第一章
第一章
深淵の闇の狭間で笑う君
それが隠すは絶望か
それが隠すは真実か
辺りはすべてが闇に支配されていた。深淵の闇はどこまでも暗く、闇夜においての唯一の頼りとなるはずの月は厚い雲によって隠されていた。
空を彩るものは星の一つも見えず、風の通り抜ける音が異様なほどに闇夜に響く。そんな闇の世界の中に現れた光、煌々と眩いばかりに輝くその灯は、この世界の唯一の希望のようだった。
灯を灯すのは大きな屋敷。そのほかに家と呼べるものはなく、だがその向かいに佇む古ぼけた、それでいて格調高い教会の存在はそれだけでこの一帯に神秘的な侵し難い空気を漂わせていた。しかし、微かな希望は程なくして空虚に響いた銃声によっていとも簡単に砕け散る。
闇を劈く悲鳴は絶えることを知らずただただ何度も何度も繰り返されては闇に消えていった。長い悲鳴は尾を引きそして消え去り、静寂がその姿を再び忍ばせて来たのと同時に灯は静かに消された。間髪を置かず微かな扉の開閉する音がし、一人の人物が闇に姿を現す。
それと同時に辺りには咽返るような硝煙と血の臭いがした。その人物は一つ深く礼をするとまるで逃げるように闇の中に溶け込んでいった。
失敗したな、と誰になく呟き僕は自嘲した。意識は嫌でも痛む腕とそして足に向く。
まさかここまで無様な姿を晒すことになるとは、そう思えばまた溜め息が漏れた。決して難しい任務ではなかったはずなのにこんなにもミスを犯した自分自身に嫌気が差し、また何故か早まっている鼓動を押さえつけようと今の僕は必死だった。
闇に徐々に目が慣れ、そしてその闇に光が混ざり始めていることを認めればさらに気持ちは焦る。何故こんなにも今回失態を重ねる結果になったのか考える気力など遠に無く、ただ僕は国を出るために痛む足を速めることに専念することにした。
しかし、それさえ困難だったのだ。
あまりの痛みに眩暈がし、思わず僕は膝をつくことを余儀なくされる。なんてざまだ。こんな行動にしか従えない自分に嫌悪しか沸かなかった。
その時だった。
カツ カツ カツ
闇に響く軽い靴音。
誰一人として通らないと予測していたこの道を、何者かが遣ってくる。
その事実に愕然とし、力の入らない足を動かそうと試みるがそれは所詮失敗に終わった。腰に収めた拳銃に手を滑らせ握る。その行動ですら今の僕には必死だった。
カツ カツ カツ
足音がこちらに向かってくることは疑いようもない。
落ち着けと言い聞かせ鼓動を沈める。拳銃を握る手が自らの血で滑ることに苛立つが手を離すことは出来ない。
カツ カツ カツ
滑る拳銃を握る手に一層力を込めた時、同時に自らの失態を悟った。鋭い痛みが一気に駆け抜け思わず呻く。
カツン
闇に響き止る足音。それは僕の目の前で止まった。仄かに辺りが明るくなったと感じるのは、この人物が手に持つ光……恐らくランプのせいだろう。