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ゴブリン・キング

ますます更新が遅くなってきて、ごめんなさい(汗)

 薄暮の中を疾走する4つの影。

 二足トカゲ(ディノス)に騎乗したクリムトたちである。

 無事にレナ川の堰を切ることに成功し、北の砦にとんぼ返りしている最中だ。

 轟々と水が流れる水路に沿い、彼らは戦場に舞い戻ろうとしていた。


 しかし、この任務は、アオシの協力なしには成功しなかったであろう。

 出会った時には幼子ほどの魔力しか持っていなかったアオシが、わずかな期間で騎士たちに匹敵する量の魔力を有するようになるとは、さすがのクリムトにも予想外の出来事であった。


 大型のケモノを狩り続ければ、短期間で魔力的に急成長することは、もちろん可能だ。

 が、それは大型のケモノに致命傷を与えられる土、火、風魔法に限ってのことである。

 水魔法では、どう足掻いても、そんな威力のある攻撃を行うことは出来ない。

 よほど上手く、固有魔法を活用したのであろう。


 ちなみに、アオシはレナ川の(ほとり)に置いてきた。

 堰を切ってくれただけで大手柄なのだ。

 いくら騎士並みの魔力を持っているからといって、数ヶ月前まで剣も握ったことのなかった人間を、戦場に連れて行く訳にはいかないのである。

 あとは、自分たち騎士の仕事だ。


 そう考えているクリムトたちの頭上を、巨大な影が追い抜いていく。

「な、なんだ!?」

「火炎鳥か!?」

 怯える二足トカゲ(ディノス)たち。

 騎士たちも、軽いパニックを起こしている。

 翼長5リットにも及ぶ火炎鳥が上空から襲いかかってきたら、それを防ぐ術などないのだ。


 しかし、火炎鳥はクリムトたちに目をくれることもなく、悠然と飛び去って行った。

 騎士たちが安堵の息をつく。

 ただ、クリムトだけが複雑な表情で、火炎鳥を見つめていた。





 戦場に水が満ちたことで、ゴブリンたちの動きは、各段に鈍った。

 泥に塗れながら、砦のある高台を目指そうとするが、騎士たちの弓矢と魔法攻撃の前に、次々と倒れていく。

 力尽き、水に浮かんだ死体が、さらにゴブリンたちの行動を阻害する。

 雌雄は、すでに決したかに見えた。


 が。

 最後のオークを弓で射止めたウィンダは、強い魔力を持った一団が砦に接近するのに気づく。

「注意して下さい!強い敵が近づいています!!」

 その途端、砦を囲む木柵が、一気に燃え上がった。


「ウィザードか!?」

 炎の勢いに押されて、騎士たちの攻撃の手が緩む。

 それを見計らったように、砦に迫る影。

 頑丈な造りの長剣を振りかざし、ノーマル・ゴブリンの身体を足場に疾走してくる。

 ウォリアー級だ。


 銀線が閃く。

 数ヶ所で崩れる木柵。

 砦に躍り込む剣を持ったゴブリン・ウォリアーが4体。

「――――!!」

 反応の遅れた冒険者の胴体が、キレイに上下に分かれる。


「なめるな!!」

 火のような気迫を放ちながら、カリエガがウォリアー級に襲いかかった。

 ギィン――――!!

 その手の大剣が豪快に振り抜かれ、小柄な身体を吹き飛ばす。

 が、ウォリアー級はかろうじて、その攻撃を長剣を使って凌いだようだ。

 素早く態勢を立て直すと、カリエガに剣を向けた。


「ゴブリンの分際で、あれを受け止めたのかよ」

 カリエガが警戒心を高める横で、他のウォリアー級と騎士たちの戦闘が始まっていた。

 あちこちで、金属同士が噛み合う音が聞こえ始める。

 力も速さも、ゴブリン・ウォリアーの方が上だ。

 しかし慌てることなく、2~3人で協力し、騎士たちはウォリアー級に応戦していた。


 部下たちは心配ないと判断し、カリエガは目の前のウォリアー級に意識を集中させる。

 火の強化魔法により筋力を増幅させると、真正面からウォリアー級に突撃。

 大剣を上段から叩きつけた。

 ゴブリンの持つ長剣では防ぎ切れない一撃だ。


 しかし、ウォリアー級は大きく後方に飛んで、カリエガの必殺の斬撃をよけた。

 2撃目、そして3撃目も、ゴブリン・ウォリアーはかわし続ける。

 他のウォリアー級に目をやると、やはり騎士たちの攻撃をかわすばかりだ。

「――――?戦う気がないのか?」


 猪突猛進することしか知らないゴブリンがただ逃げ回っている事に、カリエガは強烈な違和感を覚えた。

 そこに飛来する十数本の土の槍。

 ウォリアー級が注意をひいている間に、ウィザード級が放った魔法攻撃だ。

 ゴブリンには、ありえない連携である。


「うわぁっ!」

 ウォリアー級と対峙していた騎士の数人が、腕や足を土槍に貫かれ、悲鳴を上げる。

 それでも、とっさに土の盾を展開した者たちがいて、大半の槍は途中で食い止められた。


 が、それで終わる訳ではない。

 それまで防御に徹していたウォリアー級4体が、攻撃に転じたのだ。

 土槍を受けて傷ついた騎士が、あっさりと斬り伏せられる。

 カリエガが救出に向かおうにも、目の前のウォリアー級に猛然と攻め込まれ、そんな余裕がない。

 アイアン・メイデンの3人も、殺気を(ほとばし)らせるゴブリンたちに腰が引けているようだ。


「お嬢ちゃんたちは、ウィザードの魔法を防いでくれ!ウォリアーは、俺たちが倒す!!」

「分かりました!」

 カリエガの声に、リュウカたちが頬を白くしたまま応える。


 しかし、その間も、ノーマル級も途切れることなく砦に攻め寄せてくるのだ。全ての戦力をウォリアー級に向ける訳にはいかない。

 完全に、均衡は破れた。

 砦内は乱戦状態だ。

 暴れ回るウォリアー級。

 ノーマル級の後方から魔法を飛ばしてくるウィザード級。


「このままでは、消耗していくだけだ。せめて、ウィザードの魔法を止めなければ!」

 焦燥が募るばかりのカリエガだが、防御に徹するウォリアー級を、どうしても倒すことが出来ない。

 ウィンダもウィザード級を狙おうとしているようだが、ノーマル級に群がられて、その機会を見出せずにいる。

 ゴブリンどもの連携を打ち破るには、どうにも手駒が足りなかった。





 両手の細剣が閃く。その度に、ゴブリンの腕や首が血しぶいた。

 押し寄せるノーマル・ゴブリンをものともせずに、リュウカは戦い続ける。

 その動きは、際立って軽やかだ。

 雰囲気だけではない。本当に、自分自身の重さを軽減しているのだ。

 

 しかし、ゴブリンを斬る瞬間には、細剣の重さを増さねばならない。それを左右の細剣別々に行う。

 その上、索敵魔法を常に展開し、見えない角度からの攻撃に対処するのはもちろん、飛んでくる土槍を土の盾で食い止める。

 複数の魔法を、当たり前のように同時に使っている。

 まさに、天才であった。


 ユカとトワも同様の働きをしているが、リュウカには及ばない。

 リュウカの持つ共有化の魔法は、ユカとトワが複数の魔法を使えるようにするだけでなく、その処理能力をもアシストするものだ。

 あくまで無意識的にだが、リュウカは2人の動きをコントロールしてさえいた。

 それ故、3人の動きは完璧に連動している。

 三位一体と表現して、過言ではない。


 そんな3人なのに、ウォリアー級には挑むことが出来ずにいた。

 保有する魔力量が決定的に違うのだ。

 複数属性の魔法を使いこなすリュウカたちは、自分たちよりはるかに多くの魔力を持つケモノだって狩ることが出来る。

 が、それだって3人にとっては「勝てる」と思える相手だったのだ。


「悔しいけど、あれは無理ね」

 リュウカは唇を噛む。

 これまでは強くなる為ではなく、仲間たちの生活を守る為に狩りをしてきた。自分たちが狩ることの出来る範囲で、素材の換金率のいいケモノばかりを相手にしてきたのだ。

 そのせいで、明らかな格上と戦った経験がないし、勝てる自信もない。


 この戦いを乗り切ったら、意識して格上のケモノを狩ろう。

 そうして、使える魔力量を増やそう。

 そう思いながら、リュウカは細剣を振るう。

「その為には、生きて帰らないと!」


 しかし、ウォリアー級とウィザード級の攻撃の前に、騎士たちは1人、また1人と傷ついていく。

 ウォリアー級の1体はカリエガが抑えているが、残りの3体は縦横無尽に動き回っている。

 リュウカが意を決して、ウォリアー級に向かおうとした時――――。


 ふいに、頭上に強大な魔力を感じた。

「なんだ!?」

 一瞬、戦場にいた全ての者が戦闘の手を止めて、上空を見上げる。

 夜空に横たわる渦巻星雲の輝きを遮って、黒く、大きな影が横切っていく。


「鳥か!?」

「でかいぞ!」

「何をしに来たんだ!?」

 騎士たちの間に動揺が広がる。

 これが、オーク同様にゴブリンが操っているものだとしたら、砦を陥落させる一打となりかねない。


 バサリ――――!


 巨鳥が身を(ひるがえ)すや、一気に高度を下げた。

 轟と、風が鳴る。

 頭上からの強風に押さえつけられ、騎士たちが苦鳴を洩らす。

 今にも巨鳥が襲いかかって来るのではという恐怖が、リュウカの背筋を凍らせた。


 しかし。


 巨鳥はゴブリンの群れの中に降下し、1体のゴブリンを爪にかけると、再び舞い上がった。

「ギギィッ!」

 じたばたと暴れるゴブリンの手には、短い杖が握られている。

 ウィザード級だ。


 上空に達すると、その身体が宙に投げ出される。

「~~~~~~~~っ!!」

 声にならない悲鳴を発しながら、地面へと落下するウィザード級。

 砦の周囲にひしめくノーマル・ゴブリンたちを薙ぎ倒し、激しく地面に激突する。

 即死である。


 巨鳥は、ゆっくりと方向転換すると、再びゴブリンの陣営に襲いかかった。

 状況が呑み込めずに呆けていたゴブリンたちが、算を乱したように逃げ惑う。

 しかし、太ももまで水に浸かった状態では、逃げるのもままならず、次の犠牲者が巨鳥の爪に捕らえられる。

 また、ウィザード級だ。


 巨鳥が味方らしいと判断するや、カリエガは再び火の身体強化魔法を発動させた。

 全身の筋力が倍化されるのを感じるや、巨鳥の行動に浮き足立っているウォリアー級の胴を薙ぎ払う。

 反応が遅れたウォリアー級は、ひどくあっさりと地に臥した。


 他の騎士たちも、一息遅れただけで、カリエガに倣う。

 剣を構え、ウォリアー級に殺到。

 肉を打つ音。音。音。

 今までの苦戦が嘘のように、残る3体のウォリアー級も簡単に斬り捨てられた。

「ぐっ・・・!」

 胸の中央で魔ヶ珠が成長する痛みに堪えながら、カリエガは会心の笑みを浮かべた。

「あとは、雑魚だけだ!蹴散らせ!!」

「おおぉ~~~~~~っ!!」





 戦場の東の端、水に浸かっていない高台で、青志は翼竜を操っていた。

 護衛のゴーレムは、水妖(ミゴー)と鷹だけである。その鷹も1体だけだ。

 翼竜をゴーレム化していると、魔力量的にそれが精一杯なのだ。

 しかし、こんな戦場の端まで、わざわざやって来るようなゴブリンはいない。

 問題はないと思える。


 今しも、翼竜が3体目のウィザード級を掴み上げたところだ。

 生き残っている別のウィザード級が石飛礫や火炎をぶつけているが、土と岩で作られた翼竜には、大したダメージを与えられずにいる。

 一部のノーマル級は逃げ出し始めており、勝敗は決したかのように見える。

 翼竜ゴーレムを投入した甲斐があったというものだ。


 3体目のウィザード級をノーマル級の一団に投下。

 何体かのノーマル級が巻き込まれ、折り重なったまま水面に浮かぶ。

 死んだかどうかは分からないが、確実に戦線離脱だ。

 半死半生で放置しておいた方が、後で騎士たちの経験値に化けて、喜ばれるだろう。

 そもそも、これ以上ウィザード級を屠ったら、翼竜ゴーレムが育ち過ぎて、青志には召喚できなくなってしまう。


 4体目のウィザード級は、どこだ?

 あと何体残っているんだ?

 より大きな魔力を持つゴブリンを探す翼竜ゴーレム。

 その索敵魔法が、とんでもなく巨大な魔力が接近するのを察知した。

 ウィザード級の比ではない。

 それに数倍する魔力量だ。


 安全策を取って、一時的に翼竜ゴーレムを上空に避難させる。

 ゴブリンの攻撃の届かない高さから、問題の魔力の持ち主を探そうと――――。

 

 翼竜ゴーレムが最後に感知したのは、自分と同じ高さまで跳躍してきたゴブリンの姿だった。

 次の瞬間、翼竜の首が、翼が、斬り飛ばされた。


「――――!?」

 いきなり翼竜ゴーレムが失われたことに、青志の意識が混乱する。

 理解が追いつかない。

 地上数十メートルの高さにいる翼竜ゴーレムを、ゴブリンがどうやって倒したのだ?


 ギュオッ!!

 風が鳴った。

 そして、巨大な魔力を持った何者かが、空から降ってきた。


 ドガッ!!

 地面に突き刺さるような速度での激突。

 いや、着地したのだ。

 豪奢なマントを羽織ったそいつは、青志に背を向けた形で、地面に降り立った。


 ゆらりと振り向く。

 緑の肌。額の2本の角。

 間違いなくゴブリンだ。

 ただ、身長が青志並み――――180センチは、ある。

 精緻な模様の入った鋼の鎧を着込み、右手に持つは、仄かに光を放つ長剣。

 ゴブリンには違いないが、明らかに普通のゴブリンではない。


「オ前ガヤッタノダナ、人間?」

 ひび割れた声で、しかし人間の言葉を、そいつは喋った。

「我ハ、ゴブリンノ王。オ前ダケハ、許サナイ」

 鎧竜をはるかに凌ぐ魔力が吹き付けられる。

「ひっ!!」

 青志の肝が縮み上がった。

 

 どうやら、やり過ぎたようである・・・。

 

 

 

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