東門ギルドにて
ただ今より、以下の名称変更作業に入ります。
メタル・ベイビーズ → アイアン・メイデン
紅月鈴華 → 神代流花
さくら → なでしこ
アイアン・メイデンとかは安直過ぎるので、いいのを思いついたら、また変更するかも知れません。
サムバニル市には、東・西・南・北・北東・北西・南東・南西の八大門があった。
そして、各門ごとに冒険者ギルドが存在している。
それぞれのギルドは連携しているものの、基本的には独立した組織である。
青志は、これまで北門のギルドに出入りしていた訳だが、今回初めて東門ギルドにやって来ていた。
冒険者は、自然と各ギルドに帰属する意識を持つようになるのだが、別のギルドに出入りすることが忌避されている訳ではない。
フード付きの外套で顔を隠したゴブリンゴーレムを連れ、ギルドの作業所に足を踏み入れる。
常時ケモノの死体が持ち込まれ、解体も行われている場所だけあって、ひどい匂いだ。
だだっ広い作業所は風通しをよくする為に、三方に大きな扉があり、開放されたままになっている。
その中で、半裸の男たち10数人が、手分けをしてケモノをさばいていた。
ケモノを持ち込んだらしい冒険者たちの姿も見える。
床には排水溝が何本も走っていて、血などを洗い流し易くしてあった。
周囲には精肉所や皮革の加工所が集まっており、持ち込まれたケモノの死体は、この一帯だけで速やかに処理されることになる。
青志が持ち込んだのは、売れそうな部位だけを彼なりに判断して持ち帰ったものだ。
メインは、翼竜の尾羽と羽毛。あとは、牛肉の塊と翼竜の鉤爪が高く売れないかなと期待している。
陸棲アンモナイトの甲殻を売れたら良かったのだが、あいにくと今は、ゴブリンの形をとって、青志の後ろで荷物持ち中だ。
「ほほう、火炎鳥の羽じゃねえか。まさか、火竜の山に入ったのかい?」
「いや、山の麓でね。怖くて、山には入れないよ」
「じゃあ、うまい具合にハグレを狩れたんだな。
普通は、集まって巣を作る連中だから、運が良かったな、お前さん」
気の良さそうなマッチョな男のセリフに、青志は胸を撫で下ろす。
翼竜が離陸をするのに都合のいい地形は限られるから、自然と固まって営巣する形になるのだろう。
今回は1匹しかいないと決めてかかっていたが、他に2~3羽いたって不思議じゃなかったのだ。
次があるなら、ちゃんと事前に巣の数を確かめておかなければならない。
「タマブクロは、取って来なかったのか?」
「え?鳥の?」
まさか、オークやゴブリンだけじゃなくて、翼竜のアレも売れるのだろうか?
「そうだ。火炎鳥は、食ったケモノの魔ヶ珠を、腹ん中に貯め込んでるってんで有名だろうが」
「な、なんと!?」
「なんとじゃねぇだろ。知らなかったのかよ、とんだ間抜けだな」
タマブクロは、アレの方じゃなくて珠袋という意味らしい。
翼竜=火炎鳥のような巨大なケモノが空を飛ぶのは大変だから、食べたケモノの魔ヶ珠を排泄せず、体内に貯め込んで、魔力を利用するのだそうだ。
つまり、青志が倒した翼竜の珠袋の中には、水牛やそれクラスの魔ヶ珠が、たっぷり詰まっていたのである。
「なんてこった・・・」
がっくりとうなだれる青志。
新しい戦力を確保した上で、余りは売れたのにと思うと、その損失は大き過ぎる。
「あーあ、火炎鳥なんて滅多に狩れないだろうに、やっちまったなぁ」
係員の男は、完全に面白がっていた。
やはり、下調べは必要ということだ。
「まあ、尾羽と羽毛だけでも、いい値段になるから落ち込むなや。鉤爪も悪くねぇぞ」
男が書いてくれた精算書を受け取り、今度は事務所に向かう。
作業所では、金銭のやり取りを行わないのだ。
事務所は、悪臭が届かない程度に作業所から離れた場所にある。
こちらでは金銭のやり取りと各種の手続きを行う。
北門ギルドでは、上階に飲食所があったが、東門では、ギルドと提携した飲食店が付近に集まっているようだ。
おかげで、事務所内はひどく静かかである。
受け付けをしてくれたのは、やけに迫力のある無愛想なオバサンだった。
真っ赤な髪が、逆立っている。
オバサンと言いつつ、青志とどちらが年齢が上かは、微妙なラインだ。
しかし、自分より年下であろうと、オバサンはオバサンなのである。
オッサンと自覚しながらも、青志の精神年齢は決して高くない。
お金の受け取りの時に、北門で発行された青い鑑札を見せると、見透かしたようにニヤリと笑われた。
青志の風評がどう伝わっているのか分からないが、かなりやり辛い。
ちなみに、もらえた金額は金貨1枚分を越えていた。
後で両替をすることになったら面倒なので、最初から銀貨でもらっておく。
銀貨が10枚で、金貨1枚の価値。
銀貨1枚で大凡1万円ぐらいの感覚だ。
銀貨の下に、更に粒銀、銅貨があるが、通貨の単位はない。
モノの値段は、「粒銀2枚と銅貨5枚」という具合に表される。
「で、北門の色男さんは、東に逃げて来られたのかしら?」
澄ました表情で下衆いことを言ってくるオバサン。
すごく、やりにくい。
「今回は、たまたまこちらに用事がありましたから。
でも、これからも時々お世話になると思いますから、よろしくお願いします」
不快感をグッと抑えて青志が大人の対応をすると、オバサンが意外そうな表情を見せた。
そして、居住まいを正して、丁寧な会釈を送ってくる。
「ようこそ、いらっしゃいました。東門ギルドでは、貴方を歓迎いたします」
「え・・・、あ、はい。よろしくお願いします」
きちんとした態度を取られると、オバサンがオネーサンに見えてくるから、不思議なものだ。
他の窓口のオバ・・・オネーサンたちも、控え目に微笑んでくれた。
東門ギルド、悪くないかも知れない。
ギルドの近くで宿屋を見つけると、2泊分の料金を払い、ゴブリンゴーレムと大きな荷物を部屋に押し込めた。
もちろん、ゴブリンゴーレムも1人分、料金を払ってある。
ゴーレムは寂しいとか退屈とか感じないと思うが、ちょっと申し訳ない気分だ。
謎の金属男を連れて女子高生たちを訪ねるわけにいかないから、我慢してもらうしかない。
ここ数日ずっと近くにいたせいで、ゴブリンゴーレムと離れるのは心細いが、まだ鷹ゴーレム2体が上空から目を光らせてくれている。
この街の建物なら窓にガラスなんて嵌まっていないし、どこにいたって助けてもらえるだろう。
すっかり、ゴーレム抜きではいられなくなってしまったと、自嘲する青志である。
そして目指すは、『なでしこ』。
東門近くの公園のそばとしか分からないが、なんとかなるだろう。
それこそ、鷹ゴーレムに期待だ。
日本人らしい女の子がいたら、関係者とみて間違いないだろうし。
公園に向けて歩き始める。
と――――。
道の真ん中に黒髪黒瞳の少女が立っているのが、目に飛び込んできた。
じっと、青志を見ている。
鋼のお嬢ちゃんたちの3人とは違うが、間違いなく日本人だろう。
どうして気づかなかった、鷹ゴーレム?
「はじめまして。アオシさん」
真っ黒なワンピース姿。
ストレートの髪を長く伸ばした、大人びた神秘的な風貌の少女だ。
胸のあたりの張り出しも、大人びている。
「はじめまして。よく分かったね」
「それが私の能力ですから。
馬渡京です。お迎えにあがりました」
はるか年下の少女に艶然と微笑まれ、思わず赤面する青志であった。