表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/98

翼竜狩り

 アイアン・メイデンの3人が唐突に立ち去ってしまい、ちょっと寂しい気分の青志である。

「可愛い女の子のゴーレムが欲しいなぁ・・・」

 そう呟いてから、その製造過程の残酷さに気づき、慌てて頭の中から消し去った。

 さすがに、人間のゴーレムはヤバ過ぎる。


 で、気を取り直して、修行にとりかかることにした。

 1週間程度はこの地に留まり、狩りをする予定である。

 気分としては、ゲームでいうところのレベル上げとか経験値稼ぎなのだが、普通、この世界の人間は、そんなことをしない。

 狩りは必要に応じてするもので、殺すためだけにケモノを狩る者は、冒険者たちから排斥されることになる。


 青志にしても、自分が必死にウサギ狩りをしている横で、明らかに格上な冒険者がウサギを乱獲し始めたら、穏やかな気分ではいられないだろう。

 ケモノ=モンスターではないのだ。

 一度殺してしまえば、確実にその数は減っていくのである。


 でも、青志は強くなりたい。

 それも、早急にだ。

 だから、人気(ひとけ)のない、こんな場所までやって来た。

 ここでなら、狩りのための狩りをしても、誰かの目に止まることはないだろう。

 もちろん、弱いケモノを乱獲するような真似はしない。

 ごっそり魔力をもらえそうな相手を、ゴーレムと罠を駆使して、倒すつもりだ。


 まずは、偵察。

 付近に、どんなケモノが生息しているのかを探る。

 鷹ゴーレム3体で、辺りを隈無く調べた。

 そして見つけたのが、翼長5メートルを超える翼竜。

 真っ赤な羽毛に覆われてはいるが、その姿は、空飛ぶトカゲ。いや、ワニ。

 翼は、コウモリのような薄い皮膜だ。


 大物ではあるが、翼は弱い筈。

 空を飛ぶ生物の特徴として、軽量化のために骨の中身もスカスカになっていて、モロいと予想できる。

 最大の狙い目は、着陸直後だ。

 青志の持つ知識では、翼竜は、離陸と着陸が苦手である。

 その身体の大きさのせいで、フワリと舞い降りるような着陸は出来ない。不時着としか言い様のない不格好さで着地するのだ。

 むろん、学説は新しい証拠が見つかれば変わってしまうし、異世界の生物に地球の理屈が通じるかも分からない。


 という訳で、観察である。

 鷹ゴーレムの尾行で、翼竜の巣を発見。高さ20メートルほどの断崖の中腹だ。

 その断崖の上が、樹木も疎らにしか生えてない平坦な地形になっていた。広さは、テニスコートほど。

 翼竜は、そこを滑走路代わりに使い、離陸と着陸をしているのだった。


 飛び立つときは、翼を広げたまま、2本の脚でヨタヨタとそこを走り、断崖から飛び降りるようにして上昇気流を捕まえる。

 着陸のときは、翼を広げたまま着地し、その勢いを殺そうとして転倒し、全身で地面を滑っていくのが常のようだ。

 狙うのは、ここしかない。


 幸い、断崖の上までは大した苦労もなく登ることが出来た。断崖の背後は、ちょっと急な程度の丘陵だったのだ。

 翼竜の滑走路にたどり着くと、まずは蟻ゴーレムに穴を掘らせる。深さは30センチぐらいで、長さは2メートル弱。青志が横になって、隠れられる穴だ。

 翼竜が着地前に青志に気づいてしまったら、彼など単なる獲物になってしまう。

 空を飛んでる翼竜は、地上の生物からすると、天敵以外の何者でもない。


 青志の分が出来ると、次はゴブリンゴーレム3体分だ。

 位置をずらして、3つ掘る。

 ダメージは、出来るだけ青志1人で与えたいので、その為にゴブリンたちに牽制をしてもらうのだ。

 もちろん、青志1人の手に余るようなら、攻撃にも転じてもらう。

 強くはなりたいが、死んだり、大怪我を負ったりしては元も子もないのである。


 穴の中に身を横たえ、毛布をかぶり、その上からゴブリンたちに土をかけさせた。

 外は見えないが、鷹ゴーレム2体の監視の目があるから、問題はない。

 ゴブリンゴーレムたちも、それぞれ穴の中に入り、自ら土を被って身を隠す。

 これで、準備完了。

 後は、翼竜の帰還を待つだけだ。


 翼竜の観察は、前日の1日しかやってないが、その時の帰還は日没前だった。

 現在は、まだ正午前と思われる。

 長ければ、夕方まで待ち続けなければならない。

 が、獲物が手に入れば、その時点で翼竜は戻って来ると、青志は考えていた。

 空を飛ぶ生物は、太る訳にはいかない。だから、必要以上の大食いをしない。

 必要なだけの食事を摂れれば、それで満足して帰ってくる可能性が高いのだ。


 その為に、まだ早いうちから待機しているのである。

 やっていることは、完全に猟師だ。

 が、猟師と違うところは・・・





 鷹ゴーレムが翼竜が帰ってくるのを見つけた時、青志は見事に熟睡していた。

 真っ暗な穴の中でうつ伏せになったまま、スヤスヤと眠っていたのである。

 目を覚まし、己の緊張感のなさに、さすがに凹みそうになる。

 が、反省している場合ではない。

 翼竜が急速に接近してくるのだ。


 翼竜は、脚にケモノをぶら下げていた。

 水牛のように見える。

 すでに死んでいる様で、肩口に鋭い爪を打ち込まれたまま、動く気配がない。

 滑走路の上に差しかかると、低空飛行で水牛を落とす翼竜。

 水牛は四肢をピンと伸ばしたまま、地面に打ちつけられ、バウンドし、転がった。

 息があったとしても、今のがトドメになったろう。


 水牛を落とし、翼竜が大きく旋回する。

 着陸だ。

 穴の中で手槍を握り締める青志。

 ヤツが不格好に着地した時が、勝負!


 けっこうな速度で、翼竜が突っ込んでくる。

 ごつい鍵爪の生えた脚が地面に着き――――

 脚の回転が速度に追いつかず、胴体から地面に激突。

 そのまま滑って行く。

 立ち込める土煙。


 今だ!

 意を決して、青志は飛び出す。

 土煙の向こうには、倒れたままジタバタしている翼竜の後ろ姿。

 翼竜が立ち上がるまでが勝負だ。

 手槍を腰だめに構えたまま、翼竜の大腿部に突撃。

 鋭い穂先が、ぐっさりと突き刺さる。


 ぎぃやあああああ~~~~~~~~~っ!!


 激しく啼いて、翼竜が振り返ろうとする。

 そこにゴブリンゴーレムたちが参戦。

 手槍で翼竜の顔面を殴打する。

 あくまで、牽制の為だ。

 翼竜の注意がゴブリンたちに向いたところで、手槍を引き抜き、もう一度突き立てる。


 ぎしゃああああぁぁぁ~~~~~~~っ!!


 のたうち回る翼竜。

 立ち上がれずに、もがいている。

 右足は殺せたようだ。

「ゴブリン!もうちょっと、押さえといてくれよ~!」

 翼竜の頭をゴブリンたちが押さえつけるようにしてるのを横目に、青志は手槍で突きまくる。


 



「ぐぅっ!!」

 突然、青志の胸に激痛が走った。

 翼竜が息絶えていることに気づかないまま、手槍を振るい続けていたらしい。

「ぎぎぎぎぎ・・・!!」

 胸が、二の腕が、太ももが、裂けるように痛い。

 手槍を取り落とし、四つん這いになって、必死に痛みに耐える。


 これは、ゴブリンウィザードの時に匹敵する痛みだ。

 苦痛に呻きながら、青志は考える。

 胸だけじゃなく、二の腕や太ももまで痛むのも、その時以来のことである。

 青志の場合、胸だけでなく両の二の腕、太ももでまで魔ヶ珠が成長している様だ。

 

 



「大物狙いだと、毎回この痛みを味わわなきゃいけないのか・・・。ちょっと、勘弁だなぁ」

 地面に突っ伏したまま、青志はボヤいた。

「でも、小物をチマチマ狩ってても、なかなか強くなれそうにないしなぁ」

 今回の翼竜のように、青志が魔力を独占できるケースならば、積極的に狙うべきなのは分かっている。

「でも、痛いんだよぅ」


 翼竜からは、緑がかった大きな魔ヶ珠が穫れた。

 肉は、破棄だ。肉食丸出しのケモノの肉は、食べられない。

 後は、真っ赤な尾羽と全身の羽毛。鋭く巨大な鉤爪を回収しておいた。

 街に戻ったら、ケモノごとの売れる部位を確認しておかねばならない。


 ゴブリン3体を駆使して解体を終え、拠点に戻ろうとした時に、それが目に入った。

「水牛・・・」

 そう。翼竜がゲットしてきた水牛の死体が、そこには転がっていた。

「牛肉、いただきました~」


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ