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骸骨退治の顛末

本日6日、無事に退院しました。

ご心配をかけてしまい、すみませんでした。

これからは、面倒臭がらず、早め早めに医者にかかるようにします。


活動報告への応援メッセージ、大変嬉しかったです。

ありがとう!

 頭上の渦巻き銀河が淡く照らす中、戦いは続く。

 坑道から溢れようとするのは、無数の骸骨たち。

 それを迎え撃つは、3体のゴーレム。

 数十年も坑道内にいた骸骨たちは、変質し、ひどくもろい。動きも鈍く、1体1体はただの雑魚だ。


 が、倒しても倒しても、奴らは地の底から湧いてくる。

 疲れを知らないゴーレムでなければ、早々にその進軍に呑み込まれていたであろう。

 怖れを知らないゴーレムでなければ、早々に逃げ出していたであろう。


 骸骨たちは、何を求めるのか。

 ただひたすら、両手を前に差し出したまま、無言の前進を続けるのみだ。

 差し出す手は、一切ゴーレムには向けられていない。

 虚ろな眼窩は、一切ゴーレムには向けられていない。


 それは、その場にいるたった1人の生者、青志に向けられていた。

 骸骨たちは、ただ青志だけを見て、前進し続ける。

 炎魔法に焼かれても、手槍に貫かれても、鉄の爪に砕かれても、ひたすら前進し続ける。


 青志は、己の身体に触れようとする亡者の群れを、丁寧に破壊していった。

 ミスリル棒の1振りで、簡単に壊れてしまう骸骨たち。

 きちんとその頭部を砕き、肋骨を砕いていった。


 それは、鎮魂の儀式のようであった。

 数十年たっても眠ることの許されぬ亡者たちに、永遠の眠りをもたらす儀式のようであった。





 青志は、一心不乱にミスリル棒を振るい続ける。

 骸骨たちの波は、すでに3体のゴーレムだけでは抑え切れなくなっていた。

 青志が休むヒマがない程度の数の骸骨が、彼を襲い続けている。

 さらに別の方向にふらついて行く個体は、ミミズゴーレムの石飛礫の攻撃を受け、破壊されていた。


「く!ホントに、何体いるんだよ!?」

 骸骨たちをミスリル棒で打ち据え、足で踏み砕き、青志の心は疲弊していった。

 身体は、まだまだ平気だ。水魔法を使っていれば、疲労は気にならない。

 が、心は違う。

 倒しても倒しても尽きる様子のない骸骨の波を前に、青志の柔な精神は悲鳴を上げていた。


 それでも彼が戦い続けているのは、骸骨の群れが、まずシャガルを、そして他の旅人を襲うことを危惧する為だ。

「だからって、これは厳しいけどな!」

 ぼやきながら、でも、ある事にも気がついていた。

 さっきから、ずっと胸の中で魔ヶ珠が成長している事。


 その成長の度合いは、小さい。

 が、骸骨を1体粉砕するたびに、確かにチリリ・・・と、胸に痛みが走るのである。

 この経験値は、人間を殺した経験値だ。

 決して、スケルトンというケモノを倒した経験値ではない。

 そんな重さを、青志は味わっていた。

 罪悪感を味わっていた。


「もしかして、いけるか?」

 腰のポーチから、魔ヶ珠を1つ取り出す。

 いけそうだ。骸骨の群れを倒すうちに、青志の魔力量はまた増えていたらしい。

 魔ヶ珠をポトリと地面に落とすと、甲羅の長さだけで50センチはある頑丈そうなカニが出現した。


「頼むぞ!」

 ボディが土でできてるのが物足りないが、それでも、青志に向かう骸骨の半分を、がっちりと受け止めてくれる。

 これまたゴツいハサミを振るえば、簡単に骸骨の脚を両断してしまうのだ。


「よしよし!ちょっとマシになった!」

 水まで噴いて、骸骨を吹っ飛ばしてくれるカニゴーレム。

 投入した甲斐があったと喜ぶ青志。

 しかし、相手が骸骨なら、水をぶつける程度でも効果があるようだ。

 ゴブリンたちを突破しようとする骸骨に水の塊をぶつけてみれば、見事に頭部だけが飛んでいく。


「経験値稼ぎなら、骸骨って最高の相手だな。こんなに

数が多くなければだけど」

 カニの参戦で少し楽になったとは言え、骸骨の群れの供給が止まった訳ではない。

 相変わらずのペースで、坑道の奥から湧いて出て来る。


 ミスリル棒を回転するように振り回し、時に水の塊を撃ち放ち、足下を這う骸骨を踏み砕く。

 青志は、すでにオートメーションの一部と化した気分だ。

 最後の最後には、もう一度坑道の入り口を塞げばいいという思いがなければ、堪え切れなかったであろう。





 そうやって、何時間戦い続けたか。

 そうやって、何体の亡者を打ち倒したか。


 ふいに、青志の前から骸骨の姿が消えた。

 カニゴーレムも、敵を相手にしていない。

 ゴブリンとミゴーはまだ戦い続けているが、ずいぶん余裕のある動きになっている。


 ついに、終わりが見えたらしい。

 青志の気が弛む。

 そのまま地面にへたりこんでしまう。

 背後を警戒するコウモリゴーレムにも、不自然な感知はない。

 後は、ゴブリンたちに任せていれば終わるだろう。


 それでも、もしもに備えて、体内に水魔法を循環させて、疲労を回復していく青志。

 これまでの経験上、予測していなかったタイミングや方向から更なる強敵が現れるパターンに慣れてしまっているのである。

 この世界がそれだけ過酷なのか、青志が不運なのかは、分からない。


 そして案の定、それは現れた。

 坑道の入り口のゴブリンたちが、突然、紅蓮の炎に包まれたのだ。

 その一角だけが、真昼のように明るくなる。

 炎は、ゴブリンウィザードのものより、はるかに強力に見えた。

 20メートルは離れている青志にまで熱波が届くほどだ。


「あちっ!!」

 慌てて距離を取ろうとする彼に、炎の中から飛び出した影が襲いかかる。

「な!?」

 咄嗟に水平に掲げたミスリル棒に、重い一撃が加えられた。


 ガキャッ――――!!


 青志の目の前に現れたのは、やはり1体の骸骨だ。

 が、その骸骨は、ボロボロになっているとは言え、鎧らしき物を着込み、長剣を持っていた。

 青志がミスリル棒で受け止めたのは、その長剣の斬撃である。

 気づくのが遅れていれば、肩口から胸の辺りまで深々と斬り裂かれていただろう。


 骸骨とは思えないパワーで、ギリギリと長剣が押し込まれる。

 青志は、必死にその圧力に耐える。

 茶色く変色した骸骨の虚ろな眼窩から、はっきりと殺意が放射されるのが感じられた。


 とびっきりの危機感を覚える青志。

 反射的に頭を下げると、空気を裂いて、何かがそこを通り抜ける。

 飛礫だ。

 目の前の骸骨は、土魔法を使うらしい。


 青志は、頭を下げたのを利用し、骸骨の腰骨に向けて水の塊を発射。

 大量の水が弾け、後退る骸骨。

 が、他の骸骨たちのようにバラバラにはなってくれない。

 おそらく、土の強化魔法で骨格が強くなっているのだ。


「冒険者の骸骨か?カニは、どうしてる!?」

 見ると、カニはカニで、別の小柄な骸骨と渡り合っていた。

 いや、小柄な骸骨が青志に向かおうとするのを、ハサミでその下半身を挟み、動きを封じているようだ。


 ゴブリンたちは、相変わらず火魔法の炎の中にいる。

 少なくとも坑道の中には、火魔法を使う骸骨が残っている訳だ。

 長剣を持った骸骨は、青志がなんとかしないといけない様である。


 しかし、青志の打ち込みは、あっさりといなされてしまう。

 距離を取れば、石飛礫が飛んでくる。

 骸骨のクセにスピードもパワーも青志に負けていないのは、それだけ大量の魔力を持っているからだ。

 生前なら、青志など足下にも及ばぬ戦士だったのだろう。


「つか、骸骨状態でも勝てんわ!」

 何度目かのつばぜり合いの最中、青志は骸骨に勝つのをあきらめた。

 自分1人の実力でなんとかしたかったのだが、無理をして怪我を負うのだけは避けねばならない。


 骸骨の足元から、石飛礫が真上に撃ち出された。

 恐るべき反射神経で、それをかわそうとする骸骨剣士。

 かわし切れず、頭蓋骨を抉って、上空へ抜けていく石飛礫。

 ミミズゴーレムの土中からの攻撃だ。


 それで十分だった。

 拮抗していた攻防は、その無理な挙動で、もろくも崩れ去った。

 次の瞬間、ミスリル棒の一撃が骸骨剣士の頭蓋骨を粉砕する。





 結局、元冒険者と思われる骸骨は3体だった。

 長剣を持った剣士に、小柄な短剣使い、そして炎の魔法使い。

 短剣使いは、青志しか見ていなかった為、カニに抑えられたまま、バラバラになった。

 魔法使いは、とんでもない火力の持ち主だったが、鎧竜の装甲や鉄で作られたゴーレムを破壊することが出来ず、返り討ちになった様だ。


 それぞれ、かなり鍛えられた冒険者だったらしく、青志もゴーレムたちも大いに魔力量を増やすことが出来た。

 元々人間だったモノを倒して、経験値を稼いだことに、釈然としない思いの青志ではあったが。


 全てが終わった頃、ちょうど夜も明けた。

 今度こそ地面にへたりこんだ青志の処にやって来たのは、寝起きのシャガルだ。

「おはようさん。なんか、にぎやかにやってたみたいだな」

 護衛のデンキゴブリンを連れ、鼻くそをほじる姿に、青志の気が抜ける。


「あんたが起きてくれないから、1人で大変だったんだぞ!」

「骸骨が出たんだろ?」

 文句をぶつけようとする青志に、シャガルが事も無げに答える。

「は?な、なんで?」

「ここの坑道は火山のせいか熱いからな、死人がすぐ動き出すのさ」

「え?それは、どういう・・・?」


「魔ヶ珠の働きに、大まかに2種類あるって分かってるか?」

「・・・魔道具なんかを起動したり、杖につけて魔力を増幅したりとか・・・」

「そういう分け方じゃねぇ。生き物の体内にある時と体外にある時で、働き方が違うだろっ!」


「ああ、そういう分け方か」

「じゃあ、死体に魔ヶ珠を残してたら、どうなる?」

「身体が腐って・・・それで、おしまい?」

「普通は、そうだな。でも、ここの坑道みたいにケモノや人間の体温ぐらいの温度があるとだな、魔ヶ珠が勘違いして、勝手に身体を動かし始めるんだ」


「よく分からないけど、それが今回の骸骨?」

「そうだ。ここじゃ、坑道で死んで、そのままにされてたヤツが動き出すのは、当たり前のことさ」

「当たり前って簡単に言うけど、すごい数だったんだぞ。そんな気楽な話じゃなかったんだからな!」


 突然、笑い出すシャガル。

「あーはっはっはっ!それで、ご丁寧に全部の骸骨を倒したのかい?ご苦労なこったな!」

「おい!さすがに冗談じゃ済まない話だったんだからな!」

「魔ヶ珠が勘違いするのは、ケモノとかの体温ぐらいの温度が要るって言ったろう!坑道を出てしばらく経ったら、温度が下がって、ただの骨に戻るだけさ!」


「え?え?それって、つまり・・・?」

「ご苦労だったな」

 シャガルは青志の肩を叩くと、とても生温かい目で、微笑むのであった。

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