その手をつねられた。





 ゆったりした室内着に着替え、みんながいるというリビングスペースに向かう。ちなみに、青志の部屋もリビングスペースも、屋敷の2階である。

「あ、アオシさん、おはよー!」

「おはよう」

 高そうなソファに座って何かを飲んでいたトワが、元気そうに声をかけてくれるのへ、青志は気怠げに返事をする。

 みんな起きるのが辛そうだったという話だが、ユカとトワはとても元気そうだ。2人で話しながら、キャラキャラ笑っていた。

 これが若さかと、ちょっと憂鬱になる青志。


「やあ、昨夜は大変だったみたいだね」

 そんな青志に、爽やかに声をかけてくるオロチ。

 昨夜のお祭り騒ぎに参加していなかったせいで、これまた元気そうである。

「ああ、昼間の活躍のせいで、ずいぶん飲まされちゃったからなぁ」

 ぼやきながら、青志はオロチの隣に腰を下ろす。


「おかげで、途中から記憶がないんだ。誰がオレのこと連れて帰ってくれたのかな?」

「シューマンさんですよ」

 青志の疑問に答えてくれたのは、キョウだ。彼女は、かなり眠そうな様子である。

「そうかー。申し訳ないことしちゃったな。後で謝っとこう」


「それと、倒れた後、しばらくウィンダさんに膝枕されてましたよ」

「え!?」

 リュウカとマナと並んで座っているウィンダを見やると、頬を赤くして目を逸らされた。

「う、あ・・・、迷惑をかけてしまって、す、すみません!」

 青志は慌てて頭を下げる。

 なんとなく、ウィンダとの関係が良好になってきた気でいたのに、また台無しになってしまう。そんな心配が頭をよぎる。


「気にしないで下さい。大したことでは、ありませんでしたから」

 口ではそう言ってくれるが、目を合わせてくれようとしないウィンダ。

 またもや、少し距離が開いてしまったようである。

 心の中で、トホホと嘆く青志であった。





「あ。アオシさん、アイリから預かり物がありますよ?」

 青志とウィンダの間の微妙な空気に気づいたのか、キョウが急に別の話を切り出した。

「アイリって・・・、裁縫上手の?」

 正確に言えば、シャガルと同じ素材加工の能力を裁縫に活かしているオタク風少女だ。

「そうです。生徒会長に、何か面白い物を渡したでしょ?」

 クモゴーレムが作った、ミスリルの糸のことだ。

 

 アイリに加工してもらおうと思って、ユウコにミスリル糸を渡したのは確かだが、それが十数日前の話。

 ユウコからアイリの手に渡るのに数日かかっているはずだし、キョウがアコーに運んでくるのにも2日はかかっている。

 実質10日もない中で、アイリは何を作ってくれたというのだろう?


「取って来ますね」

 そう言って、キョウが自分の部屋から持ってきたのは、1着のシャツだった。

 サイズは、完全に男物。襟ぐりが広く、袖はない。

 手触りは絹のような滑らかさで、色は白と言うより灰色に近い無地。それが、光の当たり方によって、時に銀色に見えたりする不思議な風合いだ。


「まさか、糸からこんな物を作っちゃったのか!?」

 ミスリルの糸を編んでシャツを作るなんて作業を、たった1人で、10日足らずの間にやってしまったなんて、青志には信じられない話である。糸から必要量の布を作るのに、どれだけの労力が要るのか見当も付かない。

 毛糸を編んでマフラーなんかを作るのとは、仕事量が全然違うはずなのだ。魔法の力も凄いのだろうが、本人の裁縫の腕も、とんでもないのだろう。

 王都では、まずアイリへのお土産から探さねばなるまい。


「それと、キョウにお願いがあるんだ」

「え、なんですか?」

「後で、道具屋に付き合ってくれないか?」

「別にいいです、けど・・・?」

 青志がそう頼む理由がピンと来ないのか、キョウが曖昧に頷く。

 要は、ゴーレム用の新しい魔ヶ珠を仕入れたいのだ。そこで、魔ヶ珠の情報を読み取れるキョウに、手助けを頼んだのである。

 だのに、なぜかウィンダからの視線がキツい。

 思わず、キョウをどうにかしようとしているんじゃないよと、言い訳がしたくなる。


「オロチは、どうする?」

「僕は、ヒョウタさんに会いに行こうと思うんだ。昨夜の決闘を見逃しちゃったしね」

「まさか、弟子入りしようとしてるとか?」

「いやいや、そんな時間はないよ。一度、食事でもしながら話ができればと思って・・・」

 そう言いながら、なぜかオロチが頬をほんのり染める。

「え・・・」

 室内の空気がザワリと鳴った。





 道具屋へは、キョウだけでなく、アイアン・メイデンの3人も付いてきた。

 マナは、なぜかウィンダに付き合わされて、屋敷に残っている。

 そして、ヒョウタのことがお気に入りのユカは、オロチに付いて行きたかったようだが、空気を読んで、こちらに来たらしい。

「ヒョウタさんて、独身なのかなぁ?」

「それより、オロチさん、本気なのかしら?」

 キョウとユカ、トワが、あれこれ想像を逞しくしていたが、青志は話題に参加せずにいた。ゴブリンと熊人の間に子供は作れるのだろうかなんてことを、なんとなく考えている。

 その横を歩くリュウカは、相変わらずボーッとしていて、何を思っているのか分からない。


 道具屋は、商店が集まっている辺りに点在していた。

 船乗りを相手に売り買いが盛んなようで、けっこう大きな店構えの所が多い。人の出入りも激しく、リュウカを除く女性陣が、目の色を変える。

「あちこち、見てきていい?」

「遠くに行っちゃ、ダメよ」

「分かったー!」

 手を繋ぎながら、ユカとトワが駆けて行った。


「私は、アオシさんに何かおねだりしていいのかなぁ?」

 ユカとトワを見送ったキョウが、イタズラを思いついたような表情で、青志の顔を見上げる。

「ああ。こっちから頼んで付き合ってもらってるんだし、欲しい物があったら言ってくれ」

「わー、やったー!」

「リュウカも、欲しい物があったら、買ってあげてもいいぞ」

 小銭は持っている青志である。

「ありがとう。何かあったら、言う」


 道具屋に入ると、青志は真っ直ぐに魔ヶ珠を置いてある一画に向かう。魔道具や薬品、小物にも興味はあるが、後回しだ。

 魔ヶ珠は、一番安い部類で銀貨3枚で売られていた。サムバニル市の道具屋に比べると、銀貨1枚分高い。

「品数も、サムバニル市には負けてるな」

「冒険者の数も違うでしょうしね」

 キョウと無駄口を叩きながら、魔ヶ珠を吟味する。


「さすがに、どんなケモノの魔ヶ珠なのかまでは分からない?」

「ごめんなさい。どんな魔法が使えるかしか分からないわ」

 正直、何の属性魔法が使えるかは、魔ヶ珠の色を見れば分かるのである。青っぽければ、水魔法。赤っぽければ、火魔法だ。キョウの手を借りる必要はない。

「でも・・・」

 銀貨8枚のコーナーから、キョウが2個の魔ヶ珠を取り出した。


「それは?」

「固有魔法が使える魔ヶ珠よ」

「え? ケモノも固有魔法が使えるのか?」

「使いこなせるかどうかは別として、固有魔法を持ってるケモノは、チラホラいるわよ。でも、ほとんどのケモノにとっては、宝の持ち腐れでしょうね」

「そんなものか・・・」

 青志は、その2個の魔ヶ珠をキョウから受け取った。


「で、この2つはどんな固有魔法を?」

「1つは、シールドを張る魔法。もう1つは、魔法を強化する魔法」

「それって、すごく使い勝手良さそうじゃないか! キョウ、頼む! あるだけの道具屋、全部回ってもらっていいか!?」

 珍しく声を荒げながら、青志がキョウに迫った。

「わ、分かりましたから!」

 そんな青志の勢いに、キョウは焦りまくる。




 

 結局、残り4軒の道具屋もキョウを引き摺って回って、青志は更に2個の固有魔法を持った魔ヶ珠をゲットできた。

 硬化の魔法と、加速の魔法の魔ヶ珠である。

 こんなことなら、サムバニル市中の道具屋を、キョウと一緒に回っておくんだったと悔やんでしまう。

 いや、それより、キョウに王都まで付き合ってもらって、道具屋巡りをしたいところだ。王都なら、サムバニル市に数倍する魔ヶ珠が置かれていることだろう。


 一応誘ってみたが、やはりキョウが王都に行くのは、難しいようだ。アイアン・メイデンの他にキョウまで抜けたら、『なでしこ』の運営が立ち行かなくなってしまうらしい。

 固有魔法付きの魔ヶ珠が、4個も手に入っただけでも喜ぶべきだろう。

 後は、銀貨3枚の魔ヶ珠を10個、銀貨8枚のを10個、そして属性魔法が使えそうな魔ヶ珠を各色2個ずつ買っておいた。

 普通の魔ヶ珠は、半分オロチに渡す気である。固有魔法と属性魔法の分は、もちろん青志が自分で使う。


「じゃ、後はみんなの欲しい物を買ってあげるよ」

 鎧竜の装甲板を売ったお金がずいぶん残っているせいで、強気な青志なのである。

 だが、装甲板を売った先は、キョウたちなのだ。あまり大きな態度にはなれない。

「やったー! あっちの店に可愛いのがあるのー!」

 さっきまでいなかったはずのユカとトワが、青志の両腕を掴んで走り始めた。凄い勢いで、雑貨屋に引っ張って行かれる。油断も隙もない少女たちであった。





 キョウたちへのプレゼントは、髪を結ぶためのリボンで勘弁してもらえた。と言っても、遠く離れた土地で穫られた上質な素材で作られており、そこそこの値段はするものだ。

 キョウのは、真っ黒で赤い縁取りのリボン。アイアン・メイデンの3人には、真っ赤で黒い縁取りのリボン。頭に着けてみると、皆とても似合った。


 店を出ると、青志は別行動を申し出る。

 手に入れた魔ヶ珠で、早速ゴーレムを作ってみたかったのだ。

 しかし、キョウたちは見逃してはくれない。当然のように付いて来た。

 どんなゴーレムが生まれるか、青志が楽しみにしているのと同じように、キョウたちも興味津々だったのだ。


 一度アコーの街から出ると、街道から外れて人気(ひとけ)のない方向に足を進める。

 やがて、街道から視線が遮られた木立の中に入ると、ミゴーゴーレムたちが出迎えてくれた。そこは、青志とオロチが、ゴーレムたちを待機させていた場所だったのである。

「オロチのゴーレムは、移動済みなんだな」

 予定では、昨夜のうちにアコーの海に移動させておくはずだったのだ。青志が酔い潰れたせいで、青志のゴーレムだけが残されている訳である。


「では、まず銀貨3枚の5個から・・・」

 青志が魔ヶ珠を手に取る。真剣に、それを見つめる少女たち。なんか、気分が良くなる青志。

 順番に、魔ヶ珠を地面に落とす。


 1個目・・・体長50センチ余りの海老。戦闘向きではなさそう。

 2個目・・・カツオみたいな流線形の魚。体長は、60センチぐらい。他のゴーレムに合成すれば、泳ぐのが速くなるかも。

 3個目・・・マンボウとフグの特徴を持った魚。体長50センチぐらいの寸胴スタイル。

 4個目・・・サメ。体長は1メートルぐらいあるが、細長い。明らかに、肉食。オロチの大蛇に混ぜたら、良さそう。

 5個目・・・なぜか、コウモリ。索敵用の予備要員に決定。


「次は、銀貨8枚の分」


 1個目・・・典型的なサメ。体長2メートル余りで、やけに凶悪そうな面構えだ。海の中では、絶対に遭遇したくないタイプ。

 2個目・・・横幅2メートル程のエイ。

 3個目・・・シーラカンスみたいな怪魚。体長2メートル近く、やたらヒレの数が多い。

 4個目・・・体長2メートルのイルカ。頭がやけに大きい。超音波を発する器官がそれだけ発達しているのだとしたら、海中の索敵に役立ちそう。

 5個目・・・体長1メートル半のフナムシ。全身、無数のトゲだらけ。マオの生体装甲を思い出す。そしてキョウたち、悲鳴を上げながら、ちょっとしたパニックを起こす。


「分かった、分かった。フナムシは使わないから。

 じゃあ、続いて属性魔法持ちの魔ヶ珠、行くぞ」

 物に動じなさそうな、リュウカまでが涙目になっているのを微笑ましく思いながら、青志はゴーレムを作り続けるのであった。

 


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