挿した陽は丘に燃える
「待っていた、富川」
数年ぶりに地元へと戻ってきた富川を出迎えたのは、忘れもしない男だった。
名前は、神崎 智博。背格好ともに、当時の記憶よりも成長しており、それは好青年へと姿を変えていた。
富川は、誰も出迎えないことを望んでいたが、それは打ち破られることとなったのだ。
「……」
富川はそれに対し目は向けたが、それからは何も関わろうとしなかった。
それどころか、軽蔑の意味を含めた素振りで、駅から出て行く。
神崎は追いかけた、けれど人目が痛い。機嫌をとるつもりは無いが、この状態では何も話は出来ないのだ。
富川が人通りの少ない道に入っていったのを確認して、近づいていく。
「待て、富川。話を聞いてくれ」
必死の弁解を展開するつもりではあった。止まらないなら腕を掴んでだって話を聞いてもらおうとも。併しそれはきっと叶わぬこと。神崎は過去、富川の心に深い傷を負わせてしまったのだ。
「……悪かった。あの時、俺がお前を虐めたりしなければ。ばれなきゃいいって、思ってた。お前が俺に相談してくれることが嬉しかった。クラス内でのあの歪みの元凶は俺だ。皆が罪を擦り合う仕組みにしてしまったのは俺だ。お前をここまで苦しめて、変えてしまったのは俺だ。謝ってもきっと、もうお前には届かないんだろうか、悪かった。ほんとうは……本当に、お前が好きだったんだよ……!」
富川は、2、3歩程歩いただけで立ち尽くしてしまった。肩はわずかに震えている。
恐らくは頭の中で理解し、心の中で聞きたくないと願った事実だった。
泣くものかと拳をきつく握るも、眸から静かに零れたのは、枯れたはずと思っていた涙だった。
後ろを振り返れば主犯がいる。自分の人生を大きく変えてしまった、憎いはずの犯人が。
それでも、反動するであろう楽しかった過去が邪魔をして、彼を心の底から憎みきれない。
空いてしまった数年間、感情と記憶は美しさをより一層際立たせ、今届かぬこの自分がそれを焦がれる。
痛ましい記憶も、忘れることが出来ないでいる。
狂った法則は脳裏にこびりついて離れない。
信じても、裏切られ。裏切れば、人を傷つける。
避けたいと願えば、この身を何処に置けばいいのか。
一時逃げる為に地元から離れ、成人した今戻ってきた。
忘れてしまえばよかった。この地に起きた記憶全て。
併し、富川にはそれが出来なかった。
自分が長いものに巻かれ、許してしまえばよいのか。
亦はこの地を青山として、許さぬことで相手を苛むか。
どちらが気が楽になるだろう。道中もそれだけを考えて気が休まることは無かった。
神崎に会って、ひとつ出した考えと言うのは。
「反省、も認める。俺はきっと忘れない。だから、智博が忘れさせて」
恐らく富川はこの後、地元から出ることは無いだろうと信じたい。
夕焼けは、二人の再会に意味があったんだと教えているようなあたたかさで未来に向かっていた。
あーなんでしょうねこれ。
シリアス書く練習のはずがだんだん手を抜いてる。
きっと私は、動作描写を訓練した方がいいと思うんだ。