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新たな魔ヶ珠・その②

 そして、再びの温泉地帯――――。

 青志は、せっせと野営の準備を行っていた。

 場所は前回と同じ、岩陰に温泉の湧く高台。

 今回は、更に長期の滞在を予定している。がっぽり稼ぐのだ。


 彼は北門を離れ、東門に居を移す気になっていた。

 『なでしこ』に行けば、日本食が食べられるのだ。

 その近くに住む場所を探そうと思うのは、当然の流れだろう。

 北門ではクリムトに口を利いてもらい、ギルドが安く貸す部屋に入居していた。

 ウィンダ事件のあった、あの部屋である。

 プライバシーなど守り様がない部屋であった。


 街にいる間はゴブリンゴーレムを部屋に置いておきたいので、小さくていいから一軒家を借りようと考えている。

 そうなると、北門のときとは比べ物にならないぐらいに家賃がかかると思われるので、まずは稼ぐことに決めたのだ。

 

 狙いは、陸棲アンモナイトの甲殻。

 アイアン・メイデンがそれを狩っていたので、話を聞いてみたら、甲殻を丸々持って帰ったら、金貨10枚になるという。

 日本円だと、おおよそ100万円。

 家を借りるには、じゅうぶんな金額だ。


 が、狙うのは1匹ではない。

 アイアン製のゴーレムを増やす為にも、2~3匹は狩りたいところだ。

 生命を狙われたせいもあるし、ボディガードの数は増やしておきたい。

 少なくとも、ゴブリンをもう1体、それと鷹を1羽はアイアン化しようと思っている。

 この先は、ゴブリン2体と鷹1体を常時召喚しておく予定だ。


 屋根となるタープを張り、その下にテントを設置すると、焚き火を起こし、食事の準備を始める。

 辺りは、もう薄暗くなっていた。

 索敵には、コウモリのトリオを飛ばしている。

 目の前には、アイアン・デンキゴブリンの見慣れた姿。

 

 そして、背後の大岩の中では、蟻ゴーレムが2体、仕事に(いそ)しんでいる。

 大岩の中身をくり抜いて、住居化しているのだ。

 今後も、ここを拠点に狩りをするつもりなので、まずは居心地のいい宿を確保しようとしているのである。

 

 北門付近に青志の生命を狙っている者がいることを考えると、ここに定住してもいいぐらいだ。

 身を守る為とは言え、人を殺してしまったことも、心配の種になっている。

 不思議なほど罪の意識はないし、街の外で冒険者同士で殺し合っても法的に問題がないことは分かっているが、確実に誰かの怨みは買っているだろう。

 襲撃者たちの嫁だの子供だのに、仇として狙われるのは、御免こうむりたい。


 食事を終えると、もう夜だった。

 LEDのランタンを点けると、地面に置く。

 このランタンは、付属のハンドルを回して充電が行える。おまけに、スマホなんかにも電気が分けられる優れものだ。

 青志は、このランタンで充電できるタイプのマグライトを持って来ているので、ずいぶんと重宝している。

 ちなみに、ランタンの前には荷物を置いて、その光が遠くから視認されないようにしていた。焚き火をしていたら、あんまり意味がない話であるが。


 そして、いよいよお楽しみの時間である。

 青志は、ポケットから15個の魔ヶ珠を取り出した。

 サムバニル市を出る前に買っておいたものだ。

 今回は東門近くの店で買い求めた物なので、前回とは違う種類のゴーレムが作れると期待している。

 

 コストが多めで色がはっきりしたものが6個、コスト少なめが9個、順番に試していく。

 まずは、コストの少ないものからだ。

 1個目――――コウモリ。

 コウモリがハズレ扱いなのは、東門でも同じのようである。

 が、実は、今回はコウモリが欲しかったのだ。


 コウモリを魔ヶ珠に戻すと、ゴブリンの魔ヶ珠に融合させる。

 これで、超音波レーダーを備えたゴブリンの誕生だ。

 デンキゴブリンに融合させることも考えたが、デンキウナギには弱電流を放出して獲物の位置をつかむという能力があった筈なので、似たような能力を付けるのはマズいかなと思って、やめたのだった。


 2個目――――コウモリ。

 一般の冒険者って、そんなにコウモリばかり狩っているのだろうか?

 これは、鷹に融合。

 鷹には、地上ばかりを見させているので、頭上からの攻撃を察知するのに、超音波レーダーは有用だろう。

 ついでに、夜間でも使えるようになるのは、ありがたい。


 3個目――――ミミズ。

 青志のもとで活躍しているミミズに比べれば、身体も小さく魔法も使えない。

 使い道なし。

 

 4個目――――陸棲アンモナイト。

 ただし、ずいぶん小さい。幼体なのかも知れない。

 甲殻を触ってみたら、モロに土の感触だった。

 土を使ってゴーレム化しても、鉄の甲殻になるのなら使えるが、これでは使い道なしだ。


 5個目――――コウモリ。

 欲しかったとは言え、ここまでコウモリが多いとは思わなかった。

 アイアン・ウサギ(風魔法つき)に融合。

 風魔法の索敵能力に超音波レーダーが加わり、ちょっとスゴいことになりそうだ。

 戦闘力もバカにできないし、実に頼れる存在になるだろう。

 ちなみに、青志がサムバニル市に滞在してる間は、市外で土に埋められたまま待機していたという苦労人である。


 6個目――――ウサギ。

 青志が使ってるアイアン・ウサギより、だいぶ大きい。

 索敵用なら小さい方がいいし、使い道なし。


 7個目――――ヘビ。

 もう持ってる上に、あまり活躍していないので、使い道なし。


 8個目――――空飛ぶクラゲ。

 前にも空飛ぶスライムっぽいのが出たが、動きが鈍すぎて、戦闘に使えるとは思えない。

 ただ、毒針の威力次第では、融合材料にしてもいいので、保留。


 9個目――――トンボ。

 体長1メートル弱。大昔の地球に、こういうのがいた筈。

 翼竜にしてもそうだけど、ずっと昔から、地球上の生物はこの惑星(ほし)に転移して来ているのだろう。

 しかし、使い道なし。

 

 低コストの魔ヶ珠をゴーレム化させて分かったことは、青志が使っている普通サイズのウサギやネコが入っていないことだ。

 恐らく、それらのレベルの物は、1個1個売られるのではなく、まとめて流される販路があるのだろう。

 青志としても、もう小型のゴーレムは必要を感じないので、それはそれで問題はないことだった。


 では、本番。コスト高めの6個の開封だ。

 

 1個目――――コイに似た怪魚(水魔法つき)。

 全長1メートル余。コイに似てるが、胸ビレが鞭状に長く、サメのような鋭い歯を持っている。

 ゴーレムだから呼吸しなくていいとはいえ、デカい魚が平気な顔をして地面に横たわっている光景は、妙にシュールだ。

 水中では強そうだが、水妖(ミゴー)がいるので、融合材料に回すことにする。

 対象は、デンキゴブリンだ。

 電撃と水魔法は相性が良さそうだし、何より、いつもそばにいるデンキゴブリンが水魔法=治癒魔法が使えるのは、心強い。

 一度魔ヶ珠に戻してから融合し、再召還されたデンキゴブリンは、身長が伸び、スマートになった様だ。


 2個目――――巨大なカニ(水魔法つき)

 甲羅だけで50センチ。それに、甲羅より少し小さいぐらいのハサミがついたカニだ。

 全体的なイメージとしては、「ごつい」。

 そのハサミに鋏まれたら、人間の手足なんて簡単にもげてしまいそうだ。

 使えそう。


 3個目――――空飛ぶスライム(風魔法つき)

 前にも出たので、迷うことなく超音波ゴブリンに融合。

 これで、超音波レーダーと風魔法の索敵が使えるゴブリンが完成。

 風魔法による移動速度アップも相まって、デンキゴブリンとは違う形で頼りになりそうだ。


 4個目――――ミミズ(土魔法つき)

 1匹目が意外と役に立ってるので、保留。


 5個目――――巨大ダンゴムシ(土魔法つき)

 40~50センチぐらいの大きさのダンゴムシである。

 刺激を受けると、ぐるっと丸まってしまう性質は、そのままの様だ。

 あまり役に立ちそうにないので、鷹に融合。

 急降下しながら放つ石飛礫(いしつぶて)は、威力的に期待できるのではないだろうか。


 6個目――――オオトカゲ(火魔法つき)

 クリムトに出会う直前に青志が手に入れたオオトカゲとは、同じぐらいの大きさだ。ただし、背中に背の低い放熱用のフィンが3列に並んでいる。

 火魔法を使わせてみると、怪獣映画さながらに、口から火炎放射をしてみせた。

 射程距離は短いし、ゴブリンウィザードほどの高温の炎ではないみたいだが、大いに役立ちそうだ。

 しかし、炎を吐くケモノがいるとは思わなかった。

 今後、要注意である。


 今回は、手札が増えたと言うよりは、手札の強化がメインになった。

 コストの低い魔ヶ珠では、もう旨みもないし、青志自身が強くなって、もっとコストの高い魔ヶ珠を扱えるようにならなければならない。

 なにせ、まだ翼竜のゴーレム化は魔力が足りなくて、成功していないのだ。

 あれが扱えるようになったら、とんでもない戦力になるに違いない。





 その後は、のんびり温泉に浸かった。

 ランタンを消し、頭上の銀河をしみじみと見上げる。

 この惑星(ほし)には月が存在しないが、大き過ぎる銀河のせいで、完全に闇になることがない。

 

 月が無いということは、潮の満ち引きがないということだ。

 この惑星の海は、きっと穏やかなのだろう。

 そして、マントルの活動も、同様だ。

 地球の場合、地殻にも満ち引きがあり、それが地殻変動を引き起こす遠因になっている。

 そういう意味では、マントルの活動が少ないのに火山活動があるのも、不思議な話である。

 地球の火山とは、また違う成因があるのかも知れない。

 

 この想像を絶した光景に、だんだんと馴染んでいく自分を感じている青志だった。



 

 

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