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クローン人造人間

 日時:7月26日13時54分

 宛先:CBT製薬研究所

 件名:輸送車出発

 本文:7月10日の標本体が、本日昼の輸送車で出発しました。そちらには明日朝に到着予定です。よろしくお願いします。  ――――才田







 送信BOXの一番上にあったメールだ。輸送だとか標本体だとか、何やら不穏な言葉が並んでいたが、最も衝撃的だったのは、今いるTNHの本社とはCBTのことだったということだ。

 「CBTの子会社やったんか……」

これは七佳も知らなかったようで、眉を潜めてうなった。

「それにしちゃあトレードマークのサングラスしてねぇぞ」

「ビルの中までそんなんしてたら見えにくいんちゃう? 研究とか実験せなあかんし。前に外で見かけた時は、確か掛けてたはずや。でも才田の派閥で行方不明者が出てからは、この辺でTNHの奴がうろついてんの、ぱったり見かけんようになってん」

「……じゃあ、才田がここに社員を騙して連れてくるから、研究者が外に出る必要がなくなったってことか」

 才田がTNHから仲間を"標本体"としてCBTに"輸送"している、ということは分かった。だが"標本体"とは何のことなのか。そして、"輸送"なんて荷物的な扱いをしているのも気になる。まるで動かないものを宅急便で送るような感覚だ。"標本体"とは、動かない、または動けない仲間のことを指しているのだろうか。そうなるとかなりヤバイ展開になってきたかもしれない。

 気になったことはもう一つある。才田はビルの前で、「報酬は貰ってない」と言っていた。富利異盟損ふりいめいそんでは、同族を保護すると歩合で給料が出る。金額はすずめの涙程のものらしいとはいえ生活費の足しにはなるし、社員寮という家賃なんてあってないような住処すみかもある会社を裏切ってまで、報酬の出ないTNHに貢献するのは不自然だ。才田の意思とは関係なく仲間を売らなければならないことでもあるのだろうか……

 このパソコンは報告のメール専用らしく、デスクトップは閑散かんさんとしたもので、これ以上のことは分からなかった。

 「そっちは何か分かったか?」

俺と七佳がメールを調べている間、雹子やまりさんは駄目元だめもとで棚の冊子やファイルを読んでいた。

「さっぱりですぅ。細かい数字が並んでいて、目がチカチカしてきましたぁ」

「無理無理、限界よ。今晩から知恵熱が出そうだわ」

ページをめくる手を止めた二人は、かなり疲れてげんなりした顔をしていた。理数が苦手と豪語していたみかんに至っては、ニヤニヤしながらファイルの順番を入れ替えて悪戯いたずらしている。

 その時ふと、みかんが持つファイルの背に書かれた英単語が目に付いた。

「みかん、ちょっとそれ貸してくれ」

「え? これ?」

渡されてよくよく見た英単語とは……

「Cloned Bioroido Technology……、CBT……なのか?」

"cloning technology"というのは聞いたことがある。日本語で言うところのクローン技術。clonedと語尾を変化させているが、意味自体はそう変わらないだろう。そして"bioroido"とは、バイオロイド=人造人間。3つの単語を単純に合わせると、"クローン人造人間の技術"だ。

「何や巧、難しい顔して。これがCBTの正式名称やってこと?」

「多分そうだろうな。訳した通りのことやってるんなら、かなりヤバイ会社だ。」

 メールにあった"標本体"は、人造人間のもととなるもの。クローン技術でシンポテを持った人造人間を作り出している。成功す入れば同じシンポテの人造人間のクローンを更に作る……

 英単語3つとメール内容1つからの憶測に過ぎないが、俺の頭の中でパズルが嫌な方向にばかり合わさっていく。七佳は前に言っていた。CBTは集めた人間をモルモットのように扱い、開発した新薬を販売し得た資金で、更に何かを研究していると言う噂がある、と。この"更に何か"は、人造人間のことだったというのか?

 才田はまだ人を選んでCBTに送っていたようだが、俺……もし俺が東京で「無料で人間ドッグ受けませんか?」とか、注射器片手に「今すぐ献血してください」とか、やたら怪しい勧誘に引っ掛かって、組織に捕まってたとしたら、有無も言わさず"標本体"にされていた……?

 「……巧、あんた注射嫌いで良かったな。"俺の細胞は何人なんぴとたりとも覗かせねぇ!"って言うくらいの気迫がないと、とっくにホルマリン漬けにでもされてたかもな」

俺の見解を聞いた七佳は、少し顔をショックに引きつらせながら言った。

「ホルマリンってことは、他の奴らは死んでる確定なのか?」

「さぁ、分からんけど、"標本体"にされてんねんやろ? 虫の標本は死んでるし、イメージ的に……」

 途端、俺の背中に悪寒おかんが走った。今更ながらに非人道的な組織に目を付けられていたということを悟ったからだ。

 「大丈夫やって。ホルマリンはただのイメージやし。皆同じように目を付けられてきた仲間やろ。守り合いながらいこうやってーたやん。東京に帰っても何も心配あらへん。まず管理人が最強やからな」

「……そう……だな」

 ネガティブな考えに落ちた俺を、皆が心配そうな顔で見ている。改めて馬鹿でふざけた奴らを見回し思った。

 CBTは、一人で立ち向かえるような相手じゃない。だが一生逃げ回っていられる自信はない。戦隊組んで、本当に良かった。いや、助かったというべきか。

 この時初めて、同族を探して保護する富利異盟損の営業課が、誇らしいものに感じられた。

 この時やっと、俺の思考が正義のヒーロー戦隊っぽく変わった気がした。







 「いーち、にーぃ、さーん……」

突然、資料室に声が響いた。

「この声は泉堂……」

「また何かの遊びなんでしょぉか」

栗林が倒れてから、けっこう時間が経っている。先にビルへ入った才田と泉堂が、そろそろ俺達の侵入に気づいてもおかしくはない。

「はーち、きゅうーぅ、じゅうっ! もーいーかい♪」

 ……え、これはどうすりゃいいんだ? かくれんぼか? 物凄く遊びたくねぇんだが。

「まーだだよ♪」

「おい、みかん。相手にすんなよ」

「時間稼ぎにはなるやろ? とりあえずおっちゃんがどこにおるんか、今のうちに探そ」

 そして泉堂はまた1から数え始めた。俺達は雹子に気配を探らせる。

 本棚が列を成して並べられた部屋の視界は悪い。縦は一直線に奥まで見渡せるのだが、横は人一人通れる分くらいの幅しか見えない。

「もーいーかい♪」

『まーだだよ♪』

奴が聞くたびに皆で声を合わせて応じる。だんだん俺も馬鹿をやることに慣れてきたかもしれない。シリアスを主張したところで疲れるだけだ。

 「……いましたぁ」

雹子の指差す本棚の陰。そこで泉堂はきっちり目を隠していやがった。

「まりりん、あの技いくで。この幅の狭さなら逃げ場はないわ」

「OK。皆、次は"もういいよ"だからね」

七佳とまりさんが何か作戦を立てたようだ。

 「もーいーかい♪」

まりさんが泉堂のいる方向に背中を向けて踏ん張る。赤いゴリラがウホウホやってるようにしか見えない。そんな格好悪い背中に七佳は足を掛けた。

『もーいーよ♪』

「……あ、見ーつけ…」

泉堂がフラフラと棚の陰から出てきた瞬間、七佳がまりさんの背を両足で蹴って跳んだ。

「七佳ミサイルっ!!」

台詞通り、腕で頭をガードし、高速でほぼ水平に飛んだ七佳は、ミサイル弾そのものだ。泉堂は棚に挟まれて逃げ場がない!

 「マトリーックス!」

勝った! と思ったその時、泉堂は後ろに背中をらせた。七佳はその上を通過して、壁に激突した。

「七佳!!」

「……あたた……だ、大丈夫や! まだまだぁっ!」

ぶつかった時かなり凄い音がしたと思うが、意外に平気そうな七佳は、今度は壁に足を掛けて飛んだ。

「ふはははっ! マトリーックス!」

だがまたもや同じようにけられる。こちらに飛んできた七佳は、まりさんがウホウホの背中で受け止めた。

 「いやまりさん、そこは前を向いて受け止めてあげろよ……」

「何言ってんの!? 兄貴とは違って私は入れちちなの! シリコン割れたらどーすんの!? あんたのハートと同じくらいデリケートな素材なんだからね!!」

「……あ、そう」

戦闘時に胸の心配をするレッドって……良いのか? これで良いのかシンポテレンジャー!?

 「クッソー、見えても逃げ場がなければイケると思ってんけどな……。反り返るとは計算外や」

「どういうことだ?」

「あいつのシンポテは、異常な動体視力やねん。集中すれば、栗林の雷撃もスローに見えるらしい。ずっと前それで遊んでた二人を見たことあるわ」

だから"マトリックス"なのか。反って避ける瞬間、あいつには映画と同じようにスローで見えるのだろう。

 「一人マトリックスかよ。寂しい奴だな」

「うっ……、ひがみか!? こんな高度な能力を要する遊び、他の者には到底できんからな!」

「誰が僻むか! その割には才田の部屋の前で、俺の拳骨げんこつ2回も食らってただろ!」

「1回目は悪霊の瘴気しょうきに当てられて余裕なかったんや! 2回目はユニークな女子高生の訪問に浮かれとったから対応に遅れただけや! だが3回目はないぞ!」

くだらねぇ。とはいえ、ヨシオさんをいて、唯一の攻撃要員である七佳の攻撃が当たらないとなると、俺達から何か仕掛けることはできない。

「雹子、もう一回頑張れるか?」

「や、やってみますぅ」

両手を握り締めて泉堂を睨みつけた雹子の気配が膨れ上がる。どんどん大きくなって……急に長い黒髪がポフンッと跳ねてしぼんだ。同時に気配も消える。

「……エンストか?」

「はいぃ、すみませぇん……」

まだ回復していなかったようだ。その間に泉堂は、どこからともなく携帯式の折りたたみステッキを取り出し、スルスルと伸ばすと、先端をこちらに向けてニヤリと笑った。


七佳が言っていた「開発した新薬を販売し得た資金で、更に何かを研究している」というのは、第9話「いい年した大人の~」に出てきます。

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