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青年と不純文学  作者: キミカゲ
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菊の花に聞くのは何

それは上から倒錯した の続き。

 少女シロコは心に生んだ。

名もつけられぬ小さな思いだった。

形容してしまうなら、歪んだ何か。

まだ解らないものだらけである。


 シロコはいつしか涙した。

大切なものを失いゆく悲しみに。

例えば歪んだ何かであっても。

しかし何かを知らなかったシロコの手は、血に染まっていった。


 人々は大人になった。シロコはまだ少女のまま。

いつか解ったとき、大人になれると信じて生きた。

宿木の下。眠る骸に語りかける。 


「私 の 答 え を 知 り ま せ ん か 」



「なあ、俺は馬鹿らしいと思ったんだ。信じたくないんだ。人間は、見えないものを表現したがる。俺だってそうだ。こうやって、キーボード叩いて引き出した俺の思いは、きっと全て出せてないんだ。全部出すことがいいと思ってたけど。でも、でもな、こうやって馬鹿みたいな文字を綴っていくのが、本当なのか信じたくないんだ。声だって、表情だって、歌とか、絵なんかもそう。表現しない方がいいんじゃないのか、上手く伝わっているのかとか、どうでもいいこと考えて気が滅入る」

 二人きりの部室。曽根はディスプレイか、或いは遠くを見つめながらひとつひとつ呟いた。柴田は、作業する手を止め、曽根の言葉に耳を傾ける。部長である曽根の作品を読んだことのある柴田には、彼が何を言いたいのかなんとなく分かった。自分は、そこまで到達するのに技術がない。柴田は殆ど他人事のように聞いていた。

「……柴田の小説は、俺ちゃんと泣いてるよ。想像したら怖いし。あと、俺のと違いすぎて途方にくれる」

 いい意味でな、と曽根は付け加えた。柴田は部長である曽根に唐突な賛辞を言われて驚愕している。曽根は時間を確認した後、パソコンの電源を落とした。わずかに欠伸をかみ殺しながら。

「柴田、帰ろう。というか俺んち来い。俺今日誕生日だから言うこと聞け」

 言い方は乱暴だが、顔は柴田に向いていなかった。柴田は何か言いたかったけれど忘れてしまった。

「そういえば部長、この前のあれはなんだったんですか。途中で止めるなんて気になるじゃないですか」

 柴田も帰る支度をしながら、曽根に問う。この前の約束、書店で小説を買い漁った夕暮れの帰り道。曽根は小説の内容を柴田に説明していたが、中途半端なところで止めた。曽根自身、言い難そうだった。内容ではなく、言葉が。

「……今日言うから」

 曽根は躊躇いがちに、柴田を見る。柴田は、無理しなくても良いですよ、と曽根に苦笑を見せた。

「だから決めたんだって。見えないもの、表現したくて。言うの怖いけど。俺は……」



 木の下の骸は答えなかった。シロコはやっぱり涙を流す。

しかし、代わりに宿木が答えた。


 ……貴方は、声である。表情である。歌である。絵である。人間が忘れた感情が自我を持ったのだ。

  早くもとの形に戻りなさい、自分が自分である為に。


 シロコは妖怪だった。人間が忘れたことで生み出された感情のひとつだった。寂れた境内に自分を置いて、人間が自分を思い出すように仕向けた。今シロコはどうしているのだろうか、やっぱり誰も答えは知らない。




(柴田が、好きだと気づいたんだ)

読みにくい書き方ですんません。

毎度の雰囲気小説です。

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