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偵察行

今年に入って早々にひいた風邪が、なかなか治りませんでした。

トシ食って体力が落ちている上に、仕事がどんどん過酷になっていくのが原因のようです。

更新がどんどん遅くなっている事は、ごめんなさいとしか言えません(汗)

 異色な混成パーティーが、道なき道を進んで行く。

 ヒト、ドワーフ、ゴブリンという組み合わせは、まず他では見られないだろう。

 そこに、鷹、大蛇、オーク、ミゴー、ゴブリン、ドラゴン幼女のゴーレムが加わり、一行は何かのパレードのように見えなくもない。


 オロチは不思議な気分を味わいながら、アオシと並んで歩を進めていた。

 ゴブリンでありながらヒトの知識や価値観を持ってしまった彼は、ずっとヒトと行動を共にする事に憧れてきたのである。

 父親であるキングがヒトを相手に戦争をしかけてしまった時は、その数日後に自分の望みが叶うなんて想像もできなかった。表情には出さないが、それが嬉しくてしょうがない。そのうち、キングが怨んで出て来そうだ。


 アオシとは、話題が尽きる事がない。

 2人とも口数が多いタイプではないが、知識欲は旺盛だ。お互いの持つ知識を交換するだけで、いくら時間があっても足りない気分である。

 が、それでも全てを無条件に口にしているわけではない。

 オロチにしてみれば、ゴーレムの運用方法はまだまだ内緒にしておきたいところだ。

 反対にアオシにしてみれば、キングを倒した方法は秘密にしたいだろう。


 アオシは、この惑星(ほし)に落ちて来て、まだ日が浅い。それは、話をしてみて、すぐに分かった。

 そのせいで、まだまだゴーレムの運用方法には通じていない。

 オロチが、モウゴスタ市にいながら、徒歩で2日はかかるサムバニル市にまでどうやって(ふくろう)ゴーレムを飛ばせたか等、疑問に思っている事がいくつもあるだろう。


 オロチはそういう方法を教えるのと引き換えに、アオシからキングを倒した方法を聞き出せないかと期待している。

 キングという存在は、オロチがゴーレムたちと一緒に全力でかかっても、ついに一度も勝てなかった相手だ。それを、オロチよりも非力なゴーレムしか持たないアオシが倒してのけた。

 その手段を知る事ができれば、更にオロチは強くなれる筈だ。


 ちなみに、オロチがモウゴスタ市からサムバニル市までゴーレムを飛ばせたのは、両市の間に中継用の魔ヶ珠を無数に設置しているせいだ。

 昔からの街道沿いには、約500メートルごとに。モウゴスタ市とサムバニル市の外壁沿いにも、同じく約500メートルごとに魔ヶ珠を埋めている。そしてそれは、モウゴスタ市内はもちろん、サムバニル市内にも満遍なく埋められているのだ。


 オロチは、それを5年もの時間をかけて成し遂げたのである。

 その為に、膨大な量の魔ヶ珠を手に入れ、ヒトに気づかれないように注意しながら、ゴーレムたちに作業を行わせたのだ。

 おかげで、モウゴスタ市とサムバニル市の間では、オロチは距離に関係なくゴーレムを操る事ができる訳である。

 とてつもなく地道な努力家。それが、オロチの顔の1つだと言えよう。


「アオシのゴーレムの主力は、ゴブリンたちなのか?」

「最強なのは別だけど、重宝してるのはゴブリンたちだなー」

 キングに落とされた巨大な鳥、オロチたちの戦闘を止める為に召喚した巨獣。そのあたりが、アオシの持つ最強ゴーレムなのだろう。

 オロチの操る大蛇は、確かにアオシの巨獣よりは弱い。

 が、オロチが大蛇を4体使っているのに対し、アオシは巨獣を1体しか持っていない様だ。戦闘力を合計すれば、オロチが圧勝している。


 現在、アオシ自身から感じられる魔力は、オロチ自身と同等だ。それは、アオシの持っているゴーレムの非力さから考えると、ひどくバランスが悪い。

 つまり、アオシのゴーレムのラインナップは、キングを倒す前からのものだという事だろう。

 キングを倒してアオシの魔力は増大したが、新たなゴーレムの補充はできていないという訳だ。


「要するに、アオシはキングをゴーレムの手助けなしで倒したんだな」

 この認識は、オロチにとって脅威以外の何ものでもない。

 ゴーレム魔法がなければ、アオシはただの水魔法使いなのだ。どう考えても、キングを倒せる訳がないのだ。これは、同じ水魔法使いのオロチには、イヤと言うほど分かっている。

「一体、どうやって・・・?」

 オロチの背を、ぞわぞわと悪寒が駆け抜けるのだった。






 樹海の外縁部にたどり着いた。

 濃密な緑の向こうに、薄い噴煙を上げる火竜山がずいぶん大きく見える。

「さて、どういう手順で狩りをするんだ?」

「そうだな。まずは、安全そうな場所に拠点を作って、そこから往復できる範囲で少しずつ狩ってみないか?」

 青志の問いに、オロチが慎重に答える。

 実際に樹海に着いてみて、オロチも緊張を隠せないようだ。緑色の肌が、心なしか色を失っている。


「分かった。無理せず、地道に行こうな」

「もちろん」

 正直、オロチが慎重な性格である事は、青志にとってありがたい話だ。

 シャガルのようなイケイケな奴とは、危なっかしくてこんな危険地帯で狩りはできない。いつ生命を失う事になるか、知れたものではないからだ。


「とか言っても、シャガルもいるんだけどねー」

 シャガルは頑丈そうな斧を手に、やる気満々の様子だ。

 オロチからもらえるアダマンタイトが目的でやって来た筈だが、今は単純に狩りに燃えているように見える。

 冒険者としてもそれなりの腕前らしいが、アテにしていいのかどうかは大いに悩むところだ。


 マナは鼻歌を歌いながら、散歩でもしているノリである。

 樹海のケモノなど、脅威ではないのだろうか? 外見は幼女ながら、ドラゴンでもあるのだ。その実力は計り知れない。

 リュウカとの対戦では不覚を取っていたが、あれが実力の全てではないだろう。格闘限定の戦い方では、彼女の本領は発揮できていない筈だ。


 対してシムは、さすがに表情が硬い。無理もないと言うか、これが正常な反応である。

 銀の鑑札持ちの冒険者でもなければ、踏み込むだけで生命はないという樹海で狩りを行おうというのだ。いくら戦力に数えられてないとは言え、緊張しない方がおかしい。

 それでも狩りに参加させるのは、拠点に置いていくのも危険な事に変わりない上、可能なら強力なケモノに一太刀なりとも浴びせさせてやりたいと思っているからだ。

 レベルアップが難しい水魔法使いなればこそ、大きな経験値が得られる機会を生かしてやりたいのである。


 だが、今日のところは拠点の設営だけで終わりだ。

 もう正午を回っていて時間的に余裕がないのもあるが、青志とオロチは前もってゴーレムを使って偵察をしようとしていた。

 いつもはゴーレムたちは命令に従って自律的に行動しているが、青志たちが個別にコントロールする事もできる。青志がアイアン・メイデンの入浴シーンを覗き見た時のようにだ。


 遅めの昼食を済ませると、青志とオロチは自分の荷物を背もたれにして、リラックスした体勢をとった。

 樹海の偵察の開始である。

 青志はコウモリを、オロチは梟を使用する。

 使い捨ててもいいように、樹海に到着するまでに、青志は5体のコウモリを狩っておいた。オロチの梟は、元々オロチが持っていたものだ。

 周囲の警戒は他のゴーレムたちが担ってくれているので、心配する必要がない。

 

 シムは拠点の居住性を上げるのに余念がなく、シャガルは焚き火を利用して金属の加工を始めている。焚き火程度の熱量で金属を加工できるのだから、便利な能力だ。マナは、青志の膝にもたれて、すでに居眠り中である。燃費が悪いのだろうか。

「じゃあ、やろうか」

 ゴーレム同士では意志の疎通もできないし、別々に行動を行う。偵察した内容は、後で情報交換する予定だ。

「できるなら無事に帰って来たいね」

 軽口を叩きながら、2人はゴーレムへと意識を移す。





(さて・・・と)

 音もなく飛んで行くオロチの梟を追って、青志もコウモリを飛ばす。速度では勝ち目がない。

(使えるゴーレムじゃ、圧倒的にオロチに負けてるんだよな)

 パタパタと羽ばたきながら、青志は内心でボヤく。

 そういう意味では、今回の狩りの誘いは、青志にとってありがたいものだった。

(強くてカッコいいゴーレムが手に入るといいな)


 樹海に入ると、途端に雰囲気が変わった。

 周囲の土地はロクに雑草も生えていない荒れ地だったのが、樹海内は幹や枝のねじくれた木が生い茂り、地面も分厚く苔に覆われている。

 荒れ地と樹海の境界が、切り取られた様にはっきりしているのが印象的だ。

(樹海って、土地ごと他の惑星(ほし)から落ちて来たんじゃないか?)

 なんとなく、青志はそう思った。

 樹海のケモノは滅多に外に出て来ないらしいが、そのあたりが理由なのかも知れない。


 オロチの梟の姿は、もう見えない。青志は、のんびりと樹海の中を飛んで行く。

 鬱蒼とした緑に太陽の光が遮られ、辺りは思った以上に暗い。

 視界が利かない中で強力なケモノを狩るのは、かなり危険そうだ。ゴーレムの索敵能力がなければ、青志などアッと言う間に胃袋に納められてしまうだろう。


 しばらく飛んでいると、コウモリの超音波が何かの動きを捉えた。

 超音波で周囲を探る感覚も、なぜか違和感なく使えるのが不思議だ。

(そんなに大きくないみたいだけど・・・)

 見ると、体長30センチを超える金色のカブトムシが木の幹に止まっていた。恐ろしく立派な外見だ。


(カッコいいけど、もっと大きかったらなぁ)

 ゴーレムにするには物足りないが、槍のように尖った大きなツノを見れば、戦うには厄介そうである。

 一直線に飛んで来て、あのツノで貫かれたらと想像すると、危険過ぎる。要注意だ。


 更に進むと、苔と同じ色の蛇。苔と同じ色の蜘蛛。苔と同じ色のエイ・・・。

(エイ!?)

 地上なのに、 エイにしか見えないケモノが苔の中に身を沈めていた。尾を含めて体長1メートル余り。どうやって地上を移動するのか、興味を惹かれるところだ。

 

 近場の枝にぶら下がってエイを眺めていると、もっと大型のケモノが近づいてきた。

 虎だ。それも、黒地に銀の縞々。身体も大きく、激しくカッコいい。

 エイの匂いに気づいているのか、鼻をひくつかせながらエイに近づいて行く。

(いきなり、樹海のケモノの狩りが見れるのか?)

 コウモリの中で、手に汗握る青志。


 黒虎が足を止め、辺りをぐるりと見回した。

 近くに何かがいるのは分かっているが、その位置が掴めない様だ。それだけエイの身体が苔の絨毯に同化しているのだろう。

 黒虎の視線が横を向いた刹那、エイの身体が跳ね上がった。同時にその尻尾が電光石火の様に閃く。


 エイの尻尾の先端が、黒虎の身体に突き刺さった――――。

 青志には、そう見えた。

 が、次の瞬間に目に入ったのは、黒虎の巨体がエイ以上のスピードで跳躍し、その攻撃をかわした光景だ。

(なっ!?)


 驚くべき速度で跳んだ黒虎は、エイの攻撃範囲から逃れると、近くの木の幹に着地。間髪を入れず、今度はエイに向けて跳躍する。

 それだけ大きな動きをしながら、全くの無音だ。

 そして、まだ跳躍途中だったエイと黒虎が宙で交錯するや、エイの尻尾が根元から切り飛ばされた。


(カッコいい~っ!)

 身悶える青志。

 黒虎は、青志の宿るコウモリには目もくれず、尻尾を失ったエイを咥えると、やはり全く音を立てずに樹海の奥へ姿を消した。

(あんなケモノのゴーレムが欲しい~! でも、勝てる気がしねぇ~!)





 その後も、巨大狼、カメレオンみたいに身体の色を変えるオオトカゲ、蜘蛛と見紛うような体型の猿等、生物学者が食いつきそうなケモノたちが次々と現れた。

 ちなみに、それだけのケモノを見る為に、青志は3体のコウモリを失っている。

 コウモリの超音波を無効化するスピード、もしくは隠形性で、3回もコウモリに攻撃を受けたのだ。


(つまり、超音波レーダーだけじゃ、不意打ちを防げないって事だよな)

 この認識は怖い。

 ゴーレムが攻撃を受けるのならいいが、青志やオロチが狙われたら、確実に生命を落とす事になるだろう。

 きちんと対策を立てねばなるまい。

 

 



 3体目のコウモリゴーレムを倒されたところで、青志は偵察行動を終える事にした。

 ゴーレム越しにとは言え強力なケモノたちと接触したおかげで、予想以上に疲労感を覚えていたのだ。

 リュックにもたれたまま、ぐったりと四肢を投げ出す。

 いまだにマナは、青志の太ももを枕に寝入っている。


「師匠、お茶を」

 青志がゴーレムとのシンクロを解いた事に気づいたシムが、すかさずマグカップを差し出す。気の利く弟子だ。

「おお、ありがとう で、オロチは?」

「少し前に戻って来られましたけど、梟をやられたって凹んでました」

「やっぱりか・・・。なかなか難易度は高いな」


 マグカップのお茶を飲み干し、マナを起こす。

「ふにゅう~・・・」

 寝ぼけ(まなこ)のマナを片足にしがみつかせたまま、青志は焚き火に近づいた。

 そこでは、まだシャガルが金属を加工し続けている。そばには剣が数振り置かれていた。

 そして、その作業を、オロチがぼんやりと眺めている。


「お疲れ様」

 青志が声をかけると、ハッと顔を上げるオロチ。

「あ、お疲れ・・・」

 オロチの隣に腰を下ろす。

「予想以上に手強そうだな」

「そ、そうだな。まさか、梟が落とされるとは思わなかったよ」

 自嘲気味にオロチが呟く。


「とりあえず、索敵はオレがやるよ。ゴブリンたちを出してても魔力に余裕があるから、索敵能力のあるゴーレムを全部同時に使うわ」

 コウモリにウサギに猫、それらを索敵兼囮役として使えば、奇襲が青志たちに届かずに済むだろう。

「だから、ケモノの足止めを確実に頼む」

「うん。分かった。それが良さそうだ」

 大蛇たちとオークなら、黒虎の動きを抑えられるだろう。


 青志は、バシッとオロチの背中を叩く。

「いたっ!」

「頼りにしてるんだぞ!」

「お、おう・・・!」

 自信喪失しているオロチを見ていると、青志はなぜか急速にやる気モードになってきた。昔から、自分がやらなきゃ仕方ない事態にならないと、本気スイッチが入らない性格だったのである。


「まずは、晩飯だな」

 青志の口元に、珍しく、獰猛と言っていい笑みが浮かぶ。

「あら パパがカッコいい・・・」

 そんな青志を、マナが嬉しそうに見ていた。

 


 


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