女戦士たちの戦い
おおはばに投稿が遅れてしまいました。
ごめんなさい(汗)
日没が近くなっても、ゴブリンたちが退く気配は見えなかった。
今晩のうちに砦を落とす気なのだろう。
援軍が到着する前に。
この砦は、北門から1日半の距離にあるのだ。実際、北門ギルドの冒険者は、すでに少しずつ到着し始めている。
軍の応援部隊も、明日には到着する筈だ。
ゴブリンたちにとっては、アダマンタイトの巨岩を運んでまで作った時間だ。この機会を逃すとは思えない。
こん棒や槍を手に、雲霞のごとく押し寄せるノーマル・ゴブリン。
ゴブリンたちの目には、恐れも迷いもない。
倒された仲間たちを乗り越え、大波のように襲いかかってくる。
しかし、それを迎え撃つのも百戦錬磨の騎士たちだ。
二足トカゲに乗っていなくとも、その戦闘力が人類最高レベルであることに違いはない。
遠距離では、風魔法で強化された弓矢で。
中距離では、土魔法で作った飛礫が。
近距離では槍と剣が、ゴブリンたちを切り裂いていく。
しかも数は少ないが、火薬で鉛の砲弾を飛ばす大砲まであるのだ。
ゴブリンたちを砦に近づかせるものではない。
アイアン・メイデンの3人も、騎士たちに負けない働きを見せていた。
3人がそろって、やけに威力のある石飛礫を飛ばしまくっている。
騎士たちの飛礫がゴブリンの頭蓋を砕く程度なのに対し、3人の飛礫はゴブリンの胴体を貫いてしまうのだ。
重力を操作して飛礫の重さを倍化させているせいなのだが、そんな事など知らない人間から見れば、驚くべき威力である。
「あのお嬢ちゃんたちは、見かけによらず、とんでもない戦いっぷりだなぁ」
「東門ギルドでは、ずいぶん頭角を現しているようですよ。私も、あそこまでやるとは思いませんでしたが」
カリエガと生真面目そうな副官も、リュウカたちの動きに、目を白黒させている。
「で、砦の外でゴブリンどもを食い散らかしているケモノも、お嬢ちゃんたちの仕業か?」
「そのようですね。キツネのような霊獣を使役するとの報告があります」
「霊獣?」
「よく見ると、向こうが透けてるでしょう?普通の存在ではないですね」
3体の霊獣は、身体が透けている割には、その牙と爪で、次々とゴブリンたちを血祭りに上げているのであった。
しかも、魔法攻撃まで行うのである。
それぞれ、火、土、風の属性を持っており、身体の色もそれに対応している。
「しかし、3体いるが、あのお嬢ちゃんたちの1人が、3体ともを操っているのか?」
「いえ。ウワサによると、あの中のうちの1人が、『共有化』とでも言うべき魔法を持っているようです」
「霊獣を操る魔法を持っているのは1人だが、『共有化』のおかげで、残りの2人も霊獣が操れるってことか?」
「おっしゃる通りです」
リュウカたちとて、自分たちがどの様な固有魔法を持っているのか、外部の者には知られないように努めてはいたのだ。
が、すでにその固有魔法の中身は、ほぼ正確に軍の知るところとなっていた。
「と言うことは、今のところ3人とも土魔法を使っているように見えるが・・・」
「風魔法と火魔法も同時に使えるとの事です」
「本当に、とんでもない話だな」
カリエガは軽い戦慄を覚えながら、そんな者たちがいち早く駆けつけてくれた事に感謝していた。
が、そんなカリエガの肝を冷やす事態が現出する。
鋭く風を切る音が聞こえたと思ったら、砦内にある建物の壁に、轟音とともに大穴が開いたのだ。
太い丸太を組んで作った、大型の弩の攻撃にも耐える頑丈な建物なのである。
それが、ただの一撃であっさり貫かれた。
「な、なんだ!?」
「何の攻撃だ!?」
突然の出来事に、動揺を隠せない騎士たち。
そこに、さらに迫る風切り音。
1つではない。複数の音だ。
ドガッ!!
ガッ!!
バコォッ!!
強烈な破砕音。
砕け散る木柵。そして、人。
「石だ!石が飛んで来るぞ!!」
それは、人間の頭ほどの大きさの石だった。
簡単に、木造の建造物を破壊し、人間を殺す大きさだ。
そんな石がいくつもいくつも、ゴブリンたちの軍勢の頭上を越え、砦に飛来してきたのである。
騎士たちは、土魔法で盾を生み出し、それを防ごうとした。
土で作られた、大小様々な円形の盾が空中に現れる。
ゴブリンの攻撃ぐらいになら、小揺るぎもしない強度の盾だ。
が、飛来した石は、それらの盾を紙のように貫き、砦に突き刺さった。
「ぐわっ!」
ある者は地面に着弾した石の破片を受け、またある者は、飛来した石の直撃を受け、次々と血に塗れていく。
「オークだ!オークが石を投げているんだ!」
「なんだと!?」
風魔法使いが叫ぶのを聞いて、カリエガは耳を疑った。
「索敵範囲ぎりぎりの距離に、オークが10体近くいます!」
「馬鹿な・・・。ゴブリンがオークを使役するとは」
アイアン・メイデンの報告に、オークがゴブリンと行動を共にしているという話は確かにあった。
しかし、カリエガはそれを信じ切れていなかったようだ。
「これは、認識を改めねばならんな。
ゴブリンよりはるかに強力な個体であるオークを従えるとは、つまりオーク以上の戦闘力を有したゴブリンが生まれたという訳だ」
それはまさに、キング級なのかも知れない。
だとすれば、騎士たちが束になっても敵わないだろう。
ノーマル級のゴブリンの攻撃をしのいでホッとしているようでは、お話にもならない。
「また、石が来たぞっ!!」
再び飛来する10個近い石。
薄闇の中、不吉な風切り音が、聞く者の肝を冷やさせる。
「防御~~~~っ!!」
しかし、騎士たちが右往左往する中、すっくと立った影があった。
アイアン・メイデン――――リュウカ、ユカ、トワの3人である。
「お嬢ちゃんたち、伏せろ!」
彼女たちを心配する声にも耳を貸さず、3人は飛来する石に向け、開いた手のひらを真っ直ぐに突き出す。
その手のひらの先に、大ぶりな石飛礫が複数個、形成される。
「そんな物で、砕ける大きさじゃないぞ!」
次の瞬間、空中に浮かんだ石飛礫が炎に包まれた。
「!!」
更に、その周囲で風が渦巻き始める。
「土、火、風の魔法が3つとも使えるだけじゃなく、同時にかよ!?」
驚愕するカリエガの目前で、燃え盛る石飛礫が発射される。
風をまとったそれは、通常の石飛礫よりはるかに速い。
3人が3発ずつ、射出された合計9発の石飛礫は、狙い違わず飛来した石を宙で捉え、粉々に破壊した。
「おおぉ・・・っ!!」
騎士たちが、大きくどよめく。
それは、あまりに空想じみた光景であった。
土、火、風の3つの属性の魔法を同時に扱うなど、物語に出て来る英雄たちでさえ成し得なかった所行だ。
実際は、そこに重力魔法までも加わっている訳だが。
「お前たち!呆けている場合ではないぞ!!」
理解できない者への怖れが、騎士たちの心に芽生えかけたその時、カリエガの叱声が、辺りに響き渡った。
「投石は、お嬢ちゃんたちが何とかしてくれる!その間にオークを片付けるのだ!!」
言うだけなら簡単だが、実行するには至難な命令だ。
しかし、その命令によって、騎士たちはアイアン・メイデンの3人が味方であることを再認識することになった。
絶妙なタイミングであったと言えよう。
続く投石も、3人の燃える飛礫が撃ち落とした。
カリエガの言う通り、今のうちにオークを倒すべきなのだが、その手段がない。
距離が遠く、魔法はもちろん、弓矢の攻撃も届かないのだ。
唯一攻撃が届く大砲でも狙っているのだが、命中精度が低く、オークに当てることが出来ていない。
「仕方ない。俺が出るか」
「司令!無茶です!やめて下さい!!」
砦から打って出ようとするカリエガを、副官が必死に止める。
カリエガの腕なら、ゴブリンたちを蹴散らしてオークの元にたどり着くのは、そう難しい話ではない。
が、その上でオークと対峙するのは自殺行為だ。
ゴブリンに囲まれたままオークを倒すのは、さすがのカリエガにも不可能であろう。
「私がやります」
カリエガと副官が格闘してる所に現れたのは、白い革鎧に身を包んだ美女だ。ただし、その鎧はひどく血で汚れている。
左手には、大型のケモノの骨で作られた大弓。
「風姫!」
言うまでもなく、それは風姫ことウィンダである。
「お身体は、大丈夫なんですか!?」
カリエガを放り出した副官が、ウィンダの許に駆け寄った。
まだ若いが秀才然とした雰囲気が壊れて、やけに頬が紅潮している。
ウィンダのファンであったらしい。
そんな副官に黙って頷くと、彼女は流れるような動作で、弓に矢をつがえた。
その鍛えられてはいるが細身の肢体に、魔力が満ちる。
強くしなやかな魔力だ。カリエガは、そう感じた。
キリリと弓を引き絞ると、あまりに無造作に矢を放つ。
ビュゴッ――――!!
通常の矢が届かない距離の敵を狙ったにも関わらず、その矢は真一文字に空間を切り裂いていく。
竜巻のような風の渦をまとい、目にも留まらない速度でオークの巨体へ――――。
「た、倒れた!?」
副官をはじめ風魔法使いたちの表情が、驚愕に染まる。
索敵範囲ぎりぎりの所にいたオークの1体が、倒れたのが分かったのだ。
続いて、2矢、3矢――――。
ウィンダが矢を放つたびに、オークが倒れていく。
考えられない距離を届かせる事もさることながら、一撃で巨大なオークを倒してしまうのが人間業とは思えない。
「さすが、風姫だ・・・!」
ゴブリンたちの侵攻を食い止めている騎士たちの間に、どよめきが広がっていく。
「お姉さま、すてき!」
やけにキラキラした瞳で、ウィンダを見つめるユカとトワ。
しかし、4矢目を放ったところで、ウィンダが眉をひそめた。
オークを貫く寸前で、その矢が何者かに阻まれたのだ。
「ウォリアーが矢を斬り落としたようですね」
副官が悔しそうにつぶやく。
矢の速度と威力を考えれば、それを剣で斬り落とすとは、ウォリアー級の戦闘力も決して侮ることは出来ない。
直線での攻撃が通じないと察するや、ウィンダは上方に向けて弓を構えた。
瞬時に距離を計算し、力を加減し、矢を放つ。
山なりに飛んだ矢は、ウォリアー級の迎撃の剣が届かない角度からオークに命中。が、手加減しての攻撃のため、先ほどまでのように一撃ではオークは倒れなかった。
「ウィンダお姉さま!」
「大丈夫です」
心配するユカの声に静かに答えると、続けざまにもう1矢を放つ。
再び山なりに飛んだ矢は、手負いのオークに突き刺さり、今度こそ倒すことに成功する。
ウィンダにしか分からぬことだが、2本目の矢は正確にオークの右目を貫いていた。
「少し時間はかかりますが、オークは私が倒します。皆さんは、ゴブリンを食い止めて下さい!」
「聞いたか!?オークは姫様に任せて、俺たちはゴブリンの掃除を続けるぞ!!」
「おおお~~~~~っ!!」
ウィンダのセリフを受けて、檄を飛ばすカリエガ。
それに応え、さらに奮起する騎士たち。
そんな時、1人で黙々と投石を迎撃していたリュウカは、戦闘の喧騒の中に、かすかに水の流れる音を聞いた。
瞬間だけ地面に視線を走らせると、すでに闇に包まれた地面にキラキラした小さな光が広がっていく。
水だ。
水に、上空の渦巻き星雲の光が反射している。
その小さな光たちが、視界の左側から急速に右側に広がっていくのだ。
「水が・・・!」
リュウカのつぶやきは、不思議なほどに騎士たちの耳に鮮明に届いた。
「水だ・・・」
「クリムトがやってくれたか!」
水はどんどん水かさを増し、やがてゴブリンたちの太ももの高さまで達する。
たちどころに、ゴブリンたちの動きが悪くなった。
「よぉし、これで勝てるぞ!!」
さらに盛り上がる騎士たち。
しかし、ノーマル・ゴブリンの背後から、ウォリアー級とウィザード級の集団が押し上げて来ていることに、まだ彼らは気がついていなかった。
最近、自分の文章が分からなくなってきました。
文章がぶつ切りになってる気がして、しょうがありません。
今回は主人公も出て来なかったし、全然別の小説のようになっちゃったかも知れません。
次回は、主人公も活躍してくれる・・・かな?