新たな魔ヶ珠
ギルドの近くには、狩りや探索に役立つ店が軒を並べている。
武器や防具、薬品、携帯食、野営道具、様々な物が売られているのだ。
21世紀の日本と比べると、やる気あるのかと疑いたくなるような店が多いが、少なくとも客を騙そうとするような様子はない。
城壁の中に閉じ込められ、ケモノという共通の脅威にさらされてる者同士、仲間意識は強いのかも知れない。
青志は、ソロでの狩りに使えそうな物を求めて、適当に店を巡っていた。
自分用の武器と防具はすでに手に入れているし、野営には日本から持って来た道具が役に立つ筈だ。
クリムトといる時も、新人ポーターの時も、LEDのランタンや超軽量のテントなんかは使えなかったので、やっと出番が来たと言える。
優先順位が高いのは、食事関係だ。
ウサギや鳥を狩って肉を現地調達する気ではいるが、保存の効く携帯食は必須だろう。
それに、ゴッホに教えてもらった各種の葉。
味付け用、飲料用、それに食用。
それらも忘れずに買い込んでおく。
塩、コショウに醤油、マヨネーズも持ってはいるが、量も少ないし、出来るだけ節約しておきたいのだ。
怪我や状態異常に備えて薬品も見に行ったが、商品の多くはホコリをかぶっていて、あまり重用されている雰囲気ではなかった。
回復系の薬品は水魔法によって作るのだが、効果の大きなものを作れるほどのレベルの術者が、ほとんど存在しないせいだ。
おかげで、売られている薬品の効果は「ないよりマシ」という程度。
飲むと、怪我がみるみるうちに治ってしまうような薬品が出回ることもあるが、とんでもない値段になるらしい。
それでも、ポーションと呼ばれる回復薬を3本買った。
陶器の小瓶に入れられ、コルクで栓がしてある。
戦闘になったら、どう持っていても簡単に割れたり漏れたりしそうだが、小瓶を入れる専用ポーチもあったので、一緒に購入した。
腰のベルトに固定出来るようになっており、中にゲル状の緩衝材が入っていて、3本の小瓶がちょうど納まるようになっている。
緩衝材はスライムから抽出したものだそうだ。
また、人目がなくなったらゴブリンゴーレムに使わせるつもりで、安い手槍を2本と背嚢を1つ購入。
街を出るまでは、手槍を何本も持ってるのが不審に思われるかも知れないが、そこは気にしないでおく。
なんだったら、街の外に道具を隠しておく場所が作れたらベターだろう。
最後に訪れた道具屋で、魔ヶ珠が売られてるのに気づく。
魔ヶ珠の魔力を吸い出して動作する魔道具の動力源として売られているのだ。
ちなみに、魔道具には生活や戦闘に役立つものが幾種類も陳列されていたが、とても青志に買える値段ではなかった。
が、魔道具以上の性能の道具を、すでに青志は有している。
ランタンやマグライト、ライター。それらを売るだけで、彼は大金持ちになれる筈だ。
それより、問題は魔ヶ珠である。
内心では、ゴッホたちが仕留めたウルフの魔ヶ珠が欲しかったのに、案の定だが1つももらえなかったのだ。
オークの魔ヶ珠は、青志を含めた新人たちで分配するために、ギルドに売られてしまった。
青志にしては、強いか索敵に優れたケモノの魔ヶ珠を手に入れたくてしょうがなかったのに。
これから少しずつ強くなって、少しずつ強いケモノの魔ヶ珠をゲットしていく予定でいた。
しかし、魔ヶ珠が買えるのなら、話は違ってくる。
問題は、それぞれの魔ヶ珠が、何のケモノの物か分からないという事だが。
青志が魔ヶ珠を手に取ると、それをゴーレム化するのに必要な魔力量が感じ取れる。
だったら、魔力量で魔ヶ珠を選び、後は運に任せるしかない。くじ引きと思うしかない。
値段はそこそこするので、10個も買えはしない。
「大人買いできればいいんだけど、ここは慎重に選ばないとな」
魔ヶ珠を1つ1つ吟味していると、くすんだ色の物だけでなく、緑や赤の綺麗な色の物があるのに気が付いた。でも、値段に違いはない。
「この綺麗な色とそうじゃないのと、値段が変わらないのは、どうして?」
「ああ、それは、綺麗な色をしてるように見えても、どこかに他の色が混じってるからだよ。
完全に純色じゃないと、魔法は出せないからなぁ」
青志の問いに、店員が答えてくれる。
なるほど、ゴブリンウイザードの杖を使えば青志でも火が出せたように、純色の魔ヶ珠があれば、自分の使えない属性の魔法が使える訳だ。
でも、待てよと思う。
ゴーレム化して使えば、純色じゃなくても魔法が出せるんじゃないだろうか?
青志自身は魔法が使えるが、自分の魔ヶ珠が青一色だとは思えないのだ。
ならば、実験あるのみ。
コストが大きめのを青、赤、茶、緑、1色ずつ。コスト小さめを4つ。合計8個をお買い上げ。
何のケモノのゴーレムが生まれるか楽しみだ。
翌日は、早いうちに街を出た。
北門のギルド付近で動いていると、やはり同業者、それに冒険者相手に商売している者たちの視線が痛かったのだ。
まだ通行人が少ないうちに、街から脱出した訳である。
あまり時間が早過ぎて、開門時間になるまで少々待たされたぐらいだ。
北門を出ると、進路を東に取り、城壁に沿って歩き出す。
今回は、大まかな目的地を、東方に4~5日行った辺りの火山の麓に設定していた。
火山の麓だけあって、温泉があると聞いていたからだ。
ちなみに、火山の火口付近には火竜が棲んでいて、とてもヒトが近寄れるものではないらしい。
もちろん、山に登る気などない。
将来的には、ドラゴンのゴーレムを従えたいところだが。
真っ直ぐ東に向かい、夕方に野営しようとした時、まだサムバニル市の城壁が遠目に見えていた。
「これなら、市内を移動して、東門の近くの宿屋で一泊した方が良かったじゃん・・・」
丸々1日歩いたのに、城壁に近過ぎるせいで、テントなんかの文明の利器も使えないし、ゴブリンゴーレムを出すことも出来ない。
それでも、鷹ゴーレムとウサギゴーレムは呼び出して、周辺警戒をさせている。
夕食用のウサギも、鷹ゴーレムに獲って来させた。
ウサギを狩っただけ、鷹ゴーレムを呼び出す魔力のコストが高くなるが、青志もオークを倒したせいで、魔力量が増えている筈だ。問題ないだろう。
ウサギづくしの夕食を終えると、付近に誰もいないことを確かめ、買い込んだ魔ヶ珠を試すことにした。
気分は、くじ引きである。
まずは、コストの小さな4つから。
1個目に魔力を通してから、地面に落とす。
魔ヶ珠が地面に吸い込まれるや、ボコリと土の表面が盛り上がる。
ワクワクしながら見つめる青志。
土の中から現れたそれは、薄い羽根をパタパタと羽ばたかせながら、宙に浮かび上がった。
コウモリ――――。
翼長1メートルに及ぶ巨大さだ。
「おお、これはまた索敵に向いた――――」
夜間の見張りに不安があっただけに、これはありがたい。
「よし、次だ」
早速コウモリゴーレムを哨戒に飛ばし、2個目の魔ヶ珠を手に取る。
しかし――――
2個目、コウモリ。
3個目、コウモリ。
「むむむ、もしかして、コウモリはハズレ的なヤツなのか?」
何か別のが出ろと思いながら、4個目の魔ヶ珠を起動する。
結果は、アリ。
「アリかぁ。かぶってるけど、何がしかの作業をさせることを思えば、数が多い方がいいか」
青志は城壁外に拠点を作ることも考えているので、アリが増えるのは、むしろ好都合であった。
「コウモリも、3匹ぐらいいた方がいいかもね」
鷹とウサギを引っ込め、コウモリ3匹に見張りを任せる。
「本命は、ここからの4個なんだよねー」
コストが大きめの青、赤、茶、緑の4個の魔ヶ珠を取り出し、青志はニンマリと笑う。