5 煌めく二人
入場すると幾つもの煌めくシャンデリアが会場を美しく輝かせ、夜とは思えない明るさの侯爵邸の大広間。会場内は美しい装飾が施され、立食エリアで用意された食事も見て楽しめる色とりどりの美しさ。ダンスエリアでは音楽に合わせて貴族たちがダンスを踊って楽しんでいる。
二百人前後はいるであろう貴族たち。彼らはフォンテーヌ次期伯爵夫妻の登場に目を奪われた。
揃いに見える白とシャンパンゴールドの装い。
リックスは髪を後ろへ軽く撫でつけ、纏う白のフロックコートは美しく繊細な金糸の刺繍が施されている。ピーク衿ベストは襟部分とダブルボタンがはシャンパンゴールド。白のスラックスの裾部分にも禁止の刺繍が施され、クラヴァットピンや左耳に光るラインピアスは美しいピンクゴールドが煌めいていた。
エカチェリーナの装いも、シャンパンゴールドと白のフリルの美しさ。胸元にはサファイアとクリスタルの宝石が美しく煌めき、夫婦のそれぞれの色を纏う二人に周囲の視線は釘付けとなった。
アンダンテ侯爵家に招待されている貴族は侯爵家が懇意にしている貴族や目をかけている階貴族だ。勿論フォンテーヌ伯爵家は目をかけてもらっているのではなく、幾度となく支援したことがある故に招待されたので、たとえ爵位は上であってもフォンテーヌの方が上位らしい。
歩みを進める度に揺らめくシャンパンゴールドの煌めきに、会場の貴族たちは見惚れている。
フォンテーヌは王国内最大の商会を営んでいる。このシャンパンゴールドの生地も、エデン商会の傘下の繊維加工業者が特許を取った、特殊な接着剤でできた極薄のキラキラに煌めく生地なのだ。国内のドレス縫製の店からは、幾度となく取り扱わせて欲しいとラブコールを贈られているが、取り扱っているのはフォンテーヌの傘下の縫製店のみ。
煌めく生地を使ったドレスは価値が高まり、ドレス一着で大金貨1枚でも買えないと言われている。
流石に『冷徹令嬢』と呼ばれて、社交界とは無縁になるだろうと思われていたエカチェリーナですらこのドレスの価値はわかっている。
リンクスは周りの視線など気に留めず、主催へと挨拶を交わすとすぐにダンスエリアへと歩みを進める。
(――え?!・・もう踊るの?!)
普通は挨拶周りが先だというのにリンクスはじっとこちらを見つめたままステップを踏み始める。
意味が分からずじっとエカチェリーナも睨みつつも見つめ返すと、彼の眉間にしわが寄る。
「――ぉぃ!お前がすぐに帰れるように先にダンスを踊ってやっているんだ!少しは表情を緩められないのか?」
「・・・わ・私の為なんですか?」
「当たり前だ!――こんなとこに長居してお前に怒鳴られたらフォンテーヌ家の恥だ!この後軽く挨拶だけしたら帰るからな!」
なるほど。
どうやらエカチェリーナが暴れ始める前に帰ろうと先手を打ったのだろう。
早く帰れるのはエカチェリーナとしても助かる。こんな場所に長居などしたら、いつ『魔気』が寄ってくるかわからないのだから。
――しかし、エカチェリーナの願いも虚しくダンス中に『魔気』がリンクスに纏わりつこうとする。
エカチェリーナの目つきはどんどん鋭くなっていく。きっとリンクスも気づいているだろう。
ダンスが終わるとリンクスはエカチェリーナの手を自分の腕に添えさせてずんずん進んでいく。
「――だ・・旦那さま?!」
進んだ先はバルコニー。カーテンをサっと閉めて、グイっとエカチェリーナを引き寄せる。
「――お前・・ダンスエリアで俺に怒鳴ろうとしたな?」
「――!!」
まさかリンクスがエカチェリーナの考えていたことを理解していたと思わず唖然とする。
「なんでわかったのかわからないみたいだな。
――お前の態度見てればわかるんだよ!!さっきからいつ怒鳴り始めるのか気が気じゃなかったぞ!」
どうしてそんなに察しが良いのかエカチェリーナには理解できなかったが、助かったのは間違いない。
「何が気に入らないんだ?俺に出来る事なら治してやるから言ってみろ!――ここで騒がれるくらいならいうこと聞いてやったほうが・・ま・マシだからな!」
ほんのりと頬を朱に染めながらも、『言ってみろ』とエカチェリーナに折れてくれる。
リンクスが悪いところなど何一つない。悪いのは魔気だ。穢れさえ寄ってこなければ、エカチェリーナだとて彼を睨む必要も怒鳴る必要もない。しかし、遠慮なく『魔気』は今もリンクスに纏わりつき憑りつこうとしている。
(――リンクス様・・・・ごめんなさい・・)
「――き・消えなさい!!!!」
(――絶対に魔気にリンクス様を穢させない!!)
怒りの籠った怒声をリンクスに浴びせると、先ほどまでほんのり朱に染まっていた顔色は青ざめ、わなわなと体が震えている。
「お~~~まえ~~っ!!俺には言えないっていうのかよ!!消えろ消えろってうるせぇ!!少しここで頭冷やしてろ!!」
リンクスも負けじと怒鳴り声を上げるとぷんぷん怒って大広間へと戻ってしまった。
(――・・・・私は・・・後悔しない・・しないのよ・・)
心を強くあろうと思っても、彼を傷つけてしまったことが胸の中に幾つも幾つも重りとなって詰まれていく。それでも『リンクス様を守りたい』その想いだけが今エカチェリーナを生かしている。
一人になったエカチェリーナは星の輝く夜空の下、胸の前で手を合わせて握ると祈った。
(――どうか今夜は魔気が穢されませんように・・・・)
優しい風がふわっとエカチェリーナの頬を撫で、心地よい風を感じた。
気持ちも落ち着いき、エカチェリーナはカーテンを開けて大広間へと戻ろうとした。
「――あ~~らこんなところでお一人で何をなさっているのかしらぁ?」
エカチェリーナが声の聞こえる方へ視線をうつすと、そこにいたのはネヘラ・ウィンデールだった。




