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遊び好きと鳥山好きの側近

 シンプルで落ち着いた、暗い配色のテーブルやソファ。棚に並ぶ本はミステリーの巨匠と言われる作家のシリーズ小説。家具は最低限で殺伐としているが、どことなくスマートでカリスマ性を感じる。外から見たドアの雰囲気とは、まるでイメージが違う。

 そんな才田の部屋には、100均で買ったちぐはぐな日用品や少年コミック等は一切見当たらない。東京の俺の部屋とは大違いだ。派手なショッキング・ピンクを好む七佳と気が合わない理由が少し分かった。

 「……友達を連れて来たんだね」

俺が部屋に入って色々見回している内に、才田の視線は雹子へ向かった。

「ああ、まーな……」

とどろき雹子ですぅ。ワタクシは巧さんの行く所ならどこでもついて行きますぅ」

「こらっ、ベタベタすんじゃねぇ!」

俺は腰にまとわり付いてきた雹子の腕を引きはがした。

 「……才田、まぁそういうことだから」

「あ、うん、構わないよ。さっきの能力、けっこうすさまじかったしね……。そうそう、入口でノビてる彼は泉堂せんどう君。お茶目な性格なんだ」

才田はふざけたオッサンを紹介した。

「お茶目……で済ませられる苛立ちじゃなかったがな」

「そう? ドアに付いてるネームプレートも、動物の飾りも、彼がやったんだよ。色んなことに遊び心を取り入れるのが好きらしいよ」

そう言う才田の目は苦笑している。本人の前だから口には出さないが、側近として接点が多いと、正直面倒臭いと思ってるんじゃないだろうか。だからあの泉堂とかいうオッサンが入口で歌って遊んでたのに、気付かないくらいの音量で音楽を聴き、まともに相手にするのを避けたとか。

 「側近は2人いるって聞いたが……」

部屋には才田と泉堂のオッサンしかいない。

「さっきまでいたんだけどね、ちょっとトイレに行ってるんだ」

「そうか……」

ここの社員寮は、トイレとシャワールームが階ごとで共同なのだ。

 程なくして、ノビていた泉堂がむっくりと起き上がった。

「あーぶく立ったー煮え立ったー♪」

誰か来たのだろうか、奴は俺達が来た時と同じことをまた始めた。ちゃんとぐるぐる回って、鍵をかける動作をしたり、"寝ぇましょ"のところでしゃがみ込んでやがる。ドアのデコレーションといい、この入室の儀式といい、ボスの部屋で勝手なことをする側近だ。

 「……何の音?」

「風の音」

「あー良かった」

意外にもドアの向こうの相手は、泉堂の遊びに付き合ってやっている。

 コンコンコン……

「何の音?」

「お父さんが帰ってきた音」

「あー良かった」

 コンコンコン……

「何の音?」

「ポチが歩いた音」

「あー良かった」

 コンコンコン……

「何の音?」

「浪人生が夜食をあさってる音」

「あー良か…」

「長過ぎるだろっ!」

思わず突っ込んだら、泉堂は俺に向かってあっかんべーをした。

 ……か、可愛くなさ過ぎて、殺意を覚える。

 コンコンコン……

「何の音?」

「……栗林くりばやしの音ぉ!」

「きゃー!」

泉堂は気色悪い悲鳴を上げて一端逃げ、すぐに戻ってドアを開けた。本来はこういう手順らしい。

 そして入って来たのは、小柄な兄ちゃんだった。まだ見た目は20代くらいなのだが、残念なことに毛根がほぼ死滅している。脳天からやや前側に申し訳程度生えた産毛うぶげが痛々しい。これなら全て抜いてしまって、スキンヘッドで通した方が良いと思う。そしてふざけているのか、額にオレンジの点が6つ並んでいる。恐らくマジックで書いたと思われるものだ。とてつもなく嫌な予感がする。

 「帰って来たね。彼が紹介したかったもう一人、栗林君だよ」

「おぅ、新人。俺が栗林や。気軽にクリリンって呼んでええからな」

「……やっぱりそれを意識してたのかよ」

わざわざ額に点を書いてるから薄々感づいてはいたが、本人の口から聞くと余計にうんざりする。

 俺の考えていることが分かったのか、栗林は口をへの字に曲げた。

「ナメんなコラ、クリリンは俺にとって希望の星なんやぞ。チビでもハゲでも、18号っちゅう綺麗な姉ちゃんと結婚してんからな! んなっはっはっ!」

「あのな、クリリンはチビだがハゲじゃねぇぞ。 あれは剃毛ていもうだ。ってかデコに点書くくらいなら、キューピーみてぇにちょびっと生えてる毛をれよ」

俺が基本的なことを指摘すると、栗林はたじろぎ、悔しそうに顔をゆがめた。

「な、……し、しゃーないやろ! 俺の能力で太陽拳を撃つには、髪がないとあかんねんから!」

「頭光らせるのに髪が必要なわけあるかっ!」

「俺の太陽拳は光らせるだけとちゃうんじゃっ!」

「普通の太陽拳使えよ!」

「気を目くらましになる程発光させるなんて芸当、実際に出来るわけないやろ! ……それよりお前、クリリンのことよぉ知っとんなぁ」

「……いや、まぁ、伊達だてに漫画喫茶通ってるわけじゃねぇからな……」

言ってから少し後悔した。栗林がニヘラッと嬉しそうに笑ったからだ。

 「なぁ、クリリンについて語ろうや。才田さんも泉堂も、漫画に興味ないねん」

キューピー頭のチビにじりじりと揉み手で擦り寄られ、寒気立った。

「こ、断る。俺はどっちかってぇと天津飯てんしんはん派だ。あいつは三ツ目と言い性格と言い、漫画のキャラとしてのパーソナリティをきっちり押さえてるからな」

「大丈夫や。太陽拳は元々天津飯の技やし。俺とお前は十分わかり合える。仲良ぅしよーやぁ」

 解り合いたくねぇ! 仲良くしたくねぇ! と全力で拒否しようとした時、俺の後ろで雹子の気配が少しふくらんだ。

「キャラそのものにも成り切れない癖に、所詮でんでんタウンですねぇ。アキバをナメないで欲しいですぅ」

チラリと見ると、いつの間にか泉堂に本格的なイングリッシュティーを振る舞われていた雹子が、手に持ったティーカップをプルプルと震わせながら栗林を睨んでいた。

「あ゛あ゛? もっかい言ってみぃコラ、貧血姉ちゃん……」

でんでんタウンを馬鹿にされて、栗林も雹子を睨み返しす。

「二度は言いませんよぉ。日本語は一回で聞き取ってください。出来損ないのクリリンが巧さんと解り合おうなんて……なぁんて図々しいぃんですかぁ? 俺様Sにヘタレ要素をあわせ持つ複雑なツンデレを解ってあげられるのはぁ……ヤァァンンデェレェだぁけっ……あがっ!」

「雹ぉ子! 俺を挟んだまま栗林に攻撃したら、俺まで巻き添え食らうだろ!」

「はっ、ほうれひへひは(はっ、そうでした)」

俺は間一髪のところで雹子のあごを掴んだ。

 まったく、暴発をある程度抑えられるようになったとはいえ、嫉妬が絡むと見境みさかいがない。しかも変なタイミングでくから面倒だ。

 最初は俺が優しい……というか追い返すためにごく常識的な言葉をかけただけでホイホイ押しかけて来た癖に、イケメンで常に人当たりの良い才田には惚れた様子はない。ヤンデレの考えることはよく解らない。

 「さすがやなっ、天津飯! 男同士熱く語ろうやないか!」

俺が自分の味方についたと思ったのか、栗林は興奮しながら更に近寄って来た。

「俺自身は天津飯になるつもりはねぇ。ただ好きなキャラってだけだ」

「硬いこと言いなや。一緒に神龍シェンロン呼び出……むぅ……ぐぅ、ぐごぅ」

俺は油断して目の前まで来た栗林の鼻先に手をかざし、強烈に眠くなる匂いをがせた。睡眠を誘う物質が鼻から入って脳に働き、栗林はあっという間に白目をいていびきをかき出した。

 「ファンタスチック〜!」

側で見ていた泉堂が手を叩いた。

「泉堂君、発音が違うよ。Fantastic、だよ」

「はっは〜、才田さんの能力は厳しいですなぁ。ふぁんタァすてぃっく、かなぁ?」

シンポテを使ったのか、外国で暮らしてる時に身につけた基本的スキルなのか、才田がネイティブのように発音して訂正したが、泉堂はイギリス紳士風の格好でも大阪のオッサンだから、それは難しかったようだ。

 いや、発音のことはどうでもいい。俺達が大阪にいられる期間は限られている。潜入だってのんびりしてはいられない。

 だが……側近2人のせいで、さっきから話が全く前に進んでねぇ!

 自己主張が激し過ぎだっ!


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