融合
まずは、青色だ。
戦闘に使えないという烙印を押されている水魔法だが、ケモノだと事情が違うかも知れない。
そういう期待がある。
ポトリと地面に落とすと、思いの外大きな影が立ち上がった。
見覚えのある姿だ。
水妖である。
「やった!欲しかったのが出た!」
水陸両用で、ゴブリンより強い頼りになるヤツだ。
見た目がキモいのが残念だが。
水魔法を使わせてみると、けっこう強い水流を出して、近くの木の枝を吹っ飛ばした。
明らかに、青志のテッポウウオより強い。
優秀だ。
4番バッター決定である。
ミゴーを魔ヶ珠に戻し、次に茶色を試す。
土魔法は最も戦闘に向いているとされており、これは期待したいところだ。
「来い、来い、来~い」
当たりが出ることを祈りながら、ゴーレム魔法を発動。
地面から湧き出したのは――――
「ミ、ミミズ!?」
直径5センチ、長さ1メートル以上のミミズである。
丸い口には、小さいが鋭い牙がズラリと並んでいる。
身体の大半を宙に浮かせ、青志の顔を覗き込んで来る。
キモい。かなり、キモい。
それでも、気を取り直して土魔法を使わせてみると、ゴルフボールほどの石を作り出し、銃弾のように発射。
木の幹に命中するや、表層を抉り、大きな傷を生じさせた。
魔力量はミゴーと変わらないのに、やはり液体で攻撃するよりは固体で攻撃した方が、効果は大きい。
これまた、頼りになる戦力だ。
続いて、赤の魔ヶ珠。
それをゴーレム化させた途端、青志は思わず悲鳴を上げそうになった。
現れたのは、体長50センチほどの巨大ナメクジに、ムカデのような無数の脚を生やさせた謎の生物。
しかも、ムカデ状の脚が、微妙に長い。
キモい。半端なくキモい。
火魔法を試してみると、射程距離2メートルほどの火炎放射を行ってみせた。
ゴブリンウイザードほどの高温の炎ではないが、まずまず使えそうだ。
が、ダメだ。
キモ過ぎる。
どうにも、青志の生理に合わない。
謎生物を魔ヶ珠に戻すや、悩み始める。
「こいつはダメだ。どうにも、無理だ。こいつの火魔法だけを取り出して、他のゴーレムにセット出来たらなぁ・・・って、なんか、出来る予感」
ネコゴーレムの魔ヶ珠を手に取り、謎生物の赤い魔ヶ珠を近づけると、赤い魔ヶ珠がネコゴーレムの魔ヶ珠に、一瞬にして吸い込まれた。
「おおっ!?」
元々はくすんだ灰色っぽい色だったネコゴーレムの魔ヶ珠が、赤い色に変わっている。
少し、大きくもなった様だ。
ネコゴーレムを呼び出し、火魔法を使わせてみると、見事に火炎放射を出してみせた。
魔ヶ珠の融合。また、楽しめる要素が増えたと、青志の頬が弛む。
最後は、緑の魔ヶ珠だ。
現れたものは、1メートル四方の透明なビニール。
「え、なんだ、これ?」
ヒラヒラと浮いていたそれは、やがて焚き火に熱せられた空気に乗ったのか、どんどん上昇して行ってしまう。
「待て待て!風魔法が使えるなら、それで降りて来い!」
青志が言うと、身体を斜めに傾けるや、一気に地面近くまで滑空して来た。
そこで、ピタリと停止する。
どうやら、空を飛ぶスライムの変種らしい。
「これも、イマイチか・・・」
魔ヶ珠に戻すと、ウサギゴーレムに融合させてしまう。
風魔法が使えるようになったウサギゴーレムは、若干の戦闘力アップと、大幅な索敵能力、それに移動能力のアップが得られた筈だ。
「これから魔ヶ珠を買うんなら、色つきを狙うか」
コストは大きめになるが、ハズレの場合でも融合させてしまえばOKだ。
その為にも、ちゃんと購入資金を稼がねばならない。
今回の狩りで、どこまでやれるか。それが、試金石になるだろう。
干し果実をつまみながら、マハは小さく溜め息をついた。
冒険者ギルド内にある食事スペースだ。
夕食の真っ最中である。
同じテーブルには、グレコを始め、いつものメンバーが顔をそろえている。
「なんだよ、溜め息なんかついて?」
エールの入ったジョッキを片手に、グレコが問いかけてくる。
他の2人も、気にしている様子だ。
「いやあ、アオシさんからもらったお菓子の甘さが忘れられなくて・・・」
「ああ、あの黒いお菓子かー。確かに、あれは甘くて美味かったなぁ」
特に甘い物好きでもないグレコが、しみじみと言う。
実際、あんなに甘いお菓子の存在は、食べたことはおろか、聞いたことさえなかった。
「でも、アオシさんて、不思議な人だったね」
「うーん、最初はショボいオッサンだと思ったのになぁ」
「あんた、いきなりカラみに行ってたもんね?」
「まあ、そう言うなよ。マハたちだって、ウインダさんの敵をとるなんて言ってたろ」
「そ、そんなこと言ってないよー」
あの時、背後を警戒していたのは、アオシだけだった。
むろん、戦闘中に目の前の敵だけでなく、全方位を警戒せねばならないことは、誰にだって分かっていることだ。
が、20匹ものウルフを相手取った時、冷静に背後にまで気を配ることは、中堅冒険者の筈のマリーダにさえ出来ていなかった。
アオシがオークの接近を察知しなかったら、マハたちは何も気づかないうちに瞬殺されてしまっていただろう。
誰も敢えて口にしないが、恐らくマリーダだって無事に済んでいなかった筈だ。
マリーダが倒れれば、彼女に背後を任せて戦っていたゴッホたちも、どうなっていたか。
探索を切り上げての帰り道、彼女はずっと悔し気な表情を浮かべたままだった。
しかし、何よりの驚きは、オーク相手にアオシがやった事だ。
得体の知れない物をオークに投げつけ、グレコに火を付けさせた。
瞬時にオークの上半身を覆った炎。マハは、あんな激しい炎を見たことはない。それは、炎の魔法を使ったグレコにとっても、同じだろう。
アオシの投げた何かが、あの炎を生んだのだ。
明らかにアオシのお手柄だった。
だのに、ゴッホはアオシのやったことを口外するなと言う。
アオシは弱い。疑いなく弱い。
そんな人間が、オークを倒せるような代物を持っていたのが、問題だと言う。
もっと持ってるだろうと、性質のよくない連中に狙われるかも知れないのだ。
理屈は、分かる。
分かるが、アオシが正当に評価されないことが、マハには不満だった。
「結局、何者なんだろう・・・」
「かなり育ちがいいことは、間違いないだろうなぁ。マハがオークのアレを切り取るのを見て、思いっ切り引いてたからなぁ」
思い出して、グレコが笑う。
精力剤の材料として高く売れるオークの陰部を、マハが切り取った時のことを言っているのだ。
マハだってオークのアレなんぞ触りたくなかったが、男たちが誰も触りたがらなかったのだから、しょうがない。
「でも、なんだっていいじゃないか。今は、俺たちと同じ新米冒険者だ。仲良くやっていこうぜ」
「ふふ、そうね。借りは、ちゃんと返さないといけないしね」
個人の戦闘力からすれば、アオシの方がはるかに弱いのだ。
借りを返せる機会は、遠からずやって来るだろう。
「それはそうと、あの甘いお菓子、もっと持ってないのかなぁ?」