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そろそろ芽生える仲間意識

 管理人の鳥槻さんは、まりさん(鳥槻俣治郎)の兄で、寛太郎かんたろうという名前らしい。周りにはカンナと呼ぶことを強制している。

 寛太……カンナさんは一先ひとまず俺達を管理人室の中に入れ、お茶を出してくれた。ブラック店長がお気に入りなのか、しきりに近付こうとしてはパンチやキックを食らっている。だがカンナさんは強かった。やられてもやられても、顔色一つ変えない。食らうたびに七佳なのかのポケットに入っている測定機が反応している。紫の妖気には反応していなかったから、多分あの禍々まがまがしい気配はシンポテではなく、素で出しているのだろう。しかも雹子と張り合っていた。

 「……雹子、お前形無しだな。」

「むっ、あれは本気出してないんですぅ。今まで組織の人を追い払うのに、一回だけフルパワーを出したことありますけど、その人が持ってた七佳さんの測定機みたいなやつ、煙噴いて壊れましたから。妖怪の気配とワタクシのシンポテを一緒にしないでください」

「そ、そうか……」

 一方、七佳が興味を持ったのは、まりさんの方だった。カンナさんの弟なら、68%の確率で何らかのシンポテを持っているんじゃないか、とヨシオさんが予想したらしい。

 「秘密結社・富利異盟損ふりいめいそん?」

名刺を渡されたまりさんは、首をかしげた。

「せや。兄貴の方がシンポテ持ってるみたいやったから、あんたも何かあるんとちゃう?」

「シンポテ……?」

「新じゃがのことちゃうで。特異な潜在能力のことや。たくみがどーしても特殊能力って言うのが嫌やってうるさいから、合わせたってぇな。」

「タクミン……可愛いとこあったのねぇ。ププッ」

まりさんは俺をチラリと見て噴き出した。七佳の奴、嫌な言い方しやがる。だが実際こだわってるから釈明もできやしねぇ。客の中で一番長い付き合いのまりさんは、以前から俺のことを、生意気な餓鬼と評している。きっと良いからかいのネタができたとでも思っているのだろう。

 「で、どうなん? 持ってんの?」

「……兄貴のがバレたんなら白状するしかないわね。私も同じ能……フフッ、シンポテを持ってるわ」

「あの蹴り食らっても平気なやつ?」

「そうよ。皮膚と筋肉を部分的に硬化させるの。人間盾みたいなものね」

聞いた途端、七佳の目が輝いた。

「それええな! 攻撃一本槍のあたしとヨッシーに、脅しの雹子、まやかしの巧ってメンバーやと、戦隊的なバランス悪いから、防御系が欲しいと思っててん。」

何だか七佳の頭の中が一瞬読めた気がする。絶対RPGのパーティ組み合わせてるような気分で考えてるぞ。ってか俺はまやかしなんだ。まあ、ブルーだから位置的にはそんなものか。

「へぇ、私も戦隊ごっこに入れてくれるの?」

「ごっこちゃうし。ほんまに悪の組織と戦うねん。今ならリーダーのレッドが空いてるで。その真っ赤っかなライダースーツ、めっちゃイケてるやん。レッドやってぇな。歩合ぶあいやけど、富利異盟損からちょっぴりお給料も出るし」

七佳はまりさんの手をガシッと掴んで頼み込んだ。

 給料出るのか。一応会社みてぇだから、出てもおかしくはないが……歩合って何の歩合だろう。CBTの奴一人倒したらいくらとか? いや、"ちょっぴり"と言うからにはあまり期待しない方が良さそうだ。確か表向きは何でも屋って聞いたしな。

 「レッドって、まさに私向きだわ。このスーツの色、気に入ってるのに、軽薄で馬鹿っぽいって皆言うのよ。イケてるなんて言われちゃ、やるしかないじゃなぁい」

「やったぁ! 後はここを拠点にしたら完璧やな。管理人があんだけ強かったら、CBTもそうそう手は出されへんし。これであいつに目に物見してやる!」

「おい、あいつって誰だ?」

最後に言った言葉が引っかかって、俺は喜ぶ七佳を止めた。俺達の敵は組織だ。なのに七佳は"あいつ"と個人を指した。俺達に話していない目的があるのだろうか。

「え……、ああ、いや……そのぅ」

しまった、という顔をする彼女はますます怪しい。

「……あいつって、誰だ?戦隊組むのは、CBTみてぇな組織を潰して、同族を保護するためだと思ってたんだがな」

皆の視線が七佳に集まる。誤魔化し切れないと悟ったのか、彼女は両手を上げて降参した。

 「組織と戦うのも、同族を保護すんのもほんまや。でもそれは、別に仲間を集めてやらなあかんもんちゃうねん。」

「じゃあ何だって戦隊作ったんだよ」

「会社っていうもんは、人が増えれば派閥もできる。富利異盟損もそれは同じや。でもここしばらくで、営業成績No.1が作った派閥に皆入ってしもてん。No.2のあたしは……独りやねん」

七佳は悔しそうに俯いて、下唇を噛んだ。

「他の営業の奴と組まないのか?」

「営業は2人しかおらん」

「おい……それはNo.2とは言わねーだろうが」

イラッとした俺の突っ込みにも、七佳は自嘲するように鼻を鳴らして笑うだけだった。

 クソッ、調子狂うな。さっきまでみたいにぶっ飛んだセリフで返してこないと、やりにくくて仕方ない。

「……はぁ……。あいつってぇのは、もう一人の営業のことなんだな。仲間を作って、そいつを見返してやりたいと?」

「うん……。巧がシンポテ持ってるもんを引き寄せるってデータ見た時、これで仲間がいっぱい作れるって思ってん。だって、隠れてる能力者を探すなんて、そんな簡単に出来るわけない。測定機持ち歩いて偶然を待ってたら、時間がかかり過ぎる」

「……馬鹿らしくなってきたぜ……」

俺は呆れてテーブルに突っ伏した。皆黙ったまま、何も言わない。

「あ、でもなっ! ただ見返したいだけで戦隊作ったんちゃうねん! あんたに追っ払われた4年前は単なるスカウトやったけど、最近事情が変わってん。No.1の派閥から、行方不明者がポツポツ出始めて……。社長にそれ報告しても、No.1一人が影響力持ち過ぎてあんまつよ言われへん。巧のシンポテの副産物で、あたしの派閥を増やして、2大勢力っぽくなったら……」

「社長も調査に乗り出せるって?」

「せや。関西はあいつが幅かしてて、新たな仲間作るん難しいから、また関東出張さしてって、自分から社長に申請したんよ。そん時あんたの同族を引き寄せるってデータ見て、これや! と思ってん。でもいざ乗り込んだところで、巧は絶対一人じゃあたしに付いてんやろ? 戦隊作ったら、皆来るからあんたもぃやって誘いやすくなるし、最低限戦隊に要る人数集めて、ブルーっていう役割を決めてもーたら、後で逃げにくくなるかも……なんて……思いました……。はい、すいません」

七佳は段々縮こまって、最後には椅子の上に正座した。

 行方不明者どうこうは一先ひとまず置いて、要は七佳の派閥を作るために俺を使いたくて、動きそうにない俺を釣るために、まず雹子やヨシオさんを誘った、というわけだ。

 「……気に入らねぇ」

「はい、ですよねー。関西の会社の事情なんて、知らんがなって感じですよねー。そうなるって分かってたから隠しててん」

投げやりな態度で開き直った七佳は、頬を真ん丸に膨らませて、プイッと横を向いた。

ねてんじゃねーよ」

「だって……気に入らんねんやろ? 会社の事情に巻き込まれたないんやろ? あんた、ややこしいこと嫌いそうやもん」

「馬鹿、そこじゃねぇ。事情を隠したままいようとしたのが気に入らねぇんだ。お前の仲間に対する信用ってのは、その程度なのかよ。ずっとコソコソ暮らして来た俺は、何も隠す必要のない仲間が出来ると思ったから、シンポテレンジャーに入ったんだぞ。ややこしいことは嫌いだがな、お前の仲間になった時点で、既に事態はややこしいんだ。多少の覚悟は出来てる」

すると七佳はうかがうように恐る恐る俺を見た。

「……ほ、ほんまに? シンポテレンジャー続行してくれるん?」

「仲間は俺だけじゃねぇだろ。俺を誘うダシにされた他の奴らにもちゃんと聞け」

「み、皆は……?」

七佳の視線を受け、最初に口を開いたのはヨシオさんだった。

「俺は元より七佳ちゃんのファンなんだ。それに富利異盟損に入れば、俺のシンポテが有効活用されることに変わりはない。使う対象が、不届きな組織だろうと営業成績No.1だろうと、連日オヤジ狩りのクソ餓鬼を相手に使うよりはよっぽど良い」

ヨシオさん、そんなにオヤジ狩りの被害にってたのか。気が優しいから、狙われ易そうな雰囲気だが。

 「ワタクシは、巧さんの行く所ならどこでもお供します。それからブルーの相手役のイエローにしてくれた七佳さんのことも、けっこう好きですし」

「いきなりで事情はよく分からないけど、面白そうだから私も付き合ってあげて良いわよ。人間嫌いなタクミンの、意外に熱い面も見れちゃったからね」

続いて雹子とまりさんも賛同すると、七佳の目がうるうるうるみ出した。

 「ここを拠点にするなら、家賃は戦隊割引してあ・げ・る」

カンナさんがおまけの一押しをした。

「……皆ぁあ、ありがとうぅ! ごめんなぁ、関東の人間は気取って鼻持ちならんもんばっかやって、あたし誤解してたわぁ。あんたらええやっちゃなぁっ!」

また何だかよく分からん対抗心を持っていたみたいが、誤解は解けたようだ。

 それから七佳の視線は、さっきから黙って聞いていたブラック店長に移った。

「……ちょっと待て。俺もなのか……?」

「ああ、ほんまええ人や。話ぜぇ〜んぶ聞いちゃっただ・け・やのに、放っとかれへんから協力してくれるなんて」

「へ、部屋を紹介しただけだぞ!? 勝手に話してたのが耳に入っただけだろうが! 俺は何の特技もねぇ!」

かまへん、構へん。ヒーローには情報屋も必要やから。不動産屋はその土地の情報、いっぱい持ってるんやろ?」

いつの間にかにか七佳の目から潤みは消え、普段通りの調子に戻っていた。

「そりゃあそれなりには……っい、いやそれよりお前、さっきまで泣きそうだっただろう。嘘泣きだったのか?」

「は?ちゃうわ。ほんまに感動してんで。でもそれはそれ。今は店長さん、あんたを誘ってんねん」

「誘ってないだろ! 決定してるだろ!」

「もー、そんな細かいことどっちでもええやん。あんたは情報屋役、ここにおる人は皆ええ人やった、というわけで丸く収まるから」

頭を抱えるブラック店長。すげぇな、あんなヤ○ザばりに強面こわもての人間を言いくるめるとは……。その図々しさに感服するぞ。

 というわけで、人権戦隊・シンポテレンジャーは、拠点の管理人と情報屋という脇役も決まり、いよいよ本格的な大人のごっこ遊びのようになったのだった。

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