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マッチョな変態の襲撃

 何とか新幹線のチケットが取れ、いさみ足で東京へと戻ったら、日も暮れかかる時間になってしまった。朝から走り回って皆疲れ切っていたため、仕方なくヨシオさん救出は明日にしようということになった。

 だが一番組織について知っている七佳も、TNHとは別の会社だと思っていたCBTについては、ほとんど情報を持っていなかった。奴らの居場所すら誰も知らないのはさすがにいただけない。帰る前に、怪しい製薬会社がどこかにないか、ブラック店長の所へ情報を貰いに行くことにした。

 「……お留守でしょぉか?」

「うーん、そうみたいやな」

ブラック不動産屋のドアには鍵がかかっていた。ノックしても、応答はない。

「もう閉店時間なのぉ? 早くなぁい?」

まりさんが硝子ガラス張りのドアごしに中を覗く。

「一応電気はついてるみたいだけど、人影は見えないわね」

「……それって何か変じゃねぇか?」

俺は段々嫌な予感がしてきた。電気を付けっぱなしということは、まだ閉店していないはずだ。だがドアには鍵がかかり、ブラック店長の姿はない。

「まるで……慌てて出たから鍵かけるだけで精一杯やったって感じ?」

俺の予感をみかんが口に出した。コイツは鋭いのか馬鹿なのか、本当によく分からない餓鬼だ。きっと知識がかたより過ぎているのが原因だろう。

 「なぁ、もし店長が俺達にアパートを紹介したってことをCBTが嗅ぎ付けたとしたら……」

不安が込み上げ皆を見回すと、険しい顔をしたまりさんと目が合った。

「接触して来た可能性はあるわね。それか既にアジトを突き止めて、そっちに奴らが行ったか。兄貴はいざとなったら店長を頼って電話すると思うの」

「カンナさんに助けを求められて出て行ったって……? それなら早くアパートに戻らねぇとヤバイぞ。店長は強面こわもてだが普通の人間だ」

ただならぬ事態を察知し、俺達は戦隊のアジト、鳥槻荘とりつきそうへと走った。







 アパートの前でまず目にしたのは…………ムキムキマッチョで上半身裸の変態と戦うカンナさんとブラック店長!? まりさんの予想は当たったようだ。

「店長!」

「兄貴! そいつは何なの!?」

「不用意に来るな! コイツ、只者じゃない!」

走り寄ろうとすると、ブラック店長に止められた。

 「あぅあぁぃあうぅ〜〜」

変態マッチョは意味の分からないうめくような声を上げた。よく見ると顔にミラーグラスを付けている。絶対にCBTの奴だ。

 だがブラック店長が言ったように、どこかおかしい。今まで俺の周りをうろついていた研究者っぽくない。上半身裸なのもそうだが、何だか雰囲気が異様なのだ。

 俺達が戸惑っている間に、ブラック店長が変態へ向けて銃を構えた。

 おいおいそれは銃刀法じゅうとうほう違反だろ! やっぱりその筋の人間で、背中に龍のタトゥーが入ってるとか!?

 パァーン!!

想像より軽い銃声が響き、変態の体が少し傾いた。

「……何だ、あの音ならエアガンか……」

恐らく飛んでいったのは銃弾じゃなくてBB弾と言ったところか。

 安心したのもつかの間、傾いた変態は何事もなかったかのように体制を立て直した。

「あがぁぁああ〜」

そしてまた気持ちの悪い声を上げ、今度は反撃に出た。

 パァーン!! パァーン!!

走り寄ってくる変態に向け、ブラック店長は連続してエアガンを放った。だが少し体が揺れるだけでその足取りはゆるまない。確かに当たっているようなのに、全く痛がる様子がないのだ。

 「ハニー! 伏せてぇ!」

拳を振り上げ目前に迫った変態と銃を構えるブラック店長の間に、カンナさんが立ち塞がる。

 バキッ……

骨の砕けるような嫌な音を聞いた。

 カンナさんはまりさんと同じく、皮膚と筋肉を部分的に硬化させられる。マッチョ変態の力がどれ程のものかは知らないが、鉄板のような腹に、人を殴るつもりで思い切り拳を叩き付けたため、変態の手の骨の方が負けた、といったところか。

 だがそれでも変態は眉をしかめることすらせず、「ぅおぐぁ……?」と不思議そうに呻き、折れたはずの拳をブンブンと数回振った。そして何事もなかったかのように、再びカンナさんへ攻撃を繰り出した。

 まさかこの変態、痛みに慣れまくったMのきわみとかじゃねーだろうな……。いや、ドMなら攻撃してこないか。

 バキッ!! ゴキッ!! バキィッ!!

耳を覆いたくなる音が続く。いくら痛がらなくても拳の形が変形するんじゃないかと思うくらいの音だ。

 「もぉ何なのコイツ! ハニー、どうにかしてぇ!!」

「その図体と顔でハニーとか呼ぶなっ! 気色わりぃ!!」

根を上げたカンナさんにきっちり訂正を入れたブラック店長は、盾となっている彼……いや彼女の横からい出て、素早く変態のだらし無く開いた口に、エアガンの銃口を押し入れた。

 バゴッ! バゴッ! バゴッ!

口内こうないじかに撃ち込まれたら、さすがの変態も後ろに倒れ込んだ。

「さっすが私のハニィイ!……うぅっ」

「まだ油断するな、ぬりかべ野郎」

ブラック店長は抱き着こうとするカンナさんのあご下から銃口を突き上げ、探るように変態を睨み付けた。

 「か……かっけぇ〜……俺もあんなクールにヤンデレメイドを威嚇いかくしてぇな」

「ひょぉぉおおっ! あんな物騒なこと、真似しないでくださいぃぃ!」

雹子は慌てた様子ですがり付くが、俺は口笛でも吹いてブラック店長をたたえたい気分だ。

「駄目よぉ。タクミンみたいなデリケートBOYが、エアガンを使いこなせるわけないわ。もし相手が怪我したら、逆に貧血起こしてぶっ倒れるんじゃない?」

まりさんが雹子をヨシヨシとなだめながら、興奮気味な俺に水を差した。

「……た、単なる願望くらい好きにさせろよ。」

ケッ……、こういう時だけまともに分析しやがるんだな。そう悪態をつこうとした時だった。

 プッ……プッ……プッ……

仰向けに倒れ込んでいた変態は、食らった3発のBB弾をリズム良く噴き出した。そしておもむろに体を起こし、倒れこんだ時にゆがんだミラーグラスが落ちる。あらわになったその顔は、やはり全くダメージを受けていないかのように無表情……いや、うつろと言って良い。

 これにはさすがのブラック店長も後ずさった。

「クソッ、何なんだこいつは!」

「このおじさん変なのぉ!」

「てめぇも十分"変なおじさん"だっ! ぬりかべ!」

「ひどぉい! ってそうじゃなくってさぁ。力自体はその辺のマッチョレベルなんだけど、私を殴ってる時、確かに拳の骨が折れてたのよ。自分へのダメージを考えない無茶苦茶な攻撃だったし、指が変な方向に曲がったりしてたもの。でも、一瞬で元に戻っちゃうのよ」

「何だと!?」

 カンナさんの話の通りだと、この変態はまるで俺達と同族みたいじゃないか。怪我を驚異的なスピードで治すシンポテを持っているのだろうか。

「才田の他にもCBTについた同族がいるってことか? それとも標本体の成れの果て……?」

「でも巧さぁん、あの変態さんの気配、人間のものと少し違いますぅ。似て非なるものって感じですぅ」

「ちょい待ちぃな、雹子。人間と似て非なる気配やなんて……それって……」

七佳が俺を見た。どうやら俺と同じような予感がしたようだ。

 人間のように見えて人間の気配と少し違う、痛みを訴えない異様な無表情、シンポテを思わせる再生能力、そしてTNHで泉堂が言った、まだ本当の人間みたいな人造人間は作れていないという情報。全てを合わせると、辿たどり着く答えは一つ。

「あれが、CBTの人造人間だってぇのか? もうあそこまで人間に近い状態まで作れるなんて……」

「だからあんな頭沸いてそうなん? でもいくらシンポテ使って怪我を治せるーても、食らった瞬間は痛いはずやろ」

「完全体じゃねぇから痛点つうてんが備わってない、としたら説明がつくぞ」

思わず顔をしかめた。本物の人間より脳は劣るとは言え、戦闘要員としては十分動けるレベルだ。正直ここまでの人造人間を作れるようになっていたとは想定外だ。

 「店長! そいつはCBTが作った人造人間かもしれねぇ! 再生能力が異常に高いから、倒すには一撃必殺だ!」

「あ゛あ゛!? エアガンで脳か心臓でもぶち抜けってか!? ンなことできるか馬鹿野郎! いっそSWATでも呼んで来い!」

「アメリカの警察部隊なんかどうやって…」

「お兄ちゃんそれや!」

ブラック店長の無謀な要求から何かのヒントを得たのか、みかんが手を打って言った。

「普通に見て今の状況は、善良な一般市民が変態に襲われてるってことやん。さっさと警察通報したらええねん」

「そうよね! みかんちゃん天才! あんなの、無理して私達が倒さなきゃいけない義理はないわ」

「ワタクシも賛成ですぅ。日本にはSWATの代わりに機動隊がいますよぉ。本物の銃だって、きっと持ってますぅ」

「……お前ら、戦隊のくせに身も蓋もねぇな」

とはいえ、例え俺達だけで倒せたとしても、得体の知れない人造人間の処理はしようがない。その辺に放っておくと、下手すりゃ俺達が殺人犯になっちまう。ここは警察に任せた方が無難か。何とも情けないヒーロー戦隊だが、現実はこんなものだ。

 「あ、もしもし!? アパートの前で変な人が暴れてんねん!」

みかんは早速110番していた。既に警察丸投げ作戦は始動したのだ。

「じゃ、私と七佳ちゃんは、警察が来るまで店長と兄貴の加勢よ。 タクミンと雹子ちゃんは、みかんちゃんの電話口で緊急事態っぽく騒いでいてね。その方が早く駆けつけてくれるから」

珍しくリーダーのレッドっぽく指示を出したまりさんは、七佳の手を引いて、再び拳を振り上げた変態の方へ走った。あのコンビなら、また七佳ミサイルを発射するのだろうか。エアガンよりは時間が稼げそうだ。

 見送った俺と雹子は、「よ来てぇ!」と携帯に向かって怒鳴るみかんの横で、わー! とかきゃー! とか、思い切り叫びまくった。

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