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共同生活も住めば都

 管理人のカンナさんの戦隊割引により、相場の半値で部屋を2つ借りることが出来た。部屋割は俺とヨシオさん、雹子と七佳だ。まりさんは今まで住んでいた部屋をそのまま使う。

 「それで、これからどうすんだよ」

一応リーダーのレッド、まりさんの部屋に5人集まり、今後について相談会を開いた。

「今回決まったレンジャーメンバーを、富利異盟損に登録せなあかん。まあ、入社式みたいなもんをしに、皆で休み合わせて一回会社まで来てぇな。ついでにNo.1も見れるで」

「……見れるっていうより、お前の派閥が出来たことをNo.1に見せたいだけだろ」

「へへへ、バレたぁ? ええやん、ちょっとくらい自慢さしてよ」

俺達がちゃんと仲間になったことが嬉しかったのだろう、七佳はさっきからずっと上機嫌だ。

「自慢出来るような人数じゃねぇと思うが……」

「大事なのは数とちゃう。なぁ、ヨッシー? 」

「そうだぞ。ハートなのだよ、ハート」

ヨシオさんは、富恵ちゃんの話の時みたいに、トンッと親指を胸に突き立てた。やっぱりこの人にハートだとか説かれると鳥肌が立つ。

「こら巧、腕こすりなや。あたしがどれだけ仲間からの人望を集めてるか、これをあいつに示すのは大事なことや」

「人望って……じゃあ何でお前がレッドやらないんだよ」

七佳の派閥を作るなら、彼女自身をリーダーにえた方が良いに決まっている。

「えー、だってピンクが好きやねんもん」

「……あ、そう……」

こいつに突っ込んだ理由を聞いたのが間違いだった。七佳は思い付いたまま適当に行動する性格なのだろう。

 俺の呆れた物言いが気に入らなかったのか、彼女は真ん丸に頬を膨らませた。満月顔をするのが癖なのだろうか。無性にその余った肉をひねり回したくなる。

 「あ、それからな、うちの会社、歩合で給料入るけど、雀の涙みたいなもんやから、副業はOKやねん。早まって今の仕事辞めなやぁ」

七佳は思い出したように手を打った。

「……その辺はあんまり期待してなかったから安心しろ。」

「ところで七佳ちゃん、歩合というのは何の歩合なんだ? 組織の奴を倒せば良いのか?」

「やっぱ戦隊だから、敵をやっつけなきゃね〜。いよいよ本格的だわ」

「ワタクシのシンポテなら、一気に4、5人はやれそうですぅ」

ヨシオさんの問いに、まりさんと雹子も乗って来た。

 すると七佳は真っ赤でファンシーな、まりさんらしいちゃぶ台を、ダンッと叩いた。

「阿呆っ、物騒なこと言いなや! そんなんしたら、傷害罪で警察捕まんで」

「ええ〜、敵なのにぃ?」

やる気満々だったまりさんはぶぅぶぅ言って、口を尖らせた。

「当たり前やん。敵やーても、表向きは普通の製薬研究所の従業員やで。特に街中まちなかで派手にドンパチやんのはあかんわ」

「お前って……変なところで常識的なんだな……」

「……どーー意味やコラ、巧」

七佳はわった目をして、また頬を膨らませた。今までの自分の言動を、常識的だとでも思っていたのだろうか。どういう了見りょうけんしてんだ、一体。

 「じゃあ、ワタクシのシンポテなら、傷害罪にならないですね。気配で脅かすだけですから」

「ほう、それもそうだな。証拠がないから警察も捕まえられん。"幽霊の正体見たり枯れ尾花おばな"というわけだ」

「……ヨシオさぁん、ワタクシは幽霊じゃないですぅ」

「おおっ、すまんすまん。怨霊だったな」

「余計に酷くなってますぅ! ワタクシはヤンデレですからまだ生きてますぅうっ!」

雹子とヨシオさんのつまらない即席漫才を見たまりさんが、横で「ちょ……マジでヨッシー天然!」とか言いながら笑い転げている。

 富利異盟損ふりいめいそん内部では、何だかややこしいことになっているというのに、大丈夫なのだろうか、この面子めんつで……







 1週間後に全員数日間の休みを取ることを決め、人権戦隊シンポテレンジャーの共同生活が始まった。雹子はヤンデレ喫茶、七佳はその隣の普通のメイド喫茶、まりさんはキャバクラ、ヨシオさんはホストクラブ、そして俺は元の雑居ビルで香水屋。今回はヤバイCBTに見つかったわけではないので、カンナさんのアパートで商売をするのは、今いる予約客をさばいてしまってからにする予定なのだ。心残りは隣にあった漫画喫茶だ。新居からは少し遠くなる。

 男女5人で共同生活をしていると、お互いのプライベートな情報も明らかになってくる。

 田ノ中七佳は、両親が陸上の元オリンピック選手らしい。俺の2つ上で24歳だ。彼女も学生時代は短距離の選手だったが、あのプヨプヨした腹の肉からは想像できないタイムを出したため、何度も薬の使用を疑われて断念したという。

 雹子に関しては、以前は俺が興味がなかったので聞かなかったが、女2人とニューハーフのガールズ・トークで、神社の神主の娘だと言うことが判明した。フルネームはとどろき雹子。あの怨霊のようなシンポテで神主の娘とは、色んな意味で凄い。親は浄化してやれなかったのか……いや、憑依ひょういたぐいじゃねぇから無理か。因みに俺の一つ下で21歳らしい。

 まりさんは母親がフィットネスクラブ経営、父親が元ボディビルダー。兄のカンナさん以外に、正真正銘の女である妹がいる。カンナさんと同じく父親似だというから、あまり詳しく聞きたくはない。ライダースーツを持っているだけあって、趣味はバイク・ツーリング。年は秘密だそうだ。

 一番驚いたのがヨシオさんだ。ずっと"ヨシオ"という名前だと思っていたのだが、それは実は姓だった。嘉尾爽汰よしおそうたというのが本名だ。名前の方が読んで字のごとくさわやかなのに、ホストクラブでも"ヨシオ"を使っているらしい。本人には何の意図もなく、リストラされた後、水商売のことをよく知らないままホストクラブの面接に行き、「履歴書忘れるなんて……とりあえず名前は?」「えっと、嘉尾です」「ヨシオ君ね、源氏名どうする?」「源……? ヨシオでいいです」というやり取りがあり、今まで何も考えずに"ヨシオ"を使っていたそうだ。この何ともヨシオさんらしいエピソードを聞いたベテランキャバ嬢のまりさんは、「ちょ……天然過ぎ!」と言ってまた笑い転げていた。

 まあ、予想はしていたことだが、普通の人生を送ってきたのは俺だけだった。七佳いわく"つまらない"、まりさん日く"地味"。雹子に"暗い"と言われた時はさすがに落ち込んだ。

 こんな過去も性格もバラバラで、まとまりのないメンバーだが、気付けば意外に共同生活を楽しんでいる自分がいた。いたってつまらなく、地味で暗い普通の俺が、コソコソ隠れなきゃいけない唯一の原因であるシンポテのことを、気兼ねなく話のネタに乗せられる。普通の俺が普通でいられるから、たまに居心地が良いとさえ思うこともあった。







 楽しい時間はあっという間に過ぎる。約束の1週間が経ち、俺達は大阪まで来ていた。

 「関西って聞いてたが、お前の会社って大阪にあるんだな」

「あれ、ーてなかったっけ? まあええわ。ようこそ、富利異盟損のホーム・グラウンド、ミナミへ!」

「……駅名は難波なんばだっただろーが」

「この辺をミナミって呼ぶねん。常識やから覚えときぃ。ほな今からちょっと歩くで」

勝手知ったる街に着いた七佳は、黄色い小さな旗をどこからともなく取り出し、ツアーコンダクターのように案内し出した。はっきり言って、かなり恥ずかしい。

 「へぇ、新しくて綺麗な所と、古くてごちゃごちゃした所が混在してるって感じね。何だか面白いかも」

何を思ったのか、ここまで真っ赤なライダースーツを着て来たまりさんは、とんでもなく浮いていた。いや、東京でも浮いていたのだが、右も左も分からない場所で団体行動しているために、ここでは他人のフリができない。とりあえず、雹子と七佳がメイド服を着てこなかったのがせめてもの救いだ。

 「巧さぁん、さっきからメイド喫茶がチラホラ見えますけど、ヤンデレメイド喫茶はありませんよぅ……」

「何で悲しそうな顔すんだよ。お前はヤンデレが不満だったんんだろ?」

「それがぁ、最近板に付いてきちゃって。普通のメイドじゃ物足りなくなってきたんですぅ」

「……そ、そうか。ありのままの自分を受け入れられたんだったら良いんじゃねーか」

「まあぁぁ! やっとワタクシの愛が通じたのですねぇぇ!……ウプッ」

目を輝かせて詰め寄ってきた雹子の顔面を、俺は咄嗟とっさに手の平で押さえてガードする。全く、油断も隙もねぇな。

「お前の愛までは受け入れてねぇ! 俺はメイドより漫画喫茶があればそれでいい。なぁ七佳、この辺にもあんのか?」

俺は黄色い旗を振り振り前を行く七佳に声をかけた。

「当たり前や。西の秋葉原、でんでんタウンをナメたらあかんで。会社の近くにあるわ」

「で、でんでん……いや、ネーミングセンスのことはもう言うまい。あるなら良いんだ。」

 道行く人々から「どんな団体なんだ?」と言わんばかりの視線を浴び、羞恥心に耐えながらしばらく歩くと、あるビルの前でようやく七佳は立ち止まった。

実在の地名が出てきましたが、フィクションです。

因みに富利異盟損があるとしているでんでんタウンについては、情報を元に書いてるだけなので、これ以上詳しくは出てきません。

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