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トルサとゴディ

更新が遅くなり、ただただ申し訳ないです。

書きたいことはいっぱいあるのだから、もっとペースを上げないといけませんね。


なお、2巻について、活動報告を数日前にアップしています。

よろしければ、そちらも読んでやって下さい。

 行くと決まってからは、早かった。

 同行しろとは言っていないのに、シムは顔を青くしながらも荷物をまとめ出し、オロチも「やれやれ」と言いながら、ゴーレムに指示を出し始めている。

 シャガルは、元より行く気満々だ。

 青志はマナを起こすと、猫人にオッケーを出した。

「恩ニ着マス」

 猫人が音もなく走り出す。

 いきなり、樹海の縁まで全力疾走し始める。

 青志は、アッという間に置いて行かれた。






 樹海の手前で待つ猫人たちに青志が追いついたのは、約5分後である。

 シムまでもが軽々と猫人の速度に追随していたのが、青志にはショックだった。

 魔力量の問題ではなく、ただ単に自分の運動能力が低い事が露呈されてしまったのだ。男としては、しっかりと敗北感を味わう羽目になった。

「大丈夫デスカ?」

「すまん・・・。色々と・・・大丈夫じゃない・・・」

 息も絶え絶えに答えると、青志は項垂(うなだ)れる。


 樹海に入ると、さすがに猫人もペースを落としてくれた。ケモノの気配を探りながら、慎重に歩を進めていく。

 当然、青志も索敵用ゴーレムを周囲に飛ばしてある。

 今回は、ケモノを避けながら、一刻でも早く怪我人の元にたどり着かねばならないのだ。

 コウモリたちがケモノを発見するや、それを迂回していく。時間はかかるが、勝てるかどうか分からない相手と、一々戦う訳にはいかない。


「うおっ、恐竜がいる・・・!」

「キョウリュウ?」

「四つ足でトカゲの親玉みたいなヤツ。頭に槍みたいな角が付いてる」

 日本人が相手なら、トリケラトプスと一言で分かってもらえるシロモノだ。当然、デカい。厚みがスゴい。圧が半端ない。そして、まだらな緑色だ。

 コウモリの目を通してじっくり観察したいところだが、そうもしていられないので、猫人にトリケラトプスの位置を教え、進行方向を変える。

 青志とオロチのゴーレム能力については説明済みなので、猫人も素直に指示に従ってくれる。


「おお、これは強そうだな」

 どうやら、オロチもフクロウゴーレムの目を通して、トリケラトプスを見た様だ。感嘆の声を上げている。

「アオシ、手に入れたいな」

「簡単に言うなよ」

 サイズ的には、かつて青志が倒した鎧竜とそう変わらない。

 が、あの時には、落とし穴を使って崖から落とす事ができたのが、大きな勝因となった。当然、樹海ではそんな手は使えないので、何か工夫する必要があるだろう。

 うまくオロチと連携が取れれば、なんとか勝ち目もあるかも知れないが。





 日が暮れるまでに、目的地に着くことができた。

 結局、一度もケモノとは出会(でくわ)さずに済んだ。

 トリケラトプスの他には、オークよりも大きな人型のケモノがいたのが気になった。猫人がによると、トロールというらしい。大型のものは身長3メートルを優に越え、オークやゴブリンほどの知能はないが、倒木を武器として利用するぐらいのことはするそうだ。

 ゴーレム軍団に加えることができたら、かなりの戦力アップになるだろう。ただし、それだけ倒すのも大変そうであるが。


 青志たちが導かれたのは、巨木が密集した中にある藪だった。

 藪と言っても、かなり大きい。高さは青志の身長ぐらいあり、直径は10メートル以上ある。

 猫人が藪をかき分けると、ぽっかりとした空間が顔を覗かせた。

「これは、藪に擬装されたシェルターかな?」

 よく見ると、藪は1種類のツル草だけで作られており、そのツル草は、燃やすとケモノが嫌いな匂いを出すという物である。初心者ポーターの時に、ゴッホが教えてくれた知識を思い出す。

 オロチが、かなりイヤそうな表情になっている。臭いようだ。燃やさなくても、鼻の利くケモノ除けになっているのだ。


「樹海ノ中ニ、イクツモコウイウ場所ヲ作ッテイマス」

 ケモノが嫌うツル草を植えて、人工的に作った場所な訳だ。少しでも安全に樹海を移動するための施設なのだろう。

 そしてその奥で、1人の男が死にかけていた。

 身長は2メートル近く、鍛え抜かれた身体つきは、まるでヘビー級のプロレスラーだ。

 革鎧を着ているが、血に(まみ)れた上にズタズタに引き裂かれていて、原形を留めていない。そばには、刃こぼれした巨大な長剣が横たえられている。

 青志よりは年下に見えるが、若いという程ではない。30代半ばというところか。

 髪は灰色で、白人系の外見だ。

 しかし、その男の外見を特徴づけているのは、その左腕である。


「腕にウロコが生えてる・・・」

「爪もナイフみたいだな」

竜腕(りゅうわん)ノごでぃ。彼ハ、ソウ呼バレテイマス」

「竜腕のゴディだと? 冒険者の中じゃ、ちょとした有名人だぞ?」

「シャガル、知ってるの?」

「ああ、たった5人でドラゴンを倒したら、片腕だけ魔人化しちまったっていう凄腕冒険者だ」

「魔人化?」

「ケモノでいう魔獣化のことさ」

 ドラゴンを倒したことによる魔力的成長が大きすぎて、肉体の一部が変質してしまったということだろう。何度か分不相応な大物を倒している青志には、他人事ではない話だ。青志自身が気づいてないだけで、どこか己の肉体に変化が生じていないか不安になってしまう。


「頼ミマス。ごでぃヲ安全ナ場所マデ運ブノヲ手伝ッテクレマセンカ」

 猫人が土下座せんばかりの勢いで、青志たちに懇願する。

「それより、ここで治療した方がいいと思うぞ」

「治療ト言ッテモ、コンナヒドイ怪我デハ・・・」

「オレとオロチは、水魔法使いだ。少しは、役に立つ筈だよ」

「エ? 水魔法使イデ、ソンナ大キナ魔力ヲ持ッテイルンデスカ!?」

 驚く猫人。青志とオロチの有する魔力の大きさが分かるのだろう。

 青志の鼻が、微妙に高くなる。


「とりあえず、その人を診させてくれ」

「オ、オ願イシマス」

 オロチとシムとともに、ゴディの傍らに腰を下ろす青志。リュックからLEDのランタンとマグライトを取り出すと、ゴディの身体を照らす。日の暮れかけた藪の中は、かなり暗い。

 シャガルとマナは、猫人とともに焚き火を始めた。ツル草を燃やし、ケモノを遠ざけるためだ。

 周辺の警戒は、例によってゴーレムたちの担当である。


「かなりひどい怪我だけど、アオシには治せる自信があるのか?」

 難しい表情で、オロチが言いかけてくる。

 オロチや青志ほどの魔力があっても、普通に治癒魔法を使うだけでは、治せる怪我ではないことが一目瞭然なのだ。

「もっと魔力が少ない頃に、これぐらいの怪我を治したことがある」

 そう、まだシムほどの魔力しか持っていない時に、青志は、ズタボロになっていたクリムトを治してみせたのだ。

 今なら、もっと短時間で治療してしまえるはずである。


「まず、鎧を脱がせる。そしたらオロチは、水魔法でゴディの傷を洗ってくれ」

 3人がかりでゴディの鎧を外すと、巨大な爪で抉られたような胸の傷が露わになった。

 オロチが掌から出した水で、静かに傷口を洗う。

「シムもオロチも、よく見てろよ。まずは、大きな血管をつなぐぞ」

 人体の構造もよく分かっていないらしいシムとオロチに、血管がどうの筋肉がどうのと説明をしながら、青志は重要な組織から順番に治療していった。


 翼竜や鎧竜、ゴブリン・キングを倒したおかげで、クリムトを治した頃とは比べものにならないぐらい魔力量を増やした青志は、夜半までにゴディの怪我を治してしまった。

 クリムトの怪我を治すのに何日もかかったことを思えば、大変な進歩である。

 数ヶ所折れていた骨も、ミミズゴーレムに土魔法を使わせてみると、きれいに繋ぐことができた。

 荒かった息も穏やかになったゴディを見て、猫人は頭を地面にこすりつけんばかりにして、感謝してみせた。どういう関係かは分からないが、よほどゴディに入れ込んでいるらしい。

 オロチとシムにもいい経験となったので、青志としても万々歳だ。





 夕食を摂らないまま治療を続け、昨夜は疲れて眠ってしまった。おかげで、空腹のために翌朝は早々に目が覚めてしまった。

 直に地面に寝ていたせいで、身体中が強ばってしまっている。

 青志が欠伸をしながら身体を解していると、猫人が朝食を持ってきてくれた。

「携帯食シカ出セマセンガ、ドウゾ」

「おお、ありがとう。十分だよ」

 干し肉や野草の入ったスープだ。その温かさが、ありがたい。


 青志がスープをすすっていると、猫人が静かに語り出した。

「改メテ、礼ヲ言イマス。ごでぃヲ助ケテ下サッテ、アリガトウゴザイマシタ」

「いや、何度もいいよ」

 恐縮する青志。感謝されるのはいいが、猫人の真剣さが、ひどく照れ臭いのである。

「私ハ、とるさトイイマス」

「トルサ? オレは、アオシという。よろしく」

 今更ながら、お互いに自己紹介もしていなかったことに気づく。


「アオシ様。ゼヒ、コノ後ハ我ラノ里ニオ越シ下サイ。歓待サセテイタダキマス」

 猫人の里と聞いて、青志の心がざわめいた。

 実は、青志は大の猫好きなのである。それも、身体の大きな長毛種が大好きなのだ。長毛種が二本足で立ち上がったようなトルサは、正直なところ、青志にとって大好物そのものだったのである。

 そんな大好物たちの住まう里に誘われて、青志はそれを断る選択肢を持っていなかった。

「分かった。喜んで、お邪魔させてもらうよ」


「アリガトウゴザイマス」

 トルサはにっこり微笑むと、立ち上がろうとした。そして、何かを思い出したように、もう一度青志の隣に腰を下ろす。

「青志様。1ツダケヨロシイデスカ?」

「うん?」

「ごーれむデスガ、ごでぃニハ見ラレナイ方ガイイデスヨ」

「え? それは、何か理由が?」

「ごーれむ魔法ガ忌ミ嫌ワレテイルカラデス」

「――――!?」





 トルサが言うには、ゴーレム使い、そして人間やケモノの死体を操るネクロマンサーは、人間や猫人からタブー視されているらしい。

「過去に、人間のゴーレムを操っていた者がいるということ?」

「ソウデス。モウ伝説上ノ話デスガ、なりひらトイウごーれむ・ますたーハ、冒険者ヤ兵士ヲ好ンデごーれむニシタトイイマス」

「そうか。そんな奴がいたんだな・・・」


 ゴーレム魔法は、忌むべき能力である。

 それは、青志自身もすでに思い至っていたことだ。

 最初にそう思ったのは、盗賊を返り討ちにして、その死体を目にした時。 

 人間のゴーレムを作る選択肢が目前に示され、青志は強い忌避感を覚えた。

 

 次にその思いを深めたのは、骸骨たちの群れを全滅させ、大量の人間の魔ヶ珠を手に入れてしまった時。

 最後に倒した冒険者たちの魔ヶ珠をゴーレム化したい衝動が、確かに青志の中にあった。そして、その認識は青志自身を地味に傷つけることになった。


 最後にその思いを決定づけたのは、オロチと親しくなった時。

“友人”であるオロチの同胞をゴーレムとして使っている我が身の罪深さを、痛感せずにはいられなかったのだ。

 青志がゴブリンのゴーレムを使うことを、オロチは気にしないと言ってくれたが、それが真意かは分からない。笑顔の下で青志への憎しみを深めていたとしても、不思議ではないのである。

 ただ言えるのは、逆にオロチが人間のゴーレムを操っていたら、許せない気持ちになったであろうということだ。ましてや、それが知り合いの物であったなら、確実にオロチを憎んでしまったであろう。


 今回、オロチの誘いに乗って樹海に来たのは、ゴーレムの戦力強化はもちろんだが、ゴブリンを主力として使っている現状から脱却したい気持ちが強かった。

 人型のゴーレムは汎用性が高いのだが、知能を持った同族の怨みを買ってしまうのが辛い。

 かと言って、道具を扱えるほどの器用な手を持ちながら、知能の低い生物が手に入る可能性も、かなり低いと思われたが。


「ゴーレム魔法って、ドワーフの間でも嫌われてるの?」

「うむ。良くは思われてないな。仲間たちが操られていたら、確実に喧嘩を売るだろうな」

 起きてきたシャガルに質問をしてみると、思った通りの答が返ってきた。

「その割には、オレがゴーレムを使っていても、あまり気にしてなかったようだけど・・・」

「お前さんは、ドワーフを使っていた訳じゃないからな。そうでなければ、俺がとやかく言う話ではない」


「シムは、どうなんだ? オレがゴーレム魔法を使っていても、平気なのか?」

「師匠は、死人を操るような真似はしません!」

 怒ったように答えるシム。

 きっと、ゴーレム魔法を忌み嫌う気持ちと、青志を師匠として慕う気持ちが、なんとか折り合いをつけた結果の答なのであろう。シムの気持ちを、裏切らないようにしなければならない。


「オロチ、そういう理由で、ゴーレムを遠ざけてもらえるか? 緊急時以外は、オレたちだけで対処しないといけなくなるけど」

「ここでケモノに出会ったら、常に緊急時だと思うけどね」

「移動するのは、ゴディ氏が目覚めてからになるから、彼が守ってくれると期待してるんだけどね」

「でも、病み上がりだろ? おまけに、彼をここまで傷つけた相手が、すぐ近くにいるってことじゃないのかな? あまり、楽観はできないと思うよ」

「あー、そうか・・・」


 トルサに確認すると、ゴディを傷つけたのは鬼猿らしかった。

 シャガルやシンユーが絶賛する猿酒を造るというケモノだ。体長は3メートル近く、恐ろしく好戦的なのだそうである。その不意打ちを喰らい、ゴディは大きなダメージを受けたという。

 ただし、ゴディも重傷を負いながら反撃をし、鬼猿は軽くない怪我を負っていると思われる。


「つくづく、恐ろしい所だね」

 げんなりする青志。

 こんな場所で、ゴーレム抜きの戦闘をしなければならない可能性があるなんて、想像するだけで気が重くなる。

 さすがにコウモリたちによる索敵は続けてるし、マナはそばに置いたままだ。どうしようもなくなったら、ゴディの目を気にせず、他のゴーレムたちを呼び寄せるつもりでもいる。

 が、それでも不安感は払拭できない。


「オロチ、キングを倒した技を教えるよ」

 仕方なく、青志はそう切り出した。

 

 

 

 

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