走れ、私!
「……てなことがあってさぁ」
高校で友達のカヤコちゃんに、母が何日も鍋を出すことへの愚痴を言った。カヤコちゃんは、
「でもさ。お母さんシングルマザーで毎日栄養満点の鍋食べさせてくれるんでしょ。凄いよ」
そう言って缶ジュースを飲んでいた。アルバイトさえ出来れば、私も買えるんだけどな。親は頑なに「バイトはあかん!」と言ってさせてくれなかった。
「あ、チトセ。今日から購買の会社変わったんだって」
「え、なんでそんなの知ってんの?」
「噂が回ってきてさ。なんでも、ハンバーグとかスパゲティとかが出るんだってさ」
「!」
まるで怪談話の様に語るカヤコちゃん。
「食べたすぎるやろ……!」
私はガッツポーズをして、スカートの中にあった500円を握りしめた。
私は期待して昼になるまで待った。お昼のチャイムが鳴る。私は購買まで全速力で走った。
「ぜぇ……ぜぇ……!」
フォンドボー的なワイン的な、コンソメ的な、洋の香りが漂う購買。これは──あるぞ!
ハンバーグらしき匂いがする!
「棚には何が!?」
メロンパン198円、焼きそばパン208円……ハンバーグサンド……358円!?
(高い……)
購買は商品がすぐになくなってしまう。買うか買うまいか。悩んでいたら、カヤコちゃんがハンバーグサンドを買ってしまった。
「あ~!」
「まぁまぁ。チトセが得意な古文教えてくれたらひとつあげるから」
「……!」
カヤコちゃんは、こういうところがちゃっかりしている。私はメロンパンと98円のパックジュースを買った。
古語を教えながら、お昼を食べた。
(久々のハンバーグだぁ!)
サンドイッチの具材になっているから、肉汁とソースにまみれたハンバーグでは無いけれど、柔らかな肉の食感と玉ねぎの甘さが絶妙で美味しい。
(細切キャベツもシャキシャキだー!)
私の食べている姿を見て、カヤコちゃんは、
「ゆっくり食べなよ?」
と笑った。
「ありがとー、カヤコちゃん!」
午後の勉強も頑張れた。
でも晩御飯は、キノコ鍋なんだよなぁ。
下校の時に、カヤコちゃんは口元に手を当てて言った。
「もしかしたらチトセのお母さん。コミュニケーション取りたいのかもね」
「コミュニケーション?」
「受験期って子供の気持ちわからなくなる親沢山いるじゃん。だから鍋で他愛もない話しして本心とか興味とか探ってるのかも」
「え~」
「ま。憶測だけどね」
因みにカヤコちゃんの夜ご飯はトンカツらしい。羨ましすぎる。
(これが格差社会……!)
マンションに帰ってきた。カヤコちゃんの様に両親が揃っていて生活が安定していて、美味しいご飯を食べられる環境が心底羨ましいと思った。
「良いなぁ」
マンションの玄関を開けると、コチャっとした部屋が見えた。それだけで嫌でも格差を思い知る。
(まぁ、掃除しない私が悪いんだけど……)
私は自室にこもって、ワークを始めた。親が帰ってくるまで、今日食べたハンバーグサンドの味を思い出しながら。




