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襲撃

 初日は、ケモノと遭遇することもなく終わった。

 『不屈の探索者』の2人の女冒険者が風魔法を使って索敵すると同時に、一行の立てる音や匂いをケモノに届かないようにしていた賜物だ。

 2人は、離れた状態で連絡を取り合ってもいる様だった。

 青志には何も聞こえなかったが、口笛か何かで合図をし合ってるみたいだ。

 これも、風魔法の応用だという。


「なるほどね。魔法の運用法が、きっちり確立されてるんだなー」

 魔法に対する知識がゼロのところから始める彼には、その点だけでも大きなデメリットになる訳だ。

「年齢、水魔法、魔法的常識のなさ・・・、いい所が1つもないじゃん」

 ゴーレム魔法がなければ、お先真っ暗である。

 まあ、ゴーレム魔法だって問題ありありなのだが、痛い目を見るまでは、なんとなく希望を持ってしまっても仕方ないことだろう。





 午後の行進は、予想以上に短かった。

 まだまだ明るいうちに野営場所を決め、夕飯用の食材の確保に入る。

 1週間程度なら、保存食料をやりくりして済ませてもいいのだが、新人のために食材の入手から指導してくれる気らしい。


 『不屈の探索者』の男性冒険者2人とグレコ、それにグレコの仲間の少年1人が狩り。

 女性冒険者2人と新人の少女2人で、野草や木の実の採集。

 ゴッホと青志で、薪を拾い集めた。

 調理担当は、なんとゴッホだ。火魔法の使い手ということもあるが、個人的にも料理好きなんだそうだ。


 当然、調理は青志も手伝うことになる。

 彼としても、料理が覚えられるのは願ったり叶ったりだ。

 さすがに、ゴブリンゴーレムにまともな料理が出来るとは思えない。

 この機会に、ちゃんとした野営料理を学ぶ気満々である。


 グレコたちが仕留めてきたのは、ニワトリに似た、しかしちゃんと飛べる鳥が2羽。

 これを、野草と一緒に煮込む。

 野草には味付け用、食用、香りつけ用、飲料用など色々あって、これを覚えるだけでも、かなり食生活が豊かになりそうだ。


 見張りを切らす訳にいかないので、食事は2班に分かれて、順番に済ませた。

 ゴッホの作ったスープに、野草のサラダ、持参した黒パンというメニューである。

 ちゃんと調理した温かいものが食べられただけ、マシな夕飯だったようだ。

 スープに関しては、味も悪くなかった。

 黒パンも、単体で食べるには辛い代物だったが、スープに浸して食べれば、我慢も出来た。


 食後は、翌日の簡単な打ち合わせを済ませてしまうと、もう寝るだけである。

 もちろん、見張りは交代で行う。

 最初の見張りは、ゴッホとマリーダという女冒険者、それにマリーダ付きの少女マハ、青志という組み合わせだった。

 本来は、ゴッホとマリーダだけで行うものだ。マハと青志は付け足しである。


 料理用に作った焚き火の他に、野営地をはさむように更に2つ焚き火を焚いた。

 薪を集めるときに一緒に採ってきたツタをくべると、炎が勢いよく燃え上がる。どうやら、油を多く含んでいるらしい。

「それに、この強い匂いがケモノ除けになる。同じ理由で、料理には向かない」

 ゴッホの説明を神妙に聞く青志たち3人。

 こういう役回りが好きなのか、かなり教え上手なゴッホである。

 




 いつもの様に新人教育を行いながら、ゴッホはやっといつものペースを取り戻し始めていた。

 40才を過ぎた謎の新人の存在に、思った以上にナーバスになっていたようだ。

 アオシが大人しく説明を聞くだけでなく、自分より若いゴッホを侮る様子もないのを見て、やっと安心が出来たのだ。

 態度が悪けりゃぶっ飛ばしてやる気でいたので、少々拍子抜けだったかも知れない。


 退屈な見張りも、アオシはイヤな素振りも見せず、黙々とこなしていた。

 焚き火を囲むように座って、お互いの背後を警戒し合うのだが、実際のところマリーダの索敵があるので、ただ起きてればいいという内容だ。

 新人のマハだって、マリーダには及ばないが、索敵は使えるのである。


 そんな中で、アオシという中年新人は、やけに天の渦に視線を向けていた。

 夜空の大半を占める天の渦は、それは神秘的で壮大な光景だが、まるで子供のようにそれを眺める姿は、少し異様かも知れない。

 まるで、天の渦から落ちて来た者が、天に帰りたがっているかのようだ。


 マリーダがケモノの群れの接近に気づいたのは、そんな時だ。

「多分、ウルフね。数は20以上――――」

「後方からってことは、俺たちの匂いを追ってきたのか!

 マリーダは、ここで新人を守れ!

 アオシたちは、ここで待機だ。焚き火を増やしとけ!!」


 ゴッホは長剣を抜くと、ウルフの群れに対峙した。

「お前ら、起きろよ!お客さんだ!」

 横になっていた連中が、慌てて飛び起きる。

「グレコは、新人連れて、マリーダのそばにいろ!ウルフは俺たちで片付けるから、出て来るんじゃねえぞ!!」

「は、はい!」

 仲間を連れてグレコが下がるのを見届けると、ゴッホは身体強化魔法の火を点けた。

「ウルフ20匹――――ちょいと時間がかかりそうだな」




 ゴッホたちは、ウルフを青志たちに近づけない距離で食い止める気のようだ。

 前衛2人、後衛2人のフォーメーションで、ウルフを片づけ始める。

 青志たちの前にはマリーダが立ちはだかり、最終防衛線になっている。

 新人を守るというのが最優先のようだ。

「あんたたちは、そこで大人しくしときなさいよ!」

 マリーダさんに凄まれて、グレコが不服そうに口を尖らせた。

 ウルフ程度なら、戦える自信があるのだろう。


 実際、ゴッホたちはウルフを相手に、大して苦にしていないように見えた。

 が、青志たち新人を守る必要から、効果的な攻めが行えず、なかなかウルフの数を減らせないでいる。

「じれったいなー、俺も一緒に戦いたいよ」

「仕方ないでしょ。あたしたちを戦闘に参加させたら、ゴッホさんたちの信用が下がっちゃうんだから!」

 今にも飛び出そうとしかねないグレコを、マハが冷静に引き止める。


 そんなグレコたちのやり取りを聞きながら、しかし青志が気にしているのは、自分たちの背中側の闇である。

 ウルフの別働隊、もしくは全然別のケモノが、そちら側から襲いかかって来る可能性を、誰も想定していないのだ。

 そして、案の定――――


 木の上の鷹ゴーレムの目が、何者かが森の中を接近して来る動きを捕らえた。

 が、文字通りの鳥目では、暗い森の中を移動して来る者の姿がはっきり判別出来ない。

「後ろから、何か近づいて来てないか?」

 そう言いながら、強化魔法を目に集中させるが、青志の魔力程度では、あまり効果が感じられない。


「え?」

 マハともう1人の少女が背後に索敵をかけるが、まだマリーダのようには上手くケモノを感知できないようだ。

「何か見えたの?あたしたちじゃ、よく分からないわ」

「何かが動いた」

 マリーダに調べてもらおうと思ったが、ウルフに弓矢を射かけるのが忙しそうだ。


 マグライトで照らしてやれば簡単なのだが、出来るだけ文明の利器は見られたくない。

 何かいい方法はないかと思ったとこで、思いついた。

 水魔法ならではの、水を視る魔法。

 普通は地中の水源を探すために使われるのだが、魔法を発動させた途端、暗い筈の森が明るく浮かび上がった。


 正確には、樹木の中の水分が、明るく青志の目に映じたのだ。

 そして、それは不完全ながら樹木の形をなぞったものだ。

 闇の中に、くっきりと白く発光した森が見える。

 白く光る木々を縫って動く白い影も。

 それは、身長2メートル近い二足歩行するケモノだった。


 オークである。

 片手に棍棒らしき物を持った巨体が、ゆらゆらと近づいて来る。

 その太ももと胸は、内蔵した筋肉のせいで、大きく膨らんでいる。

 はっきり言って、新人冒険者がなんとか出来るようなケモノではない。

 ゴブリンゴーレムを出しても、一撃で粉砕されるのが目に見えている。


 はい、ピンチ。

 青志の膀胱が、キュッと縮んだ。

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