表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/98

1年前のこと

 すいません。前日中にアップするつもりが、日付けをまたいでしまいました。

 そして、なんだか、とても・・・なデキになってしまいました(汗)

 次回からは、主人公がドタバタする話に戻りますので、ご容赦を!

 1年前、馬渡(まわたり)(きょう)は、県内でも有名なお嬢様学校の高等部の2年に上がったばかりだった。

 硬式テニス部に在籍し、ほどほどに練習も頑張り、友だちとも楽しく付き合っていた。

 彼氏に進展しそうな男友だちもおり、次の土曜日には、初めて2人だけで映画を観に行く約束をしていたのである。


 そんな当たり前の日常が崩れ去るのにかかった時間は、まさに一瞬だった。

 通学用のバスがトンネルを抜けると、そこは日本でなくなっていたのだ。

 辺りは、見慣れない樹木が生い茂る森の外れになっている。

 地面はデコボコの草地だ。

 たちまちバスはコントロールを失い、樹木に激突し、動きを止めた。


 それでも誰一人転んだりしなかったのは、運転手がとっさに頑張ったのだろう。

 衝撃が収まるや、運転手がすかさず振り向いて、怪我をした人がいないか呼びかけてきた。

 が、その声に答える者はいない。みんな、窓の外の風景を目にして、呆然としていたのだ。

 京とて、例外ではなかった。

 さっきまであった見慣れた街並みが、どこにも見当たらなかったのだ。


「ここ、どこ・・・?」

「じ、事故なの?」

「スマホが繋がらないんだけどー?」

 あちこちから、弱々しい声が上がる。

 パニックにならなかったのは、直面した事態があまりに想像を絶していたせいだ。


「みんな、落ち着いて!座れる人は座って!

 怪我した子は、いない?」

 いち早く冷静さを取り戻したのは、生徒会長の渡辺優子だ。

「大丈夫!大丈夫だから、落ち着いて!」

「会長、どうなってるの?」

「心配しないで!すぐに助けが来るから、まずは落ち着いて!」

 不安な表情を浮かべながらも、黙って会長の指示に従う生徒たち。

 しかし、救援が来ないことにも薄々気がついていた。

 それが、サバイバルの幕開けだったのである。




 その日は、バスの運転手の佐久間を中心にして、周囲の探索を行った。

 佐久間は、40才ぐらい。細身だが、鍛えられた感じの真面目そうな男だ。

 京もラケットを持って、探索に加わっている。

 バスから出て数十分で、生物や地理が得意でない京にも、自分たちがいるのが日本ではないと分かってしまった。

 どこが変だとは説明できないが、あまりに日本らしくなかったのだ。

 毒々しい紫の花を咲かせる樹木など、見たことがない。

 佐久間に言わせれば、地球でさえないかも知れないそうだ。


 森の外縁に沿って草原を歩いて行くと、茶色いウサギが2羽、ノソノソ動いていた。

 京の知ってるウサギに比べると、はっきりと大きい。

 気のせいか、目付きもやけに鋭く感じる。

「食料は確保しとかないとな」

 佐久間が、物騒なことを口走る。

「え?まさか、ウサギを食べるの!?」

「そうだ。殺すのも料理も俺がするから、心配するな」

 そう言うと、いつの間にか拾っていたらしい石を、ポケットから取り出した。


 考えれば、通学途中だった学生たちが、ろくに食料を持っている訳はないのだ。

 昼食用の弁当を持っていれば、いい方だろう。

 確かに、食料を確保する必要がある。

 が、中学生や高校生の女の子に、サバイバル経験のある者など皆無だ。

 ここは、佐久間に頼るしかない。


 佐久間が振りかぶり、石を投げつける。その姿が、とても様になっている。

 野球をやっていたのかも知れない。

 シューッという空気を切り裂く音とともに飛んで行った石は、吸い込まれるように、ウサギの身体に命中した。

 石のぶつかった衝撃で横様に倒れ、動かなくなるウサギ。


「よしっ!」

 小さくガッツポーズをして、ウサギの方へ向かおうとした彼の動きが、ふいに止まる。

 すぐに逃げ出すと思ったもう1匹のウサギが、殺意剥き出しで突進してきたのだ。

 お腹から左右に突き出しているのは、刃物か?

 気が付いたときには、京は走り出していた。


 佐久間の前に出ると、ウサギを相手にラケットを振り抜く。

 ただ、ラケットの面は地面に向けている。

 カーボンのフレームが、ウサギの鼻面に叩き込まれた。

 フレームが砕け散り、吹っ飛ぶウサギ。

 京の胸の中で、コリッと何かが音を立てた。





 バスに戻ると、ウサギを調理し、みんなで分けて食べた。

 が、全員で50人を越える人間がいるのだ。

 ウサギ2羽ぐらいじゃ、みんなに行き渡る筈もない。

 その日は、弁当を持っていた者もいたから何とかなったが、翌日からはもっと大きな規模で狩りを行わないといけないだろう。


 しかし、佐久間や京、それに数人の女の子が明日からの方策を練ってる横で、ほとんどの子たちはメソメソと泣いてばかりだった。

 何不自由なく育ってきた10代の女の子たちが、いきなり文明の手が届かない場所に放り出されたのだ。無理もない反応であったろう。

 更にその夜、彼女たちを恐慌に(おとしい)れるものが現れた。


 頭上を覆う巨大な渦巻星雲――――。

 絶対に地球上では見られない筈の光景に、ある者たちは茫然自失となり、ある者たちはパニックを起こす。

 京もまた、身体が自然に震え出し、涙があふれてくるのを止めることが出来なかった。

 やはり、自分たちの平穏な日常は、完全に失われたのだ、と。


 深夜になると、バスの外を徘徊する何者かの気配が、恐怖を増長する。

 バスの中には入って来れないという佐久間の言葉だけが、唯一の救いだった。

 それでも、バスの中に詰め込まれたまま、横になることも出来ず、トイレに出ることも出来ず、彼女たちの精神は急激に磨り減っていく。





「ヒトの住む町に行く」

 佐久間がそう言い出したのは、翌朝のことだった。

「ここにいても、ジリ貧だ。少しでも体力があるうちに、安全な場所に移動する」

「移動って、バスは・・・?」

「バスは動かせない。歩いて行くしかない」

「そ、そうですよね・・・」


 さすがに、道なんか無い起伏に富んだ場所では、バスは走れない。

「でも、この惑星(ほし)に、人間なんて住んでるのかしら?」

「それが・・・おかしな話なんだが、昨日から、向こうの方向に町があるのが見えるんだ」

「え?なんですか、それ?」

 返答に窮する佐久間。

 しかし、京には、それが真実と分かっていた。


「佐久間さん、見えるようになったのって、ウサギを殺してからじゃないですか?」

「君もか?」

 前日にウサギを殺したのは、佐久間と京だけだ。

「私が見えるようになったのは、遠くじゃありませんけど」

 京に見えるようになったのは、他人の能力だ。

 正確に言うと、他人の魔力パターンを読み取り、どんな魔法が使えるか知る能力である。


「じゃあ、信じてくれるんだな?」

「はい。私には、佐久間さんに遠くを見る能力と、火を操る能力があることが見えています」「火を?」

「はい。こんな風に――――」

 京が指先にパチンコ球ほどの水の塊を浮かべてみせると、佐久間も見よう見まねで小さな炎を生み出してみせた。

「ほう。これは、魔法か」


 佐久間が火魔法を使えることを見抜いてみせたせいで、京の能力が信用してもらえたのは僥倖だった。

 おかげで、佐久間の千里眼とも言うべき能力も信用されることになる。

 京、生徒会長の優子をはじめとして、何人かの生徒は、佐久間への同行を表明。

 が、多くの者は、バスから離れることを拒んだ。

 無理もない話だったが、恐ろしかったのだ。

 そこにいれば救出隊が来てくれると、まだ信じようとしていたのである。


 結局、佐久間を含めた21人が、町を目指して旅立った。

 同行を拒みながらも、捨てられる子供のような目で自分たちを見ていた残りの33人の姿を、京は忘れることが出来ないだろう。

 33人の中には、能力を発現している者はいない。

 一応、ウサギでも何でも殺せば、能力が発現する筈だと説明はしておいたが、どれだけの者が、それを実行できるだろうか。

 

 そして、城壁に囲まれた予想以上に巨大な都市が見えてくるまで、4日かかった。

 その間、3人の生命が失われた。

 その人数が多かったのか少なかったのか、京には判断がつかない。

 ただ、自分が4人目になっていたとしても、なんの不思議もない状況だった。

 中にはよく知った子もいたのに、おかげで涙一つ流せなかった。


「じゃあ、ここからなら、君たちだけで行けるな?」

 佐久間がそう言い出したとき、京は意味が分からなかった。

「え?」

「確かに、町はあった。だから、残りのメンバーも連れてくる」

「何言ってるんですか?みんな、行きたくないって言ったのに、無理ですよ!」

「今なら、気が変わった子もいるだろう。1人でも2人でも、そんな子がいるなら、連れてくるさ」

 そう言って、彼は引き返して行った。





 京たちは、言葉が通じないままサムバニル市の衛兵に保護される。

 そして、佐久間と残りの生徒たちが追いついてくることはなかった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ