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それぞれの顛末

某大型通販サイトでは、表紙イラストが見れるようになってますね。

最高にカッコ悪い主人公の姿を見てやって下さい(笑)

「ところで、1つお願いがあるんだ」

「キングの死体のことだろ?」

「ああ、もちろん、それもあるんだけど、その前に――――」

 大蛇ゴーレムの1体が、するすると前に出る。

「軽くでいいから、手合わせしてもらえないだろうか?」


 そのセリフを聞いたと同時に、ユカとトワが瞬間移動したかのように青志の両隣に立った。その時には、すでにハルバートを隙なく構えている。視線は、オロチを射抜くようだ。

 そして青志からは見えないが、ウィンダも静かに戦闘態勢に入っている。

「心配ない。いいよ。下がって」

 そんな緊張した空気を霧散させるような穏やかな声音で、青志がユカたちを止めた。


「殺し合いがしたいんじゃないだろ? 同じ能力同士で力試しがしたいだけだよな?」

 いつになく自信あり気に、青志が前に出る。

「その通りだ。少しだけ付き合ってくれればいい!」

 オロチの返事とともに、大蛇ゴーレムが一気に飛び出した。その動きは、地面に薄く張った水の表面を滑るようだ。


 これも、水魔法の応用か!? 青志が驚嘆する間に、大蛇の牙が鎧竜の横っ腹に迫る。

 明らかに、ユカたちを相手にしていた時より数段速い。

 これこそが、大蛇ゴーレムの真の戦闘力というわけだ。

 パワー派の鎧竜は、まるでその動きに追従できない。

 大蛇の牙がぞっぷりと鎧竜の腹部に突き刺さり、間髪を入れず蛇体が胴体に巻きつき、締め上げる。

 鎧竜のボディが激しく軋む。


 青志は、オロチがゴーレムを使った戦いに習熟していることを認めずにはいられなかった。

 今は大蛇を使っているが、きっと青志が見たこともないゴーレムを何体も使いこなす事ができるのだろう。それも、青志をはるかに超えるレベルでの話だ。

 しかし、青志にこのまま負けてやる気はない。


 大蛇が噛みついた(まさ)にその場所から、水流ビームを放つ。かつて、青志の操るゴブリン・ウィザードを貫いた一撃だ。

 砕け散る大蛇ゴーレムの頭部。

 続けて、蛇体が巻きついた部分からも次々と水流ビームを発射。

 たちまち大蛇ゴーレムはバラバラになり、ただの土塊へと還る。


「ほおっ、さすがだ!」

 素直に感嘆してみせるオロチ。

 その笑顔が爽やかすぎる。

 悔しそうな様子が欠片もない。

 地面に落ちた大蛇の魔ヶ珠は、例によってすぐさまゴーレム体を取り戻したが、もう戦意はないらしく、あっさりとオロチの隣に引き下がった。

「キングを倒しただけあって、僕なんかじゃ相手にならないね」


「石か金属で作られたゴーレムだったら、結果は違ってたろ?土だからこそ、水で砕けたんだろうし」

「いや、その時はその時で、別の戦い方をしてただけじゃないか?」

 やけに青志を持ち上げてくれるオロチのセリフに、「その通りだ」とばかりにニヤッと笑いを返す。

 が、その胸中では、今になって必死に金属製大蛇ゴーレムとの戦い方を考えている青志である。





「いい加減にしとかないと、追撃がやって来るんじゃないか?」

 青志としても、出来ればクリムトが到着する前に引き上げたいのだ。

 もともと、こっそりゴブリン軍を混乱させるだけのつもりが、結果的にゴブリン・キングを倒すことになってしまった。

 そんな実力もないのに大きすぎる戦果を得てしまった現状は、トラブルの元にしかならない。

 ならば、騎士たちに知られる前に現場を離れるべきだと青志は考えている。


「そうだね。逃げられるうちに逃げたいな」

 そして、理由は別ながら、オロチも現場を離脱したがっているのは同様だ。ならば、話は簡単だ。

「キングの死体なら、そこだよ」

 オロチが欲しがっているものを与えるだけである。


 青志が指差した先の水面近くを、青志の鷹ゴーレムが旋回している。

「その下に、キングは沈んでるよ」

 オロチの隣にいた大蛇ゴーレムの1体が、すぐさま水中に没するや、キングの死体を咥えて身を起こした。

 それを見つめるオロチの静謐な瞳。

 そこからは、オロチが何を想うのか伺い知る事はできない。


「剣がない・・・」

「同じ辺りに沈んでる筈だ」

 オロチが魔ヶ珠を1つ水中に投げ込むと、しばらくして抜き身の長剣を抱きかかえたゴーレムが姿を現した。

 ミゴーだ。ただ、青志のミゴーより一回り大きく、背中に亀の甲羅のような物が付いている。

「そうか。ミゴーって、河童のイメージなんだな」


 ミゴーから長剣を受け取り、キングの腰からはずした剣の鞘に納めると、オロチは大蛇ゴーレムの上から降りて、青志に近づいてきた。

 再び、ユカとトワが青志の前に進み出る。

 それでもオロチは歩みを止めず、青志の目の前まで来ると、鞘に入ったたままの長剣を静かに差し出した。


「キングの遺体の対価には足りないだろうが、せめてこの剣を受け取って欲しい」

 青志の生命を奪おうとした剣だ。

 何かのケモノから得られた素材で作られているのか、鞘は美しく金色にきらめいている。


「いいのか? 父親の形見だろうに」

「構わないさ。もともとモウゴスタの領主が使っていたらしい剣だ。貴方の好きにしてくれたらいい」

 モウゴスタの領主が使っていた剣と聞き、ウィンダから抑えきれない殺気があふれ出す。

 背後から流れてくる凍りつきそうな気配に、青志の身がすくみそうになる。


「1秒でも早く、この場を離れた方が良さそうだね」

 キングの息子とはいえ、さすがに今のウィンダの発する気には剣呑なものを感じるようだ。

「ああ。オレもそう思う。今度は、温泉にでも浸かりながら、ゆっくり話そうや」

 青志も、焦りながらオロチに帰還を促す。

「分かった。楽しみにしておくよ」

 そう言い残すと、オロチは再び大蛇ゴーレムの頭上に飛び乗った。


「待ちなさい!」

 オロチの背に鋭い声を投げかけるや、抜き身の細剣を右手にしたウィンダが足を踏み出す。

 その瞳は、真っ直ぐにオロチに据えられている。

 青志なら、その視線を向けられただけで失神してしまいそうだ。


「お嬢さん、名前は?」

 そんな殺気のこもった視線を浴びながら、爽やかな笑みを絶やさないオロチ。

「ウィンダ。ウィンダ=デル=モウゴスタ」

 氷のような声音で、ウィンダが返す。

 迸る殺気を隠す気はないようだが、実際に剣を振るうことはギリギリ我慢しているらしい。


「貴女には、約束しておこう。時間はかかるかも知れないが、必ずモウゴスタは明け渡す。

 その為にも、今は見逃してくれないか?」

 細剣を握るウィンダの右手に、ギリリと力がこもる。

「ウ・・・ウィンダさん・・・」

 しばらくオロチを睨みつけていたウィンダだが、フッと力を抜くと、静かに細剣を鞘を納めた。

「分かっているわ。せっかくこれだけ話の通じるリーダーが現れたのだから、争うよりも交渉した方が良いに決まってるでしょう?」


 頭では理解できるが、ゴブリンを憎む感情を押さえ切れないのだろう。

 唇を噛みしめながら、ウィンダが青志の隣まで後退(あとじさ)る。

「賢明な判断を感謝するよ。では、また近いうちに――――」

 そう言うと、今度こそオロチは大蛇ゴーレムに乗ったままその場を立ち去った。






「で、そっちは、いつの間にそうなったんだ?」

 青志たちがオロチと対峙しているのも構わず、戦い続けていたリュウカとドラゴン幼女。

 オロチが去った後に気がつくと、地面に仰向けになったドラゴン幼女にリュウカが細剣を突きつけていた。ただ、リュウカの着衣はあちこちが裂け、息もひどく荒い。


「どう? これでも、あたしにはアオシさんを守る資格はない?」

「うーん、降参。仕方ないから、アンタにもパパを守らせてあげるわ」

「・・・パパ?」

 リュウカの首がギギッと回って、青志を見た。

 ふるふると首を横に振る青志。なぜか、その背を冷や汗が伝う。


 とりあえずゴーレム魔法のことを含めて、ドラゴン幼女の正体を説明すると、トワが自分の予備の服を取り出した。リュウカは、まだ複雑な目を青志に向けている。

「ちょっと大きいかも知れないけど、これ、着ておかない?」

「え? いいの!?」

 ドラゴン幼女が目を輝かせる。


「良かったら、私たちのとこに来て、服作ろうよ」

「ホントに!?」

 ドラゴン幼女が期待を込めた目で青志を見る。

「もともとサムバニル市に戻ったら、彼女たちに服作りをお願いする気だったんだ」

「わー、やった!」

 先ほどリュウカと渡り合っていた時とは別人のように、無邪気に喜ぶ幼女。


 トワとユカがドラゴン幼女を着せ替え人形にし始めたので、青志は覚悟を決めてウィンダに向き直った。

 ウィンダは、強い表情のままで地面を睨み続けている。

「ウィンダさん・・・」

 青志は、オロチから受け取った剣を差し出す。


「え?」

「この剣は、ウィンダさんに受け取って欲しい」

「いいの? 貴方の戦利品でしょう?」

「構わないよ。もともと、ウィンダさんの家の物でしょう?」

 青志の渡す剣を素直に受け取るウィンダ。

 剣を胸に抱いたまま立ち尽くすウィンダから、青志はそっと距離を取る。

 肩の一つも抱いてあげたい場面だが、2人の間にあった事を思うとぶっ殺されそうなので、ヘタレな青志には何もしてあげられない。


 そして、じっと背後に控えていた少年に近づく。

「ごめん。命の恩人を放ったままにしてて」

 その途端――――。

 いきなり少年が青志の足元にしゃがみ込んだ。

 そのまま頭を地面にこすりつける。

 土下座である。


「な!?」

 青志が金縛りになる。

 ブラック企業勤めが長かったとはいえ、本物の土下座はした事もなければ、見たこともなかったのだ。

「お願いします! 僕を弟子にして下さい!!」 

 きっぱり言い切ると、更に深く土下座を決める少年。

 何が何だか分からないが、青志が適当に流せる雰囲気ではない。


「僕はシムといいます! 水魔法使いです!

 アオシさんが戦うのを見てました! お願いします。僕にも、水魔法使いとしての戦い方を教えて下さい!!」

「なるほど。そういう事か」

 水魔法使いながら、1人で冒険者を目指す少年。粗末な装備に、ひょろひょろな身体。それは、青志の姿そのものだった。

 ゴーレム魔法がなければ、青志は少年と同様に惨めな境遇にあった筈だ。


「分かった。弟子って言うのはともかく、水魔法の戦い方を教えるのはオッケーだ」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 喜色満面の表情で青志を見上げる少年――――シム。

 あまりに真っ正面から喜びをぶつけられ、むず痒い思いをする青志。


「とりあえず疲れたし、帰ろう。詳しい話は、それからにしよう」

「はい!」

 威勢良く返事をすると、シムが地面から青志のミスリル棒を拾い上げる。ミスリル棒は、シムに助けられた時に、青志が右手にしっかり握ったままだったのだ。


 ドラゴン幼女を見やると、ちょうど着替えが完了したところだった。

 黒いワンピース姿になっている。

「帰るぞ」

「うん!」

「あ、私たちも一緒に帰ります!」

 左右からドラゴン幼女の手を取り、ユカとトワが近寄って来る。

 リュウカもその後ろから付いてくるが、すでに眠そうだ。ついさっきまで、ドラゴン幼女相手に剣を振るっていたとは思えない脱力っぷりである。


 ウィンダにも声をかけようとすると、彼女の背後に泥だらけになったグレコとマハが姿を現した。

 ウィンダたちを追いかけて、水の張った戦場を駆けてきたらしい。

「あ、アオシさん!!」

 グレコが喜んで駆け寄って来る。

 自分たちの失言が原因で、青志が殺されたかも知れないと思っていたのだ。青志の無事な姿を見て、嬉しく思うのも当然の事だと言えよう。


 しかし、青志の隣に立つシムを見るや、更にグレコたちの表情は嬉しそうなものになった。

「シム! シムじゃないか! 俺たちと一緒にやる気になったのか!?」

「グレコ、マハ・・・」

 同年代だと思っていたら、どうやら両者は知り合いだったらしい。

「いや、僕はお前たちとは行けない。アオシさんの弟子になったんだ」

「えぇっ!?」

 グレコたちにしてみれば、青志には、只者ではないがまだまだ初心者のオッサンという認識しかない。驚くなと言う方が無理な話だ。


「さあ、行きましょう。師匠!」

「し、師匠!?」

「お、おい、シム・・・!」

「ちゃんと説明に行くから、今はごめん!」

 シムには、グレコたちに複雑な思いがある様だ。同じ水魔法使いの青志には、なんとなく察しがつく事ではある。


「ウィンダさんは?」

「すみません。私は、もう少しここにいます」

「え、でも・・・」

 戦闘はほぼ終わってはいるが、ここはまだ戦場には違いないのだ。そこに精神状態が普通とは思えないウィンダを1人で残していくわけにはいかない。


「あ。俺たちがついてますよ」

 助け船を出してくれたのは、グレコだ。

 グレコたちにとっては、もともとウィンダと行動を共にしていて、この戦闘に巻き込まれたのだ。それに、まだ仲間が北の砦に残っている。青志に付いていくわけにはいかない。


「悪いな。また今度、メシでも食べようぜ」

「はい! 事情は分からないけど、シムのことお願いします!」

 グレコたちとの再会を約束して、青志たちは戦場を後にした。

 ドラゴン幼女にアイアン・メイデンの3人、それにシムを従え、にぎやかな道行きである。

 なお、ゴブリンたちの魔ヶ珠は回収したが、翼竜の分はロストしてしまった。青志としては、かなり泣きたい気分であることは内緒だ。





 数十分後、戦場に帰還したクリムトは、美しい剣を胸に抱いたまま静かに涙するウィンダを目にし、言葉を失うのであった。

 

 

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