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裏舞台(Ⅱ)

「師匠。どうか安らかにお眠りください」


 森の奥地にある恩人が眠る墓の前で僕、ハーミットは合掌をして故人の冥福を祈っていた。


 目の前にある墓標は僕が作ったもので、やや不格好だが師匠のことだからきっと許してくれるだろう。


 僕が前世で一度死んでこの世界に転生してから、もうすでに十数年の年月が経っていた。


 どうやらこの世界の僕は、生まれてすぐにこの森に捨てられたらしい。


 森に捨てられた赤ん坊の僕を拾ってくれたのは、森の中で世捨て人同然の生活をしていた猟師のおじさんで、僕はそのまま猟師のおじいさんに育てられることになった。


 猟師のおじいさんは僕に多くのことを教えてくれた。


 この世界の文字や地理などの一般知識。森に潜んで獣を狩る猟師の技術。他にも薬草毒草の知識、馬の乗り方や剣術などの様々な武術と、この十数年で本当に多くのことを教え込まれた。


 何でただの猟師のおじいさんが馬の乗り方や剣術まで知っているのかは分からなかったが、それでも僕は育ての親であり教師でもある猟師のおじいさんのことを尊敬を込めて「師匠」と呼んだ。


 師匠との生活は、一日のほとんどの時間を狩りや家事に使い、残った時間で武術の訓練や勉強をするという毎日だった。


 森から出たらすぐ近くに村があるのだが、師匠はあまり人と接触を持ちたくないらしく、僕はこの世界に転生してから一度も同い年の子供と遊んだ記憶がない。


 これには師匠も負い目を感じていたようで「育ての親としてちゃんと育てられているのか」と密かに悩んでいたらしい。だが僕はこの生活に満足していた。


 確かに友人ができないのは寂しいが、前世では学校に行ったことも満足に体を動かしたこともない僕にとって、勉強や武術の訓練はとても新鮮で興味深かったからだ。


 しかしその楽しく充実した日々は、数日前に師匠が死んだことで終わってしまった。


 朝起きると師匠は眠るように死んでおり、僕は師匠の遺体を森の奥地にあるこの場所に葬った。ここならば森の動物に荒らされることもないだろう。


「これからどうしようかな……」


 正直な話、僕は師匠の教育のおかげで一人でもこの森で生活できる自信がある。でも師匠が死んだ今、この森にとどまる理由はなかった。


「いっそのことこの森から出て村にでも行こうかな? ……いや、駄目か。『コレ』があるからな……」


 僕は一瞬浮かんだ考えを頭を振って追い出し、右手の甲を見る。


 右手の甲には、翼を広げた三本の首を持つドラゴンの紋章が刻まれていた。このドラゴンの紋章は生まれたときから刻まれていて、これは僕が「スキルホルダー」である証だった。


 スキルホルダーとは「スキル」という異能の力を使ういわゆる超能力者で、スキルホルダーは必ず体のどこかにドラゴンの紋章が刻まれている。


 どんなスキルが使えるかはスキルホルダーによって異なり、紋章のドラゴンの首の数イコール使えるスキルの数となっている。


 つまり三つ首のドラゴンの紋章を刻まれた僕は、三つのスキルを持つスキルホルダーということだ。


 スキルを複数持つスキルホルダーは、ただでさえ珍しいスキルホルダーの中でも更に珍しいのだが、僕はそのことを喜ぶことはできなかった。


 何故ならこの国ではスキルホルダーは「呪いつき」と呼ばれて人々から忌避されている存在だからだ。


 何でもこの国には、大昔に一匹の悪竜が大陸中で大暴れをして多くの人々を苦しめたという伝説があるらしい。


 そしてその伝説のせいで、体に竜の姿を刻み人智を超えた力を操るスキルホルダーは「世に災いをもたらす呪われた人間」と見なされて世間から迫害され、ひどい場合は中世の魔女狩りみたいな目に遭うと師匠から聞いたことがある。


 ……こうして改めて考えると師匠が人里から距離をとっていたのは、僕を守る意味もあったんだと思う。


「やっぱり僕、この森から出ない方がいいのかな? ……ん?」


 その時、遠くからかすかに人の話し声が聞こえてきた。


「話し声? こんな村人もめったに寄り付かない森の中で? 一体誰が?」


 僕は用心のために地面に置いていたクロスボウを手にとって矢をつがえると、話し声がするほうに向かった。


 †


 話し声がする場所に行くと、そこには予想外の光景があった。茂みに身を隠した僕の目の前では、薄汚い格好をした五人の盗賊達が旅人達を襲っていた。


 盗賊達に襲われている旅人達は四人。そのうち三人は剣を持って武装していることと身なりがいいことから多分騎士なんだと思う。


 そして残る一人は長旅に向いた目立たない服装をしているが、その上品な容姿や気品から上流階級出身だと分かる女の子だった。


 人気がない場所で犯罪者に襲われる貴族の少女とその護衛の貴族達。


 まさに大昔からマンガや小説で使い回された構図である。まさか実物をこの目で見ることができるとは思わなかった。


 ていうかコレって関わったら必ず何かのイベントが発生するよね? しかも回避不可能でかなり厄介なイベントが。


 ……どうしようかな?

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