現れたモノ
活動報告に経緯は書いたのですが、ただいま入院中です。
こんなオッサンの容態を気にかけて下さった皆様、ありがとうございます。
固形物も食べられるようになり、後は諸々の数値が正常に戻ればオッケーという状況になりました。来週早くには、退院出来るでしょう。
そんな訳で、身体は大丈夫なのに、時間だけもて余してます。
退院までにあと1話、出来れば2話アップできたらいいな~。
坑道跡までは、ひどい強行軍であった。
青志も鎧竜を倒す前なら、途中で体力が尽きていたかも知れない程だ。
それを飄々とした様子でこなしてしまったあたり、シャガルもずいぶん冒険者として鍛えているのだろう。
旅の途中に分かったが、彼の魔法属性は火であった。
たどり着いたのは、火竜山の中腹。
周囲が背の低い木々の林になっている中、そこだけが野球場ぐらいの広さの草原になっている。
かつて、村があった場所だ。
が、そこに、村の痕跡は全く見出せない。
何十年もの間に、土に還ってしまったようだ。
坑道内にいた人間が全滅したなんて物騒な話を聞いているだけに、変に建物が残ってゴーストタウン化してるより、何も残っていない方がありがたいと思う青志である。
このファンタジー世界においては、霊魂の存在がどう考えられてるのか分からないが、やはり幽霊とか呪いとかは、怖いのだ。
ちなみに、青志はまだ幽霊を見たことはない。
「ここが、坑道の入り口だな」
林の中に現れた土の斜面に向かって、シャガルがスコップらしき道具を振るい出した。
「ああ、いいよ、シャガル。こっちでやる」
ミミズの魔ヶ珠を地面に落とす。
現れたミミズゴーレムを見て、シャガルが慌てて飛び退く。
道すがらゴーレムの説明はしたのだが、いまだにおっかなびっくりだ。
ゴブリンの身体に鎧竜の装甲板が使われてるのには興味を見せたが、他人の能力とかには、あまり関心がないようである。
ミミズが土魔法を使って、塞がれていた坑道の入り口を暴いて見せても、「便利でいいじゃないか」ぐらいの反応しかない。
しかし、青志にとっては、そんな物足りないぐらいのシャガルの反応がありがたかった。
変に怖れらる訳でもなく、嫉妬される訳でもない。
便利だなと言いながら、それを当てにする様子もない。
明らかにシャガルが普通でないのだが、青志は、この探索行を楽しく感じ始めていた。
鎧竜を倒すのに貢献したせいで魔力量が格段にアップしているミミズゴーレムは、猛烈な勢いで坑道の入り口を塞いでいた土砂を掘り進んでいく。
土砂を崩し、その土砂を消滅させ、開いた空間の壁を硬化してしまうのだ。
まさに超高性能な土木マシーンである。
5メートルも掘り進めると、ポッかりと空洞が口を開いた。
坑道に行き当たったのだ。
モワッと生温かい空気が溢れて来る。
シャガルが松明に火を点け、空洞に投げ込む。
と、たちまち炎が揺らめき、すぐに消えてしまった。
「これは、ダメだな。悪い空気が溜まっとる」
「とりあえず、ミミズに何本か換気用の穴を掘らせて、風魔法の使えるゴーレムに、風を送り込まさせてみるよ」
「そうだな。じゃあ俺は、野営の準備でもしておこう」
さすがの無鉄砲ドワーフも、息も出来ない場所に突撃する気はないらしかった。
坑道内に何が溜まっているかは分からないが、突如噴出した火山性の有毒ガスが、数十年前の惨劇の原因かも知れない。
ドラゴンとか、他の危険なケモノに遭遇する可能性が減ったと思えば、青志にはホッと出来る話だった。
野営場所は、村があった場所の一角である。
草を刈り、立ち木を利用してタープを張り、その下にテントも設営した。
周囲を遮る物が何もないので、ケモノの襲撃だけが心配だが、そこは鷹とコウモリゴーレムを3体ずつ投入して、警戒を厚くしている。
ミミズは、換気用の穴掘りを続けており、風魔法を使える超音波ゴブリンが入り口から風を送り込んでいる。
その作業が換気にどの程度の効果があるのか、正直分からない。
が、ここまで来て、ミスリルを手に入れられないという事態は避けたいのだ。
デンキとウィザードは、それぞれシャガルと青志の護衛に付いている。ミゴーは、遊撃だ。
青志が村跡の廃材を使って焚き火を作ってる間に、シャガルはウサギを2羽仕留めてきた。
何か飛び道具を使ったのか、かなりの手際の良さだ。
ウサギ肉は香草と一緒にフライパンで焼いた。
「坑道の悪い空気は、抜けるのにどれぐらいかかると思う?」
「分からん。普通なら放置したままで何ヵ月もかかる。が、今回は換気の穴を何本も掘れるし、風を無理矢理送り込んでもいるから、もしかしたら数日でいけるかも知れん」
シャガルが答えながら、自分の大きな背嚢から小さな樽を取り出す。
「どこかでアリを大量に倒せたら、アリゴーレムに採掘をさせてもいいんだけどね」
「ゴーレムなら空気は関係ないかも知れねぇが、いい石の見分けはつかねぇだろう」
樽に差していたコルク栓を引き抜くと、直接口をつけてゴキュゴキュと飲み始める。
「確かに、オレ自身がミスリル鉱石の見分けなんぞ出来ないからなー。ゴーレムにミスリル掘って来いって命令しても、伝わらないだろうし・・・」
「焦っても、しょうがねぇよ。悪い空気さえ抜けたら、後は俺に任せろ」
そう言って、豪快に樽酒を煽るシャガル。
とんでもなく強い酒の匂いが青志にまで届く。
付き合い程度にしかアルコールを飲まない彼には、刺激の強すぎる匂いだ。
1人で小さな樽を空にしてしまうと、シャガルはイビキをかいて寝てしまった。
相変わらずの自由人ぶりである。
毛布だけ掛けてやると、焚き火の番をゴブリンウィザードに任せ、青志もテントの中に引っ込んだ。
もちろん、コウモリゴーレム3体による警戒は続けている。
鷹ゴーレムは夜目が利かないので待機中。
デンキゴブリンは、酔っ払いドワーフの護衛。ミゴーが青志の護衛だ。
しかし、敵は予想たにしない方向から姿を現した。
深夜――――。
寝入っていた青志は、ミミズゴーレムからの警戒信号で目を覚ました。
坑道の換気用の穴を掘り続けていたミミズゴーレムが、坑道の内部に生まれた無数の足音らしき音源を感知したのだ。
ミミズには、まともな視覚が無いので、それ以上のことは分からない。
コウモリゴーレム1体を坑道に急遽向かわせながら、青志も身支度を整える。
坑道の入り口にいる超音波ゴブリンを偵察に向かわせれば早いのだが、足音の群れに飲み込まれでもしたら、今度こそ魔ヶ珠をロストしてしまうだろう。
そんな危険は、冒せない。
焚き火のそばでイビキをかくシャガルを揺り動かすが、全く起きる気配がなかった。
いつケモノが襲ってきても不思議じゃない場所なのに、豪気なことである。
それとも、危険が迫ったら、戦闘モードになって目を覚ますのだろうか?
しょうがないから、シャガルは置いておくことにする。
どうせ野営地は守りたいし、デンキゴブリンを中心に、コウモリ2体、鷹3体を置いておく。
鷹は暗闇では役に立たないが、焚き火の灯りが届く範囲でなら、それなりに戦える筈だ。
マグライトを片手に、坑道へ向かう。
水を視る魔法を併用しているので、暗闇の中でも行動には困らない。
立ち木の幹や葉に流れる水が、全て朧に光って見えるのだ。
地面の凸凹までは分からないが、そこはマグライトで照らして行く。
坑道の入り口に着いた頃、ようやく足音の正体が判明した。
骸骨だ。
コウモリの超音波での察知だから確かではないが、人間大の骸骨が無数に坑道の出口を目指しているのだ。
「そういう形態のケモノなのか?それとも、坑夫たちの成れの果てか?」
身構える青志の前に、骸骨の群れの先頭が。ゆっくりと姿を現す。
青志が疑問に思うように、それは生命体としては、あまりに不自然なモノだった。
土色に汚れた骸骨が、ギクシャクと前進してくる。
筋肉等の組織は、完全に失われていた。
各関節がどうやって繋がっているのか謎だ。
動きは、ひどくぎこちない。
ただ、その動きを支配しているのは魔ヶ珠のようで、肋骨の内側に貼り付いたそれが、淡い光を放っている。
「見た目はスケルトンだけど、動き方は、むしろゾンビだな」
坑道の入り口から、無数の骸骨が溢れようとする。
そこに襲いかかるゴブリンウィザード、超音波ゴブリン、そしてミゴー。
無数の骸骨が坑道外に出てしまったら、もう手に負えない。
数の猛威は、簡単に青志たちを呑み込んでしまうだろう。
そこで青志がとった手は、坑道の入り口で全ての敵を殲滅するというものだ。
ゴブリンウィザードたちが坑道の入り口を塞ぐように陣取り、ただひたすら骸骨の群れを蹴散らすのである。
青志はその後方に位置し、防御線を突破した骸骨を倒す役目だ。
背後の警戒は、ウサギゴーレムに任せてある。
ゴーレムの召喚数は、これでギリギリだ。
以前に比べれば格段に増えた召喚数だが、骸骨の他に大型のケモノが現れたら、もう支え切れない。
その時は、ミミズゴーレムに坑道の入り口を崩させなければならなくなる。
が、それは最悪の事態のことだ。
敵が骸骨だけの間は、例えその数が膨大な数字になろうとも、ここで自分が食い止める。
それが、青志の決意だ。
自分らしくないことは自覚している。
しかし、骸骨の群れは、ここで殲滅するのが最も賢い選択の筈だ。
ミゴーの鉄の爪が、骸骨の肋骨を砕く。
超音波ゴブリンの手槍が、骸骨の頭部を貫く。
ゴブリンウィザードの小剣が、骸骨の手足を切り飛ばす。
3体の攻撃を掻い潜った骸骨の頭部に、青志のミスリル棒が押し当てられる。
「逃がさないよ」
衝撃波を放つ。
ゴリッ!
痛そうな音がして、骸骨が仰け反った。
それだけだ。
薄々青志も予想していたのだが、一片の肉も持たぬ骸骨には、衝撃波は通用しなかった。
「くそーっ!」
青志は叫びながら、ミスリル棒を振り回し、骸骨の頭部を吹き飛ばすのであった。