表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/98

陸棲アンモナイト

 狩りに出て7日目。

 時間に縛られない道行きに、青志は生き返った気分になっていた。

 これこそ、こちらの世界に落ちて来る前に、彼が目指していたものだ。

 好きな時間に起き、好きなだけ歩き、好きな時間に寝る。

 食べ物にも困っていない。

 煩わしい人間関係もない。

 おまけに、ゴーレムのせいで寂しさも感じない。

 最高だ。あと、女性がいればとか思ってはいけない。


 予定では、すでに火山の麓に着いているところだが、途中で落とし穴を使った狩りを繰り返していたので、やっと遠目に火山が見えて来たぐらいだ。

 富士山のような円錐形の山稜。

 その頂から、薄い煙が立ち上っている。

 火龍の姿は見てみたいが、命にはかえられないので、山には登らない。

 絶対、登らない。


 ここまでの狩りは、まあまあ順調だった。

 最初の二足トカゲに始まり、陸棲のタコ、そして巨大ヤシガニ。

 鷹ゴーレムが獲物を見つける度にミミズゴーレムが落とし穴を掘り、ウサギゴーレムが囮となって、獲物を罠に誘い込む。

 この手順で、大体はうまくいった。


 ただ、陸棲タコには、苦労させられた。

 文字通り、タコが8本足で巨大な頭部を支え、地面をのし歩いているのだが、これが頭部だけで青志と同じぐらいの大きさなのだ。

 落とし穴も役に立たず、結局ゴブリンゴーレムたちが前面に出て、手槍で突きまくり、なんとか勝つことが出来た。

 たかがタコと侮ってたせいで、一歩間違えれば死ぬところだ。

 大反省である。


 巨大ヤシガニは、形がヤシガニに似てるというだけで、木に登ったりはしない。

 大体、この辺りに椰子の木も見当たらない。

 全身赤茶けた色で、50センチぐらいの体長があり、でかいハサミが付いている。

 こいつが疾走してくる姿にはビビったが、落とし穴に落ちてしまえば、手槍で突き放題だ。


 ちなみに、魚介類好きの青志は陸棲タコの肉に目を輝かせたが、臭くて食べられたものではなかった。

 その代わりと言うか、巨大ヤシガニがエビに近い味だったので、大満足である。

 そこからは、二足トカゲと巨大ヤシガニを狙って、狩りを続けた。

 

 順調に青志の魔力量も増えている。

 飛ばせる水の量も、テッポウウオからバケツ1杯分ぐらいには増えた。

 ただ、バケツで水をかけられたからといって、ダメージを受けるケモノはいない。

 大きめの虫なら落とせるぐらいか。

 

 そして、そいつは現れた。


 温泉があったら、そこを基地にして、しばらく狩りをしようなんて考えていた時だ。

 辺りには、低木がちらほら生えた痩せた大地が広がっている。

 青志も見えている所で、先行するウサギゴーレムが、いきなり砕け散った。

 ウサギゴーレムの索敵能力をかいくぐって、いきなり強烈な打撃を喰らったのだ。

 慌てて臨戦態勢に入る青志とゴブリンゴーレムたち。


 ただの岩に見えていた何かが、のそりと動き始める。

 直感的に、そいつがとんでもなく強いのが分かった。

 触手を伸ばして、ウサギゴーレムのいた場所を探っている。仕留めた筈の獲物が消えてしまったのが、理解出来ないのだろう。

 しばらくウロウロしていたが、やがてギョロリとした大きな目が、青志たちを捉える。

 消えてしまったウサギより、もっと食いでのある獲物を見つけたようだ。


「つまり、オレたちですね・・・。厳密に言うと、オレ1人だけど」

 そいつが、ズリズリと移動し始める。

 体高150センチ。鉄錆色の甲殻。大きな目。無数の触手。

 陸棲のアンモナイトかオウムガイといった外見だ。

 きちんと白目と黒目に分かれた目が、ひどく凶々しい。

 そして、予想外に、移動速度が速い。


 ウサギゴーレムの代わりに、水妖(ミゴー)を呼び出す。

 ミゴーゴーレムを中心に、ゴブリン2体が左右に展開。陸棲アンモナイトを迎え撃つ構えだ。

 青志もリュックを投げ落として、手槍を構える。

 プレッシャーは、陸棲タコの比ではない。 


「むわぁ、クリムト氏、近くにいないかな~?」

 足がすくむ。

 軽口でも叩いてないと、くじけそうだ。

 が、ゴーレムたちが戦ってるうちにトンズラするのが賢そうな状況だが、なぜか逃げる気になれない。


 アンモナイトの突進を、正面から受け止めるミゴー。

 そのまま短剣のような爪を食い込ませようとするが、甲殻の表面に浅い溝を穿つだけだ。

 逆に、その足に木の根のような触手が絡みつく。

 ミゴーの足が、ミシリときしんだ。


 触手を狙い、左右からゴブリンたちの手槍が襲う。

 飛び散る青い血。

 瞬間的に触手の動きが止まる。

 その間に、青志はアンモナイトの背後に回り込んだ。

 体重をかけて、手槍を突き出す。


 ガキーン――――!!


「あうっ」

 明らかに、金属を叩いた手応え。

 両手が痺れる。

 鉄錆色の甲殻は、見た目通りに鉄でできてるとでも言うのか。

 これなら、ハンマーでも持ってきた方が良かったかも知れない。


 それでも何度も突き込むが、まるで歯が立たない。

 逆に手槍が傷みそうだ。

 そうこうするうちに、ついにミゴーの足が砕けてしまう。

 崩れ落ちる痩身。

 青志の手札の中では最強クラスのミゴーだが、アンモナイト相手では分が悪かったようだ。


 手槍で触手を狙い撃ちさせているゴブリンの方が、まだ成果を上げている。

 触手を何本も切り飛ばしていた。

 が、それもミゴーがアンモナイトを抑えていたからだ。

 ゴブリン2体では、そう長く保たないだろう。


 青志はミゴーを引っ込めると、ミミズを呼び出した。

 試しに、石礫(いしつぶて)を撃たせてみる。

 甲殻を貫ければと期待したが、あっさりと弾かれてしまう。

「仕方ない。いつものコースで!」


 地中に潜ると、アンモナイトの下の地面を突き崩すミミズ。

 見事に、アンモナイトが土中に嵌まる。

「よっしゃ!ミミズ、でかした!」

 すかさずミミズを引っ込めると、ここで真打ち登場だ。

 満を持して、深紅の魔ヶ珠を取り出す。


 ゴブリンウィザード――――


 青志が最初にゴーレム化した魔ヶ珠。

 そして、魔力が足りなくて、それ以来ゴーレム化できなかった魔ヶ珠だ。

 それが、ここ数日の狩りの成果で、ついに呼び出せるようになったのだ。


 魔ヶ珠を地面に落とすと、入れ替わるようにゴブリンウィザードの身体が、地面からせり上がってくる。

 その姿は、他のゴブリンよりはヒトに近いかも知れない。

「焼け!」

 青志の命令に従って、放たれる炎の魔法。


 ごぉっ――――!!


 陥没に嵌まったままのアンモナイトを、激しい炎が包み込む。

 炎の杖がなくても、相変わらずの強力さだ。

 心なしか、甲殻が赤熱しているように見える。

 触手を甲殻の中に引っ込めたまま、アンモナイトは蒸し焼きになっていく。





 やがて、青志がゴーレム化を解除してもいないのに、ゴブリンウィザードは土塊(つちくれ)に帰ってしまった。

 炎の中で、アンモナイトが息絶えたのだ。

 陸棲アンモナイトの持っていた魔力をほぼ独占的に受け継いだせいで、ゴブリンウィザードはまた青志の手に負えなくなってしまった訳である。


「今度使えるようになるのは、いつのことやら・・・」

 

 

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ